第27話
「・・・うっ、ん、あれ?」
俺はゆっくりと目を開き、体を起こして周りを見渡した。
「うーん、俺なんで寝てるんだっけ?」
ベッドから出ながら俺は自分の目元を押さえた。何だか妙に目が腫れぼったく感じられたからだ。
「確か、セレナと話していて・・・そうだセレナ!」
次第に意識がはっきりとしてきて、寝る前のことを思い出した俺は急いで部屋を見渡した。
部屋には俺一人だった。窓から見える空の色はオレンジ一色になっていて、そのことから今は夕方なのだと分かった。
(・・・そっか、セレナはもう帰ったか。)
セレナが帰国すると話していたことを思い出し、俺はどうするという訳でもなく、そのまま、部屋にある椅子に腰掛けた。
(あいつの前で思いっきり泣いちゃったよな。)
目が腫れている理由も思い出した。俺は自分が抱えていたものを全てセレナにぶつけるように子どものように泣いたのだ。
だけど不思議と恥ずかしさなんてものはなかった。それにセレナと話す前まであった俺の中の怒りや罪悪感も薄れ、心の中が澄み渡っているような感覚だった。
(俺はいつもあいつに助けられてばっかりだ。)
俺は部屋の窓を開け、トランテ王国がある方向を眺めた。
「ありがとう、セレナ。」
この景色の先にいるであろうセレナに向かい、俺は感謝の言葉をつぶやいた。
・・・
「どうぞ。」
扉を軽く叩くと、中からヴィクターの返事があった。
夜になり、俺はヴィクターの部屋を訪れた。最近は屋敷にヴィクターが来ることは少なくなったが、偶然なのか、今日は部屋にいるみたいであった。
俺は緊張しながらも、ゆっくりと扉を開き、中へと入った。
部屋に入るとヴィクターはソファーに腰掛け、紅茶を飲みながら何かの書類に目を通していた。
「僕に何か用かい?」
ヴィクターは書類から目を離すことなく俺に言った。
「・・・ヴィクター、俺、昨日のことについてちゃんと考えたんだ。それで俺なりに答えを出せたと思う。聞いてくれるか?」
俺の言葉に対してヴィクターは何も答えなかった。しかし、ヴィクターは手に持っていた書類を静かに机に置いた。そのことから俺は、ヴィクターは話を聞いてくれるのだと判断した。
「ヴィクターの言う通りだったんだ。俺あの時怒りに任せて、トミーのことよりも敵を殺すことしか考えられてなかった。」
「だけどそれ以上に怖かったんだ。最初の一人を斬った後、俺、人を殺したって事実が受け入れられなくて、なのに敵に対しての怒りはどんどん大きくなっていって・・・」
俺は言葉を絞り出すように話し始めた。ヴィクターは何も言わずに目を閉じ、俺の話を聞いていた。
「あの時の俺は怒りに支配されるしかなかった。じゃなきゃ、胸が苦しくて悲しくて、こんなことになってしまった自分が許せなくて・・・」
「最低だよな、俺。ヴィクターが勇者の資格がないっていうのも分かる。今さら後悔したってもう遅いのに。」
俺はそこまで話すと軽く深呼吸をした。セレナと話して気持ちの整理ができたと思っていたが、まだ昨日のことを思い出すと、胸の中に何かずっしりと重いものがあるような感覚がした。
「俺は本当に弱いんだと思う。どんなに剣が上達したって魔法がうまくなったって、ヴィクターの言った通り、肝心なところが弱いままだったんだ。」
「だけどさ、俺そこで諦めたくないんだ。もっともっと強くなって、弱い自分に押し潰されないようになりたい。」
その時、ヴィクターは目を開いて俺の方へと向いた。
「ヴィクター、俺に・・・俺にもう一度チャンスをください。ヴィクターから認めてもらえるような立派な勇者に俺はなってみせるから。」
俺は話し終えるとヴィクターに深く頭を下げた。
「・・・」
ヴィクターから返事がなく、俺は顔を上げた。
ヴィクターは悲しそうな表情をして俺から視線を逸らしていた。
「・・・タケル、君は怖かったんじゃないのかい?人と戦うこと、そしてその相手を殺すということが・・・もしもう一度そのような場面を迎えたら、君はどうするつもりなんだ?」
しばらくして、ヴィクターは俺に尋ねた。
「もしそんな場面を迎えたとしても、やっぱり俺は人を殺したくない。できれば、誰も殺さずに乗り切る方法に頼りたい。だけど・・・」
「今の俺にはそんな力なんてない。だから俺はきっと次も敵を殺すよ。だけど、その時は感情任せの”モンスター”としてでなく、”勇者”として敵を殺すつもりだ。」
敵を殺すしかない弱い自分をしっかりと受け入れていくしかない。弱い自分を認め、そこからさらに強くなっていくことだけが、きっと俺にできることなのだろう。
「もう”モンスター”には絶対にならない。俺は仲間や大切な人、そして自分を守るために敵と戦う、そんな勇者に俺はなるから!」
言いたいことは全て言った。俺は今後も敵を殺すこと、そして、それでも逃げずに勇者として戦うという覚悟を決めた。
ヴィクターは何も言わずに俯いていた。そして、「はあ」と小さなため息をつきながら話し始めた。
「タケル、君は何か勘違いしていないかい?」
「・・・勘違い?何の話だよ?」
俺はヴィクターの言っていることがよく分からかった。
「タケルが勇者であるかどうかは僕が決めることじゃないよ。だからチャンスも何も僕が与えるものじゃないと思う。」
「だけど、もし僕にその権利があるのなら、僕は胸を張って「タケルは真の勇者だ!」と大きな声で言うつもりだ。」
俺が聞いたのは予想しなかったヴィクターからの言葉だった。
「僕はね、タケルを信じてみたいと思った。まあ、元々初めから信じているんだけどね。だけど、今はもっとその気持ちが強くなったよ。」
ヴィクターはそこまで言うと立ち上がり、俺に手を差し出した。
「僕から改めてお願いする。タケル、勇者としてこの世界を救ってくれ。」
ヴィクターは優しく微笑みながら俺に言った。
俺は何も言葉を返すことなく静かに頷き、その手を握り返した。




