表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/31

好意の方向は再び3

 

 


 ミルティーから意識を失っている間の話を聞き終えたシェリは1つ息を零した。



「そう……」

「“転換の魔法”と“魅了の魔法”が王子に使われていたと公になるのは外聞が悪いと判断した王家とヴァンシュタイン家が徹底的に情報操作をして、今回の事件はナイジェル様生涯幽閉とナイジェル公爵家の多額の賠償金と一部領地没収で終わりました」

「多分だけど、オーンジュ家(うち)もある程度は関わってそうね」

「ラビラント伯爵家やラグーン侯爵家もですね」

「……殿下は?」



 “転換の魔法”を掛けられた者に解除方法はない。真相を知ったレーヴだが、心の方向を強制的に向けられたアデリッサが幽閉となれば、やはり正気でいられないのではと心配した。



「殿下は教会や魔法研究所で検査を受けました。“転換の魔法”の解除は不可能ですが、ナイジェル様に対する恋情が一切感じられないとのことです」

「そうなの?」

「はい。魔法で精神検査をしましたので間違いありません」

「アデリッサに無理矢理従者にされたマティアスは?」



 今回の“転換の魔法”は、魔法の才能に関してイマイチなアデリッサではなく、優秀な魔法師であるマティアスが作った。ライトカラー男爵令嬢マリーベルの従者だったが、主に危害を加えないのを条件に無理矢理アデリッサに従わされていた。王族相手に魔法を仕掛けた、これだけで十分重罪。しかし、彼には情状酌量の余地がある。可能なら罪を軽くしてやりたい。マリーベルとの約束もある。眠っている間に刑が決まってしまったのなら、もうシェリにはどうすることも出来ない。



「マティアスさんは、元々ナイジェル様に脅されて従者にされ、更に殿下に“魅了の魔法”を使えと命令されたのを“転換の魔法”に変えたことで死刑は免れています」



 “魅了の魔法”を命令通り実行していたら、庇えるものも庇えなくなっていた。



「ミエーレ様や殿下が陛下に掛け合って、マティアス様は魔法研究所の永久奉仕員になりました」



 罪を犯した魔法師を死ぬまで無償で魔法の研究を手伝わせる、ある意味過酷な刑の1つ。

 魔法研究所を纏めているのは元の主の家、ライトカラー男爵家。男爵はマティアスの事情を聞いて泣いていたと言う。男爵の下でなら、マティアスも不遇な目には遭わないだろう。



「ライトカラー男爵令嬢には、後日謝らないとね。マティアスの罪を出来るだけ軽くすると約束したのに」

「多分ですが大丈夫ですよ。マティアスさんは、逆に軽い刑に驚いていましたし、ライトカラー男爵令嬢もマティアスさんとまた一緒にいられると喜んでいました」



 罪人の刻印を刻まれているので生涯結婚は無理だろうが、後はあの2人の問題。

 アデリッサ以外、取り敢えず不幸にならなくて良かったと微笑んだシェリは、気まずげな顔をしたミルティーに首を傾げた。



「どうしたの?」

「いえ……あの……オーンジュ様は……その、殿下とは……これからどうするのですか?」

「……どうなるのかしらね」



 もう婚約は解消してしまっている。

 解消を告げたあの場では、少ないとは言え、何人かの生徒の耳には入ってしまっているかもしれない。

 外が騒がしくなった。シェリとミルティーが同時に扉に目を向けたと同時に、勢いよく扉が開かれた。



「シェリ!」



 ノックもなしに慌てて突撃をかましたのは丁度話題に上がった――



「レーヴ……様……」



 あ……と零したレーヴは気まずげに視線を逸らすも、扉の前で立ち止まっているとシェリのいる方へ近付いて来た。

 シェリとレーヴ。2人を交互に見つめて察したミルティーが逃げるように頭を下げて、そそくさと帰って行った。顔が引き攣るシェリだったが、もう1度、今度は小さいが固い声に呼ばれて覚悟を決めた。



