第1話
俺は今異世界に来ている。
周りは緑がいっぱいに広がる森の中で、本当にここが異世界なのか疑問が生じるところであるが、なんとなく空気というか、匂いというのか、それが日本の物と違う気がした。
「・・・いったいこれからどうしたらいいんだろう?」
異世界に感動したのも一瞬で、いきなり森の中に置き去りにされ、瞬く間に俺は不安になってきた。
「協力者がいるって言ってたけど・・・あれ?」
俺は周りを見渡しているとふと足もとに何かがあることに気が付いた。
そこには柄に収まっている剣と手紙があった。
俺は剣を手に取りつつ、手紙を開き読み始めた。
これを読んでいるということは無事に異世界に渡ることができたのですね。
でもまだ安心するのは早い。周りにはモンスターと呼ばれる魔獣がたくさんおります。
すぐに剣を持って森を抜け出しなさい。万が一モンスターに遭遇した場合は、
迷わずお切りになりなさい。森の外まで行けば、協力者に会うことができるでしょう。
では検討を祈っております。
オウル
俺は手紙を読み終えると同時に、心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じた。ちょっと待ってくれ、説明が少なすぎじゃないか!?というか、いきなりモンスターとか現れるのか!?こういうのって普通は最初にチュートリアルとかがあって、徐々に慣れていくもんじゃないのか!?
俺は改めて森を見渡した。手紙を読む前と今では同じ森でも景色が変わってくる。なんだか目に見えない何かが森の奥から俺をじっと見ているような気がしてきた。
「今は考えてもしょうがない。さっさと森を抜け出さないと!」
俺は剣を手にその場を離れることにした。どちらに行けば森を抜け出せるのかなんてわからない。とりあえず進むしかない。
・・・
「しかし、のどが渇いてきた。」
覆い茂る森を進むこと一時間くらいだろうか。だんだんと喉が乾いていくのを感じ始めた。気温は日本の春と同じくらいだと思うが、慣れない土地やいつモンスターが出てくるかもしれないという緊張からいつもよりも早く喉が乾いていく様な気がした。
「水っていうと、こういう世界じゃ川とかだよなあ・・・」
正直そのまま飲むとお腹を下しそうな気もするが贅沢は言っていられない。俺は一旦立ち止まり、耳を澄ませ、水の音がする方に進むことにした。
幸いなことに歩いて数分も立たないうちに川を発見することができた。川の水を飲むのは勇気が必要だったが、背に腹は代えられない。俺はそのまま手ですくい、口に運んだ。
「・・・ん、うまい!」
喉が異常に乾いていたせいだろか、味なんてないのにとても美味しく感じた。水が全身を駆け巡っていき、ここまで歩いてきた疲れを吹き飛ばしてくれるようだった。
「とりあえず、水は確保できたけど、後は食糧かあ。」
喉は潤すことはできたが、結構な時間を歩き続けたせいか、俺は空腹を感じ始めていた。歩いている途中で、食べられそうな果物を見たが、毒があるかもしれないので、手をつけないでおいた。しかし空腹も限界に達したら、これも一か八かで食べるしかないのだろう。
「ったく、魔王を倒すどころか、森の中で飢え死にしそうだよ・・・待てよ?」
俺は愚痴を言いながらふと川の流れを見ていると、あることに気がついた。
このまま川に沿って歩いていけば、人里に出るのではないだろうか。世界観はまだ分からないが、こんな鉄製の剣を渡すくらいだから、中世ヨーロッパぐらいの文化レベルの世界だろう。そうなると、川から水を引っ張って作物を育てているはずだから、川沿いに村や街があるはずだ。なんの根拠もない考えだったが、俺は最高のひらめきだと感じた。
「よし!そうと決まれば、早速出発だ!」
俺は当てもなく歩く状態から、一応の目標が出来たことで、先ほどより軽い足取りで進み始めた。
「ともかく暗くなる前にこの森を抜けちゃわないと、・・・ん?」
正直俺は油断していた。オウルの手紙からモンスターが出ることが分かっていたが、森の中をさまよっても、一向にそれらしきものと出くわさないでいた為だ。なので、そばの草むらでササっと大きな音が立っても全く反応できなかった。
草むらから突然何かが飛び出した。それはそのまま俺の方に向かって突進してきたのだ。
「・・・!っ痛!」
それが俺の体に当たる寸前で、無意識に体を逸らせたおかげで何とか直撃は避けることができたようだ。しかし、俺の着ていた服には切れ込みが入っており、さらにうっすらと服が赤く染まっていた。
「おいおい、マジかよ!」
俺は初めて血を流していることに気づき、痛みとパニックで体が固まってしまった。早く逃げないといけないのに俺の体は全く動かなかった。
俺は自分に体当たりをしてきたものの正体を確認するため、それがいる方向に目をやった。それは犬と同じくらいの大きさでウサギのような姿をしていた。しかし、ウサギとは全く異なる生物であることはすぐわかった。そいつの頭には大きな角が一本生えていたからだ。
それが”モンスター”であることは、考えなくてもすぐにわかった。




