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God's Locus  作者: フリート
9/19

第八話 侘び寂び

 二日ほど過ぎた日の昼前、俺達は森の中にいた。

「ねぇ、まだ森は抜けないのかしらぁ?」

 アウリエラが文句を言ってきた。

「そうは言ってもな、木が邪魔で移動の速度が落ちてるんだ。我慢しろ。」

「ラキエル、私お腹が空いたわ。ねぇ、お昼にしましょう。」

「そうだな。少し先に大きめの池があるっぽい。そこで飯にしよう。」

「賛成ー。」

 機嫌が良くなったようだ。

 しばらくして、池までやってきた。空気がとても静かで落ち着く。今は風もないので、水面に景色が反射してとても美しい。

「わぁ。綺麗ねぇ。」

「あぁ。」

 俺は飯の準備をしようとして、御者席から降りた。すると突然、

 ぽちゃんっ

 静寂の中に一点、弾むような音が響き渡り、不自然だが妙に心地が良くなった。

「「っ!」」

 俺とアウリエラはすぐに構えた。なんだ今の引き込まれるような感覚は。何かの術か。

「ほっほっ。これは『侘び寂び』と言うものじゃ。」

「誰⁉︎」

 アウリエラは驚く。

「まぁまぁ。そう警戒するでない。ところで、お主らは先程まで侘び寂びを知らなかったと見える。初めてでこの良さを感じるとは、中々才能があるぞい。」

 声の先を見ると、池の横で奇妙な服を着たご老人が釣りをしていた。雪のように白い髪で、後ろで結っているのにも関わらず、腰より少し高いところまで長さがある。目が線のように細く、白い髭が鼻の下にハの字に生えている。

 いつからそこにいたのか。いや、俺達が来るよりもずっと前からここにいたのだろう。それでも全く気配を感じなかったところから察するに、このご老人、できるっ。

「ねぇ、そのワビサビ? って何かしら。」

 アウリエラがご老人の方へ歩いていく。仕方なく俺も着いていく。

「ほぉ? 興味があるのかい、お嬢さんや。いいじゃろう。質素こそが至福であるという侘び。そして流れの美しさこそが至高であるという寂び。この二つを組み合わせ、侘び寂びというんじゃ。この池がまさにそれを示しておる。」

「どうゆうこと?」

 アウリエラが疑問を示す。宝石や絵画など、豪華で形に残るものを好むのは貴族して当然というか、アイデンティティでもある。だがそれとは全くの逆を行く侘び寂びという思想に、彼女だけでなく、俺も興味を持ってしまった。