「シェリ……怪我は大丈夫か? ミルティーが君を治療してくれたから、傷は残っていないと思うが」

「はい。問題ありませんわ。眠り過ぎていたせいで、起きた時頭痛はしましたが。傷もこの後確……」



 認します、と言い切る前に焦りを浮かべたレーヴが身を乗り出した。



「他には!? やっぱり、怪我は完全には……」

「い、いえ……あの、その、だから眠り過ぎた反動で頭が痛くなったのだと……」

「あ……」



 シェリは最初に話した。早とちりをしたと、レーヴは顔を若干赤らめ、項垂れた。

 必死になり、慌てるほどに、彼に心配されて喜ぶ自分がいる。シェリは不謹慎だと熱くなり始めた顔の体温をどうにか下げたくなった。

 沈黙が訪れるもゆっくりとレーヴが話を始めた。



「ミルティーからは……どの辺りまで聞いた?」

「一通りまでは……」

「そうか……。アデリッサのことは?」

「幽閉になったと、お聞きしました」

「……幽閉、か……。ただの幽閉ならば、まだ幸せだったかもな……」

「それは……どういう……?」



 幽閉とは永遠にその場に閉じ込められ、2度と外に出られなくなる。やらかしは大きくても血筋は正統なナイジェル公爵家の娘。王子の心を操ったとして死刑になってもおかしくなかったのに、幽閉でも十分救いはある。

 レーヴは言いにくそうに口籠もるが、何を聞いても驚かないとシェリが続きを促せば、意を決したように紡いだ。



「幽閉とは表向きの処罰だ。実際は……“魅了の魔法”被害者の精神ケアをさせる」

「精神ケア……?」

「要は……慰み者になるんだ」

「!」



 なんと、アデリッサの幽閉は表向きで実際は魅了に憑りつかれた者の慰み者になると決定した。レ―ヴが言い難そうに口を開かない訳を察した。

 シェリに、惨い末路を――相手がアデリッサだろうと――知られたくなかったのだ。

 気遣いに感謝すると共にアデリッサの末路に何も言えなくなった。



「……決定は陛下が?」

「ああ……ただ、ナイジェル公爵には貴族用の牢にて生涯幽閉とだけ伝えている。今回の件、公爵は全くの無関係だったのもある上、今までの功績がある。公爵を必要以上に追い詰めることは避けたい」

「そうですわね……」

「それと……“魅了の魔法”と“転換の魔法”の違いを知りたくて、ミエーレに頼んで1度“魅了の魔法”をかけてもらったんだ」

「え!?」



 レーヴの驚きの告白。シェリはマジマジと見つめるが異変はない。レーヴは苦笑して頬を掻いた。



「ミエーレに魅了されるよう掛けてもらったから、勘違いされるようなことはない」



 それはそれで問題大有りだ。2人揃って、容姿は学院でもトップクラス。美貌の青年が同じくらいの美貌の青年に迫られる。

 ……罪深い香りが漂ってくる気配がある。



「どう、でした?」

「……魅了と転換は全く違った。掛けられた時の瞬間から、既に違うと判断した」



 レーヴ曰く、“転換の魔法”を掛けられた時は視界が暗転したという。暗くなり、明るくなったかと思えば全く別の相手が目の前にいる。感情は元々向けていたのとは違っていても。“魅了の魔法”は、魅了する相手しか目に入らなくなる。他に誰かがいてもフィルターがかかったように見えなくなり、たった1人だけを盲信的に愛してしまう。

