第1章 2
……今どうなってる? 周りは真っ暗で自分の手足すら見えん。手足あるのかこれ。……手を握る感覚は一応あるからあるんだろう、きっと。うん、そう思っとこう。てかここどこよ。車に衝突した瞬間までは覚えてるけど、病院なら白いイメージだし……もしかして死んだか。てことはここはあの世か。えっ、何。死んだら天国か地獄とかじゃなくてこんな真っ暗なところなの!? 何もないじゃん!? まだおどろおどろしい血の池みたいなものがあったほうがまだマシだわ。マジで何もねぇ! ……とりあえず動いてみるか。もしかしたら何かあるかもしれないし。
そう思い動こうとするが、あることに気づいた。
あれ、足が思ってた以上に動かない。もう一度……ダメだ。微かに動いてる気配はするが、微々たるものだ。まるで筋肉の使い方を忘れたみたいな感じで気持ち悪い。手はさっき動かせたのに……あれ、手も動かせなくなってる。これは不味い。クソ、ここから動こうと思ってたのに。あぁ、いつの間にか睡魔も襲ってきた。……動けないならいっそ寝るか。おやすみ、俺。
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「おんぎゃああああああ! おんぎゃあああああ!」
誰だ! 赤ちゃん泣かしたの……って眩しっ! 目が痛ぇ! なんだこれ、さっきまで真っ暗なところだったから目が慣れてないのか。周囲の確認もしたいのに眩しすぎて目が開けられん。
「おんぎゃああああああ! おんぎゃあああああ!」
「あぁ、お腹が空いたのね。よしよし、ちょっと待っててね」
いや待て。目が開かなくても手探りで周囲の確認はできるじゃん。さっきは全然動かなかったけど、今度は……動く! 動くぞ! 周囲の確認を……ん? 俺の腕短くね? んー……んー? やっぱり短いな。感覚の話でしかないけど、なんか短くなってる。まぁいいや、とにかく周りに何かないか……おっ、なんか柔らかいのに当たった! ……なんだこれ、なんか触れたことがあるような?
「あらあら、そんなにお腹が空いてるのね。はい、ゆっくりとね」
そう女性が何か言った後、口に何か入ってきた。なんか吸って……甘いな。うん、甘い。甘い? ……ん? 妙に柔らかくて、吸うことが出来て、甘みがあるもの。……もしや?
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「あら? どうしたの?」
さっきまであんなに泣いていたからてっきりお腹が空いたと思ったんだけど……違ったのかしら? でも、最後に母乳を飲んだのは……1、2時間前だからそろそろよね。もうお腹がいっぱいなんてことはないだろうし、まさか小食? ……なんてことはないわね。いつも、いっぱい飲むんだから。うーん、本当にどうしたのかしら。臭いは……しないから漏らしたわけではないのね。疲れて眠ってる? わけでもないのね。うーん。子どもを育てるって難しいわね。シスターに相談しようかしら?
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考えてたらお腹が空いてきた。んー、甘い。ってそんなことより、もしかして俺幼児退行してる? 精神的な意味じゃなくて身体的な意味で。某探偵みたいに薬を飲まされて体が縮む的な。いやでも俺って多分死んだよな。……いやいや、ラノベみたいなことが現実に起こるとか流石に夢見すぎ。あるわけ無い無い。……そろそろお腹も膨れて眠くなってきたし、眠るか。
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ラノベみたいなことが実際にあるわけ無いと何度も思い続けてきたけど……本当にあるんだなぁ……。だって、目が少し見えるようになって最初に見た人がまさかの銀髪。それもウィッグみたいな作り物じゃなく、本物の髪。軽く引っ張ったら怒られた。格好もゲームによくあるシスター服で超絶美人。思わず綺麗だなんて思ってしまった。いやいや、もしかしたらこの人だけ異世界の人っぽく見えるだけかも知れんと思って自分の母親だと思われる人を見たけど、ちゃんと異世界だわ。髪は茶髪だったけど、目は真っ青。それはもうサファイアみたいに綺麗な青い目をしていた。本物のサファイアなんて実際に見たことないけど。
とにかく、何を言いたいのかというと俺、異世界で転生しちゃったみたい。え? お前何言ってんのって? こっちが言いたいわ、畜生! だって仕方ないじゃん、車で事故ったと思ったらなんか真っ暗な場所にいるわ、そこから眠ってまた起きたら今度は赤ちゃんになってるわ。しかも、目の前には地毛が銀髪で格好がゲームに出てくるようなシスターがいるわ、母親の目はこれまたカラコンでは出せないような青い目だわ。もう俺の頭の中しっちゃかめっちゃかだわ。……これからどうしようかなぁ。異世界なら魔法とかあるかなぁ。……使ってみたいなぁ。……なんかまた眠くなってきたなぁ。ZZZZzzzz……。
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「眠りましたね」
「眠ってしまいましたね。さっきまであんなに元気だったのに」
「赤ちゃんとは、そういうものです。よく食べてよく寝る。健康な証です。」
「なるほど」
確かに、そうかも。
「あっ、それよりもさっきはごめんなさい。この子が急に髪を引っ張ったりして……普段はこんなことしないんですけど」
「いえいえ、それこそ元気な証拠です。子どもは、見るもの全てが未知ですからなんでも触れたり口に入れたくなるものです。それに、恐らくですが私の髪はルーシア様とは違いますから、そういった理由もあるかもしれませんね」
「……なるほど」
確かに、ここにきてから銀髪の人は見ないかも。銀髪の人は……シスターの人たちぐらいかな? そういえば、シスターたちのほとんどが銀髪だけど……どうしてだろう? ……まぁ、どうでもいいわね。こんなに親身になってくれるんだから、疑う方が失礼。この子が元気に産まれてきてくれただけでも幸せなんだから。