「目の前の景色を見てみなさい。さて、お嬢さんの目には何が映っているかな。」

「えっと、池と、木と、草、あと石。それ以外は…特にないわね。これが侘び寂び?」

「ほっほ。そう焦るでない。今にわかるのでな。」

 そういうとご老人は、傍の石を手に持ち、それを池のへ投げた。

 ぽちゃん

 石は池の中央に落ち、音が反響する。同時に池に波紋が広がり、しばらくすると再び静寂が戻ってくる。

「……。どうじゃ。これが侘び寂びじゃ。」

「なんだかとても、儚いわね。」

「あぁ、だがとても落ち着く。」

「ほっほっほぉ。じゃろ?」

 すると、静寂を壊すように、後ろから声がした。

「お爺ちゃーん。ご飯できたよー。」

「全く。騒がしいのが来おったわい。」

 ご老人は嫌そうな顔をした。

「お爺ちゃ、げっ! だ、誰ですか! あなた達!」

「少なくとも、お前さんよか話がわかる子達じゃの。」

 ご老人は嫌味ったらしく言った。

 出てきたのは女の子だ。褐色の肌をしていて、黄色い目をしている。黒髪でボブヘアー、頭からは二本の角が一周ぐるりと回って生えている。魔族だ。

「まぁた、ワビサビとか言うのの話ぃ? そんなのいいから早くご飯食べよ!」

「そんなのとはなんじゃ! お前さんが考えとるほど軽いもんじゃないぞい!」

 さっきまでのご老人の、師匠的な雰囲気が一気に消え、孫に手を焼くただの爺さんになってしまった。

「これは寂び、かしらね。ふふっ。」

 アウリエラがこそっと笑う。

「ははっ、どうだかな。」

 思わず笑ってしまった。

「そうじゃ。お主ら昼飯まだじゃろう? よかったら食べていきなさいな。」

「えぇっ、まぁお爺ちゃんがそういうなら、明日の分も出すようにお婆ちゃんに言って見るけど……。」

「決まりじゃな。」

 決まったようだ。

「では、ご相伴させていただきます。」

「ありがとうございます。」

 俺達は池を後にした。

 途中、皆んなで自己紹介をした。ご老人は刃一郎、魔族のお嬢さんはソラと言うらしい。そうしてしばらくすると、木造二階建ての一軒家に着いた。森のイメージにピッタリな家だ。

「さぁ、いらっしゃい。ここが儂らの家じゃ。」

「素敵ですわ。」

「それに良い匂いがするな。」

 すると家の扉が開き、老齢の女性が一人出てきた。刃一郎さんと同じ色の髪を同じ様に後ろで結んでいる。目は切長で、刃一郎さんよりかは開いている。あと、まつ毛長い。

「おや、誰だい、あんた達。」

「初めまして。俺はラキエルだ。」

「初めまして。私はアウリエラです。」

 俺達が自己紹介をすると向こうも名乗った。

「そうかい。あたしゃ、桜だ。」

「どうじゃ、見た目に反して可愛い名前じゃろ?」

 茶化した刃一郎さんの頭を、桜さんは思い切り叩いた。

「ところで刃。この子達を連れてきたってことは、遂にやるんだね。」

 桜さんの意味深な言葉に刃一郎さんはいた。

 その後、皆んなで飯の準備をする。今日はカレーという料理だそうだ。とても良い匂いがする。準備が終わると席に着き、刃一郎さん達が手を合わせた。

「「「いただきます。」」」

「何ですか、それ。」

 気になったので聞いてみた。

「ん? これか? これはじゃな、儂らの故郷に伝わるものでな。全ての食材、そして命に感謝を示しとる、礼のようなものじゃ。」

「刃一郎様と桜様のお名前やその服といい、今の礼といい、もしかして極東出身ですか?」

 極東。母さんから聞いたことがある。大陸の東にある国のことで、大陸のどの国とも違う『和』という文化があるそうだ。

「おぉ、そうじゃよ。」

 しかもその国は、海の中にあり魚人と呼ばれる水族が住んでいるらしい。

「ということは、刃一郎さんと桜さんは、魚人なのか?」

「そうじゃ。ほれ、この通り。」

 刃一郎の爺さんはそう言って腕を見せてくれた。桜さんも見せてくれた。その腕には鱗が生えていた。

「ほっほ。どうじゃ? 見るのは初めてか?」

「えぇ。」

 アウリエラが答えた。

「恐ろしいか。」

「いいや。むしろ綺麗だと思う。」

 何せ、窓から差し込む光が反射して鱗が輝く様は、とても美しいのだ。

「私もそう思います。」

「ほっほっ。そうか、そうか。」

 桜さんは少し驚いた顔をしていた。刃一郎さんはよく笑う方だ、と思った。

「もうっ、喋ってばかりいないで食べて。」

 ソラさんがそう言うと

「そうだよ。せっかくの料理が冷めちまう。」

 桜が付け加えた。

「そうじゃの。食べるとしよう。」

 カル芋のこともあり、見た目で判断するのをやめた俺達は、カレーという食べ物をあっさり口に入れた。皆んな目が驚いていた。まぁ、この見た目だかんな。でもうまい。

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