第1話
「俺と旅する仲間が見つかったのか!?」
ヴィクターの言葉に俺は驚きながら尋ねた。
オルズベックの事件から三か月が経ち、二月の終わりが近づいてきたとある日だった。寒かった冬から暖かな春へと季節が移る中、ヴィクターの執務室に呼び出された俺は、ヴィクターからともに魔王討伐の旅に出てくれる仲間の話をされていた。
「ああ、もちろんだ。建国祭が終わる頃までにはという約束だったからね。遅くなってしまって悪かったよ。」
ヴィクターは俺の言葉に頷きながら、申し訳なさそうに答えた。
正直、ヴィクターの行動は早いくらいだった。今はオルズベックによって破壊された王都の復旧でヴィクターは手一杯の中、仲間探しまでやってくれているとは思わなかった。
「いや、突然のことでびっくりで、なんて答えていいのか……ああ、そうか、いよいよ魔王を討伐するための旅が始まるのか。」
俺はヴィクターの言葉を実感するかのようにつぶやいた。
「仲間は二人、どちらも冒険者で、階級は”ゴールド”、腕も一級品だ。魔法も使えるみたいだから、タケルの仲間として不足はないはずだよ。」
ヴィクターは嬉しそうな表情で言った。
この世界には、依頼されたモンスターを倒すことや薬草や鉱石などの素材を集める職業があるらしく、それが”冒険者”と呼ばれるものだ。
誰もが冒険者になれるわけではなく、冒険者ギルドでの試験に合格したものだけが、冒険者となり、ギルドの仕事を請けられるらしい。
仕事にも難易度があるらしく、階級が高いほど、より難しい仕事を行うことができるみたいだ。
ちなみにヴィクターの言う”ゴールド”とは、冒険者の階級のことで、上から”プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、無印”とあり、ゴールドともなるとカーレイド王国でも数えるほどしかいない上級冒険者だった。
「ゴールドってすごい冒険者なんじゃないのか!?そんな人たちが俺と魔王討伐をしてくれるのか!?」
俺は冒険者ではないためこの業界のことは分からないが、恐らくゴールドは雲の上の人のような存在なのだと思った。そのような人たちが俺と一緒に旅に出てくれるなんて信じられなかった。
「……彼らも商売さ。見合うだけの報酬さえ払えば問題ないよ。」
俺の疑問にヴィクターは少し複雑そうな表情で答えた。
(金か……)
確かに冒険者ともなると報酬の支払いは必須であるから仕方がないことなのだが、俺個人の心情として、金だけで繋がっているような仲間だと、いざという時に命を懸けて戦えるのか不安だった。
「……あのさ、確かにゴールドの冒険者なんて俺には十分すぎるのかもしれないけど、その……危険だと思ったらその人たち逃げちゃったりしないかな?それに俺、あまり金持ってないから報酬なんて払えないんだけど。」
「この世界では一時的な契約だけで凶悪なモンスターの討伐を行う人間は多いんだ。そして、そういった人間が仕事で一番評価されるものは”信頼”なんだよ。少なくともゴールドまでいった人間が依頼人を置いて逃げるなんてことはあり得ないはずだ。……成功報酬もかなりのものにする予定だしね。」
顔に不安の色が出ていたのか、ヴィクターは俺に対して安心させるように言った。
「それに報酬のことは心配しなくて良い。全て我が国で持つ。タケルはその仲間とともに魔王を討伐することだけ考えてくれていれば良いから。」
ヴィクターの本気が伝わってきた。勇者として魔王を確実に倒すということを期待されている、そんな期待が俺の心にのしかかってくるような感覚を覚えた。
「……ありがとう、ヴィクター。それでその人たちは今どこにいるんだ?」
「ああ、それなんだが……」
ヴィクターは俺の問いかけに言葉を濁した。
「実は彼らは今、”魔人都市アンドラク”にいるらしいが、そちらでの仕事がまだ終わっていないとのことでね。本当なら今頃、カーレイド王国に到着している予定だったみたいなのだが、まだアンドラクとなると、すぐにここには来られないそうだ。」
魔人都市アンドラク……大陸東側にある都市だ。人族はほとんどおらず、亜人族たちが集まる大都市だと聞いたことがあった。
「それで彼らは手紙でこう提案してきた、「”巡礼都市マルメト”で会おう」とね。あそこならカーレイドとアンドラクの中間ぐらいだから、お互いにこれから出発すれば、マルメト辺りで落ち合えるだろうって話だ。」
ヴィクターは両手を軽く上げながら呆れるように言った。
”巡礼都市マルメト”とは、シデクス教の聖地バリナがある都市だ。多くの国に繋がる主要道路の中間にある都市のため、西側ではエゼムと並ぶ商業都市としても有名な場所であった。
「……まあ、そういうことなら別に俺は行っても良いけど。どちらにせよ、大陸東側を目指すなら通り道になる訳だし。だけど一人だけで迷わず行けるかな?」
俺はまだ見ぬマルメトを想像しながら尋ねた。正直カーレイド王国以外で行ったことのある国はヴィクターに連れられて行ったトランテ王国だけであり、一人で見知らぬ土地に行くことが少し不安だった。
「タケル、話は最後まで聞くものだよ。別に君一人で行かせるつもりはないさ。」
「えっ?それってどういう……」
「僕も行くんだよ、巡礼都市マルメトにね。」
首をかしげる俺に対し、ヴィクターは笑顔を浮かべて言った。




