第1章 5
「こちらへどうぞ」
シスターさんことシスターアリアさんに連れてこられたのは教会の地下にある部屋だった。地下室があること自体驚きではあったけど、部屋の内装的には談話室なのかな? たぶん休憩とか昼食を食べる時に使うんだろうけど。西洋風というかなんというか、お洒落だ。
「どうぞお座りください」
「あ、ありがとうございます」
部屋にあった大きなソファに座る。うおっ、結構沈む。こんなソファ座ったことないわ。すげぇなぁ。自分たちが座ったソファとは反対側のソファにシスターアリアさんが座る。ん? 俺と母さんは沈んだのに、シスターアリア……面倒だしアリアさんでいいか。他の人はシスター呼びで、名前がわかった人はさん付けするけど。
それよりも、アリアさんは座っても沈んだ気配がしなかった。ソファの材質がこっちと違うとか? いや、見た目が同じだから中身も同じだろう。体重が非常に軽いとか? いやいや、3歳児の俺でさえ沈むレベルだ。それより軽かったらもはや人間ですらないだろう。うーん?
「お茶とお菓子をどうぞ」
うわっ!? なんだ急にシスターが現れた。クラウさん……じゃないな。髪型が違う。かといってさっき上にいたクラウさん以外の二人とも髪型が違う。まだシスターがいたのか。それにしても……
「おんなじ」
「!?」
え? 急に母さんがビックリしてんだけど。なんで? ……ってなんか退出しようとしていたシスターがなぜか止まった。こっちを見てる? ……アリアさんも顔が見えないけど気のせいか視線を感じる。
おんなじってシスター全員がなぜか同じ銀髪だってことを思わず言ってしまっただけなんだけど……なんか拙いの? 禁忌に触れちゃった? だって気になるじゃん。こんだけ立て続けに同じ色の髪の人が現れたんだから。そりゃ日本人は大抵が黒髪よ。たまに染めたり、あるいは日焼けして茶髪っぽくなる人もいたけど、日本では黒髪か茶髪が普通でそれ以外が異端? みたいな感じだった。それに対して、この世界の人は遺伝子どうなってんのっていうぐらい多種多様な髪色で外出してかなりビビった。だけど、ここのシスターは何故か全員が銀髪だった。シスターが髪を染めるわけがないと勝手な偏見はあるが、髪色が違うだけで強制的に染めろなんてことはないだろう。ってことは、恐らく全員が生まれつき銀髪だということだ。やっぱり全員姉妹とか? それとも、生まれ持った血筋でシスターになるとか? よくわからんなぁ。
「ご、ごめんなさい。うちのトールが……」
えぇ……。なんか怒られたんだけど。しょうがないじゃん。気になっちゃったんだし。
「いえいえ、大丈夫ですよ。ですが、そうですね……『おんなじ』とはどこのことを言ってますか?」
おっと、質問された。でもまぁ偽らなくてもいいよな?
「かみ。みんな、おんなじ」
「なるほど……」
正直に答えたらなんか考え込んじゃった。さっきまでいたお茶を運んできたシスターは既にいなくなっていた。母さんは……なんかすんごい形相でこっちを見てる。某誇張しすぎた変顔みたいに。
アリアさんが考え込んでから、おおよそ10分ぐらいはたっただろう。変顔していた母さんは頭を抱えている。やっぱり、俺なんか拙いこと言ったのかな?
「……そうですね。少しお待ちください」
お、考えがまとまったのか席を外した。もしや、誰かを呼びに行ったのか? それこそシスター全員とか。……うわぁ怖え。あなたは禁忌に触れましたとか? ……謝ったら許されるかな? いや、教会だから懺悔か。許されなさそう……うわ、マジでどうしよ。
そんなこんなで、またしばらく待っているとシスターさんが帰ってきたのか足音が聞こえてきた。……どないしよ。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
誰ぇ……。えっ、マジでこの女の人誰? アリアさんは……あぁ後ろにいたのね。見えなかった。でも、なんか謎の女性とアリアさんじゃ、アリアさんの方が下っ端のように見えるけど……。
「今回、私に相談があるとのことでしたが、この方も同席させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「えっ、あぁ……大丈夫ですが……」
これは母さんも同じこと思ってそうだな?
