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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第1章.孵化
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7.猛禽の爪


 圧巻の光景。

 大型の鋸を振り回し、ソードを含めた全ての戦闘員を同時に相手取るレッド。

「もっとだ! もっと呼べ! 最低限の警備だけを残し、他は全て奴にぶつけるんだ! 絶対に殺せ!」

 机の下に隠れた真宮寺が叫ぶ。銃弾が机を掠め、窓に当たる。

「ひいぃぃぃ!」

 二本の刀剣を目にも止まらぬ速さで繰り出すソード。だが、その全てを受け流され、捌かれている。

 後ろに下がり、更なる部下を充てがう。

「ひえ〜! 流石、伝説の殺し屋だ」

 楽しそうにソードが笑う。

「どうする気だ馬鹿者! 奴のスイッチを入れおって!」

「仕方ない。(やっこ)さんやる気なんだもん」

「お前が焚きつけたんじゃろうが!」

 レッドは武器を掲げ、下方端のスイッチを入れる。激しい音とともに鋸が高速回転する。

「はあ、はあ、本気でいかせてもらう。後悔はするなよっ!」

 すでに夥しい数の死体で埋まっていた。殴りかかった一人を後ろ蹴りで吹き飛ばす。その威力は向こう壁のガラスを突き破った。突風が吹き荒ぶ。

「いやあ、実に強い」

 体の数箇所から血を流しつつもソードは果敢に飛び込む。

 死に物狂いで多くの敵を殺していくレッド。その姿はまさに修羅と言えた。

「やむを得んっ」

 室内の監視カメラ兼レーザー兵器がレッドを襲う。それを体を捻り、避ける。手数が増えたものの、変わらぬ強さで全員を斬り伏せる。

「奴は人か……!? 超能力者でもサイボーグでもない筈だぞ!」

 真宮寺は絶望していた。

「…………ぐふっ!?」

 突然、致命傷を避けていたはずのレッドが吐血する。目眩が生じ、視界が悪くなる。

「こんなときに……!」

 直後、肩をレーザーが貫く。部下達の手が止まる。たまらず、レッドは膝から崩れ落ちた。


 亜莉紗から聞いた場所に着く。

「また、客かよ。今度は……!? お前はラっ」

 瞬時に警備を眠らせる彈。

 随分高いビルだ。一体どこまで進んだのか。無事でいてくれ。そう念じてビル内に侵入する。

 すぐさま銃を持った男達が襲い掛かってきた。

「お前らを相手にしてる余裕はない!」

 最初から全力で辻斬と思われる者どもを蹴散していく。

 一刻も早く加勢できればいい。エレベーターでは何かと危険だ。止められるか、そこで何かの攻撃を受けるかもしれない。

 彈は階段を駆け上がる。各階ごとに隈なく探し回る彈。

「レッド! どこにいる!」

 待ち伏せる男達の手を折り足を折り、容赦の無い戦い方をしながら、最短で道を進めていく。

 やけに警備が少なすぎる。ちょっとしたトラップこそあれど、ここシングウジインダストリーはかなりの人員を抱えていたはずだ。

 階を上がれど上がれど、姿を見せないレッド。彈の息が上がる。体力の問題か、それとも最悪のケースを想像しているからか。駄目だ。勇希の件を引きずっている。ネガティヴになりすぎるのはよくない。レッドなら上手くやる。もうすでに逃げ切った後かもしれない。


 最上階。

 流石にかなりの警備が見受けられた。見つかるや否や交戦。

 彈の格闘術はすでに高いレベルに達していた。新宿での一件からまた更に相手への躊躇をなくし、全員を半殺しにまで追いやっていた。敵の銃を奪い数人の脚を撃ち抜く。レッドの教えのもと、あらゆる銃器火器凶器の使い方は一通り熟知している。倒れた頭にサッカーボールキックをお見舞いしてやった。

