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マリッジブルー編

皆さん!!!!お久しぶりです!!!!欲求不満のメアリーです!!!!きこえてますかぁ!!??私には皆さんの声が聞こえてません!!!!失礼しました、早く続き読みたいですよね!?それでは、後書きでまたお会いしましょう!!!!


 

 このイカ人間もとい、推定第七魔王と戦い始めてどれぐらい時間が経ったのだろうか。かれこれ1年2か月ぐらい戦い続けている気もするし、まだ5分ぐらいしか経っていない気もする。


 相手の殺意の高い魔体術に最初は戸惑った。攻撃をブロックした箇所から最短距離で俺の脳を目がけて魔力が送られてきた。それが脳に到達すれば俺の生は終わる。そうなる前に体内で強引に相手の魔力を爆破させ、すぐさま爆破箇所を治癒する、という少々荒っぽい方法で俺は死を回避した。


 一方でこちら側の攻撃は完全に相殺された。ヤツの顔を殴ればその部位が赤褐色に変化し、すぐに元の白色に戻った。もちろん光の腕による打撃だ。最初の攻防でわかったことは、目の前の神格が俺よりもちょっと強いという事実だった。


「……まぁいいさ。どんな相手にも弱点は必ずある」


 例えば我が最愛の弟ユリエルが封じた、名前すら存在しない魔界の邪神。破壊と殺戮に特化したおぞましい神格だったが、アレもアレで割と致命的な弱点があった。


 正直いえば、目の前のイカ魔王をぶち殺す方法や消し去る方法はいくつかある。だが、今は使えない。どうしよう……そういえば、引き寄せ魔法というものがあったな。文字通り、物体を手元に引き寄せる魔法だ。そして第五魔王理論というものもあったね。小難しい話は割愛させてもらうが魔力が強い者が使う魔法はより強力になる、という理論。今回はこの組み合わせを実践してみようか。


 前から気になっていたことがある。それはどうやら世界には『コトダマ』と呼ばれる最強の魔法が存在するらしい、ということ。要は、それに近い事をやってのければいいってことだ。俺ぐらいの天才になれば魔法で引き寄せることができるものは物体だけにあらず。


「……悪いがどんな手を使ってでも、お前の魔力はいただくぞ」


 照準は一番柔らかそうなヤツのみぞおち。確実に当てるには……。反射されるとわけがわからなくなるから、魔法陣とかでいいかな。こういう古風な相手にはそういうのがよく効く。同じ古代魔法に分類されるユリエルの必殺技も反射されなかったし。えーと、引き寄せでヤツの弱点か何かが来るから、魔法陣で一時的に動きを止めて、そこで決めよう。


 よし、やることは引き寄せ魔法と魔法陣を描くことだな。人類のスピードを越えた魔体術を避けながらだけど。……もしかして、割と忙しくね?俺、戦闘自体すげー久しぶりなんだけど……。





 湖は何事もなかったかのように水位を取り戻した。超越した者同士の湖底での戦いの跡は完全に沈んでしまい、辺りは冬の夜の静けさが包んでいた。


 兄はモーゼ以来の大魔法に加えて巨大な魔法障壁も張っていた。その障壁は戦闘による二次被害が集落方面に及ばないようにするためと……おそらく戦闘自体を母に察知させないためのものだと思われる。


 障壁はちょうど湖の中心あたりから東西へと、今も果てしなく続いている。集落側から見たこちら側の様子は、普段の光景と何も変わらなく見えているはずだ。そもそも、この土地全体が強力な結界で守られているのにもかかわらず、その中にさらに同じ結界魔法に分類される魔法障壁を張るという行為を実現させることが出来るのは、果たしてこの地球上に何人いることか。桁違いの魔力と圧倒的なパワー、そして恐ろしく繊細な技術を持ち合わせた我が兄レオナルド。時代が時代なら人々から魔王と呼ばれていたかもしれない。


 湖面に映し出されたゲートを見つめながら、私は改めて兄の偉大さに酔いしれた。空を見上げると、ぼんやり光る欠けた月と禍々しく渦巻くゲートがそこにあった。それらを交互に見やり、私は兄の言葉を反芻する。


『命令だ。お前はここでしっかり見張りをしなさい。えーと、アレだよ、なんだ……ほら、万が一に備えて。あのゲートに何も知らない純白の乙女とかが入らないようにするんだ』


 現実には起こりえないことを例に挙げ、兄は単身ゲートへと突入していった。私に突きつけられたのは、兄にわかりやすくお荷物扱いされたという事実だけだった。体が動かないわけではない。単純に魔力の絶対量が足りなかった。


 私の体は呪いに蝕まれていた。それについては現在治療中であり、確実に快復に向かってはいる。日常生活を送るうえでは何ら支障はない。最高速でなければ空も飛べる。一年もすればこの問題は解決すると古代竜にはいわれている。


 とはいえ、万全の状態だったら神格クラスの怪物を相手にできるか、と問われればそれはまた別問題でもある。あの巨大な軟体怪物は炎の雷をくらっても平然としていた。それどころか、超回復による転生に近い変異を遂げ、さらには兄の腕を喰らったことで邪悪な力をさらに増大させていた。


 あの姿に太刀打ちできる術は……私が変身したとしてもおそらく容易くはないだろう。しかし……もし、変身できるのが兄だったならば。すでに一騎当千の力を持つ兄が、もしも私と同等かそれ以上の変身術を使うことができるのならば……。


 この戦いにおいての兄の狙いはおそらくそこにある。これから兄が何をするつもりなのか具体的にはわからないが、兄の言動からそれに近しい力を欲していることを察することができた。条件はほとんど揃っている。あとはあの怪物と自身の魂を融合させるだけ……。


「……終わったの?」


 背後から声をかけられた。振り返るとそこにいたのは敵意のない怯えた精霊だった。


「……まだ、もう少しかかりそうだよ……ミラ」


 私は空へと視線を戻し、背を向けたまま水の精霊ウンディーネのことを十数年ぶりに名前で呼んだ。ミラがはっと息を呑んだのがわかった。


「……そう。あの子に会えたのね」

「うん……。ミラ、あの怪物について何か知っていることはあるかい?」

「いいえ。私たちはアレよりもずっと後にここに来たから」

「……そうか」


 なぜあんな強力な怪物がここに棲んでいたのか。なぜ子供の頃の私たちはアレに手を出して殺されずに済んだのか。二つの疑問は解消しなかった。


 可能性があるとすれば……遥か昔にこの地で討伐されたとされる第七魔王の存在だ。それが転生に近い何かをした、ということだろうか。第七魔王についての文献を一度だけだが読んだことがある。人間とは全く違う容姿、その姿を例えるならまるで違う世界からやってきた軟体生物、この世の法則から大きく外れた暗黒の力と猛毒を使用、光の剣で討伐される……記憶が断片的に引き出される。


「本当にもう……。またそんなに考えて。ここは寒いでしょう。家でお茶でも飲んでいったらどう?」

「いや、大丈夫。兄さんが帰ってくるまでここにいなきゃ」

「ふふふ……おかえりなさい、ユリエル」


 後ろからミラに優しく抱きしめられた私はひどく懐かしい気分に駆られた。目の前に浮かんできたのは少年期のとある日の情景だった。





「おま……えぇ!?お前……えぇ!?」


 兄は私と炎の雷が落ちた場所を交互に見て反応に困っていた。おそらくこの時、兄は対象を燃やし尽くすまで消えない炎の処理をどうするか考えていたに違いない。


 まだ幼く愚かだった私は自分が繰り出した魔法の性質までを理解していなかった。その場で兄に説明されてからやっと事の重大さに気が付いたのだが、時すでに遅し。試し打ちした場所は母の手入れしていた小さな植物園のすぐ近くであり、着弾した対象は一本の枯れ木だった。


