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僕の罪

ブクマ登録・評価ありがとうございます

週1投稿の予定だったのですが、うれしかったので2話目を投稿します

 魔獣は警察や自衛隊、米軍の先鋭部隊であったとしても倒すことはできない。せいぜい肉壁として侵攻を遅らせる程度である。だが魔法少女であるアカネお姉ちゃんは襲い来る魔獣をいともたやすく倒して見せる。


 その姿は心強く、しかし不安でもあった。こんな力を持っているのに僕なんかに構っていてもいいのだろうか。魔獣はこの街の至る所で暴れ回っている。それの対処に行かなくてもいいのだろうか。


「大丈夫だよ。ユウリを見捨てたりはしないよ。それにお姉ちゃんの仲間はみんな強いから」


 そんな不安を読み取ったのかアカネお姉ちゃんは頭を撫でながら言ってくれた。このときの僕は何の疑いもなく、アカネお姉ちゃんといっしょならこの地獄から脱出できる、そう信じていた。


 だいたい1時間くらい移動しただろうか。だんだんと街の外れに近づいてきたせいか建物もまばらになり、踏み荒らされた田畑が広がっていた。人の悲鳴や魔獣の声も大分遠くなり安全な場所に近づいていることが実感できた。


 その安心感も手伝って僕は目についた気になるものに駆け寄っていった。


「ダメッ、ユウリ!!」


 魔獣が溢れる街中では絶対にこんなことしなかった。僕はこの瞬間、絶対安全圏であるアカネお姉ちゃんの傍から離れてしまった。慌ててアカネお姉ちゃんもあとを追ってきていたが、それでも一歩遅かった。


 アカネお姉ちゃんに呼び止められて振り返ったその瞬間、地面の中に潜んでいた魔獣が飛び出した。それは3メートルは軽く超える身長を持った人型で、額には2対の鋭い角のようなものが生えていた。鬼の形をした魔獣だ。


「え……?」


 安全だと思っていたところに魔獣が現れる。そんな想定外の事態に僕は、ただ呆然と鬼の魔獣を見上げていた。魔獣が手に持った棍棒のような鈍器を振り上げ、叩き潰そうとしているのがどこか他人事のように思える。

 棍棒がジェットエンジンのような轟音を立てながら振り下ろされる。


「……間に合った」


 間一髪のところでアカネお姉ちゃんが間に入り、棍棒を受け止めてくれた。その腕は負荷に耐えかね歪に曲がり、体の至る所から血を吹きだしている。


「お姉ちゃん……怪我が……」

「大丈夫だよ、すぐ直るから」


 その言葉の通りアカネお姉ちゃんが負った傷は、炎に包まれたかと思うと一瞬で消えてなくなってしまった。


「すぐ終わらせるから待っててね」


 アカネお姉ちゃんは優し気な笑顔を浮かべ、僕の頭を一撫ですると魔獣へと向かっていった。


 魔法少女と魔獣とで激しい戦闘が繰り広げられる。そう、戦闘が成り立っているのだ。今までの魔獣はアカネお姉ちゃんの炎で一瞬で倒されていた。それなのに鬼の魔獣は未だ健在している。そして心なしかアカネお姉ちゃんも苦戦しているように見えた。


 大量の砂煙と轟音を立てながら戦い続ける。その姿を僕は物陰に隠れながら見ていた。僕のせいでこんな事態になったのに、見ていることしかできない自分に嫌気がさす。でもアカネお姉ちゃんの役に立とうにも足が震えて立ち上がれないし、そもそも方法が思いつかない。


「がんばれ……がんばれ……」


 だから、ただ応援することしかできなかった。


 しかし最悪というものは、不幸というものはどうも重なるらしい。もっと考えておくべきだった。鬼の魔獣が土の中に潜んでいたということを。もしかしたら他の魔獣も地面の中にいる可能性を。


 突如地面がお椀の形に陥没し、その穴の底にはミミズのように細長い体をもった魔獣が所せましと詰め込まれていた。


「ぃやぁぁあああああああああああああああああああああ」


 僕は必死に手を伸ばすが、何も掴むものはなく、重力からも逃れることができずに生理的嫌悪感を激しく刺激するお椀の中へ転がり落ちていった。


 体が貪られる。ただでさえ小さかった体がどんどん小さく、体積を減らされていく。不思議なことに痛みはなかった。ミミズの魔獣から分泌される粘液の成分でか、それとも脳の許容量を超えたこの光景に頭がバグったのか。


 でもそれは何の救いにもならなかった。痛みを感じないということは気絶ができないのである。魔獣に自分の体を食べられる光景をずっと死ぬまで見続けなくてはならない。さらにミミズの魔獣の口は大きくなく、一気に死に至るということもない。


「               」


 ずっと叫んでいるはずなのに、何と言っているのか聞こえない。もう声すら出ていないのか、耳を食べられたのか、それすらも分からない。


 気が狂いそうだった。


「ユゥウウウウウウリィイイイイイイイイッ」


 アカネお姉ちゃんが穴に飛び込んで腕を差し伸べる。でも僕にはもうその手を握るための手は残されていなかった。


「許さない」


 僕に喰いついているミミズを素手でむしり取っていき、ボロボロになった僕を抱きしめてくれた。耳元で何か言っているようだが、息が当たっている感触がするだけで何も聞こえなかった。


「……ッ」


 鬼の魔獣がアカネお姉ちゃんを追って、穴の中に入ってきた。着地の際にミミズの魔獣が何体か踏みつぶされたが、それを上回る勢いで穴の壁や床から湧き出している。


 その光景を前にアカネお姉ちゃんは、ただ悲しそうに笑顔を浮かべた。


「一切万象を灰塵に帰せ 極大魔法《滅塵陽光》」


 アカネお姉ちゃんを中心に太陽が出現した。荒れ狂う太陽コロナは群れていた魔獣たちを、あの鬼の魔獣ですら、一瞬で塵も残さず消滅させる。だけど……だけど――


 ここに来るまでの雑談で聞いていた。魔法少女の奥の手、命を賭して発動させる究極の魔法、それが《極大魔法》である。それを使ったということはつまり……。


 アカネお姉ちゃんは口や目から血を流し、体の至る所が炭化していた。杖を握っていた右腕なんかは、完全に炭化して崩れ落ちていた。

 崩れゆく体に鞭を打ち、僕の方へと歩いてくる。途中で足が崩れても、左腕だけで這ってでも僕に近づく。


 そして自身の胸に手を突き刺した。その際に口から溢れた大量の血が僕に降りかかる。どうしてそんなことをしているのか、僕には分からなかった。


 アカネお姉ちゃんは体から取り出した宝石のような石を、僕の胸に押し当てて何事か魔法を詠唱する。その石は意思を持ったように僕の体の奥へと入り込んでいった。これが最後の力だったようで、アカネお姉ちゃんは僕に覆いかぶさるように倒れ込んだ。


「あな、たは……強、い子。……だから、私の分まで……生きてね」


 最後までアカネお姉ちゃんは優し気な笑顔を浮かべていた。そんなお姉ちゃんといっしょに死ねると思っていたのに




 ――僕だけが生き残ってしまった。

3話目から本編に突入します。なるべく早めにTS要素を出せるよう善処します


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― 新着の感想 ―
[一言] ユーリの辛い人生の始まりですね
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