第1章 3
異世界転生したという衝撃的な事実を知ってからかれこれ3年が経った。3年の間何もなかったのかって? そりゃ、異世界だし何か面白いことないかなとは思ったけど、生まれて間もない体を自由に動かせるほど成長してないし、なんならずっと母親にだっこされていたから何かやろうにも母親からは逃げられなかったからな。母親の愛情というものを強く感じられたからちょっと嬉しかったけど。
閑話休題。3歳児になったわけだが、何かやれるかと言われてもそう変わらない。とはいえ、乳離れして常にあった親の監視が減ったから少しづつできることを増やしていこうとは考えているが……何からやろうかなぁ……?
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「そろそろお昼ご飯の時間ね。トールを連れてこないと。トーラスはいつも通り外でトレーニングかしら? まぁ、とりあえず先にトールね」
さてさて、今日のご飯は何にしましょうか。お昼だし・・・卵でも焼きましょうか。
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お昼ご飯。赤ちゃんとして産まれて今まで離乳食やら柔らかめのご飯を食べてきたが、異世界の食文化も捨てたもんじゃないな。いや、まぁ地球にある洋食に近いものがほとんどだったからかもしれないし、母さんの料理スキルが高いおかげかもしれない。子供の好き嫌いは母親の料理の腕次第というのも聞くしな。何が言いたいのかって? 母さんの料理が美味しいってことだよ。
閑話休題。今俺は、母さんに抱っこされながら移動している。3歳になって独り立ちができるようになったものの、椅子には流石に座れないので抱っこしてもらってる。そういや、前の体で抱っこしてもらった記憶があまり無いなぁ、まぁ小さい頃の記憶だから忘れてるだけかもしれないが。
「はい、到着っと。お昼ご飯はもう少し待っててね。お父さん呼んでくるから」
「あい」
うーん、まだしっかりと喋れないのが難点だな。3歳児ってもう普通に喋れる年齢なのかな? ちゃんと喋れるようにこれから発声練習しようかな。特に真新しいこともなさそうだし……って親父を呼びにいった母さんが帰ってきた。え? なんで母親は母さんと呼ぶのに、父親は親父と呼ぶのかって? ……母さんは柔らかい。でも親父は硬いんだ。いろいろと。
「全く何やったのよもう。全身泥だらけに怪我までしちゃって全く」
「いやぁ、すまんすまん。トレーニングしてたら、ちょっといい感じの技を思いついちゃってな。いざやってみたら……まぁこの通りってな? って痛い痛い!」
「この通り……じゃ無いわよバカ。塩ぶっかけるわよ。……とりあえず、怪我治すから服を脱いで体を洗ってきなさい。あなたのご飯はそれからよ」
「わ、わかった。……ほんとにすまん」
喧嘩しているように見えるかもしれないが普通にイチャラブしてるだけです。てか泥だらけになるトレーニングって何? 泥の上でやってたの? 腕立て伏せとかスクワットとか? えっバカなの? だから親父って呼ぶんだよ? 何を思いついたか知らないけど、怪我するってマジで何したんだよ。治療する側も考えろよ全く。傷口洗って消毒してガーゼか包帯……ってそういや異世界だからそんな治療法も確立してない……のかな? この世界の医学レベルってどれくらいなんだろうか……って、親父が戻ってきた。
「水で軽く洗ってきたが傷口に滲みていってぇ……」
「当たり前でしょ、全く……。はい、そこに座って傷口をしっかり見せて治してあげるから」
「あいよ。これで見えるか?」
「十分。じっとしててね。」
親父の傷口の辺りにじんわりと光のようなものが出ていた。その光はじわじわと傷口にいって……傷口が少しずつ塞がっている!? まさか魔法!? 魔法だ! そうに違いない! すげぇ! やっぱこれぞファンタジーよ! おぉ……久しぶりに興奮したせいか急に落ち着いてきた。そんなことより、母さんの魔法をよく見とこう。何かきっかけが得られるかもしれない。じーっ……。
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魔法でトーラスの怪我を治癒していく。もう、一体を何したらこんな怪我をするのかしら。怪我をした姿を見る側になってみなさい。心配で寿命が縮まるわ。もう……。
「『精霊よ、此の者を癒したまえ、≪ヒアル≫』」
そう唱えると同時にトーラスの傷口周辺がほんのりと光る。本来なら手から光が出るのが当たり前なんだけど……まぁ私は違うのよね。とりあえず、完治まであと数分といったところかしら?
「いやぁ、やっぱりルーシアの魔法はよく効くなぁ。これで何度救われたことか……」
「大袈裟ね。まぁ確かに他の人よりかは早いみたいだけど、治せるのはせめて軽傷ぐらいよ。さすがに千切れかけたり抉れたりしてたらもう私には無理よ」
「いやいや、それでもだよ。最近、あっちのほうでトラブルがあったらしくてな。なんか重い病気になったらしい」
「なにそれ、大丈夫なの? その場所についてもそうだけど、病気になった人。重い病気とは言うけど、それは死にそうってこと?」
「いや、正直わからん。が、命は取り留めたらしい。丁度、治癒師が近くに居たらしくてな。死に至らしめる毒を吸ってしまったらしいが、それに関しては治ったらしい。だが、完全には治ってないらしくてな。どうやら身体中がパンパンに膨れ上がって身動きも取れないそうだ。そいつの仲間の話によると、近くにあった毒沼からでた毒気の影響だろうって」
「そっか、なんとか命は取り留めたのね。それにしても、そんな場所もあるのね……。そういえば、その仲間の人は病気にならなかったの? 近くにあったと言ったんだからその人も一緒にいたんだろうけど」
「その仲間については運が良かったとさ。その本人の話によると、荷物の中に解毒の薬があったらしい。本人も慌てていて、何を飲んだかよく分かってないらしいがな。おかげで手足が一部腫れるぐらいで済んだんだと。最悪、一歩間違えていたらまた違う毒にもなってた可能性があったらしいがな? ほんと運が良かったというかなんというか。俺も運が悪かったらもっと大怪我になってたってか? ハッハッハッハッ! ……っていてぇ!」
「バカ言ってるんじゃないわよ。全く……あとちょっとなんだからジッとしてて。私もお腹が空いてきたんだから」
「悪い悪い……。いやぁ、ごめんなトール。もう少しでお母さんがご飯作ってくれるからな」
トールが若干冷めたような目でいつも見てることに気づいてないのかしら。気づいてなさそうね。まだまだ幼いのにもう既に飽きられてるのよ、トーラス。ちょっとはかっこいい姿を見せられたらいいんだけど……まぁ難しいわね。それよりも本当にお腹が空いてきたわ。お腹が鳴ってないだけ奇跡ね。トールもお腹を空かせて……ん? さっきからトールがずっとこっちを見てることには気づいてたけど、私じゃなくてトーラスの怪我……いや、私の手を見てる? ……あっ、そういえばトールに魔法をちゃんと見せたこと一回もなかった。興味あるのかしら? まぁそれは後ね。とりあえず、さっさと料理作らないと。私の方が限界よ。
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ふむふむ……。うん、何もわからん。魔法を使ってるってことは、たぶん使うための魔力とかあるんだろうけど……母さんに聞いたら教えてもらえるかな? 危険だからダメって言われたら終わりなんだけど。まぁそこは当たって砕けろってやつよ。砕けて死ぬんじゃあるまいしな。……てかお腹減ったなぁ。