 完全に枯れきって水分を失っていたその木は予想以上に燃え盛った。もしこの炎が母の大切にしている植物に燃え移ったりでもしたら……そう考えた私は限りなく近い暗黒の未来に、ただ絶望するばかりだった。


「だーいじょぶだって、ユリエル。お兄ちゃんが何とかするから」


 母のお仕置きに怯える私に、兄は微笑みながら親指を立てた。結局は、なんともならなくて二人で大目玉を食らってしまったわけだが。



「ユリエル、間違ってもあれはくだらないケンカとかで使うなよ?相手が人間以外で、どうしても使わざるを得ないような状況の時だけなら使ってオッケー。お兄ちゃんとの約束、守れるか?」


 当時、家の地下には魔封牢があった。その牢は中に入ると魔法が使えないように細工されていて、我々のお仕置きの定番スポットになっていた。牢屋に入れられるだけの私の扱いはまだ良かったのだが、酷いのは兄への仕打ちだった。


 まず服をはぎ取られ、ほとんど裸同然の状態にされる。そこからさらに逆さ吊りにされ、ある特殊な鎖で体中をグルグル巻きにされながら壁に括りつけられるという、今考えると少々やり過ぎなのではないかと思うほどの手厚い処罰が母の手によってなされていた。


 その時は完全にとばっちりでそんな状態になっていたにもかかわらず、兄は私のことを責めなかった。それどころか、炎の雷の正しい使い所を指南してくれたのだ。こういう場面を目の当たりにし続けて育った私にとって、いつしか兄は強い男の象徴となっていった。


 そこだけでいえば私の目に狂いはなく、家を出て大学を出て社会に出ても、兄ほどのパワーとタフネスさを備える魔法使いなど当人以外に存在しえなかった。


 弱々しい蝋燭の火以外にほとんど明かりのない牢屋はこの世で一番不気味な場所に思えた。しかしこんなに強い男と共にいたからこそ、少年の私は恐怖に耐えられた。牢に入れられる直前に受けた母の叱責によって失った落ち着きを取り戻していた私は兄に謝罪をした。しかし兄はそれを受け入れなかった。


「いや、それは違う。ユリエル、お前はすごい魔法を覚えたんだ。もっと胸を張りなさい。あぁ、腹減ったぁ……いつかお兄ちゃんが金持ちになったらさぁ、好きなもんいっぱい食わしてやるからな。何がいいかなぁ……肉とかがいいかなぁ……肉をこう、焼いて……肉で巻いて食う、みたいな……。やっぱ肉だね。肉が食いたい。大人になったら俺は肉しか食わない」


 成長期の私たちはいつでもお腹を空かせていた。当時のアレキサンダー家は貧しかったとはいえ、充分に食べさせてもらってはいた。それでも母の野菜料理だけではほんの少しだけ物足りなかったのだ。


「じゃあ、じいちゃんか父さんが助けにくるまでチェスでもやろうぜ。あぁ、でも駒も何もないか。手も足も出ない。魔法も使えない。まいったね……そうだ、じゃあお兄ちゃんが面白い話でもしてやろう。お前が出したあの魔法は炎の雷といってだな……」


 こうして私は兄の無償の愛を一身に受け、また一つ新しい事を覚える。たとえその身は獄中であっても心はキラキラと、ときめいていた……。





 思い返せば兄はいつでも私の身を第一に案じていた。私の呪いにしてもそうだ。世界一の賞金稼ぎという自らの道を退いてまで私の身に降りかかる呪いを解消しようとしてくれた。


 そしてそれはついに叶った。なのに、今の自分には兄の力になることができない。感情の昂ぶりを覚えた。恩だけを受け続け、ここ一番で恩返しのできない自分がただ情けなかった。


 それでもせめて、せめて地上最強で最高で最愛の兄に命じられたことぐらいは全うしてみせようじゃないか。


「……ん?」


 近場の茂みが揺れ動く。魔法生物か精霊の潜む音と気配だ。が、人の気配もする。それらには敵意が無いこともわかった。


「あら?」


 自分の分析が正しかったことを、ミラの声色で確信する。茂みの音がカサカサと大きくなり、すぐに止んだ。そこに潜んでいた者たちが姿を現したからだった。


「……ダニエラ裁判長」

「ど、どうして……君たちは……や、やはり、君たちは……ふ、ふ、普通じゃない!!」


 茂みの中から現れたのは取り乱した様子を隠しきれていないダニエラ元裁判長と、おそらく彼女をここまで運んできた大きな赤毛の山犬だった。


「……ミラ、私の代わりに彼女に何か温かい飲み物を」


 どういう不運があったのかまでは定かではないが、おそらく彼女はその眼で見てしまったのだろう。おぞましい神格の姿を。


 神格は見ただけで精神に大きな作用を及ぼす。その作用には大きな個人差があり、私は激情タイプに分類されている。神格と対峙してもなんとか戦闘が可能とされるタイプだ。湖底での戦いぶりからして、おそらく兄も同じタイプだ。ダニエラ元裁判長は現在の様子から察して適正なしだろう。ほとんどの魔法使いが分類されるタイプで、発狂に近しい反応をするものもいる。そのため神格と戦闘をすることは非常に厳しいとされるタイプだ。


「す、すまない……いや……私は……」


 ミラは静かにダニエラの手を取り家内へと誘った。二人が家の中に入ったことを確認し、私は近くまで寄ってきた山犬の頭を撫でた。


「久しぶり。どこへ行ってたんだ?」


 この山犬の正体は炎の精霊サラマンダー。状況に応じてその姿を自在に変えることができる。幼いころから兄に良く懐いていた。


「……そうか。よくやった。お前も家の中へお入り」


 サラマンダーの頭の中から今までの境遇をなんとなく読み取った私は、自らへの精神攻撃を耐えながらも一人の魔女を守り通した彼を褒めたたえた。私の脇腹あたりを甘噛みした後、彼もミラの家へと入っていった。


「……ん?」


 今度は高台の方からガサガサと野暮な音が聞こえた。先ほどの近場の茂みからの音とはまるで別種類の、なんとも間抜けというか、品がないというか、どこか落ち着くような気配がした。白い影が高台から空へと飛び出した。


「あわわわわーー!!あれぇぇ??なんで止まらないのぉぉぉぉ!?ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉ!!??う゛ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!????」


 白い影から発せられた可愛らしい鼻声は、あっという間に地獄の底からの呻き声へと色を変えた。


「……嘘だ」


 私は願うようにつぶやいた。白い影は流星のような速さで空を駆け抜ける。動転して処理が追い付かない脳をなんとか制御し目を凝らす。すると、純白の衣装に身を包んだ乙女が白馬のような生物の首にしがみつきながら咆哮をあげ、ゲートへと飛び込んでいった。


「メアリー!?」


 見間違いではない。最悪だ。純白の衣装に身を包んだ乙女はメアリーだった。私は一目散に空へと駆け上がり彼女を追いかけた。





 なんでなんでなんで??どうしてこうなってしまったのでしょうか。もはや私にもわかりません。私にもわからないということは誰にもわかりません。あ……皆さま、お久しぶりです。大魔導士の婚約者メアリー・クラインです。じきにメアリー・アレキサンダーとなりますので、独身時代の私にもう少しだけお付き合いください。


 私は今、伝説の白馬ユニコーンにまたが……ってないですね。ユニコーンの首にしがみついて、真っ暗闇の空間を疾走しております。さすが私です。高校時代の箒レース部で鍛えた自慢のインナーマッスルでなんとか振り落とされずに耐えております。いや、待ってください。最初の方で振り落とされていれば、こんな目に遭っていないのでは?


