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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
新編 第4章.再起
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71.武器庫という名の選りすぐり


 誠は夜間の夏期講習を終え、帰路に就いているところだった。

「ふわぁ……眠っ……」

 昨日の楽しい思いを馳せ、今日は勉学に努める。高校生として、充実した毎日を送れていた。

(光子さんの言う通り、俺の“普通の生活”は、これからだ……!)

 拳を握り、固く己に誓う。

 そうこうしている内に、自宅へ着く。

「おかえりー」

「ただいま」

 一日の疲れをとるべく、すぐさま二階の自室へ向かう。鞄を放り投げ、ベッドへと倒れ込む。

「は〜」

 仰向けになり、天井を見つめる。

(ラプトルの影響で、前みたいな日々が戻ってくればいいな)


 誠の母親は夜ご飯を作っている最中であった。

 あと三十分もすれば父親も帰ってくる。どうせすぐに入浴を済ませるだろうが、夜食は作っておく必要がある。鍋に火をかけたその時だった。

 インターホンの音が鳴る。

「あれ? 荷物? 何かあったかしら」

 急いで手を洗う。

 二度目のインターホンが鳴る。タオルで拭きながら玄関へと向かう母親。その間何度も音が鳴り続けている。

「はいはい。そんな何回も押さないでっ」

 玄関の扉を開けると、髪を編み込んだスーツ姿の女が立っていた。

「あの……どちら様?」

「ちょっと息子さんに用があって」

 母親は女が手元に何を持っているかに気付く。だが、気付いた時には遅く、母親の腹部から赤い血が流れていた。


 廃車の連なるスクラップヤード。

 ラプトルが帰ってきた。

 そんなことに気を取られるモノクロームではなかった。手を貸したとはいえ、借りを取り立てる気にもならず、彼らがどうなろうが自分の知り及ぶことではない。亜莉紗からは当面の犯罪者の情報は頂いている。

 “ひと仕事”を終え、車に座り空を見上げる。

(絶好調、てな具合だったな……まあ、こうして悪人の情報を流してくれてるだけ助力は無駄じゃなかったと思えるな)

 帰国後、有給休暇の日数のオーバーしていた九六部だったが、なんとか首の皮一枚を繋げることとなり、仕事を続けることが出来た。

 倒れた彈を介抱し、迅速に日本へ送ったのは彼だ。あまりの重症に、亜莉紗の元へ届けた後も、そのまま死んでしまうのではないかとさえ思った。そして昨日、派手な復帰戦を日本中に届けた。

 犯罪も減るだろう。悪人も減るだろう。それは、喜ばしいことだ。

 突如、首元に感じる殺気。

「!」

 頭を屈め、横一線に薙ぐ攻撃を避ける。振り返りながら距離を取る。

「なんっ……!」

 モノクロームの背後に立っていたのは、頭部の右側を刈り上げた大柄な男だった。男は独特な形状の武器を肩に担いでいる。

「いい反応だ、モノクローム。それでこそ遊び甲斐があるってもんだぜ」

 まさか自分ともあろう者が、ここまでの肉薄を許すとは。モノクロームは警戒を最大限に引き上げる。

「何だァ? てめェ……」


 路上に転がる大勢の男達。

 ここ最近は随分と退屈な日々が続いた。自分から人を探したりするのは向いていない。それは自分が一番理解している。

 トンファーを持った極上の獲物も、探せど探せど手段もこれといった手掛かりも無い。

 だが、ラプトル。彼に関しては有名人であり、民衆の注意の的だ。騒ぎを起こせば相手から現れる。それはとてもやりやすく、好都合だ。都会のビジョンで大きく報道していた昨日のニュースは、誰よりも彼、鷸水薊瞰の心を躍らせた。

「何処いやがる? ラァプトル……!」

 ここは、ヤクザや半グレの多い場所というのをどこかの噂で聞いた。

 そんな微かな情報を頼りに、片っ端から一方的に喧嘩を“ふっかける”。普通の人間なら薊瞰の圧倒的強さに恐れをなして、すぐにでも逃げ去るだろうが、彼らは面子に生きる生き物。退くという選択に至るのは最後の最後。ナイフや短刀(ドス)を構え、大声で猛っている。

「う、おらぁ!」

「ぐっ! ……いいねえ、気迫は悪くねえ。だから、もうちょい踏ん張って時間稼げ!!」

 薙ぎ倒す。薊瞰の喧嘩殺法を前に、いつしか反撃の声が小さくなる。

 やがて、己一人だけが立ち尽くしていた。

(つまらねえ。どいつもこいつも根性が無え。すぐに壊れんじゃあねえよ)

