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テディベアの心臓  作者: 烏籠
4/12

第4話 お世話になります。




「いやいや。何故あきもただいま?」


「えー?だって、」


「おーっ!お帰りお二人さん」


無駄にバカでかい声に介入された。


「親父!」


「おじさん、お久しぶりです」


「いや〜懐かしいな秋桜君!すっかり大きくなっちゃって」


「ありがとうございます。これからお世話になります」


「いやいや、こちらこそ。これで家も賑やかになるな〜」


俺は一人蚊帳の外で二人のやり取りを見ていた。


「荷物は部屋に運んどいたよ」


「わざわざすみません」


「遠慮はいらないよ、もう秋桜君は立派な家族なんだから」


「おじさん……っ、ありがとうございます!」


「待て待て待てー!」


「ん?何だ直幸」


「どうしたの?」


「どうしたもこうしたもねぇーよ。何か聞き捨てならない事を話してたような……」


いや、やめてキョトンとするの。

俺のほうがしたいわ。


「秋桜君、もしかしてまだ話してないのか?」


「あ、いっけなーい☆」


「このうっかり屋さん☆」


親父ィィ!

やめろ!☆付けんなよ!歳考えろ!

何なんだこの茶番は。


「ごめんごめん、言い忘れてて。僕、今日からここでお世話になる事になったから」


………は?


「あの、お世話とはなんぞや?」


「だから、直幸の家に住むんだって」


「え………あき、が?」


「うん」


「いや〜家が賑やかに

「ってなんでやねーんッ!少しは会話を繋げろよ!」


「何言うてんの、話繋がってるやんか」


「違ぇーよ!口調じゃなくて会話の流れだから!」


「やだな直幸、ノリ悪ぅー」


「そんな子に育てた覚えないぞ」


あんたらのそのふざけた態度が悪ィんだろうが!

俺はついに家庭でも居場所をなくしてしまったのか。


「……で、マジにあきは家に住むのか?」


「さっきからそう言ってるじゃん」


何このマイペース。


「はぁ……いつからそんな話になってたんだよ」


「昨日だよ」


急だな、おい。


「昨日はとりあえずフミちゃんとこに泊まってたんだ」


フミちゃんとは近所に住んでるおばあさんだ。

文緒さんというのだが、さん付けだと怒るのでそう呼んでいる。


「それでフミちゃんから俺に秋桜君の事を電話で聞いてだな」


「……二つ返事で受けたんだろ」


「おう」


ははは……返事も決断も男らしいですね。

まぁ昔から馴染みのあるフミちゃんの頼みという事も理由の一つだろう。


「と言うわけでよろしくね」


お前それでよろしく何回目だよ。

それすら言う気力も削がれていた。

そしてどんだけ王道パターン?

こういうのって普通女の子が相手だろ?


「悪かったね男で」


「心の中まで読まないでクダサイ……」


カムバック、俺の平穏。




■□■□■



「助けてなおちゃん!」


ばんっ!と派手に音を立てて部屋に侵入してくるあき。


「どしたよ」


「荷物の片付けめんどいからやりたくない、手伝って!」


「ふっ、その手には乗らねーぞ。何だかんだで全部押し付ける魂胆だろ」


「え。駄目なの?」


「片付けぐらい自分でなさい!」


「やーだー!お母さん手伝ってよぉー」


「俺はいつからお前の母親になったんだよ」


「ちっ……役立たずが」


「少しはキャラを一定に保つ努力しろよ……」


そのままずるずると引きずられるようにして隣の部屋まで移動させられた。

もともとは物置として物が乱雑に仕舞われていたが、いつの間にか綺麗さっぱりと片付けられていた。

親父が張り切って片付けに勤しんでいる姿がありありと想像できた。

そして正体不明の段ボールが三つ、俺の部屋の片隅にどっかりと置かれていた。

それ片付けじゃないからね、邪魔な物をほったらかしただけだから。


「しかし一日足らずでよくここまで綺麗にできたよな。物置からこざっぱりした空き部屋に進化するとは……」


「空き部屋……あき、部屋」


「違うぞ、決してサブいオヤジギャグじゃないぞ」


何やら楽しそうに笑うあき。

こいつの笑いのツボは俺には理解できん……。

俺はため息をつきながら、親父がお遊びで作ったであろう段ボールピラミッド(三段)の解体を始めた。


「っく、あははっ」


「あきおくーん?今はお片付けの時間ですよー」


掃除や片付け中恒例の漫画の誘惑に逆らいきれなかった(むしろ逆らう気がさらさらない)あきにやんわーりと注意する。


「直幸、口じゃなくって手を動かしなさい!」


「悪い悪い……って、えぇー?」


ほらみろ、自分で片付ける気ないじゃねーかよ。


「へいへい、やりゃいいんだろ」


それに素直に従う俺って……。

俺この先ずっとあきにコキ使われまくるな、絶対。






「……ん?」


片付けも終盤に差し掛かったころ、最後の一つとなった段ボールの中のある物に目が留まった。

これは、


「くまのぬいぐるみ……?」


年期の入った、ふさふさした茶色の毛をしたくまのぬいぐるみ。

その段ボールの中には他にも6体、大小様々なくまのぬいぐるみが入っていた。


「何だこのメルヘンの塊は……」


「実は僕、ぬいぐるみがないと安眠出来なくて……ぐすっ」


「いやいや………えぇー?」


「こう……ぎゅっと、して。ぐがぁーー、と」


「リアクションに困るわ」


にしても案外可愛いとこあんだな。

完全なドSへと生まれ変わったわけではないようだ。



そしていそいそとぬいぐるみをベッドに並べだした。

うん、自分のやりたいとこだけ行動力発揮するよな。


そうこうしている間にメルヘンチックなベッドが完成した。


「これ、ずいぶん古そうだな」


「小さい頃からずっと持ってるしね」


「言っちゃ悪いが、捨てようとか思わないのか?」


「それがね、捨てれないんだよ。前に捨てようとした事があったんだけど、何故か戻って来ちゃってさ」


「戻ってきた?」


「朝起きたら枕元にあるんだよ。何回捨てても必ず戻ってくるから困った困ったー。あははっ」


「……え、それって」


祟りか?

祟りなのか!?

それはいわゆるいわくつきのアレか!


「おまっ……ヤベーよ、それ呪われてるよ!?」


「えー何それ、直幸っておばけ信じてるの?」


「信じてなかったけど今信じた!」


「大袈裟だなぁ、たかだか捨てたぬいぐるみが枕元に帰ってきたぐらいで。確かに知らない女の子がずっと後ろをついてきたり天井から女の人が逆さ吊りになったり僕の部屋だけ地震が起こったりするけどさー」


「ああぁぁァーーー!!」

更新滞ってすみません……。

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