 あぁ……遠ーくの方にお花畑のような景色が広がっているらしいことが、うっすらとですがわかってしまいました。あれはきっと天国でしょう。私は死んでしまうのでしょう。ひどい。そんなの嫌すぎる。さらば愛しの先生……さらばドキドキの初体験……。死への旅の途中ですが、せめてものハナムケとして私がなんでこうなってしまったのかを、今回は時々先生視点の回想も交えながら走馬灯形式でお送りしたいと思います。それでは皆さま、アーメン。





 はい、時が戻りました。皆さん、時が戻りましたか?戻ってない方は私についてきてくださーい。はーい、こっちでーす。メアリーはこっちですよー。と、いうわけでですね、どこから話しましょうか。


 あ、そうそう。クリスマスパーティーをしたんですよ。先生のお兄様主催で。私の義理の兄にあたるレオナルド様なのですが、この人ときたらやっぱりすごい変な人でしたね。


 どこが変というとですねぇ……まず、すごい喋ります。パーティー中も黙ってる時間がなかったのではないでしょうか。私のことを「おー、写真よりもかわいいじゃないの」なんていってましたね。その他のことはほとんど何いってるかわかりませんでした。私と先生が親戚やらお義父様お義母様のお仕事関係の方やらに挨拶をして回ってる間もメチャクチャ騒いでましたね。恥ずかしい大人の見本でしたよ、あれは。


 次に、すごい食べます。ピザをこんなに食べる人いる?ってぐらい食べてましたねー。先生の胴回りぐらいあるピザをガツガツと3枚ぐらい喰らってましたね。その他にもお酒やらケーキやらなにやら……最終的に外で肉を焼いて食べてましたからね。四足歩行の動物たちの肉をバクバクと。クリスマスとはって感じでしたねー。


 あとこんな奇天烈な人なのにすごい人望があるというか、いつでもまわりに人がいるんですよね。あと見た目がシュッとしててすごくイケメンなのに、めちゃくちゃ口が悪いんですよ。幻滅しました。「もっと食えよ。小鹿かよ。バカが」とか「え?キミも結婚したの?へぇ、じゃあ、キミはもう出禁だな」とか、すごく高圧的で攻撃的な言葉ばかり使うのにまわりの人たちは笑ってるというか、ウケてるんですよね。ああいう人をまわりで見たことがないもので、すごく不思議な光景でしたね。


 私は最初から先生一筋で良かったです。大人しい先生はお義兄様と違ってこっちのペースで何でもできますから。あのお義兄様の恋人が出来る人間ってこの世にいるのか疑問です。お義兄様は一生結婚できなさそうですね。


 あー、あとカレンちゃんがいたんですよ。先生の教え子の。彼女のお父様と先生のお父様がお仕事の関係で交流があるらしくて。大人だらけのパーティーに暇を持て余したカレンちゃんを救ったのが先生だったんですけど……先生に抱っこしてもらったカレンちゃんが私に勝ち誇ったような笑みを浮かべたんですよ。すごく嫌な……嫌な女でしたね。5歳児ながら。見た目は可愛いけど悪い女だと思います。


 そうこうしているうちに宴もたけなわとなりまして、私と先生は部屋に帰ったわけです。もちろん、同じ部屋ですよ?


 意外なことにお義母様はこんな大きなお城に住んでいるのに、お料理はご自分でなさるんですよ。意外なことといえば、今回は前回と違って、がっつり長期間帰省するということで私たちの愛猫のミーちゃんを連れてきたんですけど、お義母様が猫好きだったことですね。「あらぁ、どうしたのぉ?」なんて甘い声色を使ってミーちゃんを抱きしめて離そうとしませんでしたから。


 それを見た先生が、お義母様には聞こえないように「そっちがどうしたんだ」と小声で呟いていたのも聞き逃しませんでしたよ。私は笑いましたね。先生ってたまに面白いこというんですよね。


「すまん、ちょっと脱いでもいいかな?」


 社交の場が苦手な先生が部屋に帰ってすぐ、ローブを脱ごうとしました。


「えぇ、もちろんです。楽になさってください」


 私はいい女ですから、先生の望みは何でも叶えます。いつもの癖で手を前に出して、カレンちゃんの涎がつきまくったローブを先生に手渡されるのを待っていた時でした。


「ああ、すまんユリエル、私だ」


 ドアがノックされた後に久しぶりに聞く老人の声がしました。


「先生!?すみません、ただちに!!」


 先生がそういい終えたころには全部が終わっていました。脱いだローブをベットにきちんと畳んで置いて同時にクローゼットから新しいローブをご自分の手元に引き寄せて着替えを済ませていたのです。しかもドアの前にまでもう進んでいます。速いんですよ。私のダーリン、動きが速いんです。呪いでボロボロの体のくせに。はぁ……好きです。


「邪魔して悪いねぇ?ちょっとだけいいかな?」

「いえ、こちらこそ。お待たせして申し訳ございませんでした。どうぞ、お入りになってください」


 今ので待っていたとしたら、せっかちレベル100ですよ。もう嫌味ですよね、逆に。私が対応したら100倍は遅いですから。でも、そういう人なんです。嫌味じゃないんです。


 私たちの部屋を訪ねたのは大賢者ストラデウス様でした。大賢者というのは、この世で一番偉いとされている魔法使いです。すごくおじいさんです。


「やあ~……しばらくだねぇ。まずは婚約おめでとう。メアリー、久しぶりだね。見違えたよ、とても美しくなった」


 お世辞なんでしょうけど、私はでへへと照れ笑いで返しておきました。褒められるというのは、やはり嬉しいものです。今日のドレスコードを先生が「綺麗だね」って、「今すぐ食べちゃいたいね」ともいってくれたような気もしましたけれど、そのことについて本当はあと6時間ぐらいかけて自慢したいんですけど、やめておきますね? この後の展開もありますので、時間がありませんから。


「ティナが君を呼んでいたよ?行ってあげるといい」


 なんと、あの大賢者をメッセンジャーに使うという。恐るべし我が義母、ティナ・エーデル・アレキサンダー。マジで素敵でかっこいいです。


「わかりましたー」


 私は間仕切りに入ってお義母様の元へ行く準備をはじめました。ついたての向こう側では大賢者と大魔導士が何やら話を始めました。


「さて……ユリエル。君に異動辞令が出そうだ」

「……え?」


 衝撃のニュースです。速報、ユリエル、幼等部を去る。まだ2年目ですよ? 速くないですか? いくらなんでもスピード人事異動すぎやしませんか? まあでも……どちらにせよ、私たち今の寮を出ないといけないんですよ。次の春までにお引っ越ししようね、と。そういう流れで話をしている最中でございまして。


