街へ
すみません、大学が始まってしまうので投稿頻度を週一程度に落とします
「ねえ、アッシュ……僕のこと分かる?」
「ワン?」
朝日が昇り周囲が明るくなり始めたころ、アッシュが目を覚ました。姿が完全に変化しているためちゃんと僕だと認識してくれるか不安だった。でもそれは杞憂に終わった。
アッシュはちゃんと僕のことを認識してくれた。飛び掛かってきて、甘えるように胸に頭をこすりつけてきた。
「ほら貴方たち、遊んでないで準備するわよ」
「準備って?」
ルージュから言われたことに首をかしげる。
「街に行くための準備よ」
「何か必要?」
ルージュの言っていることがよくわからない。だって街に行くだけで何が必要だというのか。
「とにかく私が指示するものを瓦礫の下から発掘して!」
よくは分からないけど、ルージュが言うなら必要なのだろう。依然として甘えて来ようとしているアッシュを引きはがして瓦礫の下を漁る。
タオル、今着ているものと同じデザインのコート、そして食料を最初に掘り出した大きなカバンに詰めていく。
「はい、これも入れておいて」
「ん、分かった」
ルージュが鳥の足で器用に掴んできた黒い二つ折りの小物入れのようなものも入れる。しかも1個だけではなく複数個も持ってきた。
「これ何?」
「財布よ。街に行ったら必要になるからね」
「ふーん、そうなんだ」
聞いてみたがやはりどんなものかは分からなかった。まあ、使うときになったらルージュが教えてくれるだろう。
ちなみにアッシュは邪魔をしてきて、それで怒られたので、少し離れた場所で不貞寝している。
そんなこんなでルージュから指示されたものをつめ終わり、ついに10年もの間生活してきたこの場所を離れることになった。いい思い出こそ少なかったけど、いざ離れるとなると少し寂しさを覚える。
「ほらユウリ、早く行くわよ」
「うん、今行く」
ルージュの先導で歩みを進める。施設があった場所はどうやら山の中腹だったようで、急激な上り坂を上がっていく。慣れない山道になかなか思うように進めない。
朝から山越えを始めてから幾度かの休憩を挟みながら進んでいく。そして日が傾き始めるころには平地に出ることができた。遠景に街の影が見えてくる。
ただルージュの判断で明日明るくなってから、街に入ることになった。今日は野宿になるのだそうだ。
大きな木を背もたれにしながら、カバンの中から銀紙に包まれた食料を取り出してアッシュに与える。かなりお腹が空いていたようで、がっついて食べつくしていく。
そして夜も深まっていき、体を横たえて休んでいるとルージュから声を掛けられた。
「ねえユウリ。貴女の魔法を見せてくれないかしら」
「いいけど……?」
「魔法の効果を確かめるためよ。魔法というのは千差万別、1つとして同じものはない。だから自分の魔法についての理解を深めてほしいの。そうすれば緊急時……魔獣と遭遇したときに何をすればいいのか自ずと分かってくるの」
「よくわからないけど、分かった《霊装展開》
我は孤独、ゆえに触るな近寄るな。我が領域を犯すことを許さじ ≪黒き拒絶≫」
ルージュに見せるために霊装を纏い、魔法を発動させる。イノシシの魔獣と戦った時と同様に、漏れ出した魔力が籠手に吸収されていく。
「なるほど。……ユウリ、この木を叩いてくれる?」
軽く木を平手で叩く。
――ベキッ
「え……!?」
木は大きく揺れて、その巨体を地面へと倒れさせる。見れば僕が叩いた場所から抉れるように、木は真っ二つになっていた。
「うん、貴女の魔法は装着型ね」
「装着型? なにそれ?」
「えっとね、魔法には大別して3つの種類があるの。ユウリの魔法のように魔力を纏って何かしらの効果を発動させるのが装着型。魔力を炎とか氷とか物質や現象として発動させるのが放出型。それで最後の1つがこのどちらにも入らない特質型ね」
「な、なるほど?」
「あんまり理解できてないみたいね。まあほとんどの魔法少女はあんまり気にしてないんだけどね。研究者くらいよ、気にするのは」
「そうなんだ」
ルージュは1つ咳ばらいをすると、脱線しかけていた話を元に戻した。
「でね、貴女の魔法は反発する力を付与するものなの」
「反発の力……」
「そう、触れたものを遠ざけようとする魔法……まさに拒絶の魔法ね。《黒き拒絶》発動中は魔獣以外触れちゃダメよ。人なんて論外、下手をしたら跡形もなく消し飛ばすこともできるんだから」
「わ、分かった。絶対触らない」
まさか僕なんかの魔法がこんなにすごいものだとは思わなかった。アカネお姉ちゃんみたいな派手さもないし。
そういえば軽く叩いた程度で木が折れるなら、思い切り殴ったイノシシの魔獣はよく原型を保っていたな。それだけ硬いってことなのだろうか。
「確認も終わったし、私は寝るわ。ユウリも早めに寝なさいよ」
「うん、おやすみ」
遠景に見える街は、夜も深まっているというのに煌々とした光が見える。未だに活動中ということなのだろう。
街になんて10年前のあの日以来行ったことがない。だから僕の心には期待と不安が混在していた。
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