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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第四章
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第28話

「それで調査って何をするつもりなんだよ?」


ヴィクターと話した翌日の朝、俺とヴィクターは屋敷で一緒に朝食を取っていた。


俺は謹慎を解かれ、一連の事件の調査を手伝うことになった。


「うん、そうだな・・・しばらくは僕と一緒に行動してほしい。」


「え、何で?・・・まさかヴィクター、俺のこと信じるとか言ってたくせに、まだ信じられてないんじゃないのか?」


俺は疑うような視線をヴィクターに向けながら言った。


「そういうことではないんだが・・・うん、そうだな!よし、皆!」


ヴィクターはそう言うと手を叩いた。すると近くにいたメイドたちはサッと部屋から出ていった。


「タケル?今回の事件の犯人は何が狙いだと思う?」


ヴィクターはいつにもない真剣な表情で俺に尋ねた。


(・・・狙いか、確かに犯人の目的はいったい何なんだろうか。)


最初は兵士たちに対する毒入り料理で、次は会談中のヴィクターへの襲撃未遂。普通に考えれば、この国に不満を持つ人間が事件を起こしているとしか思えないが・・・


「うーん、俺にはよく分からないな。カーレイド王国を狙う悪い奴がいて、そいつが今回の犯人ってことか?」


俺は首をひねりながら答えた。しかし、ヴィクターはその答えを聞いて、眉間に手を当てながら首を横に振った。


「やっぱり、タケル、君は何も気づいていなかったんだね。・・・そうだな、じゃあ、二つの事件で両方に関係している人物は誰だと思う?」


両方の事件に関係・・・うーん、事件は城の中と迎賓館周辺で発生し、そのどちらにもいたのは兵団の兵士ということになるが、両方で被害を受けた人間というと・・・あれ?


「もしかして、俺とトミーか?」


「その通りだ。だけど、これは僕個人の推測だが、トミーは巻き込まれただけにすぎず、本当に狙いたかったのは、タケル、君だけだったと思うんだ。」


ヴィクターは深刻な表情を浮かべて言った。


「な!?何で俺が狙われなくちゃならないんだよ!??そんな狙われる理由なんて・・・!」


俺はヴィクターの言葉を否定しようとしたが、すぐにヴィクターの言った意味を理解し、言葉を失った。


「そう、タケルは恐らく狙われているんだ。タケルが”勇者”であると知っている誰かによってね。」


ヴィクターは話をしながら、俺の目を真っすぐ見つめた。


ヴィクターの表情から、冗談で言っているのではないということがすぐに分かった。しかし、俺は自分が勇者として命を狙われているなんて夢にも思っていなかったため、頭の中が真っ白になってしまった。


「でも俺が勇者だって知ってるのって、陛下とヴィクター、それにセレナぐらいだろ?他に誰が知ってるって言うんだよ?」


俺はこの世界に来たばかりの時にヴィクターから聞かされた話を思い出しながら尋ねた。


確か今から百年前くらいに予言者と呼ばれた教会のシスターがいて、その人が死ぬ前に「勇者がこの世界に現れ、魔王を倒す」という内容を当時のカーレイド王に話したというものだったはずだ。


「・・・その時にも言ったが、予言者がカーレイド王にだけ話したというのは、あくまで予言者の言い分だ。本当は別の誰かにも話しているかもしれない。少なくとも僕はそう思っているよ。」


そうだった。百年も前ではもう本当のことなんて誰にも分からない。今は俺が勇者であることを誰かに知られているという前提で行動するほうが良いのかもしれない。


しかし、いったい誰が何の目的で俺の命を狙おうとしているのか・・・勇者だと知られているにしても、その人物や理由について、糸口さえ掴めなかった。


「・・・っ!」


その時、俺はあることを思い出し、背筋に悪寒のようなものを感じた。


三日前のパーティー会場で俺はある人物から明らかな殺意を向けられた。そして、その人物は・・・


「タケル?どうかしたのかい?」


急に下を向いて黙った俺に対し、ヴィクターは心配そうに尋ねた。


「・・・いや、なんでもない。多分気のせいだと思うから。」


ヴィクターに対し、俺はいつも通りの顔で首を横に振りながら答えた。


いくら俺でも憶測で何かを言って良い状況ではないことぐらい理解できた。今思い出したことはもう少し何か分かるまで黙っておくことにした。


「・・・まあそれなら良いんだ。ともかく今の段階で、タケルを一人で行動させるの危険すぎる。だからしばらくは僕と一緒に城内で情報を集めることに専念してほしい。城の中はまだ安全なはずだからね。」


ヴィクターは表情を柔らかくして、優しい口調で言った。


俺にそれで納得してほしいということなんだろうが、俺はむしろ、ヴィクターのある言葉が気になった。


”城の中はまだ安全なはず”


城の中ですら、いずれは危険になるという意味に聞こえたような気がした。確かに一度薬師のオースティンによって兵士の食事に毒が混入するという事件が起こってしまったが、ヴィクターの言い方は、一時的な事件に対するものではないように思えた。


「・・・分かったよ。俺にできることなら何でもする。だから協力させてくれ!」


いろいろと思うところもあったが、今はそれを飲み込み、事件解決に向けて行動したいという俺の意思をヴィクターに伝えた。


「ありがとう、タケルならそう言ってくれると思っていたよ。じゃあ、そうと決まれば、早速行こうか。」


ヴィクターはそこまで話すと席から立ち上がった。


「行くってどこに?」


ヴィクターの言葉の意図が分からないまま、俺も慌てて席を立ちながら尋ねた。


「会いに行くんだよ。タケルを襲った賊たちにね。」

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