古代竜の秘湯 前編
給仕係でメアリーでございます。今回も先生視点にするとかいってる愚か者がいたので、私が無理やり書き直させました。これでバッチリ私の出番が増えたのでメチャクチャ面白いです。大給仕乙女全開ホラー煮卵家族愛物語、始まります!!
私の名はレオナルド・S・アレキサンダー。元々はストリートウィザードだったが、色々あって現在は国際魔法医療研究センターに所属している。しかしながら、今私がいるのは職場とは違う場所である。その場所とは、我が父・発明王エドガンの秘密の開発作業部屋だ。残念ながら詳細な位置までは教えられない。富と名誉を手に入れてしまった人間には色々あることをわかってもらいたい。
おっと失礼、話が逸れてしまったね。なぜ私がここにいるか、その理由を説明せねばなるまい。弟の解呪に関すること以外の仕事がサボれるから、時々こうしてここに来るわけだよ。わかった? わかんない? わかれよ、バカ。
ちなみに徹夜勤務が続いている状態の私は口が悪いことで有名だ。だが安心してほしい。普通の状態でも性格が悪いことで有名だから。
「この前、ユリエルが家に帰ってきたんだってさ。彼女と一緒に」
人が真面目に自己紹介してるのに、デコの面積が広く毛量の少ない微妙な禿げ方を展開しているこの男が私の父、エドガンである。発明をしている以外の時間は酒ばかり飲んでいる。今、こうして向き合って立ち話をしている間にもスキットルでアルコールをキメている。そんなんだから禿げるんだよ、ハゲ。歳も歳なんだから酒はほどほどにしておけ。
「彼女だって?」
両親が発する情報はいつでも適当で嘘にあふれている。私は驚きはしたものの、内心では全く信じなかった。
「ああ、母さんがそういってた。なんでも、うちの近くの田園地帯出身の娘さんらしいぞ」
「あー……ユリエルらしいといえば、らしいか」
純朴な田舎娘、結構じゃないか。弟はもういい加減幸せになっていい。今回の話はどうか本当であってほしいものだ。私は自分のことは棚に上げて心からそう願った。
「写真がほら、そこにある」
そういって父はワークテーブルの方を顔で差した。そこまで移動するのも面倒なので私は設計図やら工具やらで散らかったテーブルからその写真だけを魔法で引き寄せた。見るとそれは二人の女性が一人の男性を挟むようにして撮られた写真だった。
女、男、女。この構図……漢字で表すと嫐、か。さぁ、君たちのような無知蒙昧にこの漢字が読めるかな? ルビは振らないぞ。弟のように優しくないんだ、私は。え? 漢字なだけに、やな感じだって? おっと、またしても話が脱線してしまったね。写真の話に戻ろう。
二人の女性のうちの一人は母だった。私が最後に会った時よりも活き活きとしているという意味ではなく、物理的に体が若返ってるようだ。このことに関しては深くはツッコむまい。
そして母ともう一人の女性に挟まれるようにして、眼鏡の奥のつぶらな瞳から一切の光を失わせているのが我が最愛の弟、ユリエルだ。かわいい。その表情たるや、まったくの無。完全に心を閉ざしきった人になっている。しかしながら弟は昔から母が苦手で、それも仕方のないこと。きっとこの写真を撮る前に母に酷い目にあわされたに違いない。何にせよ成人したユリエルと母が一緒に写っている、我が家にとっては貴重な一枚だ。それにしても、かわいい。
実際の所、私個人としては弟の今の姿も悪くないと思っている。この姿になってからのユリエルは性格的にも昔より角が取れたような気がするのだ。そのことについては、国際魔法警備局時代に相当揉まれたからなのかもしれないが。
かわいいだろ? そう、かわいいんだよ、こいつは。俺より頭もいいし、器用だしな。世界一かわいい、俺の弟。ちなみに、弟のことをデブと2回以上いったやつはそうだな……せいぜい夜道に気をつけることだな。あ、ちなみに私はサシでの勝負ならストラデウスよりも強いから、そこんとこヨロシク。まぁ、ご愁傷さまです。