「その……いつになりそうですか?」


 暗い声で先生が訪ねました。当然です。先生は幼児が大好きですから。言い方がちょっとアレでしたね。先生はご自分の受け持ったクラスの子供たちを大変に愛していらっしゃいます。ご飯を食べてるときとか、休みの日でさえも子供たちの話を本当によくなさるんです。そして私はそんな先生が大好きなんです。


「高等部の魔法史の先生が来年度いっぱいで退職なさる。だから、その前だね」

「では、子供のたちの卒園の日までは、今の職務を続けられるということですね?」


 私はホッとした様子の先生にホッとさせられました。わかりやすくて可愛いですよね。私の愛するユリエル・セプティム・アレキサンダーに悪い所なんてひとつもありません。あるとすれば、それは……。


「それでお給料も変わるんだけど……」

「ちょっと待ったぁ!!」


 着替えも終わったところで、私はついたてを蹴飛ばし交渉に身を乗り出しました。


「め、メアリー……さん?」


 大賢者ストラデウスが私をさん付けで呼びました。一方で先生は少し驚いたように私を見るだけで、黙っておられました。


「聞き捨てならないですね。お金の話はこっちを通してもらわないと」


 そう、先生のただ一つの弱点。それはお金の管理だったのです。先生の通帳を見たんですけど、なんとマイナスの月があったんです。授業で使った教材費を事務に報告するのを忘れてそうなった、と。先生はそうおっしゃられてましたが、これはダメです。


 だっておかしくないですか? 働いてるのに残高が減ってるんですよ? まず給料が低すぎるんですよ。なんと私の三分の一以下のお給料しか貰ってないんです。実は私って結構高給取りなんですけど、それはプライベートを捨ててるからという理由と、必要な資格の難易度と世界トップクラスの魔法幼稚園という職場環境にそういう価値があるということでそうなってるんです。


 話を戻しまして、前の仕事の関係で先生の貯金額はものすごいんです。その貯金さえあれば細々と生活する分には困りません。でもそれとこれとは別問題です。報酬はきちんといただかないと。大魔導士という称号にふさわしい報酬を。


「少なくとも今の1000倍は貰わないと、その話はお受けできません」

「せん、せ、せ、せんばい?」

「はい。当然ですよね? 先生は大魔導士なんですから」

「まぁ……そう、ね。でも、せんばいはちょっと……」


 大賢者は尻ごみしました。この構図は、はた目から見たら老人をいじめる美しい魔女なのかもしれません。しかし、この問題だけは絶対に許したらいけません。特に労働意欲のない、専業主婦希望の私からすれば、死活問題なのですから。


「そうですか。ではその件はお義母様に相談させていただきます。後ほどご連絡いたしますので、くれぐれも勝手に話を進めないよう、お気をつけください」

「ひぇ……」


 私は一礼した後、大賢者の短い悲鳴を背に部屋を出ました。冗談じゃない、本当に。あんな薄給で先生を酷使しないでいただきたい。この時点での私の感情は怒りの赤一色でした。





「……あの、どうもすみませんでした」

「うん、あの、うん……うん、うん……」


 部屋から出ていったメアリーの残した大いなる破壊魔法に、我々はしばらくの間怯えていた。


「ということでお給料は、まぁ、じゃあ、そういうことになるけど」

「いくらなんでもそれは……」


 1000倍の昇給など聞いたことがない。メアリーはいつだってスケールが大きい。もっとも私は彼女のそういった部分も大いに愛しているのだが。


「いや……領主の特権が、ね?」


 領主の特権とは、ある特定の地域を治める魔法使いの特殊な魔法形態のことを指す。この場合は私の母のことをいっている。この地では誰も母には勝てない。それが例え大賢者であったとしても。


「……魔法史、ですか」


 手に負えない問題のことはどうしようもない。私は話を逸らすことにした。


「そうなんだけど……現代魔法理論の先生もちょっと、見つからなくて。もしかしたら、そっちもお願いしちゃうかもしれない」

「えっ……それは手強いですね」


 これはまた見事に学生が嫌う二大教科だ。


「ははは、複数教科を教えることには、まったく抵抗は無いんだねぇ?」

「昔はそういう教師もいたと聞いています」

「もしそうなったら2世紀ぶりだよ?そんなこと……現代では君にしかできないと私は思っている。でも、なるべくそうはさせないで、単一教科になるように話をまとめておくよ」

「助かります」


 本当のことをいえば、困難な事というのは私にとっては喜びだった。しかし今、本調子でない私は無難に返事をした。


「私も最近、ようやく年を感じるようになってきた」

「……」


 本当は何か気の利いた言葉をかけたかった。しかし先生の魔力もまた、以前よりも微かにだが小さく感じた。「まだまだお若いですよ」などと軽々しくいうことはできなかった。


「本当に、間に合ってよかった。しかもあんなに可愛らしい魔女と婚約までして」


 そう、メアリーは愛らしい。こんな私を死ぬほど愛してくれている。そんな彼女のことをとても愛おしく思っている。しかし、本当に私は彼女を幸せにできるのだろうか。私はぼんやりとしたマリッジブルー状態にあった。


「彼女、不思議でしょ?」

「はい」


 メアリーに関して不思議なことはたくさんある。仕事を終えて寮に帰ると私のベッドに彼女の髪の毛とその他の毛が大量に残っていたり、古代竜の温泉に「もし途中でお茶が飲みたくなったら、お困りになるでしょう」といって無理やり一緒に入ってこようとしたり、キスをした後に顔をベロベロ舐めまわしてきたり、デスクワークをしている最中に後ろから忍び寄ってきて首を絞めてきたり、私の脱いだ靴下の匂いを嗅いだり、突然私のことを大声で呼ぶので彼女の方を向くとにっこりと笑っているだけだったり……数えればキリがない。


「いや、そういうことじゃなくて……たぶんレアだよ、あの娘は」


 先生が私の心を読んだ。この場合のレアとはいったいどういう意味だろうか。


「だから彼女に君のことを任せてみた。絶対に相性が良いとわかったからね。レオにも内緒でね?」

「そうだったんですか……」


 そこまででレアというのは魔力相性のことだろうと推測することができた。非魔法界でいう所の血液型占いレベルの迷信だったものだが、近年の研究で確かに存在するということが立証されたものだ。


「レオのことなんだけど」

「はい」

「……とても重要な事項を任せることにした」


 私は黙って頷いて答えた。すべては説明されない。知ってもどうしようもないことだからだ。しかし気にならないといえば嘘になる。


「ティナにも説明させてもらったけど……彼はもう、すでに私と同じ領域にいる」


 はっきりと先生がここまでいうのは初めてのことだった。思わぬ言葉に鳥肌が立った。


「あとはすべてが終わったら、世代交代だ」

「どういう意味ですか?」


 私は前の言葉に興奮していて意味を推し量ることが出来なかった。


「レオには学園を任せようと思っている」


 それは大賢者ストラデウスの事実上の引退宣言だった。


「そうなったら、その時は彼を助けてやってくれるね?」

「……もちろんです」

「そうだ。兄弟で手を取り合い、新たなる時代が始まる」


 重い重い会話を終え、私は一つ大きく息をついた。


「さて、今夜は月が明るいね。たまには月光浴でもしたらどうかな?きっと今夜なんかは良いことがあるんじゃないかな?」

「そうですね……」


 私は帰り支度を始めた恩人を見送ることにした。





 今夜こそ先生とえっちなことがしたい。その時の私の感情はピンク一色でした。そうなのです。私と先生は肉体関係がまだだったのです。キスはしているんです。たくさん。毎日。私の方からばっかりなのがちょっと気にかかるところですけど。それでキスしたらその後先生のぷっくりしたもちもちのお顔をベロベロ舐めまわして誘ってみたり、先生がお仕事をなされている日中に先生のベットで素っ裸でのたうち回ってフェロモンを残してみたり、古代竜の温泉で一緒に混浴してみようとしたり、あの手この手で色々やってはいるんですけど、全然成功しておりません。なんでなんですかね。もういい加減、抱いてほしいです。というわけで……。


