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血よ! 臓物よ! 生贄を捧げろ! 目の前にいるのはお前の贄だ! 人喰い狼よ肉を食い尽くせ! 今……呪祭が始まるのだ!


「オルトロスの役職は、人狼です……!」

その瞬間俺の肩からふわっと魂が抜き取れたかのような感覚が生じた。一気に肩が軽くなった。

「人狼不参加型の人狼ゲーム。その正体は、人狼がゲーム開始前に死ぬってだけか。それで人間同士の醜い疑心暗鬼のつぶしあいでも見たかったとかだろ……これでゲームクリアか、あっけなかったな。ん? でもなんですぐ言わなかったんだ?」

おかっぱ貞子は、

「いきなり朋子さんが死んでいたのでびっくりして……それに、まだ人狼が潜んでいるかもしれなくて怖くて……」


「そっか、まぁでもこれで俺たちは解放されるんだな」

ヤンキー正義は、

「ふぅ……なんだよ。ビビって損したぜ」

女子高生アリアドネは相変わらず膝を抱えて黙っている。

メガネ男子カツオは、安堵の表情でヘナヘナと座り込んだ。腰が抜けたのだろう。


「ゲームマスター?」

【なんだ?】

「これで俺たちが全員自分に投票すれば、ゲームエンド。俺たちは帰れるんだよな?」


【…………その通りだ】


(良かった。本当にこれで終わったんだ)

「一応聞いておくか……ゲームマスター。直近の投票率を教えてくれ」

「なんでそんなもん聞くんだよ? もうゲームは終わったんだろ?」

と、ヤンキーが口を挟む。

「うるさいな。念のためだ」

(本当に人狼がいないのなら朋子は、投票で死んだことになる。最後にそれだけ確認したい)


【よかろうでは、前回の投票率を発表する】


[第一夜 投票率(%)]

桜(俺)十七

アリアドネ(女子高生)〇

正義(金髪ヤンキー)十七

貞子(おかっぱ女子)八

カツオ(メガネ男子)八

朋子(死んだ赤髪)五〇


「は? どういうことだ?」

投票は明らかに不自然な割れ方をしていた。

(朋子に五〇%も票が入ったのか? おかしいな。なんで票の数がこんなに多いいんだ?)

「おい! 本当に俺たち六人だけで投票をしたんだよな? 隣の部屋に人がいて、そいつらがモニター越しに投票しているなんてことはあるか?」

【ゲームの根幹に関わる質問なので、答えられない】


ヤンキー正義は、

「おい! もうどうでもいいだろ! そのモニター越しに見ている連中も俺たち全員に一票ずつ入れてくれるだろ? だって俺たち全員が役職を公表したんだぜ?」

「確かに……な」


正義の言っていることはまとを得ている。

仮に別室から投票のみする他のゲーム参加者がいても、俺たちの様子を見てこの中に本当に人狼がいないことは明白だ。

役職カードを見せたし、オルトロスが人狼であることが判明した。

このゲームが公平なルールに基づく勝利可能なゲームであるなら、俺たちの勝ちは確定。

サイコ野郎が仕組んだ八百長なら、どのみち俺たちは何をやっても殺されるから考えても仕方ない。

(これで……いいのか?)


そして俺たちは互いの身の上話をしたりして、時間を過ごした。(トイレと水は部屋の隅にあった)。だらだらしている間に、ポケットにレシートが入っていることに気づいたが、何かの役に立つとは思えない。