 全身のタトゥーとの境目が曖昧になる程の返り血を浴びている。腕で顔を拭う。

「ちっ。ラプトルはまだかよ……」

 靴がアスファルトに擦れる音。

 静寂はその音を引き立てた。先程まで相手していた雑兵とは気配の質が違う。ゆっくりと振り返り、“ご馳走”を視界に収める。

 自然と、薊瞰の広角は上がっていた。


「今頃、お前みてえな同類は同じ目に遭ってるぜ」

 動揺を誘うように言い放つベレー帽の男。自らを“電磁刃(エレクトロナイフ)”と称した男。名前ではなく用いている武器のことだろう。彈は推測する。恐らく、レッドスプレーのように名前の無い(たぐい)の人間なのだと。

「同類だと?」

「ああ。お前みたいな危険人物を消すんだよ、俺らは。……俺達はARMORY(アーマリー)。インプレグネブル・ゴッズ最強の特務部隊だ」

 幾度も聞いた名。

(またか……)

 だが、その組織が名前を出しこちらに仕掛けてくるというのは初めてのことだった。

 美波野誠から聞いた筋骨隆々の化け物、カイアス・エヴォルソン、関わったというだけなら燃やし屋の龍もだ。だが、それらの情報は相手から無闇に開示したわけではない。

 すぐに上下のスーツとマスクを着けることは出来たが、通信機は小さく、即座に見つけることが出来なかった。亜莉紗への連絡は出来そうにない。

(同類……モノクロームのような人間か? ジンゴメンのような脅威も? そもそも俺達? 何人いるんだ)

「……安心した」

 予想外の返答に面をくらうベレー帽の男。

「はあ?」

「“彼ら”は強い。心配は要らないな」

 男は額に青筋を浮かべ、武器を構える。

「強がりか知らねえが、いつまで続くか見ものだな……!」

 男は二本のナイフを巧みに操り、彈を狙う。まるで数多の腕を持っているかのよう。その斬撃は竜巻のように襲いかかる。

 斬る。投げる。斬る。投げる。投擲したナイフが避けられればジャケットから“次”を取り出す。連撃の全てを躱すも、刃の先に流れた電流が彈の頬を掠める。攻撃の隙間から苦し紛れの一撃を放つ。

「ちっ!」

 再び互いに距離が出来る。

「“バチバチ”には随分と縁があるな……」

 彈は過去に(まみ)えた“二人”のことを思い出す。

(こうしちゃいられない)

 時間だけを浪費するのは避けたい。彈は、意を決して懐に飛び込むことにした。

「先手必勝っ!」

 新しいシューズでの全力の踏み込みは、常人では反応することさえ適わないだろう。その拳が男に届くかと思われたその時、男は笑みを溢した。

「!?」

 彈の、ラプトルの左拳は男の前で止まることとなる。スーツを通してびりびりとした感触が伝わってくる。

「電磁シールドだ」

 戦闘の最中、男は意図的に“ナイフを避けさせ”、民家の壁や地面に刺し、配置していたのだ。

 地面の一本。両脇の塀に刺さった二本。

 その持ち手の輪の端から青い電流が走り、逆三角形の半透明な防壁を形作っていた。

「な……!」

 その“強度”たるや凄まじく、どれだけ力を入れようと、びくともしなかった。

 一旦退いて体勢を立て直す。だがそれを悠長に待ってくれる程、敵は優しくは無い。ナイフを再び投げる男。彈は三本のナイフを避けながら下がる。その先はまたもや男の術中に嵌まる結果となった。

 対角にある二本のナイフから走る電流。それは一本の線のように繋がり、間にあった彈の左手首を拘束する。

「ぐっ!」

 ナイフを両手に、男が彈目掛けて走る。

(何本持ってるんだ……!)

 多少の伸縮性は持っているが、この電流の手錠を外すことは難しかった。

(避けれないのなら、捌く!)

