第43話
(・・・さてどうするか?)
俺はドラゴンを観察しながら、自分がどう動くべきか考えていた。
まだドラゴンとの間には距離があり、剣の間合いに届いていなかった。
しかし、近づき過ぎることも危険だった。近づけば近づくほど、あの爆弾のようなウォーターボールを直撃する可能性が高くなる。
(あれをまともに食らったら、さすがに身体能力が向上した俺でもやばいかもしれない。)
「それなら!」
俺は右手を前に出し、体中の魔力をそこに集めることを意識し始めた。
「ライトボール!」
光魔法”ライトボール”、俺は光の球を作りだし、それをドラゴン目掛けて思いっきり投げた。
「ギュア!」
ライトボールが直撃したドラゴンは悲鳴を上げた。だが、ドラゴンはそれによって体勢を崩すことなく、再度こちらに向かって唸り出した。
(全然効いてない・・・だったら!)
俺はその後、火魔法の”ファイアボール”や矢の形に変えた”ファイアアロー”も連続して放った。
しかしドラゴンは小さな悲鳴のようなものは上げるものの、その硬い皮膚に何の変化も与えることはできなかった。
(クソ、何でだよ!何で魔法が効かないだ!)
無傷のドラゴンを見ながら俺は怒りに近い感情を覚えた。
セレナと一緒に何年も辛い魔法の訓練をやってきたにも拘わらず、以前のポイズンエイプの時ともそうだったが、今回のドラゴンに対しても、まったく魔法が役に立ってくれないことに腹が立った。
(モンスターに効果的なダメージを与えるには、魔法の精度や威力だけじゃなくて、何か他の条件が必要なのか?)
俺は自分の右手を見ながらじっと考えた。
セレナは魔法の可能性を信じていた。それであれば、このような状況だとしてもセレナだったら魔法をもっと効果的に使うための方法を知っているはずだ。
(こんな時にセレナがそばにいてくれたら・・・)
俺はすでに帰国してしまったセレナを思い、自分の無力さを痛感した。
「ギュウウウウ。」
気がつけばドラゴンは両手に新たな水の球を作り始めていた。
(今はともかく目の前のドラゴンに集中しないと!)
ドラゴンのウォーターボールを間近に見たことで分かったこともあった。
ウォーターボールの威力は規格外だが、ドラゴンが水の球を作って投げるまでの速さは大したものではない。それにドラゴンの構え自体も単純なため、先読みしてウォーターボールを避けることは難しくなかった。
(どんな威力でも当たらなければ問題はない。だけど・・・)
しかし、俺がウォーターボールを避けるということは後方にある無数の建物が破壊されることを意味していた。
(この辺りの建物は地方の貴族や外国の来賓が宿泊するためのものだ。建国祭も終わった今、人はいないはずだけど・・・もし誰かがいたら。)
俺が迷っているうちに、ドラゴンの手にある水の球は見る見るうちに大きくなっていった。
(ずっと避けているだけじゃ勝つことはできない・・・それなら!)
俺は避けることを止め、ウォーターボールを迎え撃つ決意をした。
「グウウ・・・」
ウォーターボールを完成させたドラゴンは、低いうなり声を上げながら投げる動作に入った。それに対して俺も剣を構え、ドラゴンの攻撃に備えた。
「放て!」
その時、後方から声が聞こえた。同時に無数の魔法がドラゴンに向かって飛んでいった。
「ギュアアアアア!」
魔法を受けたドラゴンは体勢を崩しながら大きな悲鳴を上げた。
「待たせたね、タケル!怪我はないか!?」
振り向くと兵士と魔術師の一団を引き連れたヴィクターとエドマンドがそこにいた。