「お義母様ァ!!」

「あらあら、どうしたの?」


 呼び出された私は早速お義母様に泣きつきました。頼れるのはこの人だけです。甘えるとお義母様はすんごい優しいんです。とりあえず私は最初に、先生のお給料問題について語りました。


「それは許せませんね。私がストラデウスと関連する企業、一族に対して全財産を要求しておきます。その件に関しては心配しなくて大丈夫ですよ」


 さすがお義母様です。私の1000倍なんて数字は子供だましでした。大人の色気のある本物の魔女は桁が違います。関係ない人たちの財産まで没収する気です。


「マシューとタバサは泊まっていかなかったのね。さびしいわね、もう少しお話がしたかったのに」

「すみません、うち、豚飼ってるんで、宿泊とかできないんですぅ」

「まあ、それは素敵ですね。今度遊びに行ってもいいかしら?」

「はい、喜ぶと思いますぅ」


 お義母様はやはり優しいです。私の両親のことまで気にかけてくれて、感無量です。


「ハニ……エドガン、少し外してもらえるかしら?」

「あぁ?……あぁ」


 さすがお義父様です。「あ」だけを発して、なぜかこの部屋にいたミーちゃんと共に退室していきました。さらばハニー&ミーちゃん。


「さて、メアリー。よくここまでたどりつきましたね?」

「はいぃ、苦しかったですぅ」


 お義母様に呼び出された理由を私は知っていました。女同士の秘密の文通を重ねて、お義母様には先生に抱かれるべくご指導ご鞭撻をいただいていたのでした。パーティーなんてどうでもよかったのです。すべては今日、この時の為なのでした。


「あなたの悩みはわかっていますよ。まだなんでしょう?」


 そういってお義母様は煌びやかな色の魔法の煙で宙に夜の生活のマークを作り出しました。


「まだですぅ」

「安心なさい。必ず今夜、あなたを本物の魔女にします」

「お願いしますぅ」

「ふふふ、私の秘密の薬棚に発売禁止の強力なラブポーションがあります。それさえ飲ませれば三日三晩、どんなに嫌がっても、抵抗しようとも、あなたはあの子に愛され続けるでしょう。もちろん、あなたが飲んでもいいわ」

「私が飲むと、どうなっちゃうんですか?」

「それはもう、三日三晩……あなたがメロメロになります。理性はたちまち吹き飛び、下らない倫理観などはまったく気にならずに全力で相手を愛することが出来るのです」

「メロメロ……!!」


 これ以上に先生を愛して三日三晩!!??それもいいですね。どっちにするか悩みます。


「どっちのほうがその……気持ちぃですか?」

「圧倒的に、自分で服用した時です」


 決まりました。自分で飲むことにします。


「三日三晩といいましたが、効果時間に個人差はあります。相手との魔力相性がよければよいほど、その効果は長く続きます。最長で五日間という記録もあります。おや……おかしいわね?確かに在庫があったはずなのに……」

「どうされたのですか?」

「今、薬を呼び寄せたのですが……反応がなかったのです。少し待っていてちょうだい」

「はいっ」


 お義母様はその場から消え去りました。秘密の薬棚とやらに直接確認しに行ったのでしょう。お義母様がいなくなった後も現場の空気は不穏のままでした。


「やはり、ありませんでした。ちょっと……うーん……でも、大丈夫。材料さえあれば薬自体はすぐに作れるわ。しかし妙ね……確かに在庫が……」


 すぐに戻ってきたお義母様は一人で何やらブツクサとつぶやき始めました。このへんは親子ですね。とっても似ていると思います。お義母様は若々しいその手をこめかみ辺りに当てながら遠くを見つめて独り言をつづけました。


「アスモデウスハーブと、スレイプニルの陰茎と、リヴァイアサンの精巣と、あら?……困りましたね。妖精の花の蜜が足りないわ」


 おやおや?急にRPGっぽい展開になってきました。


「妖精の花の蜜って……お茶とかに入れたりするやつですか?」

「よく知っているのね。そう、それです」

「じゃあ私、心当たりがあるんでちゃちゃっと取ってきちゃいます!!」


 ウンディーネのミラさんの所で振舞われたお茶の記憶があった私は、大急ぎで部屋から出ようとしました。


「お待ちなさい!!」


 お義母様に呼び止められた私は宙に浮かんでいました。出ました。黒の魔女様名物、メアリー浮かしです。この状態になると私は自分の意思では動けません。私は宙に浮かばせられたまま、スーッとお義母様の目の前にまで戻されました。


「夜は危険です。これを着ていきなさい。アレキサンダー家の家宝のひとつ、ヴァージンドレスです。邪悪なる者たちからの物理的、魔法的な攻撃と性的な攻撃も封じる効果があります。処女にしか効果はありませんが、あなたにはこれを纏う資格があるわ」


 私は宙に浮いたまま着ていたものを引っぺがされ、その純白のドレスに着せ替えさせられました。なんでしょう、この屈辱感は。地上での歩行を許された私は、いつの間にやら用意された姿見の鏡で自分の姿を確認しました。……めっっっちゃ可愛いです。女子高で恋愛のひとつもしないで良かった、と生まれて初めて思いました。


「はぁ……とてもよく似合っているわ。気をつけてね、メアリー。帰ったら淫魔の薔薇のお風呂とすぐに脱げる下着があなたを待っていますからね?」

「はいっ!!」


 これは完全にRPG。そう、人生はRPGなのです。そして私のお義母様はすごく過保護なのです。





 先生のいっていた通り、月がきれいな夜だった。豪華絢爛に建て直された実家の城はあまり好きにはなれなかったが、集落と湖が一望できるこのバルコニーだけは好きになれた。


「おう、ユリエルか」


 父エドガンが一匹の三毛猫を連れてバルコニーの手すりに寄りかかっていた。


「父さん……猫、好きだったんですね」

「ああ、なんか懐かれてな」


 父に動物好きのイメージが全くなかった私は少々面食らった。そして連れている三毛猫が我々の飼っている愛猫であることにも驚いた。


「お前……ここで暮らすか?」


 私は皮肉めいたことを三毛猫にいった。


「それはコイツがかわいそうだろう。母さんは喜ぶだろうがな」


 私は父の隣で集落を見下ろした。足元で三毛猫が父と私の間を行ったり来たりしているのがわかった。


「……ずいぶんかわいい子を捕まえたんだな」

「捕まえたというか、捕まったというか……」


 気付けばそうなっていた。私はいつの間に彼女のことを思うようになっていたのだろう。


「そうか。魔女の熱情を若いうちだけだと思うなよ?」

「存じてます」


 本人たちは兄と私の前ではそういう面をなるべく見せないようにしているつもりなのだろうが、父と母は相当に……仲がいい。お互いに歳をとった今でもだ。


「もっと鍛えて、長生きしないとな。お互いに」

「はい」


 夜はゆっくりと流れていた。湖畔には急増でこしらえたとは思えないコテージ村が出来あがっていた。湖の上空では痩せた少女が私を手招きしていた。


「……どうした?あっちに何かあるのか?」

「シルフが呼んでいます」

「そうか……行くのか?」

「はい」

「あまり無理はするなよ?」

「いってきます」


 私はそのまま手すりから空へと飛び立ち、シルフの元へと向かった。


「どうした?何かあったのか?」


 シルフは静かに湖の奥の高台の方へと私を誘うように移動した。そっちの方向に何かがあるということだろう。


「……わかった」


 私は彼女についていき、高台方面へと向かった。





 ミラさんのお家までは箒でひとっ飛びで辿り着きました。この時期の夜の飛行は寒いはずなのに、このドレスの効果がものすごいんです。なんと防寒魔法までかけてあります。おかげでちっとも寒くない。


