第44話
「ヴィクター!兵士長!なんでここに!?」
俺は予想外の人物たちの登場に思わず驚きの声を上げた。
「話は後だ!タケル、とりあえずここまで下がってこい!」
珍しくヴィクターは焦りの表情を浮かべながら叫ぶように言った。
「・・・くっ!」
俺はドラゴンを睨みつけながらも、ヴィクターに従い後方に下がった。
・・・
「魔術師団、構え!」
魔術師長が命令を下すと魔術師の集団が一斉に両手を前に出した。
「土の壁を作れ、”アースウォール”!」
魔術師たちは次々と魔法を放ち、目の前には複数の土の壁が生成された。
「これでしばらくは時間稼ぎができるだろう。」
ヴィクターは安心したようにため息をつきながら言った。
「ヴィクター、どうしてここに来たんだ?しかも兵士や魔術師の集団を引き連れて。」
俺は魔術師たちの魔法に見惚れながらヴィクターに尋ねた。
「賊の遺体について調べたら、やはり見た目が変えられていたことが分かってね。そこで魔法を解除したところ、賊の正体は水王の手の者である可能性が出てきたんだ。他にも水王が一連の事件の関与している状況証拠が出てきて、兵を出したという訳さ。」
ヴィクターの話を聞き、俺は改めてオルズベックが黒幕であるということを認識した。
「ところでタケル、あそこにいるドラゴンはいったい何なんだ?それにオルズベックはどこに?」
「・・・あのドラゴンが”オルズベック”だよ。」
俺はドラゴンの方を見ながら、ヴィクターに言った。
「どういうことか説明してくれるか?」
ヴィクターの問いかけに対し、俺はこれまでにあったことを簡単に話し始めた。
・・・
「・・・そうか薬によってオルズベックが。しかしそんなことはあり得るのか?」
ヴィクターは俺の話を聞くと、驚いた顔のまま考え込むようにして言った。
俺の話が信じられないのだろう。無理もない。突然人がドラゴンになるという現象を、目の前で見た俺ですら、いまだに信じられないのだから。
「しかし、そうなるとあれを倒すことは容易ではありませんな。」
一緒に話を聞いていた魔術師長が自分の髭をなぞりながら言った。
「どういうことでしょうか、魔術師長殿?」
エドマンドは魔術師長に尋ねた。
「ドラゴンのあの硬い皮膚は物理的な強さだけでなく、あらゆる魔法に耐性を持つと聞いたことがあります。そのため、いくらここから魔法を浴びせたところで、あれを倒すことは叶わないでしょう。」
(ドラゴンの魔法耐性・・・そういうものがあったから俺の魔法も意味を成さなかったわけか。)
「そんな・・・何とかならないのでしょうか?」
「何とかなるのであれば、とっくの昔に人族は竜族を滅ぼしているはずですよ、兵士長殿。人族はドラゴンに勝てない、これはこの世界の摂理なのでしょうな。」
絶望に満ちた表情で尋ねるエドマンドに対し、魔術師長は表情を変えずに淡々と答えた。
「ギュアアアア!」
気がつけばドラゴンは立ち上がり王都一帯に響き渡るような声を上げていた。
先ほど無数の魔法を受けたにもかかわらず、ドラゴンの体には傷一つなかった。
魔術師長の言っていることは事実のようだ。
立ち上がったドラゴンはすかさず水の球を両手の上に作り始めた。
(・・・さっきより魔法を生み出す速度が上がっている気がする!)
俺は焦りながらエドマンドの方を見たが、エドマンドも分かっているのかすぐに行動を起こした。
「大楯構え!」
エドマンドの命令によって、盾を持った兵士たちが隊列を組み、俺たちの前で構えた。また、他の兵士たちは盾を持つ兵士の後ろに立ち、それを支え始めた。
土の壁が突破された際、このまま兵士たちがウォーターボールを受け止めるのだろう。
俺はその作戦に不安を感じながらも、土の壁と兵士たちがドラゴンの魔法を防いでくれるのを願った。
「グワアアア!」
ドラゴンは今までで一番大きな水の球を作り、それを俺たちに向かって投げた。
(・・・なっ!)
土の壁たちはあっさりと破られた。まるで最初からそこには何もなかったかのように、ウォーターボールの威力はまったく弱まっていなかった。
そして、ウォーターボールはそのまま兵士たちに直撃した。
「うあああああ!」
何が起こったのか分からなかった。盾を構えていた兵士たちが一瞬で吹き飛ばされ、悲鳴だけが遅れて聞こえてきたような気がした。
気がついた時には強大な水の球が目の前にあった。




