第26話
「え、あれ?どうしてここにサーシャが?」
予想しなかったサーシャの登場に、俺は思わず、取り乱してしまった。
サーシャの部屋を出てまだ数分も経っていないはずだった。それなのに、この部屋にサーシャが現れた。
(まさか俺の行動が読まれていたのか……?)
「今日のタケル、何だか様子が変だったから、タケルが部屋を出てすぐに追いかけたの。そしたら、すごいスピードで神殿内を走って、部屋を覗いてはまた別の部屋に行くってことを繰り返してて、もう訳が分からないよ。」
サーシャは悲しそうな顔をして答えた。
俺はサーシャの言葉とは別のことで、内心で大きく動揺し、狼狽した。
(俺、結構全力で走ってたよな?子どもたちとの鬼ごっこで息切れしてたサーシャがそれについてきたっていうのか?)
目の前にいるサーシャの持つ力、”土王アレクサンドラ”としての力に、俺は今更ながら恐怖を感じ始めた。
「ねえ、タケル?何か私に隠していることがあるんでしょ?だったらちゃんと話して!」
サーシャは俺の目を力強く見て言った。少しだけサーシャの目が赤くなっているような気もした。
(最悪の結果だ……サーシャを傷つけないように動いたつもりが、この“ザマ”だ。)
俺は安易な自分の行動に後悔し始めた。
同時に俺は、全てを話すという選択肢を取ることにした。その結果がどんなものになるとしても受け入れる覚悟を決めながら。
……
俺は全てを話した。
サーシャたち聖地バリナの人間が魔人薬の密輸に関わっている疑いがあること、それを調べるためにカーレイド王国と教会が大軍を連れてマルメトに滞在していること。
そして、魔人薬の密輸を可能にするトンネルが神殿のどこかにあるんじゃないかと俺が考えているということ、それら全てを洗いざらい話した。
俺は心のどこかで期待していたのかもしれない。「トンネル?そんなものあるわけないよ!」って、いつものように明るく笑いながら答えるサーシャの姿を。
しかし現実のサーシャは、俺の話を聞いた後も、片手で両目覆うようにしているだけで、何も言葉を発しなかった。
……
俺はサーシャが話し始めるのを待っていた。
部屋の空気がとても重いものに感じられた。目の前のサーシャを見れば、サーシャの言葉を聞かずとも、その結果は良くないものだということくらい、誰にだって予想がついた。
それでも俺は待ち続けた。サーシャから真実を聞くために。
「……タケルの話は半分当たりで半分ハズレ。」
話し始めたサーシャの表情はいつものような明るいものでなく、どこか辛そうなものに見えた。
「何が当たりで、何がハズレなんだよ……?」
サーシャの言葉が俺の心に重くのしかかるように感じられたが、俺はその言葉の意図を確かめるため、サーシャに尋ねた。
「それを話す前にまずは実際に見てもらった方が早いかもね。……タケル、ちょっと手伝って。」
サーシャはそう言うと、部屋の中央にあった本棚の本を一冊ずつ抜き始めた。それを見た俺は黙ってその作業を手伝うことにした。
数分もしないうちに二つの本棚は空になった。そして、その本棚を二人で引っ張りだすと、本棚があった場所には何の変哲もない壁があった。
「ええと、あれ、どこだったかな?確か、こことそこを……」
サーシャは独り言をつぶやきながら、壁の一部分を何カ所か押し始めた。
すると、押された壁の一部が凹んだかと思うと、そのまま壁自体が自動ドアのように開き始めた。
何も言葉が出なかった。
壁の向こうには真っ暗な空間が広がっていた。
リックの言ったとおり、この神殿には本当に”トンネル”があったようだ。