 難点としましては、ちょっと丈が短くて箒に乗るとパンツ丸見えになるんですけども、誰も見ていない夜だし、そこには目をつむりましょう。ミニ丈なんて高校生ぶりですよ。ちょっと……なんかいいかもしれません。脚が引き締まる感じが懐かしいです。


「ミラさーーん!!」


 貝殻のかわいい家の玄関で私はウンディーネのミラさんを呼びました。これがメアリー式召喚術です。


「あら、お久しぶりね」


 出ました。この界隈で一番スケベな格好をしているウンディーネのミラさんです。今日も胸元の突起物が二つ、真冬なので心なしかこの前よりも元気に主張しております。


「はい、お久しぶりです」


 ミラさんといえば妖精の花の蜜です。あの甘い蜜を謎のお茶に入れ、ここへ迷い込んだ人間どもに飲ませてリラックスさせるという魔法を使います。


「ふふふ、あなた、前よりもパワーアップしてるわね。でも、ごめんなさい。今ちょうど私も切らしているの」


 あと読心術も使います。私の心はこの人の前だとスケスケです。


「そ、そんな!?」


 いや、でも待ってください。これはRPGです。このアイテムをとってくるためのイベントが用意されているはずです。


「ちょっと……なにいってるか、わからないけど……急ぎなら直接取りに行ってみる?あなたなら、きっと大丈夫だと思うから」


 ほーら、ね?


「はい、行きます!! どこですか、妖精の花の蜜は!?」

「あそこの高台の奥に蜜を分けてくれる子がいるわ。ちょっと変わった子だけど、あなたならきっと気が合うと思う」

「ついでにミラさんの分も貰ってきますね!?それじゃあ、いってきまーす!!」


 私はすぐに箒にまたがって大地を蹴り上げました。ぐんぐんと上の方に昇ってさっきまで高台と呼ばれていた場所を見下ろします。奥の方にほのかに光る明るい場所がありました。目的地はあそこかもしれません。いえ、きっとあそこです。


「よっしゃー!!」


 目的地に向かって全速力で降下しました。私はこの時忘れていたのです。森では箒が使えないという約束事を。そう、高台の上もまた、豊かな森が広がっていたのでした。


「あれぇ??」


 私は降下ではなく落下しました。しかしご安心ください。私には学生時代に箒レースで鍛えた着地術があります。


「オラァ!!」


 私は空中で体勢を整え着地の衝撃に備えました。





 シルフに誘われたのは懐かしい場所だった。


「あ、おい」


 シルフが消え去り、その場に私だけが残された。その場所は私が少年期に建てたある妖精の墓だった。森の中で静かにたたずむその苔むした石碑には「ティーヴァ」という文字が刻まれていた。その文字を刻んだのは少年時代の私だ。私はその石碑に近づき、文字の部分を撫でた。あの別れの日から十数年、石は冷たいままだった。


「まったく……そんなもの建てても意味なんて無いっていったじゃない」


 背後から女性に声をかけられた。聞き覚えのない声だった。振り返ると、そこには長身で神話の女神を思わせるような体型の整った女性が立っていた。


「君は……」


 女性はその美しい顔をゆっくりと私に近づけ、じっと私の目を覗き込んだ。


「……もう忘れちゃったかと思ってた」


 女性は薄く笑いながら囁いた。


「君はまさか……」

「違う。違うんだけど、少しだけそう」


 女性は石碑に向き直り、ふーっと息を吐きだした。すると石碑は一瞬だけ淡く光り、すぐにまた元の冷たい石の姿へと戻った。


「淡い恋心の諦めがついたみたい」

「やっぱり君は……」

「だから違うって」

「……彼女は何て?」

「生まれ変わったらアンタの子孫と……結婚するって。今度は絶対に裏切らせない、って」

「ティーヴァ……」


 目の奥に熱いものがこみ上げてくる。


「聞いた通りの泣き虫君ね。そんなことでこれから大丈夫なの?」

「いや、失礼。あなたは……始祖ですか?」

「……頭いいんだね。あのバカとは大違い」


 おそらく目の前の女性は妖精たちの原種に近いものだろうと私は予測した。


「でも、それもちょっと違う。あなたたち人間は全部知らなくていいしね」


 私はその女性に向かって頷いてみせた。なんとなく、わかった気がする。私がこれからすべきこと、それは……。


「なんだ……この禍々しい魔力は」


 湖の方から得体のしれない魔力が発せられているのを感じた。


「いってあげて。あの人、最近ちょっと調子乗ってるから」

「……ありがとう。ティーヴァ、怒ってたかな?」

「当たり前じゃない」


 私は笑いながらその場を飛び立った。





 木の枝やらなにやらが体中に引っかかりまくりましたが、私は無傷でした。着ていてよかったヴァージンドレス。物理無効、魔法無効、おまけにえっちな攻撃も無効。完全にチート性能です。ちょっとだけ、死ぬかと思いましたが結果オーライです。しかし、被害は思わぬところに出ていました。


「げっ……」


 愛用の箒の柄が真ん中でぽっきりと折れていました。これはさすがに予想外です。着地術の基本としまして顔を守るために箒で顔を覆う技術があるんですけども、完全にそれの影響といいますか、箒ちゃんにはヴァージンドレスの効果が及ばなかったわけです。


