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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第四章
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第16話

「・・・」


オルズベックに対し、俺は何も言葉が出てこなかった。


この世界?それってつまり、俺が異世界から来たことを知っているということか?


ありえない。このことを知っている人間は限られているはずだ。なのになぜオルズベックはこのようなことを尋ねてきたんだ?


「世界?オルズベックさん、それってどういう意味ですか?」


トミーは首をひねりながらオルズベックに尋ねた。


「・・・ああ、すまない。質問の仕方が悪かったね。これは失敬。」


オルズベックは頭を搔きながらバツが悪そうに言った。いつの間にかオルズベックから先ほど感じた強い威圧感は消え、元の穏やかな雰囲気へと戻っていた。


「君たちは兵士なんだろう?この世界、つまり戦いの世界に自ら飛び込んだのはなぜかなと思って。今は大きな戦争もない平和な世の中になったんだから、他の職業でも良かったんじゃないかって、それが気になったんだ。」


ああ、そういう意味の世界か。俺はオルズベックの質問の意味が分かり、ほっと胸を撫で下ろした。


「俺は村で一番剣が扱えたから、せっかくならその力を活かしたいなって思ってカーレイド王国の兵団に入ったって感じですね。まあ俺も平和な世の中の方が良いから、この力も宝の持ち腐れで終わってくれれば良いんですけど。」


トミーは冗談交じりにオルズベックに答えた。


「なるほどね。人は誰でも自分の得意なことを見つけて、それを伸ばしていくべきと私は思うよ。素晴らしいことだね。・・・君はどうしてなんだい?」


オルズベックは再び俺に尋ねてきた。


うーん、何と答えれば良いのか・・・適当なことを言って、ボロが出たら大変だ。


「タケル、あ、こいつタケルっていうですけど、タケルはすごいんですよ。何とヴィクター殿下が自ら見つけてきた逸材なんですから。俺なんかよりもずっと強くて、カーレイド王国の期待の星ですよ!」


トミーは自分のことのように嬉しそうに話した。


(トミー、余計なことを・・・)


一方俺はトミーの話に内心焦り始めていた。


正直そんな設定もう忘れていたため、俺は頭をフル回転させ、何を聞かれても良いように頭の中でストーリーを組み立て始めた。


「おお、それはすごい!殿下自ら、若き才能を発掘するとは。さすが頭脳明晰で聡明な人物と評価されるだけのことはある。」


オルズベックはうんうんと頷きながら言った。


どうやらトミーの話に特に違和感を持たなかったようだ。


「しかしそれはここにいる経緯であって、なぜ君がここにいることを決めたかという理由にはならない。私はそれが聞きたいんだ。」


オルズベックは真剣な表情で俺に言った。


・・・適当に誤魔化そうかと思ったが、何も浮かばない。こうなれば素直に答えてしまうしかない。


「・・・俺には守りたいものがあって、そのためにここにいます。」


ルカの命を守る。それが俺にとって何よりも大切な目的だった。そしてそれが俺がここにいる理由でもあった。


「は?何だそれ?」


トミーはぽかんとした表情を浮かべながら言った。


「・・・守りたいものか。それは本当に大切なものなんだね?」


オルズベックは表情を変えることなく、さらに俺に尋ねた。


「はい、なによりも。それを守れるなら俺は何だってやるつもりです。」


オルズベックの話の通り、魔王は善人なのかもしれない。だけど俺にとって何よりも大切なのはルカであり、その命だ。


これを守るためだったら、善人だろうと俺は殺す。そう覚悟を決めてオルズベックに答えた。


「そうか、それが君がここにいる理由・・・大切なものだったら絶対に譲れないか。」


「分かるよ、私にも大切なものがあるから。家族と商会の従業員、何にも代えがたい私の宝物だ。これを守るためなら、私はどんなことでもやり遂げて見せるさ。」


一瞬だけ、オルズベックは話をしながら悲しそうな表情を浮かべたような気がした。


「・・・おっと、つい長居してしまったね。そろそろ戻らないといけない時間だ。君たちもこれから仕事だというのにずっと引き留めてしまって済まなかったね。」


「ああ、いえ、こちらこそ、とても楽しい時間を過ごすことができました。いろんな話が聞けて良かったです。」


俺はオルズベックに自分の率直な思いを伝えた。


「はは、そうか、それなら良かったよ。そういえばこれから仕事だと言っていたが、どこで仕事なのかね?」


「貴族街にある迎賓館です。そこで警備の任務なんですけど、まあ俺たちはまだ新人みたいなもんなんで、あんまり重要な場所は任せてもらえないと思いますけどね。」


トミーは自虐的に笑いながら言った。


「若いうちは我慢が肝要だ。いずれ大きな機会が来るだろうから今はぐっとこらえる時だね。・・・よし、ではそろそろ。」


「ああ、俺が会計してきますよ。」


俺は立ち上がり、そのまま会計を済ませてこようとするが、すぐにオルズベックはそれを制止した。


「ここは私が持とう。私に付き合ってくれたお礼だと思ってくれれば良いから。それじゃあ、このまま失礼するよ。」


オルズベックは立ち上がると忙しなく会計を済ませ、そのまま店を出て、大きな体をゆらしながら走り去っていった。


「何だかもう一日働いた後みたいな気分だ。」


トミーはぐったりと椅子にもたれながら俺に言った。

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