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テディベアの心臓  作者: 烏籠
7/12

第7話 お泊り



「はぁ……」


重ーい足取りで家に着いて時間を確認すると7時過ぎ。

携帯を意味もなく開け閉めしながら家の前をうろうろと不審者のまね事をしつつ、ふと気がつくと時刻は7時15分。ぎゃー。

さすがにこれ以上うろつくと本当に不審者に成り下がってしまいそうだ。

仕方ない、観念して入るか……。

こんな時間だから篠枝はもうとっくに帰ってるだろうし。


ガチャ。


「お帰り〜!もーこの不良少年め、遅いぞ!」


バタンッ!



…………なんだあれ。

俺、今なんか……その、不気味な幻覚見ちゃったような?見てしまったような?

今の完全にアイツだったよなそうだよな。

だって…………えぇー。



「何やってんの直幸」


プチパニックを起こして頭を抱える俺を、ひょっこりとドアの隙間から顔を出してあきが覗いていた。


「何ってアレだよアレ。変なのがいなかったか?篠枝っぽい人物がエプロン的なもん着て俺に話しかけてくるなんて事態が起こったみたいな気が。どうしよう、俺の目やばいかも……」


「幻覚じゃないよ、だから安心して直幸」


「ご本人登場ばーんっ!」


「うわぁ出たよ…」


マジで涙出そう。

鉢合わせしないようにAの家で時間潰してきたのに、こいつ!

てっきりもう帰ったものと決めつけていただけにショックが大きい。

余計にパニクっちまったじゃないか。


「まぁ立ち話もなんだから入りなよ西谷」


ここはお前の家じゃねーよ。

ツッコミたい事は山ほどあったが、とりあえずなかに入ることにした。

部屋中に漂うカレーの匂いに釣られたわけじゃない、断じて。

ただちょっとお腹にカレー一皿分の空白があるだけだ。


「いただきまーす」


ぱくぱくとカレーを口に運んでは食べるあき。

食べ盛りですねーで片付いたらどんなにいいことか。

俺は斜め前に座っている篠枝を睨んだ。


「ほらほら西谷くんもお食べ〜」


全く効いてない。こいつ、やりおるな。

だいたいなんであきの隣にちゃっかり座ってんだよ。

そもそも人の家で勝手にクッキングに勤しむってどういうことだこらーッ。

つーか親父どこ行った!?


「今日おじさん帰り遅くなるみたい。懐かしい友達とばったり会っちゃったみたいで、ちょっくらツチノコ探してくるって」


「どんな友達と会っちゃったの!?」


あの親父ィ……いや、いたらいたでややこしくなるからまぁいいや。

俺の親父は変わり者で、その親父の友達ということはやっぱり変わり者なのだ。

類は本当に友を呼ぶんだぜ。

とにかく、未確認生物やらUFOやらといった類の話を聞きつけてはよっしゃー!と勇んで出掛けて行く。

そんな理由で家を空ける事はしょっちゅうだった。

別にいいんだけどね、夢があってさ。

って、それは今置いとくとして。

問題は篠枝だ。

一体何を企んでいるのか……。


……はッ!


「し、篠枝。お前、まさかとは思うが……ひょっとして泊まる気じゃないよな」


「あらバレた」


「何ですと!?」


そんな気はしてたけどね!


「あっははは、大丈夫大丈夫。ちゃんと着替え持って来てるから」


怖ッ!

それって今日の朝からずっと持ってたわけだろ?

確実に泊まる気でいたに違いない。

俺の家を乗っ取る気か。そうなのか?

まさかこのまま家に居着くつもりじゃないよな。

今までの展開からして十分有り得る……。

恐る恐る篠枝の顔を見ると、奴はにっこりと笑顔で邪悪な一言を言い放った。


「あ、心配しないで。週一のペースだから」


「週一!?」


「着替えだけじゃなくて歯ブラシもあるから安心して泊まれちゃう」


何が泊まれちゃうだ何が!

これはきっとあの作戦に違いない。

少しずつ私物を置いていき、徐々に乗っ取っていくパターンか!


「というわけで部屋に泊めてくんない?あきおちゃん」


ぶちっ。

何かが切れた。



□ □ ■ □



俺に新たな使命が出来た。

篠枝という男の監視だ。

これ以上好き勝手されてたまるか。


「西谷……まさかボクのこと、好きなの?」


「んなわけあるかい」


「だってずーっと見てくるし、もしかしてボクに気があれのかなって。きゃー」


「絶対ないから安心しろ」


「あっははー。ほんと西谷っておもしろいね」


……疲れた。

さっきからずっとこんな調子だ。

篠枝のペースに巻き込まれっぱなしで、正直もう逃げ出したい。

でも残念な事にここは俺の部屋。


「ねーあれやろ、枕投げ」


「断る」


言葉と態度のセットで拒否を示しているというのに、篠枝は俺目掛けて枕を投げつけてきた。

人の枕勝手に投げるなよ……。


「ノリ悪いぞ西谷。なら今度はあれね、好きな子を大・発・表!」


「なにこの無駄にウザい修学旅行のノリ」


「ボクはもちろんあきおちゃーん」


ああ、やっぱりですか。


「西谷も好きでしょ、あきおちゃんが」


……本当に何なんだこいつは。

 

「あーはいはい好きですー。というわけでオヤスミ」


「待て待て、夜はまだ長い。とことん話し尽くそうじゃないか」 


「お前うざいって言われたことない?」


「全くをもってない」 


「そうか。んじゃ俺はもう寝るから話しかけんなよ」


「させないぞー寝かさないぞーう」


もうほんっと勘弁してくれ。

監視しやすい+あきに近づけたくない。

そんな考えから篠枝を俺の部屋に無理矢理引っ張ってきたけど、甘かった。 

俺の体力と気力がもたない。

お願いだから早く夢の世界旅立ってくれ。


「ヒツジがいっぴきぃーヒツジがにひきぃーヒツジがさんびきぃー」


「おお、西谷ってそれで寝れる人?ボク初めて見た」


お前だよ。さっさと眠れー!


「よいしょっと。お邪魔しまーす」


「ぎやぁぁぁ〜!」


唐突に。

本当に何の脈絡もなく。

篠枝が俺の布団に潜り込んできた。

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