で、問題の彼女の方は……ふんふん、おー……思ったよりも垢抜けてるというか、田舎娘っぽくないな。こりゃあ、ユリエルは随分と惚れられてるねぇー。体もぴったりというか、がっしりとユリエルにしがみついちゃって。母さんよりも、ユリエルよりも、誰よりも笑顔じゃん。人んちで誰よりも笑顔って……プッ、オモロ。
だけど思ったよりも、結構……愛嬌のある顔してるけど、我の強そうな子だな。そうかー……俺、この子の義兄さんかー……なーんかこの子、ヤバそう。どことなく、サイコパスっぽいし。彼氏の母親と彼氏とでスリーショットを撮ります。この状況で彼氏にしがみつかねぇよな、普通の人は。うん、間違いない。この子、絶対に変な子だ。ぜひ会って直接話してみたいな……あ、そうだ。今年のクリスマスパーティーにはこの子も招待しよう。追加でユリエルに手紙送らなきゃ。ついでだし、目の前の酔っ払いオヤジも誘うか。
「今年のクリスマス、暇?」
「まぁ……うん」
父は母と二人で過ごすクリスマスを想像したのだろう。なんともいえない表情で切り返してきた。
「今年のクリスマスは皆でパーティーやろうと思ってるんだけど来る?」
「え、いいのぉ?」
宝物を見つけた少年のように顔を輝かせるんじゃないよ、みっともない。
「いいから誘ってんだろ」
「ははは、母さんも誘っておくよ」
「えぇ?……まぁ仕方ないか。一人にさせると、うるさいし」
これは失言だった。訂正しよう。一人だろうが二人だろうが、あの人はどういう状況でもうるさい。
「そういうこと。で、どこでやるのか決めてるの?」
「いーや、全然。まだ何も決めてない」
早いもので今年も残すところあと二か月を切った。しかしギリギリに会場を決めても問題ないだろう。金なら腐るほどあるし、元大賢者候補の特権もあるし。
「じゃあ家でやろうよ。母さんの趣味で城を建てたのはいいんだけど、持て余して仕方ない」
「あー……それはアリだな。じゃあもう、村の人とかも呼んで盛大にやろうかな……」
そういえば最近というか、もう何年も実家に帰ってないな。少なくとも実家が城に建て替えられてからは一度も、領地にすら立ち入ってない。俺の部屋とかどうなってんだろ、今。
「いいねぇー。酒は用意しておくよ」
「ああ」
よーし。そうなると、これは元大賢者候補としては腕が試されるところだ。湖畔にバンガローか何かを建ててお客様が快適に過ごせるようにするか? 年越しは少年時代に仕留め損ねた湖の底に住まう謎の巨大生物との戦闘ショーを繰り広げて……いや、それはやりすぎか? 12月の湖は寒いし……何はともあれ、今からクリスマスが楽しみだ。
「それで、解呪の方はどうなんだ?」
「うーん?」
脳内でクリスマスパーティーの計画を立てながら、私はぼんやりと返事をした。
「ユリエルの解呪!!」
「うーん……年内にはちょっと難しいかもね」
「……そうなのか」
「ま、一応というか、おそらく現状で一番効果がありそうな湯治をさせようと先生と色々手を回してる所だよ」
私が”先生”と呼ぶのはこの世でただ一人、大賢者ストラデウスだけだ。ストラデウスは私の学生時代の恩師でもある。ちなみに弟は先生の唯一の弟子だ。弟が決死の思いで自らの体内に封じた邪神。その凶悪な力を完全に制御できるようになるまで、弟は先生の元でごく短期間だったが修業をした。
ちなみに私はその時、毎日二人の所に顔を出して差し入れを持っていった。あれはあれで、けっこう楽しかった。非常に複雑かつ難解な魔術の体得を成功させた弟はその力を持って最後の裁判に臨み、そこで見事に無罪を勝ち取った。あのムカつく司法のヤツらや政府関係者たちも泣かせてやった。
あの時ほど胸がスカッとしたことは無いね。お兄ちゃんは本当にお前が誇らしいよ、ユリエル。でも変身したお前より、お兄ちゃんの方がちょっとだけ強いからね?あんまり調子に乗るなよ?
