第6話 青春と夕陽とA
BL風味。
「二人ともおっはー!いや〜今日もいい天気どすな」
「お、おっはー……」
「おいおい直幸、秋桜くんが若干引いてるぞ」
昨日の事で気まずくならないようにと思ったのに逆効果だったか?
でもぎくしゃくするのは嫌だし、俺は出来る限り普通に振る舞おうとしていた。
……はずなのに。
「や、姫。おはよ」
「左依キモいよ」
「あっはは、恥ずかしがり屋さんめ」
「あの、通れねーんスけど」
おのれ新キャラ。
俺がせっかく頑張っているというのに。
ドアで待ち伏せとはいい度胸だ。
「ごめんごめん。さ、どーぞ」
「いやいや、悪いね」
「あきおちゃんはこの胸とーまれ……って、ちょっ!反対側のドアから入んな」
ちゃっかりもう一つの扉から教室に入って行ったあきは何事もなかったかのように席に着いた。
「あーあ、逃げられちった」
「残念だったな篠枝クン」
ひゃひゃひゃっざまーみろとか口には出さずに思ってみる。
ちらり、とこっちを見る篠枝。
にやついてるのばれたか……?
居心地悪いし俺もさっさと席に着こ。
「えー、と。あれだ、西谷クン」
わーお。引き止められたよ。
「西谷でいいよ」
「じゃあボクのことは篠枝で」
いやもうとっくに、心の中ではもう呼び捨てだったけど。
「ね、あきおちゃんとどーいう関係?」
「同じ幼稚園に通ってたんだよ」
「正解!」
なぜアンタがそれを言う。
「あきおちゃんに聞いた通りだね。ちなみにボクは中学が一緒」
「正解。俺もあきに聞いた通りだよ」
「あっはは、西谷って面白ーい」
「篠枝もなかなか面白いよ」
なんか珍獣的な意味で。
「よーし、続きは休み時間でやれよー」
お約束の先生登場。
ちっ、命拾いしたなとか言うのは負けフラグっぽいので止めた。
□ □ ■ □
あれから休み時間のたびに俺達は腹の探り合いじみた会話を繰り広げてきた。
気ががつけば昼になり、放課後になり、そして今もそれは続いていた。
「って、何で一緒に帰る羽目になってんだ!」
ついそのままのノリで教室を出たら、いつの間にやら三人一緒に下校する事になっていた。
「二人の家ってどんなとこかなー」
「うわ〜この人めちゃくちゃ上がる気満々なんですけど」
勘弁してくれ。
そんな俺の気持ちを無視して篠枝は家にお邪魔してきた。
人数分の麦茶をお盆に乗せて、俺はあきの部屋まで運んだ。
「おまたせー……」
ドアを開けた瞬間、俺は石みたいに固まってしまった。
ぬいぐるみだらけのメルヘンベッドに乗り上げた篠枝と、その下にいるあきと目が合う。
ほわーい?
「……アノ、オ二人ハ一体何ヲシテラッシャルノ?」
片言の日本語で精一杯だ。
「……プロレスごっこ?」(下)
「そうそれプロレス」(上)
もっとましな言い訳はなかったのか。
あきは完全に目が泳いでいる。
「あー……俺、ちょっと出てくるな」
邪魔者はさっさと消えますよ。
あきが何か言いかけてた気がする。
けど、残念ながら耳を傾ける余裕はない。
俺はせめてもの嫌がらせのつもりでお茶を持って部屋を出た。
……ちっさ。
□ □ ■ ■
「そりゃ確かにさ、俺とあきが一緒にいたのは幼稚園の頃だけだったよ。でも考えてみたら中学も幼稚園も時間的にはあんま変わんなくね?とか思うんだよ」
「……そーですね」
「そもそも一緒にいた時間とかそういう事じゃないだろ。重要なのはどんだけ友情度を育んだという事であってだな」
「俺もう疲れたんだけど……」
「いやいや、だからってあんなぶっ飛んだ友情の育み方は違うだろ。もはや別の何かを育もうとしてるだろうがーっ!」
「だぁーもう!帰れよ頼むから〜。人の家押しかけておいてグチグチグチグチさぁ、もうたくさんなんですけど!」
キレるクラスメイトA。
そう、ここはクラスメイトAの家なのだ。
「琴原だ、KO・TO・HA・RAー!」
「ちょっと依月くん、うるさい!」
ドア越しに聞こえてきた声は多分琴原のお姉さんのものだ。
「ごめん姉ちゃん!ほら、姉ちゃん怒ると怖いから今日のところはお引き取り下さいマジで」
「えー」
俺の不満の声は無視され、ぐいぐいと琴原に押されながら家の外まで連れて行かれた。
「Aの薄情者!」
「せめてKと呼べ。お前なぁ、こんなとこわざわざ来る前に三國と話しろよ」
そんな言葉付きで送り出された。
大きなお世話じゃーとか思いながら俺は家路に着いた。
俺、何でこんなに必死なんだろ。
篠枝があきと中学一緒だったとか、十年の空白とか、数日間また一緒にいられた事とか、でも今はなんか遠いなとか。
あーもう何がしたいんだ俺!
考えてみたらおかしいだろ。
もやもやした気持ちとか、あれが嫌だとか、これがきにくわないとか。
そういうのは全部、あき関係のことで、一日中そればっか考えてて。
俺の頭はいつお休みできるんですかーっ、なんて感じで。
なんか埋め尽くされてんだよ、ぜーんぶ誰かさんのことで!
これじゃあまるで、
「春が来たみたいやないかーい!」
夕日に向かって叫んでみた。
「頼むから俺の目の届かないとこでやれやこの色恋男ーっ!」
俺の背後からAの悲痛な叫びが響いた。