「ぬぅぅうううう!!!!!!!」


 私は呻きました。帰り……どうしましょう。冒険が完全に詰んだと思ったその時。


「うるさっ。ちょっとアンタ、何時だと思ってんの?」


 私を救ってくれたのは一人のギャルでした。年齢は17、8歳ぐらいですかね。私は髪の毛巻き巻きでまつ毛モリモリの超ギャルに出会ったのです。森の中で。


「うわぁ……」


 私はガッカリしました。なんなんでしょう。たまにあるファンタジーのはしご外しは。本当に冷めますよ。


「はぁ?なに、そのリアクション。失礼すぎじゃね?」

「……あなた、妖精さんじゃないですよね?」

「あーし妖精だし」

「花の蜜くださぁぁぁい!!!!」

「声でかっ。何?アンタ、ミラの連れ?」

「毎度毎度ガッカリですよ。もういいです。森はうんざりです。さっさと花の蜜をよこしやがれってんです。おい、蜜はどこだぁ!?ミラのマブが来たぞぉ!?」


 私は泣きながらギャルの肩を掴んで揺さぶりました。


「落ち着きなって。蜜ならたくさんあるから。てゆーか、その服かわいくね?」

「そうでしょう? これはヴァ……ヴァニラ・スノー・ホワイト・ドレスといって一点モノなんだから」

「ふぅ~ん、いいじゃん。でも一点モノか。アンタ、セレブなの?」

「まぁね。ところであなた、お名前は?」

「あたし? キョウコ。アンタは?」

「私は……メアリー」


 私とキョウコの仲は少しだけ深まりました。


「オッケー、メアリー。花の蜜は5、6本で足りる?」

「そんなに持てないから、2本でいいよ」


 1本がどれぐらいの大きさかわかりませんが、お義母様とミラさんに1本ずつ持っていけばきっと足りることでしょう。


「ふ~ん……合格じゃん。アンタ良い人間だね」


 どうやら合格したらしいです。わかりません。ギャルは苦手なんですよ、学生時代から。


「で、帰りどうすんの?それ、もう使えないっしょ?」

「歩いて帰るしかないね」


 気が遠くなりました。果たして私は朝までに帰ることができるのでしょうか。


「そうだ、アレに乗ればいいんじゃね?歩くより楽だよ。こっちこっち」


 私は意味も分からずキョウコに手を引かれて森の奥へと引きずり込まれました。



「この子、昔なんかあったみたいで、ここでひっそり暮らしてるんだ。でも、いいヤツだよ。最近は来なくなったけど、たまに人間の兄弟と遊んであげてるみたいでさ」


 キョウコに紹介されたのは一本角の白い馬でした。それは紛れもなく、ユニコーンと呼ばれる幻の動物でした。


「わぁ……」


 突然のファンタジーな出会いに私は言葉を失いました。ユニコーンは体も角もたてがみも、そして尻尾までが真っ白で……それはそれは美しい生き物でした。


「触ってみて?」


 キョウコに言われるがまま、私はユニコーンの顔の横辺りを触ってみました。するとユニコーンはスリスリと自らの顔を私の手に擦りつけ甘え始めました。


「おぉ、相性バッチリじゃん。それじゃあ、今度は乗ってみて」


 私が乗りたいと思ったのと同時に、ユニコーンは跪いて私が乗りやすい体勢をとりました。それはまるで私専用の乗り物かのような無駄のない動きでした。


「いいじゃんいいじゃん、最高」


 私が跨るとユニコーンは自然に立ち上がりました。いきなりいななくこともなく、とても大人しいお馬さんです。乗り心地も最高です。直乗りなのに、なぜかお尻が全然痛くありません。


「それじゃあ、気をつけて。今度ゆっくり遊びに来てよ。セレブの話、聞きたいし」


 ユニコーンの背中から見下ろすギャルは結構いいやつに見えました。


「ありがとう。色々、酷いこといっちゃってごめんなさい。また……今度はダーリンと一緒に来るね?」

「えっ!? カレシいんの!? イケメン!?」

「むふふ……そんな小さなものさしでは測れない、最高の男ですよ」

「へぇ、わかった。楽しみにしてる」


 私が出発したいと思うと、ユニコーンは駆け出しました。なるほど。この子は私の気持ちを汲んでくれていますね。それではユニコーンさん……最高速度でお願いします!! はりきってどうぞ!!


 私が思えばそれは現実となります。視界がどんどん狭くなっていってスピードが上がるのがわかりました。もうほとんど吹き飛ばされそうなほどの圧力が体中にかかりました。


「ぬぉぉ!! 負けるかぁぁ!!」


 ユニコーンさんの首にしがみつきました。まだまだですよ、もっともっと速く!! 視界がほとんど点となりました。最速で!! 花の蜜を!! まずはミラさんの元へ!!


 私が願えば願うほど、ユニコーンさんはさらにそのスピードを上げるのでした。





「ったく、魔法陣なんて久しぶりに描いたな」


 俺は踊るようにイカ魔王の魔体術を避け続け、ついにその魔法陣を完成させた。


「どうだ? 動けねぇだろ?」


 イカ魔王は花畑の中で全く身動きが取れずに棒立ちとなっていた。さすがに戸惑いの表情を見せている……ような気がした。


「最近はあんまりこういうからめ手は使わないようにしてたんだが……お前、強かったよ」


 マジで強かった。魔体術だとデカい奴にはやっぱ敵わない。イカ魔王には俺の人間としての限界点をはっきりと感じさせられた。


「それじゃ、そろそろ終わりにするか。これは複合魔法陣っつってな。実はもう一つ効果があるんだ」


 はっきりとその気配を感じた。それは猛スピードでここへ向かっている。ただ、位置が少し悪い。空にあるゲートから一直線の所にしてやらないといけない。


「飛べ」


 上空へ飛ばしたイカ魔王を追いかける。さぁ来るぞ。どんどん近づいてくる。


「兄さん!!すみません!!しくじりました!!」


 ゲートから弟の謝罪の声がした。それを笑いながらサムズアップで返す。弟の声よりもわずかに疾く、その事象は深々と突き刺さった。


「……なーるほど。そういうことだったのか。お前の弱点、浄化だったのかよ」


 イカ魔王のみぞおちにはユニコーンの角がぶっ刺さっていた。角が折れた勢いでユニコーンとそれに乗った乙女メアリーが弾き飛ばされた。視界の端でユリエルがうまい具合に乙女を救出した後、ユニコーンを安全に着地させたのを確認。俺は光の腕で刺さったユニコーンの角を掴み、さらに深く腕を相手の肉体へと入れた。イカ魔王が大いに焦りの表情を見せている……ような気がした。


「そんな顔するなって、仕事が終わったら返してやるからよ……」


 時は満ちた。俺はイカ魔王から抽出した魔力を自らの魔力に融合させた。





「メアリー、大丈夫か!?」


 私は叫びながら花畑の中で気を失ったメアリーに回復魔法をかけた。


「……先生」


 彼女はすぐに目を覚ました。


「先生、遅いですよ」

「すまない……」

「嘘です。やっぱり来てくれましたね。愛してます、先生」

「ああ……私もだ。愛しているよ、メアリー」


 私はメアリーを抱き寄せ、口づけをした。それは言葉では伝えられない私の気持ちだった。


「はい、帰るよ!!」


 背後から威勢のいい声がした。それは兄のものだった。失われた腕は完全に元に戻っていて傷ひとつのない、まるで今の今まで戦闘などしていなかったかのような綺麗な姿をしていた。兄の計画は成功したのだ。


「あの、ユニコーンさんは?」

「あそこで寝てる」


 兄がその場所を顔で差すと、メアリーはすぐさまそこに駆けつけた。私と兄もその後を追った。


「角が……」


 メアリーはすがるように私の顔を見た。私は何も答えられなかった。ユニコーンの角の再生は魔法ではどうにもできない。兄の顔色を窺った。


「しゃーねーな……これを食べさせてあげなさい」


 そういって兄がメアリーに手渡したものは、それひとつで家が数軒建つほどの超高級魔法薬、再生の丸薬だった。メアリーは兄のいうとおり、ユニコーンに再生の丸薬を食べさせた。