「ほう、湯治か」
弟の解呪の件と直接関係ないことを考えていても、父との話は続いていた。気は抜くなよ、諸君。ところで最近ユリエルから山ほどヤーコンが届いたんだけど、誰か美味しい食べ方知らない? 弟がさ、教え子たちと一生懸命作ったらしくてさ、子供たちとの写真付きで送られてきたんだよね。
あのユリエルが今や、名門魔法学校の幼等部で先生をやってるってんだから、お兄ちゃんは胸がいっぱいになってしまったよ。子供たちに好かれるのは当たり前だとして、ユリエルは体はでかいけどマメな性格だから、きっと保護者達にも評判がいい事だろう。
でもねユリエル……お兄ちゃん、もう少しで大賢者の称号がもらえたほどの博識ぶりで有名だけど、ヤーコンの大量消費の方法だけは知らないんだよ。親の仇のように送ってこられても、困っちゃうよ?
「計画通り進めば、それで寿命云々の問題はどうにかなる」
ここで弟の呪いの話をしよう。過去の話になるが、弟は二審の判決で『時の牢獄』に幽閉されることになった。最後の裁判が開始されるまでの短い間の幽閉だったのだが、それは呪いとの相性が最悪の刑だった。
地上とは時間の流れが全く違う時の牢獄の中で、まだ完全に弟に支配されていなかった邪神の魂は弟の魂を喰い漁った。永遠の虚無の空間の中で弟はたった一人、凶悪な邪神の憎悪と必死に戦っていたのだ。その苦痛たるや、計り知れない。並のウィザードならば、コンマ数秒で邪神に魂を乗っ取られていたことだろう。しかし、弟は強かった。だが逆に、そのことが弟の苦難を肥大化させた。
最後の裁判の為、『時の牢獄』から一時解放された時、すでに弟の魂はその半分以上が邪神によって喰い荒らされていた。姿形を変え、暴れる回る弟を私はストラデウスと協力して鎮圧させた。何が悲しくて弟と命の取り合いをしなければならなかったのか。この時ほど政府と司法を恨んだことはない。私とストラデウスはそうなることを予見し、刑の執行を取りやめるよう必死に説得した。この私が、頭を下げた。
しかし、司法も政府も私たちを相手にしなかった。それどころか、あまりにもムカついてちょっとだけ関係者たちを懲らしめてやった私のことを狂人認定しやがった。おかげで大賢者の称号授与の話も白紙になった。ふん、クズどもめ。弟をあんな状態にしておいて……ヤツら、よくものうのうと生きていられるもんだ……って、いっけなーい。私ったら邪神の瘴気に当てられちゃったのかしらー。もーう、今さら謝っても許さないんだからねっ☆ いや、実際称号などどうでもいいのだ。自分たちの判断が間違っていて、そういう悲しい事件があったということを忘れてくれなければ、それでいい。
魂を削られた弟の寿命は半分以下になった。ストラデウスや父と共に弟の呪いについて研究した結果、その事実だけが残った。以後、我々はユリエル・S・アレキサンダーの解呪に尽力している。魔法界、ひいては全人類のために、友を失ってまでも平和を勝ち取った弟の解呪の邪魔をするものは何人たりとも許さん。それがこの私だ。ちなみにまったく表に出ない情報だが、正式な私の称号は狂人のまま変わっていない。みなさん、どうかこの狂人をよろしく。
「……本当か?」
父は懐疑的だった。私は両親と違いって真実しか言わない。すべてうまく進めば、ユリエルの寿命は元に戻る。それは間違いない。
「実験もしたし、前例もある。まず間違いない」
「母さんに報告してもいいんだな?」