そして、

『では、第二夜の時間だ。各々のカードに殺害したい人物の名前を書いてくれ』

「みんなわかっているな? 各自自分の名前を書いてくれ」

「わかった」「おう!」「わかりました……」「はい!」

女子高生アリアドネだけは黙って頷いただけだった。

俺は立ち上がり、

「なあ! もし今このゲームを別室で見ている人がいるのなら、俺たち全員に一票ずつ入れるか、一切投票しないでくれ! それで俺たちは全員勝てる!」


このセリフがどこかの誰かに届いたかはわからない。

俺は右手で、役職カードに自分の名前を書いた。

その時だった。俺は吸い寄せられるように女子高生アリアドネの方を見た。

彼女は口パクで、

『あんたなんかに何もできない。どうせみんな死ぬのよ』

と言った気がした。



俺はゲームマスターとの先程のやりとりを思い出した。

【ゲームマスター、直近の投票の得票率を教えてくれ】

【よろしいその場合、ゲーム参加者全員の名前を発表することになる】


得票数は不明だが得票率はさっき言った通りだ。あの得票数的に……


その瞬間、最悪な考えがよぎった。

【では二夜目の投票を終了する】

俺は声を張り上げて叫んだ。

「待て! 待ってくれ!」

「ちょっとどうしたんですか……?」

「もうゲームは終わったんだろ?」


「ゲームマスターは嘘をついてない! 得票率を計算したけど、ゲームマスターは本当にこのゲームに参加してない! これは罠だっ!」


だが、もう遅かった。

【諸君らには、十二時間眠ってもらう】

そのアナウンスとともに、不意に全身に眠気が生じた。

死神が足音を立てて俺に近づいてくる。

朦朧とする意識の中で、誰かが俺のそばにいる。

視覚も聴覚も揺らぐ。男なのか女なのかわからない声で、


「……おしかったな?」

と、そう呟いた。






目を覚ますと、部屋の中央にはメガネ男子カツオのバラバラ死体があった。

多方向からノコギリで同時に切り刻まれている。完全に人間の原型を留めておらず、肉塊の上にポツンとチャームポイントであるメガネだけが置かれていた。

「おえええっ! うげえっ! ゲホ!」

俺はトイレに行き、吐瀉物を流した。

俺が吐いている間、他のみんなは死体から距離を取るように壁際で縮こまっていた。


しばらくしてからみんなと同じように壁際に向かった。ヤンキー正義、女子高生アリアドネ、おかっぱ貞子。全員が青ざめた表情で、ぐったりしている。


「お前ら……今すぐカードの裏を見せろ! 指で消したりなんかしたらそいつが人狼だ!」

すると、ヤンキー正義が、カードを見せながら、

「どうなってんだよ、桜? お前さっきゲームは終わったって言ったよな? 勘弁してくれよ……」

「悪い。俺の読み違いだ。あとで説明する」

彼のカードには、正義と書かれていた。ヤンキー正義は間違いなく自分に投票した。


「アリアドネ? カードを見せてくれ」

だが彼女は、

「うっさいわね……もうどうだっていいじゃない。どうせみんな死ぬんだし、あんたも死ぬのよ?」

俺は不安感と恐怖から彼女の制服を掴み、

「いい加減にしろよ! 怖いのはわかるが、せめて協力だけしてくれ!」

おかっぱ貞子が、

「やめてください! アリアドネさんは人狼じゃありません……!」

おかっぱ貞子は、役職カードの裏を見せてくれた。投票は『貞子』つまり自分にしてある。そして、その下に小さく、

【『神父』の能力で『アリアドネ』の役職を見ることに成功しました。

アリアドネの役職は…………『神父』】と書かれていた。


「これでいいですよね? アリアドネさんは間違いなく人狼ではありません。アリアドネさんカードを見せてください。誰に投票したかだけ教えて頂かないと……」


「わかったわよ!」

アリアドネはイラつきながら、俺にカードを見せてくれた。裏面には、なんと『アリアドネ』と自分の名前が書かれていた。アリアドネも自分に投票した。つまり人狼でもなければ、俺たちのゲームクリアを阻害しているわけでもないのだ。


だが、その下には

『神父』の能力で『桜』の役職を見ることに成功しました。

桜の役職は…………『村人』と書かれていた。

「俺を疑っていたからカードを見せたがらなかったのか? まあいい」

「それでなんでそこのメガネが死んだんだよ? しかもこれ、複数人に寄ってたかってバラバラに刻まれているじゃないか? 一体誰がこんなことしたんだよ……」


「この部屋の外にでも処刑人を待機させているんだろう。ゲームマスターはそいつらに汚れ仕事をやらせているんだ。それより、なんでカツオが死んだかだ」

おかっぱ貞子が、

「人狼は部屋の中央で死んでいるゲームマスターだったんですよね……?」

「ああ。でもそれは多分フェイクだ。ゲームを盛り上げるためか、本物の人狼を隠すためにそう設定されていたんだろう。ゲームマスターが、

【よろしいその場合、ゲーム参加者全員の名前を発表することになる】と言っただろ?

