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いつまでもおっぱいに挟まれていたいと、考えたことはありますか?

【プロローグ】

俺たちは、擦り切れた心で、擦り切れた体を引きずって生きる。

「もう少しで報われる」

「これが終わったら幸せになれる」

そう何度自分に言い聞かせたかわからない。

俺たちはみんな、自分を騙し騙し生きてた。


小さい頃はみんな自分が成功できると思っていた。

代替できない特別な存在になれると思っていた。

俺たちはみんな自分が大好きだった。自分が自分でいることが誇らしかった。

だけどいつからだろうか? 生きていく中で、そんな気持ちは消えていった。


いつからか俺たちは、育った環境や生まれた場所を憎み始める。

自分の人生をめちゃくちゃにした『あいつ』を許せない。

もしあの時ああだったら、今頃どれほど幸せだったか。

そんなことばかり考えてしまう。


だんだんと他人の幸せが自分の苦痛になっていく。

幸せそうな他人を見ると無性に自分が不幸に見えてくるんだ。

「俺だって頑張っているんだ……こんなに一生懸命努力しているのに……なんであいつだけが報われるんだ……俺が何をしたっていうんだよ……」

やり直したい。と何度考えたかもう覚えていない。


ただやり直したいだけなんだ。努力したくないんじゃない。現実逃避がしたいのでもない。

人生をやり直したいんだ。苦労してもいい。辛くてもいい。

報われたいだけなんだ。認められたいだけなんだ。


ただ一言「あなたにならできる」そう言われるくらいの幸せがあってもいいだろ。


だけどそんな一言を言ってくれる人なんて世界のどこにもいなかった。


その代わりに、みんな決まって俺にこう言うんだ……「お前なんかに何ができるんだよ?」

胸に突き刺さった冷たい言葉は、俺から自信を……自分を信じる力を吸い取った。

空っぽになった心が、音を立てて鳴いているような気がした。

【プロローグ 了】


俺が目を覚ますとそこは四方を壁に囲まれた密室。溶けるような漆黒が、視界にヘドロのようにこびりつく。

どこだここ? 何も見えない。昨日は何をしていたっけ? 高校から帰る途中、目出し帽を被った男に薬品を嗅がされた。そして車に乗せられて……そこまでしか覚えていない。


その時だった。右手の方から女性の声がした。

「目が覚めたみたいね?」

「誰かいるのか?」


すると左手の方からも、

「これで全員目が覚めたみてーだな」

どうやらこの密室には数人の男女が閉じ込められているみたいだ。

そして、カンという音とともにライトが灯る。閃光は刃のごとく俺の瞳を刺した。


「うおっ! 眩しいっ!」

俺は思わず顔を袖で覆った。


さらに不安を煽るように、スピーカーから

『やあ諸君。ゲームを始めようか』

そして、俺の日常は消え失せた。繰り返される残酷な殺人ゲームが始まる。

悲鳴と血反吐。目玉と内臓。血飛沫と脳漿。鮮血と断面図。


だけど俺は、ほんの少し、ほんの少しだけワクワクしていた。なぜならそんな殺人ゲーム、いつもプレイしているゲームよりマシだ。俺たちが当たり前のようにプレイしている別のゲーム……人生というゲーム。


報われない努力。運で何もかも決まる理不尽さ。不公平、不平等。そして、それを口に出してはいけないという暗黙のルール。

殺人ゲームよりももっと恐ろしいゲームだ。

逃げることも、負けることも、失敗することも許されない。

俺は密室の中の七人の男女の中で、唯一殺人ゲームの始まりに、ほんの少しだけ頬を緩ませた。




アナウンスは続ける。

『諸君らには申し訳ないが、眠っているところを拉致させてもらった。まずは、突然の無礼を謝罪したい』


左手にいた金髪のヤンキーが、

「ふざけんな! さっさと――」

だがアナウンスは録音らしい、

『私の名前は、人喰いオルトロス。諸君らがいる部屋の中心を見――』

アナウンスが言い切る前に、

「いやあああああああーっ!」

女性の悲鳴が密室にこだました。



部屋の中心にはこれでもかと損壊されたぐちゃぐちゃの死体があったのだ。

まるで狼に食い荒らされたかのように、肉は裂かれ、骨は砕かれ、まるで芸術作品のように地面を飾っている。

血はチューリップのように赤く、肉の隙間から見える骨は真珠のように白く光る。

赤と白の協奏曲は、視覚から人間の感性をくすぐってくるよう。

残酷な中に一握りの美しさが垣間見えるような気がした。


「おえええっ!」

さっきの威勢のいいヤンキーは地面に嘔吐した。

俺は、

「あんたの言うゲームに負けるとこうなるってことだな……」


『死体を確認して、これがジョークでないことはご理解いただけたかな。では本題に入ろう』

俺たちは水を打ったかのように静まり返った。ヤンキーの嗚咽だけが静寂を汚している。

『その部屋の中心にある死体は私の死体だ』

「えっ?」

もうすでにゲームを仕掛けた本人は死んでいるのか? じゃあ一体何が目的なんだ?