むしろそれはしてほしいぐらいだ。自分でああだ、こうだ、と思い込んで母が勝手に意味不明な行動を取るとも限らない。実際もうしてるかもしれない……いや、何かしらすでに行動してるだろう、あの人なら。
「大丈夫。ただ、問題は……」
私の名前はメアリー・クライン。国際的にみてもトップクラスである名門魔法学校の教師!! ……の専属給仕係として日夜働くぅー? えーと、プリティー……プリティーウーマン。……キレが悪くてすみません。というのも私の未来の旦那さんがですね、ユリエル先生のことなんですけども、やっとヤーコンの収穫が終わったというのに、ちっとも早起きを卒業してくれないんです。
現在朝の4時ちょっと過ぎ。寒いです。外は真っ暗です。でも私はこうして、愛する先生の為に今日も誰もいない炊事場でお茶を淹れるためのお湯を沸かすわけですよ。本当はお化粧だって他の給仕係の子たちみたいにちゃんとしたいですよ。
でも、そんなことしてたら間に合わないんですよ。先生がお茶を欲するベストなタイミングに。ですから今朝も私は必要最低限の身だしなみに抑えて……あ、お湯が沸きましたね。でもお茶を淹れるのはまだです。この沸いたばかりのお湯を少し私のマグにいただきまして、あ、このマグは先生には内緒なんですけど、実は先生のマグとペアデザインなんですよ。どうですか、キモいですか? そんなこと言う人は変身した先生に消し炭にされると良いのではないでしょうか。
それにしてもカッコよかったなぁ、あの変身術。ダークなヒーローみたいで。でも実際先生はヒーローなんですよ。私の両親の心も救ってくれたし。それはそうと、先生と私の関係は進展してるんですかね。
私あれから考えたんですけど、先生みたいな人とよりステディな関係になるためには、まず外堀を埋めた方がいいんじゃないかと思いましてね。ペアのマグじゃないですけど、少しずつ周りに匂わせていきたかったんですよね。
本当なら指輪とかネックレスとか、先生とお揃いのものを身に着けて周りをざわつかせたかったんですけど、先生って半引きこもりなんですよね。お仕事以外のことで部屋からほぼ出られないんですよ。これじゃあいくらお揃いグッズを身に着けても匂わせられません。無臭です。私だけジャラジャラジャラジャラ、装飾品が増えるだけですよ。あーもう、助けてお義母様。
そうそう、これも先生には内緒なんですけど先生のお母様、ティナっていう名前の素敵な魔女様なんですけども、あれから私たち結構頻繁に文通しております。お義母様のお手製の鼻炎のお薬なんかも無料でいただいていまして、非常に助かっております。その他にも化粧水やら保湿液やらハンドクリームやら、この前なんかお義父様との合作のマジカル小顔ローラーの試作品なんかもいただいちゃいまして、本当にありがたい話ですね。
あ、それと先生の幼少期の写真なんかも送られてきまして、その写真がなぜか裸なんですよ。幼少期の先生の股間についたチョロギみたいな可愛いものがバッチリ写っててですね、なんかこう、いけない興奮を覚えましたね。……あ、そろそろお白湯になりましたかね。そしたらこのお白湯でうがいをして、喉の調子を絶好調にします。するとあら不思議。
「ぁ……ぁーぃ。ぅ……ぁーい、はーい……はーい! おはようございまーす!!」
ほらね? いつもの私の声が極寒の早朝からでも出せるようになるのですよ。さぁ、このバカでかい声で先生の鼓膜にちょっとでも爪痕を残してやらなきゃ。さぁさぁ、それでは参りましょう!! いざ、先生のお部屋へ!!
