第十四話 プレゼント
初めての勝負から一週間、俺達は互いの隙を可能な限り埋めることを意識して鍛錬した。そのおかげで形も様になってきて、絶え間なく攻撃を喰らわせられるようになった。
そして今は
ギイィイィン
ソラとの訓練の最中だ。
「考えごとっ? 余裕ねっ!」
鎌が振り下ろされるが気にせず切り込む。問題なし。何故なら……。
「お喋りとは余裕ねっ!」
「うっ!」
死角からアウリエラが切り込んだ。
ソラの体勢が崩れた。
「ナイス。」
「そこまで!」
桜さんが試合を止める。
俺達は武器を収めた。
「ふぅぅ。ちょっとずつ勝てるようになってきたな。」
実は今の試合、俺達はラヴァーを使っていない。
通常の状態でもかなり良い動きができるようになったのだ。
「えぇ、でもまだ私の動きが固いわ。後ろ、右、後ろ、この流れから左行くか右行くか迷っちゃうのよね。思考がわかってると少しはマシだけれど。」
俺達はプチ反省会をその場で行うのがすっかり癖になっていた。
「俺もまだ足腰がダメだな。移動が遅いし、きつい。」
「ほっほ。そうじゃ。よく考えなさい。思考を途切れさせてはいかんぞ。」
師匠がそう言いながら歩いてきた。
「アウリエラ、あんたは考えてるからダメなんだよ。動きを体で覚えな。」
「は、はい!」
桜さんの指摘に返事をするアウリエラは、どこか嬉しそうだ。
「ソラ、どうじゃ。お前さんから見て二人は。」
「一週間前とは全く違うね。めっちゃ強くなってるよ。攻撃する暇が無くなってきた。これでラヴァー使ったら、絶対に勝てないよ。」
「ならどうする?」
師匠がソラの思考の回転を促している。
「無駄な動きをなくす。目標は最小限の回避と最短での攻撃…かな。」
「うむ、その調子じゃ。」
パンパン!
「ほら、さっさと休憩しな! 昼食べたらもっかいやるよ!」
桜さんが手を叩いた。
しばらくして、俺達は昼飯の準備に取り掛かった。
今日は皆んなで調理器具を持ってきたので、焚き火とかしてその場で料理を作る予定だ。
だが……
「っ! 誰じゃ!」
師匠の言葉と共に、その場の全員が一瞬で構えた。
一気に空気が張りつめる。
「安心しろ。僕には攻撃する意思はない。」
森の方から出てきたのは……
「「ゼルギア!」」
「なんだい、あんた達の知り合いかい? それにしちゃぁなんだか不気味だねぇ。」
師匠達は構えを解かない。
「アウリエラ、ラキエル。今日は君達にプレゼントを持ってきたんだ。」
ゼルギアが着ている黒いコートの中に手を入れると、師匠達が臨戦体勢になる。しかし気にせずコートの中から何かを取り出した。
「っ! それはっ。」
「アウリエラ、知ってるのかあれ。」
「うん。朧げだけど覚えてるわ。あれは、流星よ。」
俺は知識として知っているだけで、実際に見るのは初めてだ。
「り、流星って、あの触れたら発狂するやつ?」
ソラが慌てながら聞く。
「そうだよ、君の言う通りこれは流星だ。一番小さいけどね。」
確かにゼルギアが持つ緑色の流星は、片手で二つ持てる大きさだったが、その内から感じるマナの量は凄まじい。
「プレゼントって言ったって、触れた瞬間に狂人になって終わりだ。」
「安心しろ。お前達は問題ない。ほら。」
ゼルギアが俺とアウリエラに向かって流星を投げた。
「っ!」
まずいっ。俺もアウリエラも反射で取ってしまった。狂人になって……ない。
むしろ温かい。これは、流星のマナなのか?
アウリエラにも流星のマナが流れ込んでいく。
マナを全て流れ込むと、流星は色を失い割れてしまった。
「どう言う……こと?」
ソラが目を丸くしている。
「ほぅ。」
師匠達は何かに感心している感じだ。
「どうして。」
アウリエラの気持ちがすごいわかる。
「僕も詳しくは知らない。けど多分、小さい時に流星に触れた奴は、その力への耐性ができるんじゃないか。」
「何故それを私達に? あなたの的なのよ?」
「僕には僕の目的がある。そのために君達に強くなってもらう必要があるだけだ。」
「目的って?」
アウリエラがゼルギアを質問攻めする。
「そこまで答える義理はない。」
そう言うと、ゼルギアは森の奥へ消えてしまった。
師匠達はため息を吐き、武器から手を離した。
「なんだったんだい、全く。お前たち、ぼーっとしてないでさっさとお昼の準備するよ!」
俺達は準備を再開するが、いつものような楽しい雰囲気はなかった。
昼飯を食ったあと、もう一度ソラと、今度はラヴァーを使って戦闘訓練をした。
すると驚くことにマナの総量が上がっていたようで、それによって身体能力にも少しの上昇を感じた。原因は多分、流星だろう。
師匠達に後で聞いてみたが、持続時間を延ばせば身体能力の上昇度合いは低くなるらしい。逆も可能なんだとか。
つまり今回は後者だったと言うことだ。
どこまで時間を伸ばせるか、それとどこまで強化できるかはマナの総量に依存するとも言っていた。
訓練次第で調整できるようなので、これからはそこも稽古内容に加えてくれるらしい。
しかし、これはいよいよ流星集めに力を入れなければ、力はいくらあっても損はないからな。
それから五日ほどが経った時、いきなり師匠が
「ラキエル、お主、最初会った時に黒い棒を持ってなかったかのぅ?」
「あぁ、ちょっと待っててください。」
俺は部屋から久々に愛棒を持ってきた。
「これですか?」
師匠に愛棒を差し出す。
「ほっほ。そう、これじゃ。お主、これが何かわかっておるかの。」
「いいえ、俺もよくわからなくて。」
師匠は知っているんだろうか。
「そうか……。お主、これで武器を作るつもりはあるか?」
あれ、知らないのか? まぁ、今はそれより、
「ぶ、武器ですか?」
俺はすでに武器として使っていたのだが……。もしかして武器じゃないのか?
「何故という顔をしておるがのぅ……。お主これはまだ鉱石の状態じゃぞ。」
「え、鉱石?」
そんな綺麗な円柱の鉱石があってたまるか。いや、あるのか?
「で、作る気はあるのか? ないのか?」
「あります。そいつがまだ鉱石だって言うなら、俺はその先を見てみたいです。」
「あいわかった。打つのは刀でええかの?」
「え、師匠が作ってくれるんですか?」
というか、打てるのか、刀を。
「当然じゃ。弟子に選別の一つも用意できないようでは師匠失格よぉ。」
「あ、ありがとうございます!」
マジか。めっちゃ嬉しい。……ん? 選別?
「師匠それってつまり……」
「そうじゃ、お主らは気づいておらなんだが、十分にその域に達しておる。そこで一週間後、最終試験を行うことにした。意見は聞かん。それまでに仕上げておくのじゃよ。」
「……はい。」
師匠が決めたことだ。おそらく今頃はアウリエラも同じことを言われているだろう。
覚悟を決めなければ。