俺は再び中央の死体を見た。死体はどうやら女性らしい。長い髪の毛が肉片の間で縫うように黒光りしている。

『私の異能、人喰いオルトロスの発動コストは自分の命を放棄することだ。つまりこのゲームは私の命と引き換えに始まったということだ』


通常快楽殺人者の多くは男性。

それは女性は共感性が高く、痛めつけられる人の気持ちを察し、途中で手を止めてしまうためだ。

だがこいつは女性。快楽が目的ではないのか? それに異能ってなんだ? ゲームでよくある特殊能力のことか?


『私の目的、異能の仕組みなどは割愛する。それは各々がこのゲームで生き残ってから推察してくれ』

まずはこのゲームで生き残れということだな。


『諸君らに提案するのは、人狼ゲームだ。中には人狼ゲームを知っている人もいるだろうが、ここでの人狼ゲームは、通常のものとは違う。

諸君らに挑戦してもらうのは、人狼不参加型の人狼ゲームだ。早速だがルールを説明させてもらう。どのみちこれは録音だし、質問は後でまとめて回答することになっている。

まずは通常の人狼ゲームの説明だ』


[人狼ゲームとは?]

『数人で集まり、役職の書かれたカードを配られる。

役職には、村人、神父、狩人、人狼などがある。

人狼一人と人狼以外の全員(以下人チーム)どちらの側が勝つか勝負する。

人狼は一日のうち一回人を食い殺せる。

人チームはこれに対抗し一日のうち一人疑わし人物を吊るすことができる。』


役職のルール

村人 特になし

神父 一日に一度、宣言した人が人狼であるか確認できる

狩人 一日に一度、疑わしい人物を抹殺できる


『以上が通常の人狼ゲームのルールだ。そして、ここからは人狼不参加型のオリジナルルールだ』


[人狼不参加型の人狼ゲームとは?]

このゲームに人狼はいない。

人が死ぬ条件は、投票による首吊りのみ。

一日は昼時間と夜時間に分かれており、夜時間の前にカードが配られる。

そのカードに利き手で殺害したい人物の名前を書け。


『以上が人狼不参加型の人狼ゲームのルールだ。

そして、このゲームはウィナーテイクオールルールを採用している。


[ウィナーテイクオールルール] ゲームクリアした時点で一人でも生き残っていれば、その人物はゲーム中死んだ仲間を生き返らせたり、ケガを治すことができる。

要は、勝てば総取り、負ければ全部失うというルール。


私は録音された音声だが、あらかじめ予想される質問には答えてある。ゲーム中何度でもルールの確認や質問は可能だ。

早速一日目の夜時間が近づいてきたな。諸君らの利き手にカードが配られたはずだ。

役職を確認してくれ。ではクリアできることを心より祈っている』



そして、意味不明な殺人ゲームのゴングが鳴った。俺は突然右手に何かカード状のものとペンが握られているのを感じた。

(最初から握られていたというよりテレポートで右手に出現したという感じだな)

俺はカードを確認した。そこには大きく『村人』とだけ書かれていた。


その時だった先程のヤンキーが――

「一体何がなにがどうなっているのかわからねえっ! 早くここから出せ!」

俺たちがいる部屋は四方をコンクリートの壁に囲まれている。部屋の一辺はおよそ一〇メートル。出入り口はない。おそらく俺たちを中に入れたあと、丁寧に塞いだのだろう。


ヤンキーは恐怖で怒り狂ったままスピーカーの方へ行き、怒鳴り立てた。

「おい! こんなことやってただで済むと思うなよ!」

俺はヤンキーの跡を追うと、彼の肩に手をかけ

「なああんた。ちょっと落ち着け。そんなことをしても――」

「うるせーっ! 田舎もんっ!」

彼は俺を殴り飛ばした。前方から顔面に強い衝撃が加わり、後ろへよろける。


「うわっ!」

そして、俺は頭から何か柔らかいものに突っ込んだ。ふかふかしていてまるでマシュマロベッドみたい。

いい匂いが鼻腔にたっぷりと注ぎ込まれる。


「ちょ、ちょっと君大丈夫かいな?」

まるでおっぱいの谷間に頭から突っ込んだみたいだ。

俺が目を開けると、そこはなんとおっぱいの…………(続く)



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