私の名前はユリエル・S・アレキサンダー。名門魔法学校である妖神魔法魔術学園の教師である。もっとも私の担当は次世代の魔法使いの卵たちがひしめき合う幼等部ではあるが。教える身でありながら逆に子供たちから学ぶことも実に多い。例えばこの前……いや、長くなりそうだし、この話はやめよう。
さて、年末も差し迫ったこの時期の郵便物の多さには辟易しそうになる。私はいつものデスクに小山を作っている郵便物たちの中から彼女の目に触れたらマズそうなものを選別し、引き出しの中にしまった。
26歳大魔導士、独身。悲哀の手紙隠し。特に未成年の女子からの手紙はマズい。とはいっても特に送り主とは特別な関係はない。手紙の中身も満月を見たら私のことを思い出しただとか、校舎内で使い魔バトルロイヤル大会の優勝トロフィーに私の名前が彫ってあったのを見つけただとか、内容的には他愛のない……といっては書き手に失礼か。
ともかく、私の専属給仕係のメアリーに郵便物が検閲されるようになってから早ひと月。おかげで朝は30分早く起きる習慣がついてしまった。日頃から世話になっているメアリーの感情を荒立てたくないという一心で、この手紙隠しが常態化しかけているのだが……果たしてこのままでいいのだろうか。
「おはようございまーす!! 朝のお茶をお持ちしましたー!! 一緒に飲みましょう!!」
先生が私の声にビックリしなくなってどれくらい経ったでしょうか。新任の頃の先生は「どわっ」とか「わーっ」とか、それなりにリアクションをしてくれたものでした。
「おはよう、メアリー。これから手紙を読もうと思っているんだが、いいかい?」
今じゃあ、コレですよ。そうそう、以前ちょっとした事件がありまして、それ以来先生の手紙のチェックを一緒にしています。先生につこうとする悪い虫は徹底的に抹消抹殺、完全消却。この言葉はお義母様の教えでもあるのです。
「まぁ……今日はまた、随分と多いですねー」
先生の仕事用デスクにはいつもの量の倍はあろうかという手紙の山がありました。大魔導士というのは大変なんですね。わけのわからない団体やら研究機関やら、一般魔導士の私には馴染みのない集団からの講義依頼や引き抜きのお誘いなんかが今日も先生の元に届けられているわけです。
「さてと、まずは身内からの手紙が……あるね」
ここなんですけど、先生は地味にすごいことやってるんです。どうやって判別してるのかはわかりませんが、先生は手紙を公的なものと私的なものに一瞬で手を触れずに魔法で分けて、さらに公的なものはまた何グループかに分けるという、一流の郵便局員も真っ青の魔法技術を駆使するんです。
その作業を秒で終わらせて、これまた手を触れずに一通の手紙をご自分の前に引き寄せるという変態的魔法技術も見せつけてきます。そして、まだ手を使いませんよ。すぐに封蝋を溶かす魔法を使うんですが、これが何回見ても気持ちがいい。
手紙には焦げ跡ひとつ残さずにジュワーっと封蝋だけが消えてなくなるんです。火の魔法の応用らしいんですけど、火が出ている様子は目に見えません。透明なんです。透明の魔法というものを先生以外で使っている人を私は見た事がありません。
いわゆる不可視の魔法というジャンルらしいのですが、えーと……前に先生が説明してくれたんですけど、その時聞いてもよくわからなかったんで、これ以上説明できません。難しさの割に実用性に乏しいみたいなことはいってました。そこらへんの所は先生に後々、幼等部じゃなくてもっと高度な教育機関で講義をしてもらうとしましょう。
「ふむ、兄さんからだね」
先生が手に取ったのは高そうな紙に短い文章が書かれたものでした。これは間違いありません。先生のお兄様であり、私のお義兄様にあたるレオ様からのものです。私が中高生だった頃にキャーキャーいわれてたイケメン魔導士です。レオ様はイケメンです。あ、それはもういいましたね。魔法の腕前は大賢者に並ぶほどの実力者だそうですが、これまでに先生宛に送られてきた手紙の内容的にはとても信じられないですね。だから実力者というのは嘘なんじゃないですかね。私の独自の魔力測定によるとレオ様はポンコツです。それもかなり。
