第十八話 総合ギルドにて
少し歩いて、六角形の上に冠マークの看板が飾られた大きな建物の前に来た。
「ひゃぁー、大っきいー。」
「さすが、神王国の総合ギルド。でかいわね。それともこれが普通なのかしら。」
アウリエラとソラはその大きさに少し驚きながらも、二人とも他を見たことがないので、そのすごさを測りかねているようだ。
「いや、大きいと思うぞ。俺も、カルバニエでは遠目でしか見なかったが、それでも明らかに大きいってわかる。」
総合ギルド。金融ギルド、生産ギルド、医療ギルド、冒険ギルド、商業ギルド、加工ギルドの六つのギルドの上にあり、依頼を六つのギルドに割り振る役目を担う。
国や国民とギルドをつなぐパイプであり、内容問わず様々な依頼が舞い込むから、どんな情報もここに来れば大体集められる。
「よっし、入るぞ。」
俺は扉を開いた。中は人でいっっぱいだった。筋骨隆々な熊人や、いかにも商人らしい、眼鏡をかけた豚人、依頼書と思われる紙を受付に差し出す犬人の家族等、様々だ。
あたりを見回していると
「総合ギルドにいらっしゃるのは初めてですか?」
大人の雰囲気が漂う、兎人のお姉さんが声をかけてきた。
「えぇそうよ。」
アウリエラが答えた。
「どのようなご用件で?」
「実は私達、調べものをしているんだ。最近噂になっている、銀の大男についてね。」
今度はソラが答えた。
「申し訳ございません。おそらくお力にはなれないかと存じます。」
お姉さんはそう言って軽く礼をした。
するとアウリエラが彼女の耳元で
「私たち、この事件に妖が関わっていると考えているのだけど。」
耳打ちが終えるとお姉さんは、俺達から離れるように数歩だけ歩いた後、肩甲骨まで伸びる白い髪を揺らし、こちらへ振り返った。
「別室へ案内致します。」
どうやら無駄足ではないようだ。
「ナイス。」
俺はこそっとアウリエラに耳打ちした。
「すごいね、アウラ。」
ソラも褒めている。
「まぁねっ。」
頼りになるな。
個室に案内されると
「どうぞ、こちらへお座りください。」
お姉さんが手でソファを刺して言った。
俺たちが座った後、お姉さんはお茶を出してくれた。俺達と向き合うように座って聞いてくる。
「どこまでご存知なのですか?」
「大して知らないわよ。噂に出てくる大男の正体が妖っていう化け物であることしか。だからもっと情報を得るためにここへ来たの。」
「どこで妖のことを?」
空気が重い。
「あなた焦りすぎよ。まず名前くらい名乗ったらどうかしら。」
アウリエラが冷たく促す。確かに、礼儀だもんな。
「っ、失礼しました。私、総合ギルド副統括を任されております、エルマと申します。」
驚いた。まさか副統括とは。ギルドの中でも二番目に権力を持つ地位だ。だが、俺もアウリエラも表情には出さない。
「アウリエラよ。こっちは」
「ラキエルだ。それと…」
「ソラです!」
「アウリエラ様、ラキエル様、そしてソラ様、あなた方はどこで妖のことを? これはまだ未発表の国家機密なのですが。」
はぁ? 国家機密だと? そんなの知らないぞ母さん。
「あら、あなたが知っているんだもの。私が知らないはずないでしょう?」
おいおい、相手はギルドのナンバーツーですよ。あ、そういえばアウリエラってば公爵令嬢じゃん。どこの国の公爵なのか聞いてないけど。
「今度はこちらから質問させて頂戴。ギルドの方こそ、妖、もしくは今回の噂について、どこまでご存知なのかしら?」
はっ! ソラの気配が、ない! さてはここはアウリエラに任せて、自分は空気になろうという魂胆だな。
よし乗った。俺も空気になろう。俺は空気。俺は空気。
「……。どこまで、とは?」
「はぁ…。そうね……倒す手段はご存じで?」
エルマさんとアウリエラは、何かを諦めたような様子で話を進める。
「いいえ、残念ながら。」
お姉さんは悔しそうにしている。
「あらそ。それは残念ね。たしかに、あれは恐ろしいものねぇ。倒す方法なんて、探る前にやられてしまうわ。」
含みのある言い方だ。
「っ! あなたは妖に会ったことが⁉︎ 何故生きて……いえ、失言でした。申し訳ありません。」
落ち着いた雰囲気を取り戻したように見えるが、額からは汗が出ている。
そしてアウリエラが怖い。箱入りは世間知らず、と母さんの本で読んだが、あれは嘘のようだ。
ソラも心なしか、怯えているような……。
「別にいいわよ。ただ、一つヒントをあげるなら…この人、私の命の恩人なの。」
そう言うとアウリエラは俺の右腕に組みついてきた。やめてほしい。俺は今空気なのだ。
「っ! わかりました。急ぎギルドマスターを呼びますので少々お待ちください。」
エルマさんが部屋から出ていって、しばらくすると扉が開き、鷹人の男が入ってきた。
背中に大きな翼を持ち、鷹の顔をしている。
あと、割と細めだが、袖から出る腕を見る限り引き締まった良い筋肉をしているのだろう。
男がソファに座り、先程のお姉さんは後ろで立っている。
「ギルドマスターのツェガンだ。話は聞いた。君達は、あれを倒す方法を知っているのか?」
ツェガンさんは渋い声で問いかけてきた。
「アウリエラです。」
「そ、ソラです…。」
ソラは何がなんだかわからないといった感じだ。
アウリエラが笑みを浮かべ、こちらを見る。
「ラキエルだ。妖は一応、以前倒した。」
ツェガンさんは目を丸くした。そしてうつむき、
「はぁ…これで光明が見えた。」
安心したように呟いた。ギルマスは続けて問う。
「どうやって倒したのか、聞いても?」
「どう倒したのかと訊かれてもなぁ…。あぁ、そう言えばあいつら、心臓のとこがなんか光ってたな。それを壊したら、溶けるように死んだよ。」
「っ! なんとっ…。エルマ、大至急、王に連絡を!」
「はい! マスター!」
なんだなんだ、王だって?
そんなに大事なのか。
「少しお待ちになって。」
アウリエラがエルマさんを止めた。
「悪いが、倒す手段が見つかった以上、我々には王に報告する義務がある。あぁ、見返りなら問題は――」
「そうではありませんわ。」
ツェガンさんの言葉を遮った。なんで…あぁ、そうか。
「私達、これを持っておりますので。」
そう言ってアウリエラは、母さんの手紙を取り出した。
「そ、それは!」
ツェガンさんがまず驚く。
「なっ!」
次にエルマさんが驚く。
「ん? え、ええええ⁉︎」
そして、ソラが何気に一番驚いていた。後退りまでしている。
「何故それを?」
ツェガンさんが訊く。
「実はこちらのラキエルは、聖獣ウェオルナ様の、義理の、ではありますが、ご子息なのです。」
「「「はぁぁぁぁ⁉︎」」」
三人ともめっちゃ驚くな……。