第1章 6
「さて、それじゃあお母さんが戻ってくるまで、お姉さんとゆっくりお話しでもしましょうか、トール君?」
や、やだなー。こんな小さい子供とお話なんて、な、なんの話かなー?
「ふふ、気付いてないとでも思った? お母さんとアリアが話してる間、あなたが一度も私と目を合わせなかったこと。私はずっとあなたを見ていたのに」
いや、怖すぎだろ!? なんで!? 俺も薄々気付いてたから目を合わせようとしなかったんだけど、ずっとこっちを見てたらそりゃ合わせようとせんわ。ずっとニコニコしてんだもん。顔は笑ってても中身は絶対笑ってなかったっての!
「まぁ、そんなことよりもよ。ねぇねぇ、トール君。あなた、シスターの髪が全員同じ色ってことを言ったそうだけど、本当?」
うわ、やっぱそれか! マジで拙くないかこの状況。でも、嘘つくのは一番良くないはず。でも、下手に声を出さずに動きだけで答えるか。肯定の意味で首を縦にふる。
「そう……。本当のことなのね……」
正直に答えたらアリアさんのように考え込んでしまった。……いや、なんかブツブツ聞こえるな? 何言ってるかほぼほぼ聞き取れんが。
「でも……本来なら…………だから……いやでも…………前例が……むしろ…………」
はっきりと聞こえたのはこれぐらいか? なんか拙そうなワードが出てそうだなぁ。頼む、母さん! 早く戻ってきてくれ!
「……じゃあ私の髪の色は何色?」
「……きんいろ」
「金色……。言い得て妙ね。普通の人は肌色とか黄色と言うけど、金色……か。珍しいわね。まぁ、特にこの子の目がおかしいわけでもない……か」
誰の目が腐ってるだって!? そんなこと一言も言われてないが!
そんなどうでもいいツッコミは置いといて。目がおかしいと言ったのは多分、色盲というやつだろう。色覚異常だったかな? まぁそういう相談があるんだろうな……。って脱線したな。てか、金髪って言葉自体もしかして無いのか。肌色髪ってダサいな。黄色髪もほぼほぼ聞かないけど。ってまた脱線した。
髪の色を聞いたってことは……もしかしてシスターの髪の色ってそれぞれ違うのか? どう見たって銀髪にしか見えんのだが。
「はぁ……どうしたものか……。言うべきか、言わないべきか……あぁ、悩ましい!」
……もう俺のことは放置でいいんじゃ無いですかね? 俺は何も悪くねぇ! なんちゃって。……いっそのこと、ちょっと聞いてみるか。ぶっちゃけ喋るよりも書いてみせたほうが楽かもしれん。所謂筆談。ただし一方的なやつ。ついでに頼んでみよう。
「かみ、ください」
「ん? 髪? ダメ。髪は人にあげるものじゃ無いの」
……なんかすごい勘違いしてるな。ジェスチャーしたほうがいいか。
「かみ、ください」
今度は四角い枠を両手で描くようにしながら伝えてみた。
「だから髪はダメだって……あぁ、かみってそっちね。まぁお母さんが帰ってくるまで暇よね。ちょっと待ってて、すぐ取ってくるから。」
よし伝わった。……ただ書く物を頼んで無いから紙だけ来たらまた言わなきゃな。隣の部屋、母さんがいるほうとは逆の部屋から少しガサゴソと聞こえる。綺麗な紙を探してるのかな? 別に書くだけなら裏側使えればいいんだけど。せっかく探してくれてるんだしそれを言うのは野暮か。っと帰ってきた。
「紙と一応ペンも持ってきたわ。はい、どうぞ」
「ありがと」
さて、紙を貰ったは良いが何を聞こう。直接的な表現は避けたほうがいいよなぁ。かといってオブラートに包めるほど語彙力は無いし……。ええい死なば諸共よ! 死んじゃダメだけど!
あぁ、でも幼い手で文字を書くのってマジで難しいな。次の練習するか? ……それは後でもいいか。とりあえず、聞きたいことを書こう。
あっ、そういえばこの世界の文字って何の偶然か全てローマ字なんだよね。今日外に出て、店の名前とかこの教会の名前を見た時は驚いた。だから伝えるだけなら簡単。伊達に前世でパソコン触っていない。本当にパソコン様様よ。ありがたや〜ありがたや〜。
「ん」
「ん? もう何か書いたのかしら。よく見せ……て?」
おぉ驚いとる驚いとる。そりゃそうだよな。3歳児が喋れるならまだしも、文字を書けるのは勉強させてない限りおかしい。それも単語とか一言二言だけならまだマシだが、しっかりと文章になっていたらそりゃもう驚きだ。
それはさておいて、何を書いたかというと――
・シスター達の髪が銀髪に見えることは何か変なことなのか。
・他の人にはどう見えているのか。
・そもそも貴方は誰なのか。
のここにきて生まれた3つの疑問と――
・この街にある、『巨大な扉』は何なのか。
・この街の名前はなんなのか。
の今日外に出て生まれた2つの疑問の計5つ。
最初の3つはとりあえず疑問に思ったから聞けたら聞く程度、後の2つに関してはこの世界で生きる以上、どうしても知りたい。母親から聞くのも有りといえば有りだが、どうせならもっと詳しそうなこの人に根掘り葉掘り聞いた方が良さそうだし。すんごい驚いた顔で俺の顔と書いた紙の間を何度も往復してる。ついでににんまりと笑ってみると――
「くっ……」
とこんな感じによくわからない声が出た。ついでに瞼と頬がピクっとしたことも付け加えておく。絶対内心でコイツって思ってるだろうな。口笛でも吹いてやろうかな。吹けないけど。
いや、吹けるかな? 前は吹けなかったから吹けないと思ってるけど、体が変わったわけだしワンチャンあるかも。
まぁこのタイミングで吹くほどの度胸はないんで吹くつもりはないけどね。まぁそんなことは置いといて。さてさて、相手はどう来るかな?