表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

鳥の名は

 目が覚めるともう日が暮れており、あたりは真っ暗になっていた。昼間の魔獣襲来がウソと思えるほどの静けさに、もしかしたらあれは夢だったのかも知れないと考えてしまう。

 でも紛れもなく現実である。少し離れた場所にある魔獣の死骸、そして女の子になってしまったこの体が証明している。


「アッシュは?」


 周囲を見回すと、探すまでもなく僕の隣で寝息を立てていた。ざっとアッシュの体を調べてみるが、どこにも怪我は残っていない。よかった、本当に治ったんだ。


「でも傷跡が残っちゃった……」


 ほとんどの傷跡は目立たないところなのであまり支障はないが、額に三日月のような形をした大きな痕が残っていた。


「ごめんね、アッシュ。僕がもっと……もっと……」

「あら起きたのね」


 感傷に耽っていると、アッシュを治療するときに聞こえた謎の声が聞こえた。でもあの時と違って、頭の中に直接響いているわけではなく、ちゃんと音として耳に届いた。

 声がした方に視線を向けるが、そこには赤い鳥がいるだけで声の主が見当たらない。


「ちょっとどこ視てるの。ここよ、ここ」


 再び声が聞こえる。でも女の人はどこにもおらず、鳥がバタバタとせわしなく飛んでいるだけ。


 ……いやまさか、ね。


「もしかして鳥がしゃべってる?」

「ええ、そうよ。ずっと話しかけてるじゃない」

「…………」

「…………」


 はえ~、鳥ってこんなに流暢に話せるんだ。そういえばオウムとかインコって確か人の言葉話せるんだっけ。それと同じ感じなのかな。


「何を考えているのか分からないけど、一応否定しておくわ」

「じゃあ、どうやって話してるの?」

「そもそも鳥じゃないからね。私は聖霊……分かりやすく言うと友好的な魔獣ってところかしら」

「へー、そうなんだ。それよりもアッシュは大丈夫なんだよね」


 そんな鳥の正体などよりもアッシュのことが優先だ。見た目上は傷は塞がっているけど、体内のほうがどうなっているかは分からない。もしかしたらアッシュが眠っているのは、どこか悪いからではないだろうか。


「な、流された……。アッシュちゃんは大丈夫よ。あなたの魔法できちんと治療された。今はただ眠っているだけだから、心配する必要はないわ」

「ん、ありがと。あなたがいなかったらアッシュを助けられなかった。僕にできることなら、何でもお礼する」

「え、今なんでもって?」

「……痛いの以外なら」


 お礼って言ったあとの喰いつき方が少し恐怖を感じるほどの速さだった。そんなに僕にしてほしいことがあるのだろうか。僕なんか所詮ストレス発散用のサンドバックに過ぎない。魔法少女になったとは言ってもできることには限りがある。何を要求されるのか、少し怖い。


「私って名前がないのよね」

「うん?」

「だから名前を付けて欲しいの」

「そんなことでいいなら」


 こういう名づけは初めての経験だ。どういう風な名前がいいのかを真剣に悩む。見た目はかなり赤い……。そういえばアッシュの名前は体毛の色から取ったって言ってたっけ。


「……ルージュなんてどうかな?」


 安直過ぎただろうか。不安になる。アッシュと違って鳥は表情の変化が読み取りづらい。だからいいのか悪いのかよく分からない。


「ルージュ……いい名前ね、気に入ったわ。今日から私はルージュよ!」


 よかった、喜んでくれた。ホッと胸を撫でおろした。でもこんなに喜んでくれるなんて、よっぽど名前が欲しかったんだろうな。


「あ、そうそう。アッシュちゃんが起きたら、ここから離れて街に行くわよ」

「街に?」

「ええ。こんな場所には長居したくないでしょ」


 元々住んでいた施設は今や瓦礫の山になり、そこかしこに潰れた人の死体が転がっている。その死体からは濃厚な血の匂いが充満している。そして外に出て初めて知ったのだが、施設は鬱蒼とした森の中にあった。


 周囲の景色は大量の木に囲まれて遠くまで見渡せない。木々の葉がこすれあう音と、野生動物の声が夜の森に響き渡っている。


 確かにルージュの言う通り長居はしたくない。


「それで何だけど、まずは霊装(ドレス)を解除して」

「……霊装って何?」

「ああ、そこからか。霊装って言うのは――」


 長い長い説明を聞かされた。ほとんどのことはよく理解できなかったけど、魔法少女の体を守る鎧であることっていうのは分かった。あと身体能力が上がるのも霊装のおかげらしい。あと普通なら気を失ったら、勝手に解除されるらしい。今回は気を失う直前に使った魔法の影響で、魔力が活性化していたから維持されたんだって。例外中の例外というやつらしい。


「《霊装解除(キャストオフ)》」


 ルージュに教えてもらった通りの言葉を紡ぐと、黒い軍服ワンピースは光に溶けていった。そして普段から着ている貫頭衣のような服に戻った。でも魔獣との追いかけっこのせいで、至るところに穴が開いたりしている。


「着替えが必要ね……何かあるかしら」


 ルージュの指示に従って、瓦礫を漁る。でも死体が着ているモノ以外では、背中に瞳のマークの入った趣味の悪いコートしか見つけることができなかった。


 それをボロボロの貫頭衣の上から羽織る。元々大人用だったようでサイズはかなり大きく、僕が着ると裾を引きずってしまう。


「どうしてちゃんとした服がないのよ!」


 ルージュが何か憤っているようだが、僕的には体が隠すことができるからこれでいいような気がする。貫頭衣の隙間から覗いていた醜い傷跡も、これさえ着ていれば見せびらかさずにすむ。

TSものっぽいイベントが全然ないな。何か書かないと・・・。


この小説が面白いと感じましたら、ブクマ登録・感想等お願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 児童養護施設じゃなくて怪しい研究所みたいなとこだったのかな… ユーリくん研究であんなことやそんなことを…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