第4話
俺たちカーレイド王国一行は巡礼都市マルメトに入ると、そのままカーレイド王国が所有する屋敷へと向かった。
屋敷は俺が住んでいた所よりも豪華な装飾で大きく、カーレイド王国の威厳や風格が現れているように見えた。一方で屋敷の豪華さは周りの建物のみすぼらしさや道路の荒廃さを目立たせていた。
「なんか思っていたより貧しそうな都市だな。」
屋敷に到着した俺はソファーに腰を落ち着かせながらヴィクターに言った。
「この都市は”議会制”といって、我が国と異なり、都市に住む市民の代表が集まって市政を行っていてね。」
ヴィクターも向かいのソファーに座りながら複雑そうな表情で言った。
「だけどその選出方法は、議会に対して支払える金額で決まるらしく、必然的に選出されるのは金を持った商人だけになるんだ。」
「そこで選ばれた商人たちは、自分たちの商いを有利にするために税金を使うことにしか興味がないらしい。まあそのおかげで、カーレイド王国までの街道が整備されたわけだけどね。」
「そのようなわけだから、この都市では貧しい者への支援や、都市環境の整備に税金が投入されることはないみたいだよ。」
ヴィクターはため息をつきながら話し終えた。
俺はヴィクターの話を聞きながら、長年の疑問が一つ解けたような気がした。
この世界では王国によって支配されている地域と、都市によって支配されている地域があった。後者の長はいったい誰なのだろうと思っていたが、何人かの市民が選出され、議会を運営する形が取られていたようだ。
だがヴィクターの話しぶりからも、ここの都市運営はあまり良いものではなさそうだった。
「何だか複雑そうな街だな。そんな街じゃ魔人薬の取り締まりなんてやってなさそうだよな。」
俺は馬車の時の話題に話を戻して言った。
「……そうだね。一応この都市にも”自警団”と呼ばれる集団はいるが、基本的には議会や要人の護衛しかやってないみたいだし、魔人薬のことなど気にしてもいないだろうね。」
ヴィクターは俺から視線を外しバツが悪そうに答えた。
馬車で移動している時から、ヴィクターはなんだか煮え切らない態度だった。何かを隠しているような、いつもの真っすぐさが今日は見えないような、そのように俺には思えた。
「……まあ別に良いけど。ところで冒険者の人たちはいつ来るんだろう?もうどこかに来ているのかな?」
ヴィクターへの違和感に対する答えの見当がつかなかった俺は話題を変えるように尋ねた。
「冒険者たちにはマルメトに入り次第、この屋敷を訪ねるように伝えてある。しかし、屋敷の管理人によれば、まだそのような人物はここを訪れていないみたいだ。……仕方のないことだが、もう少し待つ必要があるだろう。」
ヴィクターは首を横に振りながら、残念そうな表情をして答えた。
「何だ、そうなのか。じゃあ、しばらく待機ってことだよな?……それなら、この街を観光してきても良いかな?」
俺は身を乗り出しながらヴィクターに言った。冒険者たちのことも気にしてはいたが、俺は既に新しい土地に興味を奪われていた。
「行くなって言ってもタケルは行くだろうからね。……分かった、良いだろう。」
駄目だと言われるとばかり思っていたが、ヴィクターはあっさりと了承した。
「ただし、気をつけてくれ。ここは王都ではないんだから。危ないと思ったらすぐに戻ってくるんだ。」
ヴィクターはいつにもない真剣な表情をして俺に言った。
(危ないって……)
確かに王都に比べ危険な場所はかなりありそうだが、俺はこれでも王国随一の剣士で魔法も使うことができた。
(ヴィクターの言い方って、まるで子どもを心配する大人そのものだよな。)
「大丈夫だよ。俺だってもう十七歳で”成人”しているんだし、いざって時は自分で何とかするから。……じゃあ、早速行ってくる!」
俺は立ち上がりながらヴィクターに言うと、そのまま部屋の外に向かった。
ヴィクターはそれ以上何も言わなかった。しかし、何となくだが、まだ俺に伝えたいことがあったのではないかという気がした。
だが俺の頭の中は、マルメトを観光することですぐにいっぱいになり、屋敷を飛び出す頃には、ヴィクターへの違和感など消え去ってしまっていた。




