第45話
「・・・ここは?」
俺はゆっくりと目を開けた。目の前には空にまで立ち上る砂埃とがれきの山が広がっていた。それになぜか体が濡れていて、晩秋の夜の寒さで体が堪えそうだった。
(いったい俺は何を・・・!)
ぼんやりとしながら記憶を呼び覚ましていると、突然覚醒し全てを思い出した。
俺はドラゴンと戦っていて、たった今相手のウォーターボールで攻撃されたところだったはずだ。
俺は立ち上がって自分の体を確認した。意外にも目立った外傷はなかった。
すぐに周りを見渡した。多くの兵士や魔術師ががれきの下敷きになって倒れていた。
ドラゴンの一撃によって兵団、魔術師団は壊滅的な被害を受けたことが分かった。しかし、何とか起き上がろうとしている者も多く見られ、幸いにも全滅してしまったわけではなさそうだった。
(・・・そうだ、ヴィクターは!?)
ヴィクターがいたであろう場所に目を向けた。そこから少し離れたところで見慣れた金髪の青年が壁に押し付けられるようにして倒れていた。
「ヴィクター!」
俺は急いでヴィクターに駆け寄り、声を掛けた。
「・・・うう、タ、タケルか?」
ヴィクターに意識はあった。しかし頭から血が流れていて危険な状態であるように見えた。
「待ってろ、今回復するから!”ライトヒール”!」
俺は光魔法で回復を始めた。
「・・・もう十分だタケル、ありがとう。」
魔法を使い始めてすぐにヴィクターは俺の肩に手を置いて言った。
「大丈夫なのか?」
「ああ、この怪我は吹き飛ばされた時にどこかで切ったのものだ。大したものじゃない。・・・多分、あの魔法は僕に直撃しなかったのだろう。」
ヴィクターは俺に笑顔を向けて答えた。
ヴィクターが無事で良かった。あの魔法を喰らって二人とも生きているのは奇跡のようなものだ。
「殿下!ご無事ですか!?」
俺たちの後ろから聞きなれた大きな声が聞こえた。
振り向くとそこにはエドマンドがいた。
「エドマンド!君も無事だったか!」
ヴィクターは驚きと喜びが混ざったような声で言った。
「はっ!突風のようなものが吹いてそれに飛ばされたためでしょうか。何とかあの魔法の直撃を避けられました。」
エドマンドはヴィクターに肩を貸しながら答えた。
(・・・そうだ、ウォーターボールが目の前に来た瞬間、突然強い風が吹いたんだ。でもあれはドラゴンによるものじゃなくて、もっと近くから・・・!)
俺はあの時何が起こったのか理解し、俺たちが元いた場所に走って戻った。
「・・・」
そこには彼がいた。白髪頭だったからすぐに分かった。
魔術師長だった。だが彼が生きているかどうか確かめる必要はなかった。
胸から下がなかったのだ。魔術師長は無残な姿でそこに倒れていた。
あの時、ウォーターボールが直撃する寸前、魔術師長はあの場にいた俺たちを風魔法で飛ばしたのだろう。
また魔術師長はそれだけではなく、自らの魔法でウォーターボールを打ち消そうとしたことも分かった。魔術師長のいた場所の後方にある建物の被害が他に比べて軽微だったからだ。
「・・・魔術師長殿!まさかそんな!」
遅れて俺のところにきたエドマンドが驚きの声を上げた。ヴィクターは黙ったまま、魔術師長を見つめていた。
俺はドラゴンを見た。ドラゴンはすでに屋敷を完全に破壊していて、別の場所に移動しようとしているところだった。
「・・・あいつは絶対に俺が倒す。」
俺はドラゴンから目を離さずに誓うように言った。




