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God's Locus  作者: フリート
13/19

第十二話 ラヴァー

「どうやら、そっちも終わったようね、ラキエル?」

「あぁ。俺自身、正直ここまで強くなれるとは思ってなかった。」

 本当に驚いている。

「ふふ。強くなったのは、あなただけではなくてよ? 私の剣術を見て腰抜かさないようにね。」

 言ってくれるな。でも、そう言えるほどにアウリエラが上達したのは確かだろう。

 食事の時はそうでもないが、稽古の場でスイッチが入っている彼女は、纏う雰囲気が別格だ。

「はは。すでにちょっと驚いてるよ。」

「さぁ、始めるよ!」

 桜さんが手を叩きながら大きな声で言う。

「個々の形はある程度完成した。次は二人組での動きを覚えてもらう。まずそのために、二人の心を繋ぐ。」

 心を繋ぐ? 

「お師匠様、心を繋ぐ、とはどういうことですか? 」

 アウリエラも同じのようだ。

「これは見てもらった方が早いかのぉ。」

「はぁ、そうみたいだね。」

 俺とアウリエラは互いに見合って首を傾げる。

 すると師匠と桜さんが向き合い、両手を繋いでおでこをくっつける。

「はぁ、これは恥ずかしいから嫌いなんだけどね。」

「ほっほ。そうか? 儂は割と好きじゃよ。お前さんと繋がるのは。」

 師匠と桜さんの顔がちょっと赤い気がする。

 二人の体がほんのり光る。そして体内のマナがゆっくりと師匠から桜さんへ、そして桜さんから師匠へ流れ出した。

「きれい……。」

 確かにきれいだ。二人のマナが混ざり合って、段々と変化していく。やがて全てのマナが完全に一種類だけになり、二人の体に溶け込んでいった。

「どうじゃ。これが『ラヴァー』。互いのマナを混ぜ合わせ、思考や感覚、そしてマナを共有するものじゃ。身体能力も大幅に上がるぞい。」

 師匠と桜さんを同じ色の光がほんのりと包む。眼は蝋燭の火のようにゆらゆらと揺れるオーラを纏い、瞳に四葉のクローバーのようなマークが浮かんでいる。

「ら、ラヴァー……。すごいわ。」

「あぁ。とんでもない強さを感じる。」

「やり方は今見たはずだ。あんた達、ちょっとやってみな。」

 桜さんが唐突に言う。

 だが、不思議とできない気はしなかった。

 言われた通りに俺達は師匠達の真似をした。向かい合って両手を繋ぎ、額を合わせる。俺は自身のマナをゆっくりと、慎重にアウリエラへと流した。同時に、アウリエラからもマナが流れてきた。俺は流す速さと量を彼女に合わせる。

 とても心地が良い。まるでアウリエラに包まれているような感覚だ。

 やがて俺達のマナは一つになった。すると不思議と力が湧いてくるが、俺達の心には奢りや全能感はなく、ただただ安心感だけが広がっている。

 これがラヴァーか。

『これすごいわね。』

「っ!」

 俺は驚いてアウリエラの顔を見た。彼女はニコッとしている。

『刃一郎さんが言ってたでしょ、思考を共有するって。』

 まじか。

 念話とは違い、まるで俺の中から思考が生まれているような感覚だ。

「ねぇ、今私が何考えてるか、わかる?」

 アウリエラが今度は口で聞いてきた。

 なんだ? わからない。

「すまん、わから――」

『わからないのね。あ、ごめんなさい。思考が伝わるのって早いのね。なるほど、これ伝える思考を制限できるみたいよ。』

 なんだって。急いでやらなければ。だけど方法が――

『一回自分に向けて思考するよう意識しながら何か考えてみて。』

『こ、こんにちはぁ。』

 言われた通りに意識する。

『……いいわ。その調子よ。』

「なんとっ。」

 なんだか師匠が驚いている。

「まさかあんた達、実はもう、行くとこまで行って――」

「ませんっ!」

 桜さんの言葉にアウリエラが顔を赤くする。

「あの、なにかダメなところが?」

 俺は師匠達の驚きの原因が気になった。

「逆じゃ、逆。ダメなところなんて一つも見つからん。完璧じゃ。いや、あまりにも完璧すぎる。やはり、お主らの内に眠っとる力が原因かの。」

 眠ってる?

「あの! お師匠様達は何か知っているのですか?」

「いや、あたし達ぁ何も知らんよ。ただね、このラヴァーは二人のマナの性質、そして心の距離が近いほど、より強力になるという特徴を持つんだよ。」

 そんな特徴があるのか。

「何せ、マナを一つにするんだからね。質は同じ方がまとまりやすいし、道は短い方が混ざりが早いと言うわけさね。」

「質の話はわかりますけど、道が短いとはどう言うことですか?」

「お主らも聞いたことくらいあるじゃろうて。マナとは心、もっと厳密に言うと魂から作られる、とな。」

 つまり心の距離が近ければ、作られたマナの移動する道も短くなるということか。

「なるほど……。ありがとうごさいます。てことはやっぱり、流星の力が関係してるのか?」

 アウリエラに聞いてみた。

「えぇ、多分そうだと思う。」

 彼女は右手を顎に当てて、真剣な表情で悩んでいる。

「まぁ良い。とりあえずもう時間もないようじゃ。今日のところは基礎だけやって帰るとしようかの。」

 時間って……。そういえば、師匠達も俺達もラヴァーのマナがさっきより減ってる。

「ラヴァーのマナは強力だけどね、本来別のマナを混ぜ合わせてる分、不安定なのさ。おかげであたし達でも持って二十分しか維持できない上に、それが終わると、残ってるのはラヴァーの間に作られたちょっとのマナだけで、戦闘なんかできやしない。」

 つまり、供給されるマナに対して消費するマナが大き過ぎると言うことか。確かにこんなすごい力、代償がないわけないよな。

「と言う訳じゃ。話はここまでにして、早く稽古を始めるぞい。」

 俺達はまず基礎を教わった。例えば俺の場合、アウリエラの刀が横にある時は上下に動き、上にある場合は左右に動く。アウリエラも同様に、俺の横に刀がある時は横に切り、上にある時は切り下ろすと言った感じだ。

 途中でアウリエラの動きが最初とは別人だったことに気づき、驚きを隠せなかった。そんな俺を見て、彼女はすごく喜んでいた。

 形も確認しながら説明を受け、それが一通り終わったところでラヴァーが切れた。

 本当に体がだるくなった。体に鉛でも詰まってるのかってくらいだった。それも徐々に回復し、夕方になるとすっかりマナが戻って動けるようになったので、帰って夕飯にして、風呂に入って寝た。

 それからはラヴァーを使って、ひたすら二人で形を合わせる日々が一週間ほど続いた。

 おかげで大分形になってきたようだ。

 あと、ラヴァーを使わなくても、なんとなくアウリエラの動きがわかるようになってきた。

 その日の夕食の途中では、なんとソラさんが明日から稽古に参加すると言う話になった。

 そして意外、ではないがそれを一番喜んでいたのはアウリエラだった。

 彼女はソラとはすっかり仲良しらしい。互いをアウラ、ソラちゃんと呼び合っているほどだ。

 夕飯と風呂を終えてベッドに入り、明日はどんな稽古をするのだろうかと、そんなことを考えていると、気づいたら寝ていた。

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