 宙返りをし、敵の弾丸を避ける。もはや雑兵では相手にならなかった。


 奥の一室まで来た。かなりの広さだ。最後の警備を倒し、ドアを勢いに任せ蹴破った。

 一面、真っ赤に染まった景色が広がる。

 血だらけのレッドがそこには立っていた。数多の死体、壊れた部屋の端々、そして数人の辻斬達と真宮寺雅隆、ソードの姿が視界に入る。

「! 来るな!!」彈にそう叫ぶレッド。

 振り向いたその瞬間、ソードの剣がレッドを貫いた。腹部に鈍い痛みが走る。鋸を振るうレッド。それも避けられてしまう。

「レッド!!」

 彈が駆け寄る。レッドは後ろに力なく倒れてしまう。

「やっと、やっとくたばったか。……人生で最高の時間を過ごせた気がするよ」ソードは満たされていた。左手に残った剣を下に離し、落とす。

 彈の腕の中で”最強”の男が倒れている。嘘みたいな光景だった。真実味というものがまるで存在しない。レッドが力を振り絞り、耳元で何かを彈に囁く。

「それって……!」

 すでに、返事はなかった。

 机から少しだけ顔を出した真宮寺が口を開く。「し、死ぬかと思った……命が幾つあっても足りん。やはりお前を雇っておいてよかった」安堵の表情をみせる真宮寺。

「ヒーロー君。君、もう帰っていいよ。今日は想像以上の収穫があったからな。少し、余韻に浸りたい」ソードが天を仰ぎ言い放つ。

 彈はゆっくりとレッドを寝かせ、彼の目を閉じた。

 立ち上がり、尋常ではない殺気を放つ。

 真宮寺はまたも身を隠す。ソードはじろりと彈を見つめた。警戒しながら襲いかかる部下達を一瞬でねじ伏せる彈。

「もう疲れたんだけどな……まあ、デザートってことで!」

 新しく壁から出した青龍刀を持ち、彈に斬りかかる。

「アチョ〜!」

 中国剣術の不規則な軌道を全て避ける彈。反撃の拳をソードに当てる。刀を手放してしまうソード。

「あれ? だいぶ成長したね。こりゃ本気でいかないとやられるな」

 パネルを操作し、全ての壁からあらゆる刃物が飛び出す。中の一つ、洋剣を握りしめた。

 彈は場を縦横無尽に駆け回りながら斬撃を避けていく。飛び出ているサーベルを掴みソードの剣を受けた。

 剣の腕ではソードには及ばない。それは充分理解している。防戦一方かに見えた彈はサーベルを床に突き立て、全身を宙に浮かし中段の斬撃を避ける。そして、そのまま逆さになり、渾身の踵落としをソードに浴びせた。

「ぐっ……ま、まずったな」

 脳震盪を起こし千鳥足のソードを殴り、蹴り、滅多打ちにする。

「ぐっ、ぶっ! ごほっ!」

 怒りが感情を支配していた。彈の手が止まる頃には、ソードの意識は途絶えていた。

 全てが終わった。

 ———かに見えた。真宮寺が恐る恐る姿を見せる。

「貴様、やってくれたな……猛禽(ラプトル)如きが」

「……ラプトル?」

「突如現れたかと思えば、縄張りを荒らすかのように鋭い眼光で儂から大切なものを奪っていく……貴様は卑しいラプトルだ」

 彈は静かに怒りを露わにする。

「何が大切なものを奪うだ……? それはお前らだ。私利私欲の為にむやみに人を殺し、何が楽しい? お前は夥しい人の死体の上に自分が成り立っているのが、何故平気なんだ……!」

 真宮寺は観念したかのように座り込んだ。

「人間は自分の為に生きている。……貴様こそ、世界のどこかで死んでいる他人を想うことがあるか? それに、間接的に自分が関わってるかもしれないと考えたことは? たらればなど幾らでも言えるわ。……儂は他人の生き死にには何の感情も覚えん、そう生きてきた。さっさと殺せ」

 命乞いをするどころか、後悔の念すらないように見えた。それが余計に腹立たしかった。

「それでもお前は間違ってる。目の届く範囲にいる人を故意に傷つけるべきじゃない。これからも俺は、お前らのような屑を……裁く」

 サイレンの音が少しずつ近づいてくる。



 “テーブルの裏を見ろ———“

 小さく折り畳まれた紙。彈が開くとそこにはレッドの書き置きが残されていた。

『大変なことになった。話は聞いたか? お前を行かせるわけにはいかない。話し合いで穏便にすめばいいが、そうはいかないだろうな。出来るだけ抵抗はするが生きて帰るのは難しいだろう。だから手紙を残すことにした。

出会った日が俺の引退日なんて運命だよな。まあ不謹慎過ぎるか。本来なら出会わない、それが一番だったってのに。

人殺しよりも恐ろしい目をしてたお前は、今やヒーローなんて呼ばれてる。もちろんお前が犯罪者を許さないって気持ちだけで動いてるのはわかってる。けど、仮にも救われた人がいるんだ。そんなに悪い呼ばれ方じゃないだろ?

四ヶ月くらいか? お前といた時間は密度が濃すぎてなんだか何年も一緒だったみたいだ。もう随分と力をつけた。武器なしの格闘なら俺も危ういかもな。

正直、まだ伝えたいことばかりだった。世界には色んな人間がいる。ソードよりも強い奴や、荒唐無稽だが人智を超えた力を持つ者達も存在する。嘘じゃないぜ?

もっとお前に協力したかった。

もっとお前の活躍を目にしたかった。

もっとお前と笑ってたかったよ。


帰ってこの手紙を燃やすことを目標とする。


またな』

 手紙は濡れていた。文字は滲んでいた。紙を握りしめる手は震えていた。短い期間で、自分が、手紙の男が。こうも入れ込んでいたことに驚きを隠せなかった。

 廃墟の地下室で一人。ただ声を殺し、……泣いた。


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