 右手でナイフの猛攻の全てを捌き、“いなしていく”。

「マジか……っ」

 男の予想を超えた彈の動き。逆上がりの容量でその場で後ろに回転する彈。

(ちっ、捩っただけじゃ駄目か)

 攻撃を捌く中で、男の手元からナイフの一つを蹴り上げる。

「うおっ」

 宙に舞ったナイフを右手で掴む。スイッチなどがあるのかは分からないが、電流は流れていない。

 彈は左手首を縛る一対のナイフの片方に右手の“それ”を投げる。命中した衝撃で、電流は解除された。

「クソっ、逃すかあ……!」

 続けざまに数本のナイフを辺りに投げ、配置する。実に二十本ものナイフが男のジャケットから現れ、その全てから電流が生じる。

「捕まえたっ!」

 すでに攻防の中で、宙に跳び逃げていた彈。一瞬。そこを狙って、民家の屋根を含めた大規模な範囲で正十二面体の防壁を作る。足場の無い状況。そこでラプトルの身動きを封じる。

 ———筈だった。

 電流同士が繋がる直前、彈の背中に背負われたバックパックからスラスターが展開し、勢いよく火を吹く。

 空中で更なる飛躍を見せ、体を回転。防壁が出来るぎりぎりでエスケイプを成功させてみせたのだ。

「ウ、ソだろ……っ!?」

 これが現在(いま)の完全装備のラプトル。

 これが震条彈。

 これが、ヒーローの真骨頂。

 実体と化した防壁を乗り越え、ベレー帽の男の眼前へと降り立つ。

「っっ!」

 腰に手をやる男。“弾切れ”だ。

 彈の渾身の一撃が顎を振り抜く。それは男の脳を大きく揺らし、昏倒させるに至った。

「……ふぅ」

 彈は激しい闘いを終えた後、辺りを見回し、リュックの中身を探す。通信機は見つけたが、ばらばらに損壊していた。

 続けてスマホを見つける。電源が入るかを試みる。画面は割れていながらも、いつも通りの輝きを見せた。

「良かった」

 連絡先から亜莉紗を選ぶ。

「……」

 少し考えた後、選択を斉藤に変更し、電話を掛けた。


 斉藤と警察、二回の通話を終え、男に近寄る。

 意識の無い男の体を調べる。これといってナイフ以外の所持物は見当たらなかった。

 ただ一つ、ベレー帽に隠れる形で、耳の後ろから伸びた精密機械を見つける。それはまるで、ダニエルが作ったラプトルの新装備、マスクにある脳波を読み取る機械と似ていた。

(これで電磁シールドの操作を……)

 明らかな殺意を向けられた。

 インプレグネブル・ゴッズ。強大なギャングである“裏”最大の組織。

 ボスであるアイギャレット・シェルシャルルを倒すべき時が来たのかもしれない。カイアス・エヴォルソンを逃した際に、少しだけ相対した。

 電話越しの“声”を聞いただけで、完全なる敗北を期した彈。あまりにも謎めいた、その能力(ちから)は大きな脅威と言えた。それで、彈が彼に立ち向かわない理由にはならないのだが。

(アイギャレット・シェルシャルル。そっちがその気なら、こっちも全力で、倒す)

 彈が“意を固めたその時”、背筋に走る寒気を感じ取る。

「!?」

 体に絡みつくような、奇妙で不気味で不快な違和感は、彈の不安を煽るようだった。

(何だったんだ……?)


 男のネクタイを外し、両手首を縛り上げる。

「さて……」

 彈は本来の目的へと戻るように、再び足を動かし始めた。同時に、片手に持ったスマートフォンで亜莉紗へと連絡を取りながら。


「ヤバ、物音立てちゃったかも」

 女は耳に付けた通信機に向かって、失敗を仄めかせる発言をする。それに答えるは、首にチョーカーをつけた中性的な青年。

「心配要らないよ。“外の警察”に聞こえる程じゃない。にしても、警護という名目の監視はいつまでする気なんだ? まさかずっと“お守もり”をするつもりかな?」

「まさか。高校卒業くらいのモンでしょ」

 民間人を傷つけ、まるでそれが日常の些事であるかのように会話を続ける二人。

「それよりソッチもさっさとしてよ?」

「分かってるよ」

 約百メートル程離れたビルの屋上に居る青年。うつ伏せに寝ながら、大きな銃のようなものを構えている。

「“本人”は物音に気づいたらしい。降りて行きそうだ」

 誠は一階へ向かうべく、部屋を出て階段を降りる。

「実況はいいから! 早く! 『天照施条銃(レーザーライフル)』っ」

 そう稚拙な名で呼ばれた青年は透視機能の付いた特殊なゴーグルを目元に下げる。

「はいはい。了解だ、『手拳銃(ハンドマシンガン)』」

 照準器に“対象”を合わせ、その引き金を引く。

 瞬間、銃口から光の柱が放たれる。

 その柱は一本の閃光となって百メートルを優に超え、誠の肩を貫いた。階段の途中からリビングの手前まで転がり落ちる誠。

「……命中」

「さっすが〜」

 熱い。

 痛みからくるのもそうだが、“それだけじゃない”。

 熱を帯びた光線のようなものが自分の体を穿った。傷口は確かに焼けている。故に、出血はそこまで酷くはない。階段から落ちたことも併せて、全身の激痛へとなって誠に襲いかかる。