「よし。これで4、5日もすればまた角も生えてくる」


 私もメアリーもほっと息をついた。


「あれは……なんですか?」


 今度は私が異物に気付いた。


「……魔王の子供、かな」


 それは人間の子供ぐらいの大きさで黒いローブを着ていた。フードの中のイカの顔はじっと兄を見つめていた。


「お前も一緒に帰んのか?」


 兄がそういうとそれは「ピィ」とひと鳴きしてから兄にひしりとしがみついた。


「まぁ、それはそうか。じゃ、いくぞ」


 まったく驚く素振りをみせず、兄はその存在を受け入れた。メアリーは再びユニコーンに跨り、兄と私は空へと舞った。



 傷ついたユニコーンと魔王の幼体はミラが家に招いた。魔王の幼体は相も変わらず「ピィ」としか喋らなかったが、見た目が可愛らしいという理由でメアリーもミラも気に入ったようだった。


 ミラの家では兄以外のメンバーで深夜のお茶会が始まった。ダニエラ元裁判長とサラマンダーの姿もそこにはなかった。おそらく2階で眠っているのだろう。


 ミラはメアリーに対して、妖精の花の蜜のことでとても感謝していた。不思議な光景だった。私と兄以外の人間と交流するミラを見るのは初めてだったのだ。あらためてじっくり見ると、メアリーの魔力の質は精霊に近いということにも気づかされた。なんというか、二人から発せられる雰囲気がよく似ていた。二人は本当に良く気が合うようで、それには私が疎外感すら感じさせられるほどだった。


 私は隣に座る「ピィピィ」と鳴く魔王の幼体にスコーンの欠片を食べさせてやった。休暇中なのに、仕事をしている感覚がすごかった。子供たちは今頃、どんなクリスマスを送っているのだろうか……。


「あー、腹減った。メシ食いに行くか」


 ゲートの封鎖作業を終えた兄が中へ入ってきて、開口一番信じられない提案をした。


「今からですか?」

「クリスマス休暇でどこもやってませんよ?」


 私もメアリーも一般的な反応をした。


「中華屋か、ケバブ屋ならやってるだろ」


 当然だが兄は譲らなかった。


「あ、私はダメだった。お義母様の所へ行かなくちゃ。あ、でも箒が」

「貸してごらん」


 私は修理呪文でメアリーの折れた箒の柄を直した。


「一応これで飛べることは飛べるが、念のため安全運転で飛行した方がいい。後で専門家に見てもらおう」

「デートですね?」

「そういうことになるね」


 どうにも彼女のストレートな表現は気恥ずかしい。だが悪い気はしない。


「それじゃあ、兄弟水入らずで楽しんできてください」

「……大丈夫なのか?」


 あんなことがあった後だ。私はやはり心配だった。


「大丈夫です」


 私はメアリーの目を見た。いつでも真っすぐで美しい瞳だ。


「本当に大丈夫ですって!! いってらっしゃい!!」

「じゃあ、いってくるが…」

「はい。私、先生が帰ってくるまで待ってますから」


 メアリーの含みのある言い方にひっかかるものを感じたが、私は特に気にしないことにした。


「こんなことがあったし、無理しないで先に休んでいてかまわないよ?」

「いいえ、待ってます。待ってるんです」


 明らかにプレッシャーのかかる物言いだった。私はとても気にすることにした。


「……なるべく、早く帰る」

「はいっ!!」


 メアリーはとびきりの笑顔で私と兄を見送った。





 二人きりで夜の街へ出るのはいつ以来だっただろうか。兄が家を出る前のことだから、もう10年以上ぶりということになる。兄の希望でとあるケバブ屋で食事をとることにした。二人ともソースは甘口で注文した。ジャンクのような、そうでもないような不思議な食べ物。それがケバブだ。


「それにしても、呪詛も紋章術もなしに神格の魔力抽出と融合を同時にやるなんて……素晴らしかったです」

「普通のやり方だと魂の扱いが厄介だったからな。いいトコ取りがうまくいって良かったよ」


 まったく異次元の発想と実行力だ。煩雑な手順を簡略化させて魔法の効果を高める。それは魔法使いにとって最も理想的で美しいこととされてはいるが、それを実現させるのは容易い事ではない。


「……先生から話だけ伺いました。任務の成功を祈っています」


 他者との対話だったらそうはいかないだろうが、兄にはこれだけで通じる。


「ありがとう。多分1年もしないで帰ってくるだろうから、そしたらしばらくお休みしようと思ってる」

「お休み?」

「うん。食いたいときに食って、寝たいときに寝て、そんな生活がしたい」

「いいと思います」


 心の底からそう思った。兄は働き過ぎだ。いかに超人といえど、兄だって『人』なのだから……。


「それにしてもお前も結婚か……どうなんだ、心情は?」

「……重く受け取っています」


 あの花畑の中で自分の気持ちを言葉と態度にしてメアリーに伝えたことで、少しだけ気持ちは晴れていた。しかし、いまだに心の中で後ろめたい思いはくすぶっていた。


「ふむ……迷えるお前にいい物がある」


 そういって兄は紫色の液体が入った瓶を机の上に置いた。


「真実のポーション。とある事情で発禁になって以来、一般には出回っていない幻の秘薬だ。結構命がけでくすね……手に入れた代物だ。ある意味、再生の丸薬よりも厳しいルートだった。お前の婚約祝いにちょうどいいと思ってな」


 兄は遠い目で何かを振り返っていた。


「帰ったら部屋に入る直前に飲みなさい。メアリーに会う直前に。そうすれば、何も迷う必要がないことがわかる」


 兄が瓶をこちらへ寄せた。真実のポーション……話には聞いたことがあるが、果たしてこんな色だったろうか。記憶の彼方では青色だったような……。


「もうお前は幸せになっていいんだよ、ユリエル」

「しかし……」

「命令だ。いうとおりにしておきなさい」


 私はしばし考えたのち、その瓶を懐にしまった。


「婚約おめでとう、ユリエル。本当におめでとう」


 兄は私の肩を叩いてからケバブのお代わりを頼んだ。





 時は来ました。いざ対決の時です。淫魔の薔薇のお風呂にも入りました。脱ぎやすい下着にも着替えました。ヴァージンドレスがあまりにも可愛かったので、同衾の衣装としてそのまま着ることにしました。


「ただいま」


 先生のその言葉が始まりの合図です。私はラブポーションを一気に飲み干しました。目と目があった瞬間、先生と私は無言で距離を詰め、力の限りお互いを抱きしめ合いました。


「私は……そうか、そういうことか。メアリー……すまない。私が冷静でいられるうちにいっておく。メアリー……とても、とても愛しているよ」

「はい、先生。私も愛しています。とても、とても、とても愛しています、先生!!!!」


 そこからはもう獣の時間でした。服は千切れ、下着は放り投げ、丸々一週間、私は先生と愛し合ったのです。その後、先生も私も2日間ぐったりと寝込みました。あのポーションは世に出してはいけないです。絶対に。あと、先生が大魔導士で本当に良かった。でなければ、私は脱水症状で命を落としていたに違いありません。


 今回のお話の最後に、隣で寝ている先生へ私から一言、いわせていただきます。最高でした。永遠に愛しています。対戦、ありがとうございました……でも、次は負けませんからね?

皆さん、私のロマンスはいかがでしたでしょうか。三日目ぐらいから快楽の先にいっていたような気がします、メアリーです。あの後、先生はすごく私の肉体を気遣ってくださいました。でも大丈夫です。私、箒レースやってましたから。やはり愛だけでは先生の大人になったチョロギを受け止めきれませんからね。体も鍛えておいて良かったです。さてさて、皆さんとのお別れが近いです。うーん……ヤダ!!ですが、次回もお楽しみに!!!!

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