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魔獣襲来

プロットを見返していたら、今のタイトルだと内容とあっていないことに気付いて変更しました。内容に変更は一切ございません。

 アッシュはお腹がいっぱいになったのか、僕の足にぴったりとくっついて眠ってしまった。その様は僕の心にひと時の安らぎを齎してくれる。


 この施設の中で唯一僕に暴力を振るってこない、いっしょにいて安心できる存在。それが僕にとってのアッシュだ。


 アッシュが近くにいてくれるだけで、どんな理不尽な扱いを受けたとしても耐えられる。アッシュさえいてくれたら、僕はそれだけで頑張れる。アッシュだけが僕に優しくしてくれる。


 アッシュに寄り添うように体を横たえる。


 やっぱりアッシュは大きいなぁ。全長なんか僕の身長の1,5倍くらいありそう。毛並みはサラサラだし、くっついたらあったかくてポカポカする。


 それに比べて僕なんて、全身傷跡だらけでとてつもなく醜い。胸の中央に丸い痣があるのだが、それなんて僕の醜悪さの象徴みたいなものだ。


 本当なら僕はアッシュの近くにいる資格なんてない。でも今だけは、あと少しだけはいっしょにいさせてほしい。そうじゃないと壊れてしまいそうで、明日を生きられないような気がして不安になる。だから今だけは……。


 ふと壁の向こう側が騒がしいことに気付いた。どうしたのだろうと不思議には思うが、所詮僕には関係のない事と無視をする。だけどアッシュがそれに呼応するように、唐突に立ち上がって唸り始めた。ただし尻尾は股の間に収納されており、明らかに怖がっていることが如実に現れている。


「どうしたの?」


 職員たちが慌ただしくしていることは何度かあった。だけどアッシュがこんな風に怯えるところなんて、職員がこの部屋に入ってきた時以外見たことがない。


 何が起きているのか確かめたい気持ちはある。だけどそれはできない。試しにドアノブを引いてみるが、ガチャガチャと音が鳴るだけで開くことはない。いつものようにカギが掛けられている。


 その間にアッシュは唸るを通り越して、敵意をむき出しにして咆え始めた。


 ――ドゴンッ


 部屋を暗闇に閉ざしていた壁が、轟音を立てながら崩れ去った。一切光が差すことのなかった部屋の中に温かな陽光が流れ込む。久しぶりに浴びた太陽の光は少し目に染みた。


 だけど今はそんなことを堪能している場合ではない。壁の残骸の上に、これを為した存在が逃げも隠れもせず、堂々と君臨していた。


 豚のように上を向き潰れた鼻を持ち、口からは1対の丸太のように太い牙が生えている。その体は普通の生物では考えられないほど大きく、2トントラックは優に超えているだろう。


 やつを一言で表すならイノシシのような魔獣であろう。


 魔獣は悠然と僕のことを見据え、足を踏み鳴らし、突進を開始する。その巨大すぎる体から齎される破壊力は絶大であり、人間がまともに受けようものならミンチになること間違いないだろう。


 とっさに魔獣の突進する延線に対して、横方向に飛び退る。


「……ッ!?」


 だけど一瞬その判断が遅れてしまった。それは致命的過ぎた。


 ミンチになることは何とか避けることができたが……足が魔獣の突進に巻き込まれてしまった。まるで鉛筆の端を指で弾いた時のように、無様に回転しながら瓦礫の上に叩きつけられた。


「アァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア」


 痛みには慣れて、もはや感じない域にまでいっていたはずなのに。突進に巻き込まれた足が、瓦礫に衝突した背中が、灼けるような激痛を脳に届けている。

 足の骨は折れて皮膚を突き破っている。これだけでも最悪であるのに、腹部の辺りに異物感を感じる。その正体は簡単に分かった。瓦礫から飛び出していた鉄筋であった。それが鳩尾の少し下の辺りを貫いていた。


 まさに満身創痍。どんなに怪我の治りが早いとはいえ、これだけの大怪我ではすぐに動けるようになるわけではない。さらに突き飛ばされたときに頭でも打ったのか、意識が朦朧としてきている。


 ここで意識を失ってしまえば、確実に死んでしまうだろう。でもここからどうしようと死ぬことを避けることは不可能だろう。だって足の怪我で逃げる術を失ってしまった。


 もうどうしようもない。


 どうして僕はこんなにも生きようとしているのだろうか。だって生きていたっていい事なんか、何一つなかったじゃないか。本音で言えば理不尽に暴力を振るわれることは辛かった。痛みを感じない、慣れた、なんて強がっていても痛いものは痛い。


 もう楽になりたい。


 脳裏に今までの人生が、最近のものから遡っていくように流れていく。こうやって見せられて確信した。生きていくことは痛い、辛い。だから、もういいよね。


 そのとき走馬灯は10年前のあの日に行きついた。


『私の分まで……生きてね』


 記憶の中でも色褪せない朱色の天使、アカネお姉ちゃんの最後の願い。そうだった、僕はアカネお姉ちゃんの分まで生きなくてはならないんだ。ここで死んでしまったら見ず知らずの僕を助けて命を落したアカネお姉ちゃんに申し訳がたたない。


「こんなところで死んでられないッ」


 腹部に刺さっていた鉄筋を握りしめ、力ずくで抜き取ろうとする。幸いにも刺さっていた鉄筋をほぼ真直ぐな形をしていたので、痛みさえ無視してしまえば何の問題もない。

 内臓に直接ヤスリを掛けられているような、これまでに味わったことのない種類の痛みだった。だけどゆっくりと着実に抜けていく。途中何度も吐血したけど、大丈夫。ここを生き残れさえすれば勝手に治る。


 鉄筋を抜き取ったまでは良かったのだが、足は未だに動かすことができない。魔獣のほうを見れば、もう勝ちを確信しているのかゆっくりと近づいてきていた。


「死ねないんだ……」


 地面を這いずり必死に魔獣から遠ざかる。どれだけ無様でも、例え爪がはがれようとも、傷口が瓦礫と擦れてズタズタになろうとも止めるわけにはいかない。生きなくちゃ――


「あ……」


 後頭部に生暖かな風が当たり、粘り気の強い液体が垂れてくる。


「ゃだ…………やだやだやだやだ」


 必死に地面をひっかき遠ざかろうとした。


「あぎゃあああああああああああああああああああ」


 傷ついた足を踏みつけられ、その場所に縫い留められてしまった。必死に足掻くが、そもそもの体重差がありすぎる。魔獣はびくともしない。


「……ごめんなさい……ごめんな、さい……」


 どれだけひどい扱いを受けても流れなかった涙が溢れてくる。

 もうダメだ、お終いだ。ごめんなさい、アカネお姉ちゃん……。


「グルルァッ!!」

「え……?」


 アッシュの鳴き声が聞こえてかと思うと、唐突に圧迫感がなくなった。

次話でTSします。

それにしてもユウリの不幸は書いていて楽しいしわくわくするよね♪


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