第8話 篠枝×俺=801−α
微BL。
「ちょっ、何してんのお前!?」
「どーぞお構いなく。ちょっと体借りるだけだから」
「構うわ!そんなアヤシイ発言されて黙ってられるかっ」
「酷いな〜。ボクって抱きまくら的なものがないと眠れないのに」
どっかの誰かさんと同じ理由かよ。
部屋別々にしといてよかった。
「俺は抱きまくらでもぬいぐるみでもないから諦めろ。無理なら布団丸めて抱き着け」
「ケチだな西谷、おりゃ〜」
「のああ゛ああっ!」
篠枝は俺の体の上にぴったりと密着(つまり抱き着いてきやがった)し、猫のように顔を擦り寄せてきた。
顎が篠枝の頭でぐりぐりと圧迫される。
「やめんかい、このセクハラ野郎っ!」
俺は負けじと渾身の力を込めて篠枝の額をぐいっと押し退けた。
「痛たたたっ。でーぶい反対っ!」
「お前の存在の方がよっぽどバイオレンスだ!」
男二人、一つの布団の中で何してんだか。
勘弁してくれ(二回目)。
昨日は幽霊騒ぎ(夢)のせいでちょっとしか寝てないんだよ。
「あー暑い……」
「もう夏だからね〜暑いあつい」
「そう思うんなら退けよ」
「いやんっ」
あぁ、おもいっきり殴りたい。
いやいや、冷静になれ。
こうなりゃとことん無視だ。
こういうヤツは相手にすればするだけつけ上がるもんだから、反応して言い返したりする方が負けだ。
放置するに限る。
ごろりと横向きになって目を閉じた。
「あれ、寝ちゃった〜?」
寝てます。
そりゃもうぐっすりと。
例え屋根が吹き飛ぼうがお隣りの騒音おばちゃんが騒ごうが、起きないくらい深い眠りについているのだ。すーやすや。
篠枝はなおもしつこく俺に声をかけたり突いたりつねったり揺すったりしてきたが、俺は今にも爆発しそうな怒りをぐっと堪えて寝たふりに徹した。
しーん…。
ふいに静かになった。
俺は一瞬、篠枝がいなくなったんじゃないかと思った。
でも俺に覆いかぶさる人の気配はそのままで、まさかこんな状態で寝たとか言わないよな、と心配になった。
ごそ、
暑苦しい布団もどきが動いた。
多分、顔を寄せてきてるんじゃないだろうか。
耳元に息遣いを感じた。
「あきおちゃんの秘密、教えてあげようか?」
ぱちっ。
思わず目を開いてしまった。
やべっ、とか思ったけど後の祭り。
観念して横向きの姿勢から仰向けに、ごろり。
「おっは、西谷」
にーこり。
もしくはにんまりと。
篠枝が嫌な笑みで俺を見下ろす。
うぇぇ……実に不快な体制だ。
まさかここにきて生粋の男好きです♪なんて言わないよな。
……言わないよね?
「……篠枝って俺のこと好き、……とかないよな。いや、ないって言って」
じーっ、と。俺を見下ろす篠枝。
ノーリアクション?一番怖いわ。
「うひゃっ!?」
ちょっと待て!説明?後じゃだめ?
余裕ねーよ!
「あっはは、くすぐったい〜?」
「何すんだお前はっ!」
「なにって、お触り?」
全く悪びれる様子もなく篠枝は言う。
何を思ったのか、この男は俺の左胸を何の前触れもなく(コイツの行動はいつも唐突だが)触れた。
そして撫でやがった。
ほ、本物の男好き?
「はっ、ははは早まるな止めろ!こーいうのはよくないよ篠枝クン!?ゴーインなのはあまり感心できんなまったく。それにほらよく見ろ、俺月並みだよ、むしろ下の下だから残念ながら!俺なんか襲ってもお得感ゼロだと思うけどな!?」しどろもどろのもみくちゃくちゃだよもう!!
助けて神様、アッーー!
「え〜?ボク、西谷のこと襲うなんて言ってないよ」
…………へ?
「だってボクはあきおちゃん一筋だもーん」
「だもーんって……ええー?」
「襲われたかったの?」
ぶんぶんぶんッ!(秒速10往復する俺の首)
「よかったね、ボクに好きな人がいて。でなきゃ今ごろ頂いてたよ」
この夏一番の恐怖体験だ。
「あー楽しかった」
「俺は死ぬかと思ったよ……」
人間、恐怖で死ねるんだ。
そう言っても過言ではない気がした。
「あっ、そーだ。あきおちゃんの秘密のことだったよね」
そんなこと言ってたな、そういえば。
さっきので全部ぶっ飛んでだけど。
「ボクが言いたかったのは、これ」
篠枝が僕の左胸を指差す。
そして悪戯っぽい笑みを浮かべて、こう言った。
「あきおちゃんは心臓の収集家なんだよ」
……収集家、って。
どういうこっちゃ。
「知りたい?」
もちろん、
「当たり前だろ」
そしてまたにっこり(にやり)と、篠枝は笑った。
何がそんなに可笑しいんだか。
「じゃあ、話してあげる。よーく聞いて」
この体勢のままかい。
そうツッコミたいのをぐっと堪え、俺を見下ろし続ける俺の話に耳を傾けることにした。
危うく直幸を受けさすところだった……。だらだらとすみません。