メアリーという子も連れてくるがよい
クルガヨイ三世
今日もレオ様からの手紙にはわけがわからないことが書いてありますね。私はどこに連れていかれるのでしょうか。でも心配は無用です。どこへ連行されようとも先生が一緒にいる限り私の身は安全でしょう。
「いや、これクルガヨイ三世さんからですよ?」
ここで先生にひとボケかまします。なんたって大魔導士の専属給仕ですから。
「そんな三世はこの世に存在しないんだよ、メアリー。これは兄さんからのものだ」
素晴らしいツッコミが返ってきます。さすが先生です。もはやこのやりとりは夫婦の領域。同僚の美人女教師なんかには先生を渡しません。この面白大魔導士は私のものだ。
「あれ? これも兄さんからだ」
同じ人から二通も手紙が届くなんて、珍しい事もあるものです。きっと先ほどの手紙に書き忘れた詳細なことが書いてあるのでしょう。レオ様は先生と似ておっちょこちょいですからね。直接お会いしたことはまだないんですけど、手紙の文章でわかります。学生の頃に憧れていたレオ様には幻滅しました。すべてが雑なんですよね。そこは先生と似ていないですね。
先生はお仕事で年に一回か二回ぐらい遠方へ出張なさるんですけど、その時に欠かさずに私にお手紙を書いてくれます。こっちの気候はどうたらこうたらで、もてなされるのはいいけど私の作る料理のほうが舌に合うだとか、子供たちや飼ってる猫ちゃんの様子は変わりないかとか、私と結婚したいとか、それはもう事細かに書いてありますね。きっと先生は私のことが大好きなんでしょう。私も好きです。なんか話してたら先生からのお手紙を読み返したくなってきたんで今日のおやつを焼いている間にでも読もうと思います。さて、私は先生と一緒に再び短い文章の書かれた手紙を読むというよりは見ました。
実家でやっから
ヤッカラマン一号
「いや、これヤッカラマン一号からですよ?」
「そんな一号はこの世に存在しないんだよ、メアリー。もうわかるだろう?兄さんの芸風が」
そんなことはわかってますよ、先生。今はただ、この幸せな時間を噛みしめさせてくださいよ。
「真面目な話、これって何のことなんですか?」
二通目の手紙を読んでも、私にはさっぱり内容がわかりませんでした。二つの手紙の内容をつなぎ合わせると、どうやら私は先生のご実家に連行されるということらしいのですが……。
「うーん、おそらく……兄が主催するクリスマスパーティーに我々は招待されているようだね」
「クリスマスパーティーですか」
気が付けば、もう12月。皆さん、お餅をつく準備はよろしいですか? 私は昨年……といっても今年の始めのことか。私たちは二人とも実家に帰らないで学校に残ってたんですけど、その時に先生がお餅をついてくれて、生まれて初めてお餅を食べました。それが美味しいのなんのって。おかげさまで増えましたよね。体の重が。 つきたてのお餅とかいう悪魔の食べ物を私に教えた罪で先生には私と結婚するという罰を与えようと思います。ちなみに私の好きなお餅の食べ方はあんこときなことゴマと磯部焼きと……。
「……どうする?もし嫌だったら適当に理由をつけて断っておくよ」
「え? 嫌なわけないじゃないですか。行きます!!」
しまった。会話に集中しないと。ここはもう少しごねて先生とイチャイチャしてもよかったのでは? 突如、先生はベランダに視線を走らせました……ごめんなさい、嘘です。ここ、カットしてるんです。私の叫び声があまりにその……ちょっと皆様にお聞かせできないレベルの騒音というか、そういうものだったので。
前代未聞ですかね? 嘘をつく給仕係はお嫌いですか? 前後のつながりがわからない方に説明しますと、ベランダの手すりの下の方で茶色いお日様がチラチラと昇ったり沈んだりしていたのに気付いた私は突如、絶叫しました。それが茶色いお日様じゃなくてヒトだと思ったからです。
