第13話
「今日で建国祭最終日だっていうのに、今年は何だか人が多いな。」
俺は街の中の人だかりを見ながらつぶやいた。
兵士宿舎で兵士の服に着替えた後、俺とトミーは街の西側にある平民街に来ていた。
この辺りは庶民にとって手頃な金額設定の店が多いらしい。そして俺たちは今、トミーおすすめのハンバーガーのような料理が出される店に向かっていた。
「ああ、本当だな。例年より今年は観光客が多いと思っていたが、いつもは閑散とする最終日になってもこの人の数だ。やっぱりここ数年で街道が整備されたことによって、外国の人たちがカーレイドに来やすくなったんだな。」
「へえ、街道整備なんてやっていたのか知らなかったな。」
カーレイド王国がそんな大がかりな公共事業をやっていたことは初耳だった。まあ、あまり政治的なことはヴィクターとは話さないから俺が無知だっただけかもしれないが・・・
「いや、うちが主体的にやったわけじゃない。大元の出資者は巡礼都市マルメトと商業都市エゼムの商人たちって話だ。あの辺の大商人がかなりの金を出してくれたおかげで、カーレイドとこの2都市を繋ぐ街道が整備されて、人とモノが行き交い易くなったってことらしいぞ。」
巡礼都市マルメト・・・話にだけ聞いたことがあった。確かシデクス教が生まれた地、聖地バリナがある都市だ。世界中からシデクス教徒が巡礼に来るためか、交易も盛んで、エゼムに並ぶ経済都市でもあるらしい。そこの商人であれば、街道の整備の出資も可能なのだろう。
あれ?そう言えば、このカーレイド王国の人たちの大半はシデクス教徒であるはずなのに、巡礼に行くって話を聞いたことがないな。今まで考えたこともなかったが、宗教に熱心な人が多いわりに、巡礼には行かないっていうのは違和感があった。
また俺の知らない世界の常識があるのかもしれない。トミーに聞いて変に思われるのも嫌だし、ヴィクターに時間がある時でも聞くとするか。
「おい・・・あれって。」
俺が思考にふけっていると、トミーが前を見て驚いたような声を上げていた。
目の前にある露店にその人がいた。その人は少しお腹が出た中年男性で、骨董品のようなものを手に取って、真剣な表情でそれを見ていた。
水王オルズベックであった。
「・・・ふむ。こんなところに、このような貴重な魔法具があるとは。店主、これを買おう!いくらになるかね?」
店主に尋ねるオルズベックの表情は喜びと驚きが交じり合ったようなものに見えた。
「・・・なんでこの平民街にトランテ王国の来賓がいるんだよ。」
俺はできるだけ小声でトミーに話しかけた。
「知るかそんなもん。・・・何か面倒くさいことになりそうだから、気づかなかったことにしてさっさと通り過ぎようぜ。」
トミーも同じく小声で提案してきたので、俺は無言で頷いた。
「・・・」
俺たちは気配を殺して、オルズベックの横を通り過ぎた。どうやらオルズベックは店の品物に夢中で俺たちには気づいていないらしい。
「ふう、何とか乗り切った。」
オルズベックから少し距離が離れたところで俺はため息をつきながらつぶやいた。
「まあ、そもそもあんな大物が俺たち一兵卒に気が付いたところで興味なんて持つわけもないけどな。」
トミーは額を手で拭いながら俺に言った。
確かにトミーの言う通り、オルズベックからしたら俺たちはただの兵士に過ぎないかもしれないが、万が一ということもあるわけで・・・
「おい!君たち待ってくれ!」
俺とトミーが同時に後ろを振り向くと、オルズベックが小走りでこちらに向かって来ていた。
どうやら万が一が起きてしまったみたいだ。