「ぐっ……うっつ……っ!!」

(何が起こった? “どこから撃たれた”? 母さんは?)

 誠が思考を巡らせ答えに辿り着くよりも速く、その相手は姿を見せた。

「……『拡張者』、美波野誠クンっ。混乱してるだろうけど、大人しくあたしらについてきてくれれば嬉しいナ」

 髪を編み込んだ女性。その手には、拳を覆う特殊な形状の銃らしきものを持っている。

(外、国人……?)

 拙い日本語。そして、それを確認すると同時に、女の“向こう側の景色”に意識を割かれる。

「!! 母……さん……!」

 母親が腹部から血を流し倒れている。撃たれた。そう即座に推測出来た。

「あんた……!」

 誠の瞳が女を強く睨め付ける。

「お〜コワ。外の(ヒラ)警察には眠って貰ってる」

 誠の身辺を調査するにあたって、警察の保護下にあることは知られていたようだ。

 それもその筈、当の誠は知る由も無いが、件の活伸高校を襲ったトーマス・グリットの事件はインプレグネブル・ゴッズの仕業。その後の動向は探られていた。家の外に常駐するは、交代制の刑事一人のみ。その心許ない味方はあっさりと無力化されてしまったのだ。

「調べてあるよ。この家に特別に設置された、“救援要請ボタン”の位置も。でも、押させない」

 そう言って女は、痛みに悶える誠の顔を踏みつける。横の壁の方を向く形となった誠は、両耳と顔の側部を押し付けられる。

「いっ……!」

 女は両手の銃を舐めるように見回す。

「君の力はあまりにも強力で無敵の能力。……に思われがちだけど、“視界に入らなければ”何も出来ないし、“反応出来ない攻撃”には対処出来ない。分かっていれば意外と攻略は簡単よね」

 能力の詳細まで把握している。

 どんな組織なのか、そんなことは誠には分からない。だが、自分が能力を知られ始めてから、ずっと追われていた人間達の仲間であることは、その言葉の節から読み取れた。

「まあ〜“超人”? ってヤツだから、その危険性から、“あたし達二人”を充てがわれたってワケ」

 上を見ようにも、横を見ようにも、視界の限りがある。誠は抵抗すること、そして、家にあるボタンを押す事を諦める。

 “視線を下、胴体の部分へと下げながら”。

「は〜やっぱ面倒臭いし、気絶させていいよね? 彼だけは死なせなければいいって話だし、すでに肩に風穴開いちゃってるし」

 女が軽口で通信機の向こうの仲間らしき人間と話しているのを横目に、誠は“視界に収めた”制服の内ポケットから、“ボタン”を取り出す。

 女が誠に目を向ける。すると、誠の手が僅かに動いていることに気づく。

「“講習から帰ってきたばかりで良かった……”。そこの壁のボタン以外にも、“常に制服に忍ばせておけ”、そう言われててねっ」

「……?」

 何も音はしなかった。

 ただ僅かに、誠の内ポケットから点滅する光が漏れ出ているのが確認出来た。

「!?」

「まずいっ! “そこに来る”!!」

 仲間の青年の激声とほぼ同時に、窓ガラスの割れる音が響く。

 黒い脚が女の顔面に迫る。

「っぶな!!」

 寸前で避け、リビングへ後退る。

「……大丈夫ですか? 美波野誠さん」

 漆黒の外殻に身を包んだ助っ人が、誠に背中を見せつける。

「はや……。た、すかります」

「全然大丈夫じゃないわね……」

 息も絶え絶えな誠を見て、早期決着を決心する。

(お母さんの方も急がないと……)

「要請は私だけに届いてるわけじゃない。直にやってくるよ」

 安堵した誠を見るや否や、拳を上げ、戦闘態勢に移行する。

「……鑑灰寝だ。よろしく」

 女は苛立ちながら銃口を向けた。

「あ? 聞いてねェよ」


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