小さな話の終わりに
白い希望に乗せて
走ったあの日を覚えている
泣いてしまいそうな傘の後を
ゆっくりと人混みを抜けて行く傘の後を
誰の目も気にせずに
追いかけていた
振り返った目は
少しだけ見開いていて
肩のずぶ濡れに
傘の影が重なって
「急いで、どうしたの?」
君は赤い頬を
膨らませながら言った
白い歯の先に
何か、言葉を乗せたくて
「やっぱり、行こうか」と
息を切らしながら
僕は言っていた
好きでもない人の好きを
大切にした日
何かを裏切ったような気分で
でも、悲しませたくなくて
作り上げた罪悪感と
正当な理由を
無理に回しながら
先の無い道を二人で歩いた
一つの傘の下で
優しさの罪は
知らない間に大きくなる
これ以上は進まない心は
形と形をズラしながら
忘れ物をしていく
平面上では問題無いのに
立体にしたら合わないパズルみたいだ
あの日から三カ月
一通り分かり始めた隣の歩き方
分かってしまった悲しさは
そんな中で笑顔になる一時と
引き換えじゃない
信じられるようになっていても
チグハグな部分だけが
目立っている
今あるテーブルの料理も
口に合うけれど
それだけだった
好きになれない人に好きを
手渡した日
何かを犠牲にしている訳じゃないが
でも、逃げ出したいと願う
作り上げた「いつも」と
ぼやけた「明日」を
無理に回しながら
先の無い時間を二人で過ごした
一つの屋根の下で
嫌われる理由が早いか
飽きられる理由が早いか
どっちが早かったかは忘れたけれど
少しづつ遠ざかる気持ちを感じた
離れている時間が多くなると
連絡の頻度も減っていった
それで良かったような気持ちになって
別れの言葉ばかり考えていた
半年経った頃に連絡が来て
「大切な話がある」と
彼女は電話で言った
彼女の家の近くにある
小さな喫茶店に行くと
二人で待っていた
浮気の謝罪と別れ話は
30分で終わり
喫茶店のベル音を鳴らして
家に帰った
何も受け取らずに
何も渡していない
それでも小さな話の終わりに
幸せを感じた