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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第五章
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第11話

「あんた……!何でこんなところに!?」


俺は状況がまったく理解できないままユリウスに怒鳴るように尋ねた。


「……おい、ドロシー、さっさと弓を下ろせ。茶番はもうこれで終わりだ。」


俺を無視したユリウスは、弓使いに向かって言った。


「……はい。」


ドロシーと呼ばれた弓使いは一言答えると、そのまま弓を下ろした。


声からして弓使いは女性だと分かった。


「……ちょっとタケルさん、そろそろ離してくれませんか?俺もう降参してますから。」


大剣使いは俺の腕をポンポンと軽く叩きながら言った。


(なんでこいつ俺の名前を?……ん、この声どこかで?)


大剣使いから何だか聞き覚えのある声を聞いた俺は、腕の力を抜き、剣使いを解放した。


解放された大剣使いは「んん!」と一度体を伸ばすと、そのまま顔を覆っていた布を取った。


布の中から、赤茶色の髪をオールバックにした美男子の顔が現れた。


俺はこの男を知っていた。


「お前、リックか!」


目の前にはカーレイド王国兵団に所属する同僚の兵士、リックがいた。


……


リックは俺が兵団の訓練を受け始めてすぐの頃に入団してきた男だった。


年齢が俺やトミーと近かったためだろうか、リックは俺たちと同じ小隊の所属となり一緒に仕事をすることが多かった。


しかし、正直俺はリックのことがあまり好きではなかった。リックは体調不良を理由に仕事を休むことが多く、その負担が俺やトミーにくることが少なくなかった。


トミーも当然嫌っていたが、トミーの場合はリックのその恵まれた見た目に対する嫉妬が大半だったはずだ。


「おい、リック。これはどういうことだ?なんでお前がこんなところに……?」


次から次へと現れる予想外の人物たちに俺の頭は理解が追い付いていなかった。


「まあまあタケルさん、そう焦らないで。順を追って説明しますから。……っと、その前に、ドロシー、お前もそろそろ顔を見せたらどうだ?」


畳み掛けるように問い詰める俺をいなしながら、リックは弓使いに向かって声を掛けた。


「……了解。」


弓使いはサッと顔の布を取り払った。するとそこから俺より少し年下ぐらいの女の子が現れた。


「……ドロシーです。……タケルさんよろしく。」


ドロシーと名乗ったその女の子は表情を出すことなく俺に言った。


(この顔、それにドロシーという名前……!?)


俺はドロシーの正体に気づいた。


ドロシーは以前、城で働いていたメイドだった。


その時は長い黒髪を奇麗にまとめていて眼鏡を掛けており、清楚な美人という印象だった。しかし目の前のドロシーは、長かったその髪が首元ぐらいまでに切られていて、毛先を青く染めており、以前と大分違う印象を受けた。


俺は目の前に現れたユリウス、リック、ドロシーを改めて見回しながら、急いで頭を整理していった。


(ユリウスは教会の権力者で、リックとドロシーは明らかにユリウスの手下だ。ってことは……)


「お前らが教会のスパイだったのか!?」


一つの結論に辿り着いた俺は叫ぶように言った。


……


「嫌だな、タケルさん。別に俺たちはスパイなんかじゃありませんよ。」


リックはニコニコと笑顔を浮かべながら俺に言った。


「嘘をつくなよ!現にこうしてユリウスと一緒にいるじゃないか!」


「確かに俺たちは教会で育てられましたけど、別にスパイとして城で働いてたわけじゃないですよ?……ただ、仕事が終わった後に教会に帰って、その日あったことを話していただけです。家族だったらそれくらいのことするでしょ?」


俺の糾弾するような問いかけにリックは悪びれることもなく答えた。


「なっ!?そんな屁理屈が通じるわけ……!」


「ああ、もうタケルさん!今そんな話をするために俺たちここに来たんじゃないんです。」


俺はさらに追求しようとしたが、リックはそのような俺に口を挟み、そのままユリウスの方を見た。


「……話はもう済んだか?」


明らかに不機嫌そうな顔をしたユリウスが低い声で言った。


「……そうだった!そもそも何であんたここにいる!?どうして俺をリックたちに襲わせたんだ!?」


俺もユリウスの方を見ながら、強い口調で尋ねた。


「……うるさい子どもだ。貴様が”勇者”としてどれほどの実力を身に付けたか見てみたいと思ったから、リックたちを向かわせただけのこと。……一応、リックを無力化できたことを踏まえ、辛うじて及第点といったところか。」


ユリウスは俺を見ながらつまらなそうに答えた。以前、城の中庭で話した時とは異なり、今のユリウスの口調は高圧的で冷たいものだった。


(……こいつ、俺を勇者って!)


ユリウスの態度の豹変以上に、俺はユリウスの言葉に驚き、頭が真っ白になっていた。


「ふん、まさか勇者の予言を知っていたのが王族だけと思っていたわけでもあるまい。」


ユリウスは嫌な笑みを浮かべて俺に言った。


教会が勇者の予言を知っている可能性については、ヴィクターも懸念していたことだ。だが、実際にそれが事実だと分かると、俺はより自身の身の危険を感じるようになった。


「まあいい、とにもかくにもまずは貴様に質問がある。先ほどの戦闘についてだ。」


ユリウスは先ほどまでの表情を消し、話を始めた。


「なぜ貴様はリックを殺そうとしなかった?」


明らかな怒りを含んだユリウスの言葉に、俺は全身が固まってしまうような感覚を覚えた。

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