表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第五章
174/246

第25話

「……それでさあ、ロズリーヌったら私が真剣な話をしているって言うのに、ぼんやりしてて全然話を聞いてなくて。いくら彼氏ができて幸せだからって、最近浮かれすぎなんじゃないかなあ……って、タケル!私の話聞いてる!?」


神殿にやってきた俺は、サーシャの部屋でソファに座り、サーシャの話すロズリーヌの愚痴を聞いていた。


ドロシーは昨日同様、子どもたちと遊ばせておくことにした。今日は昨日と違い、子どもの世話をする大人が何人かいたので、俺やサーシャが子どもを見ていなくても問題はなかった。


「……ああ、ごめん。ちゃんと聞けてなかったかも。」


昨日のリックの話のせいか、サーシャを直視することができず、気分もまったく落ち着かなかった。


(サーシャのことを信じたいのに信じられない……いったいどうすれば。)


はっきりとしない心の中の葛藤に俺はずっと捕らえられたままだった。


「……タケルもロズリーヌも、私が一生懸命話しているのにうわの空。なんか私がバカみたいじゃない。」


サーシャは不貞腐れてしまい、ソファにあったクッションに顔を埋めてしまった。


俺たちの間に沈黙が訪れた。雰囲気もなんとなくギクシャクした居心地の悪いものとなり、どうしたらいいのか分からないまま、俺はそのまま俯いた。


「……」


しばらくして、ふと視線を感じ、前を見ると、いつの間にか顔を上げていたサーシャが、頬を膨らませ、俺を見てムスッとしていた。


(こんな人が魔人薬の密輸なんてやるか?)


サーシャの顔を見ていると、リックの推理なんて当てにならないのではとも思い始めた。


(だけど、それはオルズベックさんだってそうだった。)


オルズベックと出会った時、最終的に王都を破壊するドラゴンになるとは、夢にも思わなかった。


「……ちょっと席外すから。」


俺はサーシャの返事を待たずに立ち上がって部屋を出た。


……


「クソッ!急がないと!」


俺は一人神殿の中を走っていた。


何も言い訳せずに、唐突にサーシャの部屋を飛び出してしまった。これでは戻ってこない俺をサーシャはすぐに不審に思うはずだ。


得られた時間はないに等しいが、それでもどうにかして、この神殿に本当にトンネルがあるのかどうか、確かめなければならなかった。


リックは昨日、壁を一つ一つ触っていたが、俺にはトンネルのある部屋の目星がついていた。


この神殿はゴーレム山脈を背にするように建てられている。つまり、建物の奥側の部屋は山に近く、トンネルが繋がっているのであれば、その部屋のうちの一つだと当たりをつけた。


(全部調べてそんなものがなければ、サーシャは”シロ”だ。)


サーシャの潔白を証明するため、俺は意を決して、神殿内を調べることにした。


……


神殿の奥に到着し、俺は一つ目の部屋の扉を開けた。そこは物置のような扱いの部屋みたいで、たくさんの箱やよく分からないものが煩雑にしまわれていた。


あまり掃除もしていないのか、至るところにクモの巣が張られていたのも見えた。


「ここは違う。」


俺は部屋に入ることなく、次の場所に向かった。


魔人薬の密輸を行うなら、大量の荷がトンネルから部屋に運び込まれるはずだ。そのため、先ほどのようなモノが溢れた部屋は荷の輸送の弊害となり、トンネルがある部屋とは考えられなかった。


その後も数部屋を確認した。どこも同じような物置か、以前誰かが使っていたような部屋だった。


いずれにしても掃除がまったくされていなく、目的の部屋ではないと俺は考えた。


(もし取引を行っているなら、荷を運び出した後、痕跡を消すため掃除をするはずだ。)


根拠はないが時間もないため、俺はそう考え、部屋の全体をサッと見ては次の部屋へと走って移動した。


……


気がつけば、部屋も残り一つとなり、俺はその部屋の前に立っていた。ここまではトンネルがあるような部屋は見当たらなかった。


(ここも物置みたいな部屋ならいいんだけど……)


俺はゆっくりと扉を開けた。


部屋には本棚だけがあった。


壁に隙間なく本棚が置かれていて、そこに古そうな本がいくつも並べられていた。


しかし、この部屋は他より広めであるにも拘らず、本棚以外には何もなかった。


(読まなくなった本の置き場にでもしているのか?)


そう思って俺は部屋に入ったが、すぐに違和感に気がついた。


部屋の中が奇麗だった。クモの巣どころか埃もない。掃除の行き届いた部屋だった。


(もしかして、ここが目的の部屋なのか?)


俺は部屋全体を見回した。特に怪しいところは見当たらなかった。


後は、壁に隠し扉でもないか確認したいところではあるが、本棚があるせいで、簡単には調べられそうにない。


(こうなったら、本棚を動かして壁を調べていくしか……)


「……タケル?こんなところでなにしてるの?」


本棚を動かそうとした時、突然後ろから声がした。


振り返るとそこにはサーシャがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