私は先生の体に隠れるようにして身を守りました。すると先生は軽くため息をついて立ち上がると、ポリポリと頭をかきながらベランダへと進みました。私も先生の体の後ろに隠れながらそれに続きます。
「箒無しで空を飛ぶのは相変わらず下手だな、テオ」
不審者の正体は、先生のお友達でツルツルのハゲ頭がトレードマークのテオさんでした。朝からビビらせやがって。私はホラーは嫌いだっていってんだろ。
「あのー、アレ。とりあえず助けて」
決まり悪く浮遊しているテオさんを先生は片手で軽々と引っ張り上げました。さすが先生。見かけに違わぬ剛腕ぶりです。そして先生は「外は寒いから」といってテオさんを室内に招き入れてしまうのでした。
俺の名はテオ。色々あって今は……冒険家ってところだろうか。まぁ、そんなようなことをしている。ちょうど今、俺の目の前で若い女とイチャついているデブがいる。こいつの名はユリエル。戦友、旧友、色んな言い方があると思うが……まぁなんだ、嫌な奴だよコイツは。
俺が火山灰降り積もる原始的な大自然と格闘している間にコイツはこんな暖かい部屋で若い女とイチャイチャイチャイチャ……。こっちはこんな奴のためにまぁまぁ危険な仕事をこなすハメになっているっつーのに……えー、テオ・ユスティニアヌスはユリエル・アレキサンダーが嫌いです。大嫌いです。
めんどくせぇから端折って説明すると、俺は迷いの森の深層で古代竜の秘湯を見つけることに成功した。その秘湯はジイさん……あー、ストラデウスっていう化け物じみた魔力を持つ魔法使いのジイさんがいるんだが、そいつによるとその古代竜の秘湯こそが俺の戦友であり、旧友であり、今現在俺の目の前でイチャイチャイチャイチャ女に絡みつかれてるこの……あー、なんかムカついてきたからもうやめようかな。
「テオ、どうしたんだ? そうだ、こんな時のためにこっそりと隠しておいたブランデーがある。飲むか?」
「あぁ? いらねぇよ」
何かを察知したらしく、ユリエルは俺の機嫌をうかがった。こいつは昔からそういうやつだ。それは悪い意味じゃなく、なんというか……人たらし、というやつだろうか。こいつを深く知ると大体の人間はそれにやられちまう。俺を怖がるふりしてユリエルの体にこれでもかと絡みついているこの給仕の格好をしたお嬢ちゃんなんかもそうなんだろう。
「それではお茶はいかがですか?」
俺は適当に給仕の娘に相槌を打った。なんかこの子、アレだな……邪魔だな。
「おい、お前の呪いについて話がある」
俺は茶の準備をしている給仕の娘に聞こえないように小声でユリエルに話した。
「えっ?」
「だから、お前の呪いについてだな……」
「はーい!! 出来ましたよー!! どうぞ、お召しになって下さーい!!」
くっ……さすがは名門魔法学校教師の専属給仕。仕事が早い。そして声がでかい。何だコイツ。まだ朝の5時だぞ。頭おかしいのか?
「で、テオ、なんだって?」
このデブはこのデブですっとぼけた顔しやがって。こいつ、わかっててやってるのか? 仕方なく俺は音の魔法をユリエルだけに向けて放った。
『お前の呪いについて話がある。この給仕の娘は何も知らないんだろ? さっさと退席させろ』
この魔法技術だけは錆びついちゃいない。仲間同士にしか聞こえない高等魔術による伝達手段だ。多少面倒だが戦時中はもしかしたらこの魔法が一番使われてたかもしれない。
「あー、それなら大丈夫。彼女は私の過去について知っている数少ない人間の一人だ」
「……それならそうと早くいえバカが!! 余計な魔力使わせやがって!!」
「なーにをイライラしてんだ!! 早朝からオジサンが大きな声を出すんじゃない!! メアリーが怯えてるでしょうが!!」
「そいつの声より全然小さいわ!! その歳になって、まーだこんな女に騙されてんのか、おめぇは!? 変わらねぇなぁ、お坊ちゃんはよぉ!?」
「おぉ、なんだ!? メアリーの悪口だけは許さんぞ!? 俺がどんだけこの子の世話になってるか知らんだろ!? 上等だ、瞬殺だよ!! 表に出ろ!!」
「やってやらぁ!! こっちはテメェを殺すための魔法を考えてあんだよ!! 影も残さず消してやる!!」