「あぁ、失礼しました。この方は……アリサ様と申します。教会においては私たちシスターよりも上の立場になります」
「初めまして、お二方。改めまして、アリサと申します。今回はアリアに話があるとのことでしたが私も何か役に立てるかも知れないとのことで同席させていただきました」
名前ややこしいな……。間違えそう。閑話休題。
アリアさんがこの人を紹介する時にあった変な間はなんだ? 明らかに即興で考えた感があったけど……本名明かしちゃダメとかなのかな? まぁ、深掘りはしないけど。それよりも、この人はシスターみたいに銀髪じゃないんだな。まぁシスターよりも上の立場だからってのもあるかもしれないけど。これまた綺麗な金髪だ。それもアニメでよくあるバナナとかレモンみたいな真っ黄色じゃなくて……こういうのなんていうんだっけな? ブロンドカラーっていうんだっけ? しかも多分地毛だな。他の色から染めたっていう感じがしない。ちゃんとしたブロンドヘア。うーん、よき。
……ただ、なんでかジロジロ見られてるな。シスターみたいに顔は隠さなくていいのか。まぁ。パッと見た感じ20代から30代前半かな? とても美人。モデルさんみたい? まぁ、日本にいた頃はあまりモデルさんとかテレビで見なかったからよくわからないけど、綺麗……だと思う。
「それで、相談とはどういった内容でしょうか?」
「あ、えっと、この子の魔力とその強度を計りたいのですが、私が持っていた道具が壊れてしまって……。どこかで買うにも古いものがほとんどですし、借りるにしても簡単に借りれる場所が思いつかなくて……それに使うならいっそ最新の物のほうが正確なので、シスターさんに相談すれば何か手段があるような気がして……」
「なるほど。事情は理解しました。確かに魔力計と魔法計はこの教会にあります。使用していただくことも可能です。ですが、実はそれらも少々古くてご希望には添えない形となります。申し訳ありません」
そっか。まぁしょうがないっちゃしょうがないが。俺としては別に使えるのなら古くてもいいんだけどね。それを伝えられるほど、滑舌も良くないし。母さんの判断に任せるか。
「……そうですか。なら——」
「じゃあウチのも新しい物に替えましょうか。あれも、きちんと手入れしてるから長持ちしてるけど、本来なら既に壊れててもおかしくないわ。それに、タイミングとしては丁度いいんじゃない? こうやって言って貰えてるんだし」
「あ、いえ、別にそういうつもりで言ったわけじゃ——」
「大丈夫大丈夫。任せなさいって。で、どう? 新しいのに替えない?」
母さんは古いのでもいいって言おうとしたんだろうなぁ……。それをアリサさんはまさかの買い替える方向でアリアさんに意見をゴリ押そうとしてる。……パワハラかな?
「……そうですね。買い替えましょう。確かに、今使っているアレは長い間使っているのでいつガタが来てもおかしくありません。買い替えるための資金も特に問題ありませんし。タイミングとしてもいいのかもしれませんね。」
「でしょう?」
「はい。では買い替えるということで、一番最初に使っていただくということでよろしいですか?」
「えっ、あっ、はい! ありがとうございます!」
俺もしっかり頭を下げる。何事もお礼を言うのは大事ってね。高校の先生が言ってた。これで円満解決かな?
「うんうん。これで一件落着ね。新しく買うものに関しては、私が直接行くから何を買うかとそれの資金を用意しておいてくれる?」
「かしこまりました。では、ルーシアさん。隣の部屋へ」
「はい。わかりました。」
ふぅ、あとは母さんとアリアさんの細かな話し合いで終わりかな? 俺は特に何もしてないけど、お腹減ってきた。今日の夕ご飯何かなぁ……。
「さて、それじゃあお母さんが戻ってくるまで、お姉さんとゆっくりお話しでもしましょうか、トール君?」
な、なんの話かなー?