第14話
「・・・はあ、はあ、やっと追いついた。」
オルズベックは息を切らしながら俺たちの目の前で止まった。もしかすると、俺たちの前を歩く誰かに声を掛けた可能性も考えていたが、やっぱりオルズベックの目的は俺たちだったみたいだ。
「は!どのようなご用件で、オルズベック殿。」
気が付くとトミーは姿勢を正して、真面目な表情でオルズベックに尋ねていた。
こういう時のトミーの切り替えの速さは素直に尊敬できた。俺たちは今兵士の格好をしているわけで、街にいるときも兵士としての対応が求められる。こういった対応一つ一つで、カーレイドの兵士団そして、カーレイド王室への評価に繋がるのだろう。
「あ、いやいやそう固くならないでくれ。別に何かしようって訳じゃないんだ。ただ、一つお礼が言いたくてね。」
「お礼ですか?」
俺も姿勢を正しながらオルズベックに尋ねた。
・・・お礼?全く持って見覚えがなかった。
「そうだ、お礼を言わせてくれ。急いでいるだろうに呼び止めてしまって済まない。」
「昨日、君たちは王国のパーティー会場の警備をしてくれていただろう?君たちのような兵士がしっかり守ってくれていたから、私は安心してパーティーを楽しむことができたのだ。・・・本当にありがとう。」
オルズベックはそこまで言うと、俺たちに対して頭を下げた。
「そんな!頭を上げてください!自分たちは責務を果たしたまでですから。・・・しかし、よく自分たちが会場にいたことを覚えていらっしゃいましたね?」
トミーは固い口調のままオルズベックに言った。
「職業柄、人の顔を覚えるのが得意でね。昨日会場にいた人なら全員顔を覚えているよ。・・・ところで君たち今は仕事中だったのかな?」
「あ、いえ、まだ仕事じゃないです。これから二人で飯を食べに行こうとしていたところです。」
俺は素直に答えたが、横を見るとトミーが顔を青くしてこちらを見ていた。
「おお!そうか!ならちょうど良かった。私もそろそろ昼食にしようと思っていたところだ。せっかくの機会だし、ご一緒させてもらっても良いかね?」
オルズベックは嬉しそうに俺たちに言った。
・・・ああ、これは面倒なことになったぞ。素直に答えず、適当に仕事中だとでも言っておけば良かった。
「せっかくのお誘いでございますが、来賓の方との食事ともなると上の者にまず相談して、許可をもらわなければなりませんので。」
トミーはさらに顔を青白くさせながら言った。トミーも何とかこの誘いから逃れたいみたいだ。
「そう言うことなら、私が来賓かどうか気にしないでも構わない。今日は休暇を取っていてね。私の商会”水王商会”では一月の中で休暇を取らなくてはならない日が決まっていて、今日がその日なんだ。」
「だから今日の私はただのオルズベック。一人の人間として、兵士ではない君たちという二人の人間と食事をしたいんだ。それなら構わないだろう?」
オルズベックはどうだと言わんばかりの表情で言った。そんなの屁理屈でしかないし、水王と食事なんてしたら、後でヴィクターやエドマンドに何を言われるか分からない。
しかし、個人的に目の前にいるオルズベックという人物に興味もあった。少し話してみても良いのかもしれない。
「そういうことなら・・・でも、俺たちの行く店、庶民用の店ですけど大丈夫ですか?」
「おい!何勝手に答えて・・・!」
俺がオルズベックに返事をすると、トミーはより一層顔色を悪くして俺の肩を掴んだ。
「まあ、良いんじゃないか?多分この人、俺たちが何を言ってもついてきそうだし。これはもう不可抗力の事故みたいなもんだって思って、諦めようぜ。」
「確かにそうかもしれないが・・・でもなあ・・・ああ、もう!どうなっても知らないからな!」
トミーは小声で全てを諦めたかように言った。
「よし!話はまとまったみたいだね!それじゃあ、店に行こうじゃないか!」
オルズベックは「わっははは」と笑いながら上機嫌に歩き始めた。
俺とトミーはお互いに顔を見合わせながら、ため息をつき、その後に続いた。