 思考さえも魅了した相手のことしか考えられなくなり、他の何を差し置いても相手を1番に優先し、行動してしまうと言う。

 実際に体験して改めて知った“魅了の魔法”の恐ろしさに解除された後震えが止まらなかったとレーヴは苦笑した。



「マティアスが“転換の魔法”にしてくれて良かった。“魅了の魔法”だったら、僕はあれ以上にシェリ、君を傷付けていた」

「殿下……」

「ミエーレにも悪いことをしたな。僕に必死に愛を乞われて顔を引き攣らせていた」

「ま、まあ、ミエーレも“魅了の魔法”を実際見られて良かったと思っているかと……」



 同性に言い寄られるミエーレの困る顔が容易に想像出来て笑ってしまう。レーヴがミエーレに愛を乞う姿だけは……想像してはいけないと思考が強制削除した。


 ずっとレーヴを立たせたままだったのを今になって気付いたシェリが椅子に座ってもらうよう風の魔法で引き寄せとようとしたのを止められた。



「いい。長居するつもりはなかった。シェリが目を覚ましていると聞いてつい慌ててしまったが……」

「……殿下が助けて下さったと、ミルティー様から聞きました。ありがとうございました」

「いや……シェリ……」



 レーヴは真剣味の増した、青の宝石眼でシェリを見つめた。



「その……こんなこと……僕に言う資格はないのかもしれないが……言わせてくれ。

 ――僕と……最初から……やり直してくれないか……」

「……」

「父上には、僕とシェリの婚約は既に内々で解消されたとはちゃんと聞いた。シェリが僕を嫌いになっていたっていい」

「それは……」



 好きな気持ちは捨てようと覚悟をした。現に、今までレーヴから頂いた様々なプレゼントは全て整理し、要らない物は処分した。こうしてやり直しを希望されると1度決めた意思が揺らぐ。その程度の意思だったのだと自分が軽い人間に思う反面、“転換の魔法”を切っ掛けに新しい関係を築けていけるのではと期待を抱いてしまう。ミエーレのことを思うと巡った思考も遮断した。

 魔法にしか興味を示さない彼が好意を示して来た。他人に感情を向ける気がほぼ零なあのミエーレが。ミエーレの気持ちにも、まだ答えを出していない。

 黙っているとレーヴが苦笑した。



「勿論、シェリが嫌なら僕は諦める。ただ、まだ僕にもチャンスがあるなら……もう1度……シェリに好きになってもらうように努力するよ」

「レーヴ様……わたしは……アデリッサと仲睦まじいあなたを見た時、わたしではあなたをあんな風に喜ばせられないのだと痛感しました」

「それは……悪かった。ずっと身勝手な意地を張り続けて君を見ようとしなかった僕の責任だ」

「それに……ミエーレに好きだと言われて……今すぐに……あなたを信用することができません」

「当然だ。僕は……それほどのことをしてきたし……君がミエーレに好意を示されて、揺らいでしまうのも理解している」



 レーヴがベッドの側で跪いた。瞠目したシェリの左手を手に取ると薬指に口付けを落とした。

 見る見る内にシェリの顔が赤く染まっていく。同時に、レーヴの顔も。



「こ、これからは僕もシェリが好きだと、ちゃんと行動する。卒業までに君に再び好きになってもらえなかったら、その時は君を諦める。

 その……今のは……ぼ……僕の、意思表示だと思ってほしい」

「……」



 顔が赤く染まるのと一緒で手を握る体温も熱い。照れているのだ。そして、レーヴの語る言葉にどれも偽りはない。

 心の方向は元に戻った。



「はい……!」



 関係が元に戻る、のはない。

 戻ってしまうと前のように、想いを寄せても頑なな態度を取られるだけ。

 零の状態から始まる関係が2人に何を齎しても、決して後悔のないように行動をしていくのみ。





 ――そそくさと出て行ったミルティーがオーンジュ公爵家の侍女と一緒になって、聞き耳を立てていると2人にバレるまでもう少し……。











読んでいただきありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ※アデリッサがちゃんと断罪されたこと!!かなりのざまぁでちゃんと納得できたこと。 ※レーヴがちゃんとシェリに謝罪して、自分の気持ちをちゃんとシェリに伝えたこと、やっぱりレーヴは「我慢を…
2021/07/02 19:48 りんごアメ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