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癒しの力

◇◆◇◆◇の後が三人称になっています。物語進行上どうしても入れなくてはいけなかったので、読み辛い思いますがどうかご容赦を。

 初の魔獣討伐の喜びや安堵を噛みしめる暇もなく、僕はフラフラと足を動かす。アッシュの元に急がなくてはいけない。まだ助かるかもしれない。何としてでもアッシュだけは助けなくてはいけない。


 アッシュはぐったりと地面に倒れこんでいる。僕が近づいても何の反応も返さない。

 どうして。いつもなら尻尾を振って甘えてくるのに、なんで眠ったままなの。


「アッシュ起きて……」


 体を揺すってみるが、手に赤い血が付くだけで動かない。

 瓦礫の中を漁って食べ物を持ってくる。そしてアッシュの口元に近づけても、あの食いしん坊は微動だにしない。


「ヤダ、ヤダよぉ……独りにしないで……」


 分かり切っていたことだったではないか。普通の生き物は魔獣には勝てないし、魔獣の脅威に曝されたら生きては帰れない。魔法少女の庇護なしでは生き残ることはできない。

 僕がもっと早く魔法少女になっていれば、アッシュがこんな風になることはなかった。全部全部僕のせいなんだ。


「アッシュ!?」


 うっすらとアッシュの瞳が開いた。まだ息があったのだ。でもその様はあまりにも弱々しく、今にも命の炎が消えてなくなってしまいそうだ。


「……クゥーン」


 必死に立ち上がろうとしている。でも足はピクピクと僅かに動くだけで、一向に立ち上がれずにいる。それでもアッシュは無理をして僕の膝の上に頭を乗せた。そして甘えるように、僕を安心させるように頭をこすりつけ、再び瞳を閉じた。


「ダメ、アッシュ起きて! 眠っちゃダメ!!」


 それが最後の力だったのだろう。だんだんと温もりが消え、冷たくなっていく。


「お願いだからぁ……アッシュ……僕を残して逝かないでよぉ……」


 また大切なものが消えていく。もう失いたくないとどれほど願っても、手のひらから全て転がり落ちていく。

 どうしたらいいの。

 どうすればよかったの。

 分からない……分からないよ。


 涙が零れ落ちた。何がもう理不尽には屈しないだ。抗っても抗っても、結局は奪われてしまうではないか。じゃあ僕は何のために魔法少女になったの。守りたいものが守れないなんて、こんな意味のない力なんて何の意味があるの。


 心に堪ったうっぷんを晴らすように右腕で地面を叩いた。

 ……ん、あれ?


「腕が治ってる……それにもうどこも痛くない」


 自嘲的に嗤う。明らかに治癒力が上がっている。でもそんなことに気付いたところで、何の解決にもならない。この体質は魔法の産物ではあるが、僕の体しか治さない意味のない力に過ぎない。


『そんなことないよ』

「え……?」


 どこからともなく女性のような声が聞こえてくる。周囲を見回しても僕以外誰もいない。


『私の言う通りにしたら、そのワンちゃんは助けることができる』

「ほんとに!?」


 気のせいかもと思ったが、再び聞こえてきた。しかも無視できない内容を言っている。正直胡散臭くはあるけど、今は藁にでもすがりたい。アッシュを助けることができるなら、悪魔にだって魂を売ることができる。


「教えて、どうすればいいの?!」

『まずは貴女の血を飲ませてあげて』

「血を……?」

『えぇ、貴女の中には2種類の魔力があるの。1つが貴方自身の魔力、そしてもう1つが治癒の力を持った魔力。それでね、魔力というのは体液……血液に溶けやすいの』


 そこまで聞けば大体の理屈は分かってくる。


「僕の魔力で治す?」

『もっと複雑な因果関係があるのだけど……大雑把に言えばそういうことね』

「分かった」


 僕は籠手を外して、何のためらいもなく手のひらを噛み切った。流れ落ちる血液を必死に手で受け止めながら、アッシュの口に流し込む。


『そうしたら私の言うことを真似して……我が庇護にありしものよ 恩寵を賜りて 今ここに馳せ参じよ』

「我が庇護にありしものよ 恩寵を賜りて 今ここに馳せ参じよ」

『《陽神賛歌》』

「《陽神賛歌》」


 血に溶けた魔力が淡い光となってアッシュの体内に吸収されていく。すると見る見るうちに外傷が修復されていく。これなら目には見えないけど、内部の傷も大丈夫だろう。


 安堵を感じると同時に、グラリと視界がぶれた。気付いたときには地面に倒れ伏して、指一本動かせなかった。それにとてつもなく眠い。気を抜いてしまえば深い眠りに落ちてしまいそうなほどである。


「ふわあ~」


 アッシュがちゃんと治るまで見守っていたい。それにどこから敵が襲ってくるか分からない。


『魔力欠乏症ね。今は大丈夫だから、おやすみなさい』


 だけど結局眠気に抗いきれずに、僕は深い深い眠りに落ちてしまった。



◇◆◇◆◇



 ユウリが眠りに落ちてまもなく、胸元から赤い光が漏れ出す。その光の中から1羽の鳥が現れた。


 赤い羽を持つ、ユウリの手のひらくらいの小さな鳥である。姿形はどことなくツバメに酷似している。だけど普通の鳥とは明らかに異なる存在であった。


「寝ちゃったか。まあ仕方ないか、覚醒仕立てなのにかなり無理させちゃったわけだし」


 その声は明らかに鳥から発せられていた。異常な存在ではあるが、ユウリとアッシュを見守る目は慈しみに溢れ、まるで親が子供に向ける視線のようである。


 いっとき周囲を警戒するように飛び回ったのちに、気持ちよさそうに眠っているユウリの頭の上に降り立った。


「今はゆっくりお休み。もう貴女を独りにしたりはしないし、させないから」

鳥は設定だけあって出さない予定だったのですが、ナビゲーター役がいた方が物語進行が楽になるのでついうっかり出しちゃいました(・ω<)テヘペロ


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