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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第四章
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第11話

エルザを研究棟まで送った後、俺は一人城内を歩いていた。


今日はいろいろなことがあり過ぎて疲れていたが、すぐには眠れそうにないと思った。


毒入りの料理のこと・・・エルザへの研究協力がなければ、俺も他の兵士同様、今頃は病室のベッドの上で苦しい夜を過ごすことになっていただろう。


いや、それだけでは済まなかったかもしれない。エルザと知り合っていなければ、あの時、エルザを呼ぶということもできず、従来の処置として備蓄室の解熱薬が使われていたはずだ。


その解熱薬にはより強力な毒が含まれていたのだ。それを飲まされていたら、いくら毒耐性のある俺でも命を落としていたかもしれない。


(・・・しかし、オースティンはなぜこんなことを。)


俺はオースティンという人物について改めて考えてみた。ただの研究者が実行するにはあまりにも大きな事件だ。もしかすると、単独犯ではなく、強力な力を持った誰かが共犯なのかもしれない。


むしろオースティンは主犯ではなく、誰かの命令で事件を起こしたのではないだろうか。


(だけどそうなると、何で兵士たちを狙ったんだろう?)


病室に関係者全員で集まっていた時は、いくら俺でも不敬になると思って口には出せなかったが、もしこの国に不満があって犯行に及んだとするなら、王族を狙うのが普通なはずだ。


犯行に使った毒も、厨房へ簡単に忍び込めるのであれば、王族の料理に入れるのも難しくないように思えた。


それに今日に限って言えば、外国からの来賓も多かった。パーティー会場の料理に毒を混入させれば、大きなパニックを引き起こし、この国の信用を地に落とすことだってできたはずだ。


(なのに、なぜ兵士だったんだ?)


俺はオースティンの狙いがさっぱり分からなかった。


あの休憩室にいた兵士は、兵団のごく一部の者たちだけで、カーレイド王国の兵力を大きく減らすということにもならない。


何かオースティンにとって、あの部屋にいた兵士たちが特別だったのだろうか?


(・・・特別?・・・もしかして?)


(・・・俺が狙いだった?)


オースティンは俺の正体を知っていて、俺を殺すためだけにあの部屋全体の兵士を狙ったとでも言うのだろうか。


いや、オースティンが俺のことを知っているはずはない。俺が勇者であることはカーレイド王とヴィクター、それにセレナぐらいしか知らない。三人とも心から信頼できる人たちだ。


(でも、それ以外で俺が狙われる理由なんてない。)


なぜだか理由は分からないが、もしかすると俺が勇者であることをヴィクターたち以外に知っている奴がいて、そいつがオースティンと協力して俺を狙ってきたと考えると辻褄が合う気がした。


(・・・いったい誰が?)


俺は思い当たりそうな人物を考えてみた。しかし、今まで出会った人は皆良い人たちばかりで、俺の命を狙うような人間がいるとは思いたくなかった。


(俺のことを殺そうと考える人か・・・)


その時、ふと昼間のパーティー会場での出来事を思い出した。


一瞬だったが、俺に向けられた明確な殺意。あの人は確か・・・


(いや・・・さすがにありえないか。)


思い浮かんだ人物が一人だけいたが、すぐにその考えを否定した。


その人が仮に俺の正体を知っていたとしても、俺の命を奪おうとはしないだろう。


むしろ、俺がこの世界にいる目的を知っているのであれば、その人とその人のいる組織全体で俺を支援してくれるはずだ。


「・・・あーやめやめ。疲れていると変なことばかり考えてしまうな。」


俺は頭を左右に振りながら、先ほどまで考えていたことを頭の中から追い払った。


気がつけば、自室まで戻ってきていた。


部屋に入った俺はすぐにベッドに横になった。眠れないかと思っていたが、数分もしない内に夢の中へと吸い込まれていった。

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