禁断の光殺法を見せてやる。俺が真剣にユリエルへの殺意を明確にした時、給仕の女が間に割って入ってきた。
「落ち着きなさーい!!」
耳をつんざくような大声に俺もユリエルも顔をしかめた。鼓膜がビリビリと振動する。魔法無しで俺たち二人を足止めするとは……この給仕、ただ者じゃねぇ。
「で……どこまで知ってんだ、この子は」
鼓膜の振動が止まり、平静を取り戻した俺は仁王立ちで勝ち誇る給仕の娘を顎でしゃくった。ホント何なんだ、この変な女は。
「ほぼ、すべてだ」
俺は自分がいつの間にか立ち上がっていたことに気が付いた。椅子に座りなおし、怒鳴り散らした喉を落ち着かせるために紅茶をガブガブ飲み込んで外の景色を見る。広がっているのは人を惹きつける、まさに魔力の森。ストラデウスに頼まれたこととはいえ、俺はこの森の制圧を楽しんでいた。ユリエルと再会してからまともに睡眠もとっていない。不規則につながる領域と領域。一つ制圧しては次の領域へ。それが終わったらまた次の領域へ……そんなことを繰り返していた時の俺の脳は快楽でいっぱいだった。もしかしたら、森の魔力にのまれかけていたのかもしれない。そして今日、久しぶりにここへ戻ってきた俺は、目の前で繰り広げられたイチャイチャにイライラした。……この一件が落ち着いたら少し休もう。具体的にいうと、スケベなお店に行こう。きっとスッキリするに違いない。
「……古代竜の秘湯を見つけた。ジイさん曰く、この秘湯はお前の解呪にはもってこいの場所だそうだ」
俺は淡々とこれまでのことも交えて説明を始めた。
テオさんが帰られてすぐに私にはすべきことがありました。そう、それは先生をからかうことです。
「先生も怒鳴ったりするんですねー」
「すまない。みっともない姿を見せてしまって……」
「いえいえ。それにしても、ちょっと照れますよー」
「え?」
「私のために怒ってくれたじゃないですかー」
「あぁ……」
なにが『あぁ……』なのでしょうか。先生は私の欲しい言葉をくれませんでした。
「テオさんとはいつもあんな感じなんですか?」
「そうだね……いつも喧嘩ばかりしていたよ」
先生はなんだか遠い目をされていました。その様子はとても新鮮なもので、ボーっとしているというか、先生らしくないというか。とにかくレアな先生のその姿を、私は心のカメラでとらえました。
「クリスマスも近いし、今日のおやつはシュトレンを焼こうと思ってるんですけど、先生はどんなものがお好みですか?」
「シュトレンか。懐かしいな……」
その時でした。先生のお姿が一瞬だけ、お太りになられている今の姿ではなく、どこからか爽やかな風が吹いてきそうな雰囲気の好青年の姿に見えた気がしたのです。
「……せん、せい?」
「……あぁ、すまない。ナッツがたくさん入っているものが私の好みだな。あとはメアリーが好きなものを入れてくれてかまわないよ」
「……わかりました」
混乱を隠しながら、その後も私は何度も先生のお姿に目を凝らしました。しかし、そこにいるのはいつもの穏やかな先生の姿だけだったのでした。
「……だからもしかしたら、そっちの方は戻らないかもって話」
「そうか……。だけど姿形がどうであれ、俺と母さんにとってユリエルは大切な子だ。もちろん、お前もだぞ?」
「ははは、そうかい」
仕事人間の似合わなすぎるセリフに私は思わず笑ってしまった。
「しかし良かった。これで母さんも少しは落ち着いてくれるだろう。親より早く死ぬ子供なんて……とてもやるせなかった……」
見慣れぬ父の涙に私は感情が釣られそうになった。
さて、我が最愛の弟は古代竜を前にしていかに立ち回るだろうか。類稀なる学習能力と魔法技術。それは兄である私が育んだ。しかし時に変な頑固さや間違った真面目さを見せるときもある。件の”彼女”がそれを解してくれる相手であるといいのだが……。
ご拝読ありがとうございます。シュトレンはですね、実はもう中に入れるもの決めてあるんですよ。ドライフルーツをお酒で戻さないといけませんからね。じゃあなんで先生に聞いたのかって?……えー、それでは次回もお楽しみに!!




