第46話
魔術師長の死は俺たちに大きな衝撃と絶望を与えたが、それでも戦いを止めることは許されず、俺を含めまだ動ける者たちはドラゴンと戦い続けた。
「魔術師団、構え!放て!」
兵士や魔術師たちを再編成し、エドマンドは指揮を執ってドラゴンへの攻撃を続けていた。
ドラゴンは魔法を受けながらもそれを気にする様子もなく、次々と建物を破壊し続けた。
「兵士長!」
指揮を執るエドマンドの前に一人の兵士が現れた。
「どうした!?」
「今のドラゴンの進行方向ですと、まもなく平民街に入ります。まだ市民の避難は完了していないため、このままでは予想できない被害が・・・」
兵士は顔を青くしてエドマンドに報告した。
「・・・くっ!どうすればやつを止められるんだ!」
エドマンドは悔しさをにじませながら言った。
既にできることは全て試していた。もはやエドマンドにできることはもうなかった。
・・・
「・・・いけ!」
俺は建物の屋根の上から火の魔法”ファイアアロー”を放った。
「ギュア!」
しかし相変わらずドラゴンは小さな悲鳴をあげるだけで、明らかなダメージを与えることはできなかった。
俺は後ろを振り返った。薄暗かった街並みが終わり、人の気配を感じる地区が近づいていた。
わずかにだが人々の悲鳴のようなものも聞こえてきた。誰もが突然現れたドラゴンにパニックになり、思うように避難ができていないのだろう。
「・・・」
俺は一つ作戦を考えていた。危険が大きいわりに成功するかも分からないため躊躇していたが、もはや悩んでいる時間は残されていなかった。
俺は屋根から降り、一度エドマンドのところに戻ることにした。
・・・
「お前、正気なのか!?失敗すれば確実に死ぬんだぞ!」
エドマンドのところに戻った俺は考えた作戦を伝えた。しかし、エドマンドは賛成するどころか俺を止めようとした。
「僕も反対だ。タケル、君にそんな無茶はさせられない。」
近くにいたヴィクターも俺に反対した。
「だけどこのままじゃ、多くの人が死んでしまう。だったら俺がやるしかない!」
俺の考えた作戦は、俺がドラゴンに”特攻”することだった。
まず初めに魔術師団で一斉に魔法を放ち、弾幕を張る。それによってドラゴンの目くらましをしている間に俺が一気に後方からドラゴンに近寄り、剣でとどめを刺すというものだ。
「この作戦には弾幕が張られた後、一気にドラゴンに近寄れる速さと、ドラゴンの硬い皮膚を突き破れる力が求められる。そして、それらを兼ね揃えているのは俺しかいない。・・・ヴィクター頼む、俺にこの作戦を実行させてくれ!」
俺はヴィクターの目を見て力強く言った。近くにエドマンドもいたが、もはやヴィクターへの敬称や敬語なんて気にしている余裕もなかった。
「・・・タケル、なぜ君がこの世界にいるのか、その理由は分かっているだろう?こんなところで君は死んではいけないんだ。あのドラゴンは僕たちで何とかする。だからタケル、君は自分の命を守ることだけを考えていてほしい。」
ヴィクターは俺に首を振りながら答えた。
「ヴィクターは俺に勇者として剣を振ってほしいって話したよな?俺はもう怒りに任せて剣を振るうつもりはない。だけど助けられる命を見逃してまで剣を振るわないなんてこともしたくないんだ。」
「それが勇者として正しいのかは分からない。だけど、俺はもう後悔したくないんだよ。これ以上誰かが死ぬのを見たくない。」
「・・・だから頼むよヴィクター。俺に協力してほしい。」
俺は深くヴィクターに頭を下げた。
「・・・」
ヴィクターは何も答えなかった。それでも俺は頭を下げたままヴィクターの言葉を待った。
「ギャアアアアア!」
ドラゴンの咆哮が聞こえた。平民街地区にドラゴンが迫っていた。
「・・・約束してくれ、生きて戻るということを。」
ヴィクターは僅かに声を震わせながら言った。
「・・・」
俺が顔を上げると、ヴィクターは俺に背を向けていた。
「ああ、こんなところで俺だって死ぬつもりはない!絶対に生きて戻ってくる!」
俺はヴィクターの背中に向けて力強く答えた。
「エドマンド!直ちに魔術師団に命じて弾幕の準備にかかれ!」
「・・・え!?よろしいので・・・は!承知しました!」
驚いたエドマンドは反論しようとしたが、ヴィクターの顔を見て慌てた様子で同意した。
「さあタケル、急いで配置についてくれ。もう時間がない。」
背中を向けたままヴィクターは俺に言った。
「ああ、分かった。・・・ヴィクター、ありがとう。」
俺はヴィクターに一言だけ言うと、ドラゴンの後方に向け、走り出そうとした。
「グ・・・グエエエエアウオオオオオ!!」
突然、先ほどまでとは異なるドラゴンの叫び声が聞こえてきた。
俺たちは驚きながら一斉にドラゴンを見た。
ドラゴンはその場に立ち止まり、苦しそうに顔を押さえていた。
ドラゴンに異変が起こり始めていた。




