第3話 過去の事件
秋桜の両親は殺された。
まだ幼いガキだった俺は、当時あきの身に起きた事について何も知らなかった。
おじさんとおばあさんは亡くなった、そしてあきのお兄さんは行方不明になった。
親父からはその二つだけを伝えられた。
本当にそれだけだった。
あきが巻き込まれた事件について、俺がそれ以上の事を知ったのは随分後だった。
三國家に侵入した何者かによって、あきの両親は殺された。
そして、あきだけが助かった。
もしかしたら行方がわかっていない兄が生きてるかもしれないが、その可能性はほとんどゼロに近かった……。
犯人はまだ、見つかっていない。
―――――…‥
「僕はその後、この街を引っ越して行った」
「それでしばらくおばあちゃんの家で暮らす事になった」
「あきはおばあちゃんっ子だったな」
「大好きなおばあちゃんと一緒にいられて、僕は毎日楽しかったよ」
「あき……」
楽しい。
でも本当は寂しい気持ちをごまかしてたんじゃないのか?
「おばあちゃんの家はここよりもっと田舎だった。きっと大人達は僕の精神面を心配して、自然の中で傷を癒そうと考えたんだよね。そこで一ヶ月間自宅待機。で、近くの学校に通い始めた」
あきは言葉の合間に、食べ終わったアイスの棒の端を噛んでいた。
「普通だったよ。僕は新しい学校で友達もできたし、成績もそこそこ。僕はみんなに両親は事故で亡くしたって話したんだ。似たようなものだし。その街の人は誰も事件の事を知らなかった。それもあって僕は普通でいられたんだろうね」
なぜ、あきはこの街に戻ってきたんだろう。
十年近く前とは言っても、事件の事が完全に忘れ去られた訳じゃない。
あきは被害者だ。
それでも噂の種に充分なりうる。
そういったタチの悪い噂は、話し手の意思に関係なく人を傷つけてしまうものだ。
それがどんどん広がる。
酷い話だ。
「直幸が言いたい事当ててあげるよ。何でわざわざこの街に帰ってきたんだ?……だろ」
「……ああ」
「僕は誰に何と言われようが気にしないよ。だから帰ってくる事自体に抵抗はなかった。気まぐれだよ。ちょっとそこまでの感覚で充分なんだ。まずはどこに行ってみよう………そうだ、直幸に会いに行こう。……うん、こんな心境」
「……お前大胆だな。そんな気軽に普通ここまで来るか?」
「変かな?まあ、それはいいとして。だったら本格的に里帰りするのもいいかも。てかもう当分そっちで生活してみる方向もありか………と」
「すげーなおい」
「おばあちゃんは僕に弱いからかくかくしかじか、まるまるうまうまって感じで温かく見送ってくれたよ」
「まる……うま?」
「“おめぇがそうしてぇんなら好きにしなせぇ、ばあちゃんはずっとあきちゃんの味っ方だぁ〜”って……」
「え、本当にそう言ったの?つーかそんなしゃべり方だったの?」
「ありがとう、おばあちゃん……っ!」
どこか明後日の方向を見ながら、秋桜は己の道を突き進む決意を固めたのであった。
何、これ。
「まぁそういうわけだから、これからもよろしく」
「お、おう」
「雑用係」
「まだ怒ってんのかよ!?」
□■□■□
「三國くん、おはよ!」
「おはよう」
「はよっ、転校生。お、後ろのは家来か」
「うん、僕に忠実な下僕なんだ」
「ぶっ!ダッセー」
「やだウケる〜」
「お前らは鬼かァ!」
クラスに馴染めてよかったね、とかそんな微笑ましいもんじゃないぞ。
何だこれ、クラス中がグルか!
俺どんだけいじられキャラなんだ。
「くそっ、みんな騙されるな、こいつ腹ん中真っ黒だぞ!」
俺の事明らかに下僕呼ばわりしてるのに、このクラスの奴らの(悪)ノリのよさは異常だ。
「昔のダチの事忘れるひとでなしが悪ィよ」
「そうよ、外道!」
「ちょ、それはいかに何でも傷つくから!あと人の道は踏み外してませんっ」
「あはははっ」
「あーきー!」
本当に最悪だー!
……でも。
ほんと、クラスに馴染めてよかったな。
あきの、新しい居場所だ。
「このアンポンタン!」
「すっとこどっこい!」
「ヘタレー!」
「ロリコン野郎!!」
……って、お前ら。
「言い過ぎじゃーー!」
□■□■□
や……やっと終わった。
ガクッ。
「どうしたの、な・お・ちゃん」
「いや、アンタのせいだよ」
俺は確かにこのクラスでは普段からいじられキャラというポジションだったが、今日は一段と酷かったような気がする。
それもこれもあきのせいだ。
小悪魔で腹黒で、その上ドSかよ。
「さ、帰ろ?」
「はいはい」
それなのにこの笑顔。
反則だろ。
いや、何がって。
それはその、ねぇ?
何だか昨日からやたら変なフラグが目につくような……。
いや、気にしない気にしない。
落ち着け、俺。
いくら何でも考えすぎだ。
はっ!さてはあれか?
今までのフラグの数々はあきなりのスキンシップ?
ベーコンレタスとかじゃなくて男の熱い友情か!
そうだったのか……。
すまないあき、気づいてやれなくて。
そうだよな、本当に久しぶりの再会だったもんな。
過剰にじゃれつきたくもなるわな……。
よし、今日も家に誘おう。
「あき、今日も家来れば?」
「もう着いたけど」
「おぉ?」
気がつくともうすでに家の目の前だった。
「さっきからぼーっとしてたけど、何考えてたの」
「いや、別にー」
お前の事考えてたとか言えない。
怪訝な顔のあきを玄関まで急かした。
そしてドアを開けて、
「「ただいまー」」
俺達の声がキレーに重なる。
……んんー?




