第6話
食事を終えると、ヴィクターに連れられてとある宿屋に向かった。その宿屋は、ヴィクターの馴染みのようで、店主もヴィクターの正体を知っているとのことだった。
宿屋は食事をした店から少し離れており、歩いて20分程の所にあった。見た目は周りの建物と大きな違いはなかったが、店のそばに馬小屋や馬車を停めるスペースがあった。俺はこの世界の乗り物は馬といった動物なんだと確信した。
「やあ!アリソン、久しぶりだね。」
ヴィクターは俺を連れて宿の中に入るとそこにいた中年の男に話しかけた。
「やや、これはヴィクター様!ご無沙汰しております。」
「アリソン」と呼ばれた男は、ヴィクターに気づくとすぐに立ち上がり、こちらに近づいてきて答えた。恐らくこの男は宿の店主なのだろう。
「今日はどのようなご用件で?ご宿泊でございますか?」
「うむ、僕たちのために部屋を二つ取ってほしいのだが、空いているかな?」
「はい、もちろん部屋はございますよ!ヴィクター様と・・・ええと。」
アリソンはヴィクターの後ろで無言でいる俺の方をちらっと見た。
「ああ、彼は僕の友人でね。遠方の国からわざわざ来てくれたんだ。ちょっと事情があって今日はここに泊まって貰いたいんだけど、詳しくは聞かないでくれるかい?」
ヴィクターは笑顔でアリソンを牽制すると、アリソンはささっと目線を俺から外した。
「はい、もちろんでございます。ヴィクター様のご友人とあらば、出来る限りのおもてなしをさせていただきます。ではこちらに。」
アリソンはすぐにヴィクターと俺を部屋まで案内した。案内された部屋にはシングルベッドがあり、それ以外は小さな机と椅子があるシンプルなものだった。
「水浴びの場とトイレは廊下の奥にある勝手口から出た所のすぐに近くにございます。他にご不明な事がございましたら、このアリソンまでお尋ねください。」
アリソンは案内を済ませるとそのまま一礼して去っていった。当然のことと言えば当然なのだが、この世界にはシャワーなど無いということに気づき、少しげんなりしてしまった。
「では、今日はお互い休むとしよう。慣れない環境で疲れも溜まっているだろう。ゆっくり休んでほしい。」
ヴィクターはそう言うと返事を待つことなく、すぐに部屋に入ろうとした。俺はヴィクターを慌てて止めて、頭を下げながら言った。
「あっ、ちょっと待ってください。あの、改めて本当に今日はありがとうございました。命の恩人ってだけでは無く、食事や泊まる場所まで用意してくれて、すごく助かりました。」
「先ほども言った通り、本当にお礼なんて要らないんだ。むしろこの世界を救うためにわざわざ異世界から来てもらったくらいだ。こちらがお礼を言わないといけないくらいだよ。」
頭を下げる俺に対し、ヴィクターはそれを制止しながら答えた。
「そうだ一つ言い忘れていたが、明日の朝食後は、宿の前の馬車乗り場で待っていてほしい。そのまま馬車に乗ってメーテナまで行こう。」
「あの、メーテナというのは?」
「メーテナはカーレイド王国の王都に当たる場所さ。ここからそう遠くないよ。数刻もあれば到着すると思うから。」
そこまで言うと、ヴィクターは「それじゃあ、おやすみ。」と一言だけ言って部屋に入っていった。俺も案内された部屋に入り、そのままベッドに倒れ込んだ。
「あぁ、本当に疲れた。」
ベッドに倒れた瞬間、睡魔が襲ってきた。明日のこと、これからのこと、自分のこと・・・色々なことをしっかりと考えなければならないのに、もう何も考えられそうにないと俺は半ば思考を諦めながら眠りの世界へと旅立とうとしていた。
「王都メーテナかあ。どんな場所なんだろう。なにも起きなきゃいいんだけど・・・」
ぼんやりしながらも俺は一抹の不安は拭えなかった。しかし、今日出会えたヴィクターは少なくとも悪い奴とは思えなかったし、そんな人が住む場所であれば、そこまで酷いことにもならないだろう。根拠はないが俺にはそう感じられた。
「もう、限界・・・おやすみ。」
俺は頭の中で考えをまとめる余裕もなく、疲れからそのまま眠ってしまった。