そのあと発表された名前は、俺たちの名前だけだ。だからゲームマスターは、このゲームに参加していないんだ」


ヤンキー正義が、

「要するに、ゲームマスターを『神父』で調べれば『人狼』と表示されるがそれはゲームとなんの関係もないトラップだってことか?」

「多分な……」

「じゃあ本物の人狼は一体誰だっていうんだよ? いるんだろ! この中に!」

ヤンキー正義は、恐怖に目を開き怯えながら俺たちの顔を順に見た。


俺は、

「そんなことどうでもいい……」

おかっぱ貞子が、

「そ、そんな! 諦めちゃダメですよ桜さん……!」

「いや、俺は絶対に諦めない。もうこの際人狼が誰かなんてどうだっていいって言っているんだ」


ヤンキー正義は、俺の胸ぐらを掴むと、怒髪天の表情で、

「あ? どういうことだ? 全員で仲良く死のうってことか?」

「ちげーよ! もうお前らには投票させないから、誰が人狼でも関係ないって言ってんだ! お前らのカードを全部俺によこせ! そうすれば誰も投票できないから誰も死なない!」


俺は(死体の分も含め)全員からカードを強引に奪った。全てのカードをチェックしたが、改竄した痕跡も、取り替えた形跡も、何かを細工を施した跡すらない。

部屋に横たわる沈黙の中、時間だけが俺を揉む。


停滞した時の中で、なんとなくポケットのレシートの裏を見ると、『お前は誰だ?』と書かれていた。

(こんなのさっき書かれていたか?)

その時だった……

ストン!


誰かが壁にもたれる俺の隣に座ってきた。

隣に座ってきたのは、謎の女子高生アリアドネだ。


「なんのようだ?」

「別に……ただ嫌味を言いにきただけよ……あんたこのままだと孤立するわよ?」

「知るかよ……もうこんな殺人ゲームは終わりだ。関係ないね」

「あっそ……じゃもし次投票することになったら私はあんたに入れるから」

俺は彼女の方を向くと、怒りのこもった声で

「はあ?」

「だってあんたなんかに何かできるとも思えないし、あんたなんかにだけは殺されたくないもの……………………あんたなんかに何ができるのよ?」

そういうと、彼女は俺から離れた。


チッ! なんなんだよあの女! 本当にただ嫌味言いにきただけかよ。

だが俺は彼女から何かを感じ取っていた。恋人や異性から感じる恋愛感情に似た何か。それがなんなのかわからない。だが、その何かは、故郷に帰るような感覚にチリチリと爆ぜていた。


そして、【では三夜目の投票を終了する。諸君らには、十二時間眠ってもらう】


俺は役職カードには何も書かなかった。そうすれば、自動的に自分に投票される仕組みだ。


(人狼が誰であれ、これで確実にゲームエンドだ! カードが俺の手にある以上絶対にだ! 最初からこうすればよかったんだ! 俺が誰も信じずにこうしておけば朋子は死ななかった。俺の勝ちだ!)


俺は右手で強く強くカードを握りしめた。これで絶対にゲームは終わる。絶対にだ。

俺の意識は朦朧とし、揺蕩う時の湯船に浮かぶ。

ほろほろと溶けるような顕在意識が脳の中で混ざる。

そして、十二時間が経過した。ゲームはまだ終わっていなかった。


目を覚ますと、背中に痺れに似た痛みを感じた。俺は隣にいるアリアドネに

「ゲームはどうなった? 俺たちの勝ちか?」

アリアドネはじっと俺の右側を見つめている、呆然とした表情で。

そして、俺の隣を指差しながら、

「そ……それ……!」

俺は彼女が指さす方向を見た。そこには、俺の隣にはおかっぱ貞子の根元からもがれた首が転がっていた。彼女の表情は恐怖で凍りついていた。


血走った見開かれた瞳。その瞳は真っ直ぐに俺の方を見つめている。

まるで俺が殺したかのようだ。そして、俺の右手には彼女のサラサラした黒髪が握られていた。

「なんで? 何で俺は、彼女の髪を握っているんだよ……」

これじゃ俺が彼女を殺したみたいだ。

俺は放心状態のまま、アリアドネに視線を戻した。

もう正直脳がついていけない。意外な展開の連続で頭が止まりそうだ。だが彼女の右手に握られていたそれは、俺が正気を取り戻すのに十分だった。


「おい! 何で? アリアドネ! お前の右手に持っているのはなんだ? なんでそれがそこにあるっ?」

「えっ? あれ……どうして?」

女子高生アリアドネが持っていたのは、俺が回収して夜時間寸前まで持っていた役職カードだった。

「お前どうやって? まさか夜時間の間お前だけが動けていたのか? お前がやったのか? お前が殺したのかっ? 答えろっ!」


なぜかアリアドネの手元に戻ったカード。

投票していないのに、行われる処刑。

最初から人狼が死んでいるという異例なルール。

村人のみで行われる意味不明な人狼ゲーム。


狼はどこだ? その答えが明かされる。



続く。



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