第1話
俺は自分の発言に後悔しながら街を走り続けていた。
きっかけは些細な事だったと思う。
リビングでたまたま居合わせた妹のルカと口論となり、ルカは家を飛び出した。
ルカとは昔から仲が悪かった。
ルカは勉強やスポーツ、ゲームをやる時でさえ、何かと対抗心をむき出しに俺に挑んできた。
俺も負けず嫌いから、全力で迎え撃ち、常に負かしていたが、その度にルカは大声を出して泣き、次の日には、また俺に挑んできたのだ。
俺はだんだん、そんなルカが煩わしくなり、次第に無視するようになった。
無視するようになってから、ルカは以前ほど俺に挑んで来ることは無くなったが、
仲が改善することも無かった。
中学に上がった現在では、お互いに口を聞くことも無くなっていた。
そんな状態だったのに、お互い虫の居所が悪かったのか、つまらない些細な事で言い合いとなり、俺はルカに言ってはいけない一言を言ってしまった。
「お前となんか兄妹じゃなきゃよかった!」
飛び出したルカを放っておいても良かったが、バツの悪さもあり、夕方から天気が崩れるとのことだったので、俺は傘を持って妹を追いかけた。
ルカに追い付いたら、一言謝って一緒に帰り、取っておいた冷蔵庫のプリンを渡して仲直りしよう、そんなことを考えながらルカを追いかけた。
追いかけてすぐにルカを見つけることができた。
ルカは学校に行く途中の交差点にいた。
なぜそんなところで、横たわっているのか不思議だった。
俺はルカに近づいた。
「なんでこんなところで寝ているのか」なんて的外れな事を考えながら。
ルカの体は真っ赤に染まっていた。なぜ真っ赤なのか分からなかった。
ルカは目をつぶったまま動かなかった。確認はしていないが息をしていないことも何となく分かった。
俺は頭が真っ白になった。一つの答え以外、何も考えられなかった。
そう、「ルカは死んだ」ということ以外は。
俺はその場で崩れを落ち、ルカを抱き上げた。
どうしたらいいのだろうか、何をすれば、この状況は変わるのだろうか。
何秒か何時間か分からないが、そのままずっとルカを抱きかかえていた。
そのうち、俺自身の体から熱が失われたように感じ始めた。
いつのまにか降り出した雨のせいだろうか。
雨が次第に本降りになる中、俺は次第に声に出して祈り始めた。
「誰か妹を助けて下さい。」
馬鹿らしいことだし、どうしようもないことだってことぐらい頭では分かっている。
しかし、そうせずにはいられなかったのだ。
「神様でも悪魔でも何でもいい。どうかルカを生き返らせてください。」
「その願いのために、あなたは何をくれるの?」
突然後ろから聞きなれない女性の声がした。
振り向くとそこには、黒いドレスに白い仮面を付けた女性がいた。
顔は分からなかったが、何となく日本人では無いと思った。
「あなたが私が望むものをくれるなら、その願いを叶えてあげる。」
仮面で表情は分からないが、女性はどこか楽しそうに俺にそう言った。
俺は女性の言うことが全く理解できないでいた。
ただ、仮面を付けた奇妙な女性のこと、とても美しい人なのだろうと、
どこか頭の片隅で考えていたのだった。