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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第3章.墜落
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63.深海への誘(いざな)い


「思ったんだけど、“殺す”ことが主目的であるモノクロームに、尋問のようなことは向いていないんじゃあないかな。『話せば許してやる』なんて言わなそうだし、隠さなそうだ」

 モノクロームへの懸念点を挙げるダニエル。

「うーん、あたしもちょっとは考えたんだけど、彼多分、標的達には物凄く恐ろしい存在に映ってると思うの。それは間違いない。それで、同じく恐れられてたレッドの時を思い返すと……やっぱり悪人達は吐くわよ。そういう世界で生きてきただけあって、お金や情報の“価値”を知ってる。事実、買収したり、話せば助かることは“ざら”にあるしね。まあ、レッドとモノクロームはそうはいかないイレギュラーなんだけど」

 亜莉紗は、一先ずのリーダーを信頼することを選んだ。


「死ぬ前に、せめて有益な情報を吐いてから死ね」

「ひっ! い、言えば助けてくれるんだなっ!?」

「は? お前みたいなのを生かしておくわけねえだろ」

「ええっ!?」

「ほら、早く」

 モノクロームは男の首を絞める力を一瞬強める。

「ぐえっ! 言っても助からないのに、誰が貴様のようなものに吐くものかっ!!」

「そうか。なら、断罪だ」

 上手くいかない。

 もっと早く情報を集めれると踏んでいたモノクローム。それは中々に難しいものだった。

 あれから数日が経過した。

 亜莉紗からの連絡は無く、モノクロームはただ一人、夜の活動に加えて、例の雷に関すること・ラプトル失踪についての手掛かりを集めていた。結果は伴っていない。

 物音。後ろで鉄パイプの倒れる音が聞こえた。

「……誰だ」

 その陰には、一人の青年が居た。

 ひどく怯えた目をしていた。この、モノクロームの所業を目の当たりにすれば無理もない。

「子供……? 何故こんなところにいる」

 中学生くらいだろうか。青年は肩を震わせ、腰を抜かしている。ゆっくりと近づき、腰を下ろす。

「質問に答えろ。子供がここで何をしている」

「あっ……はっ……え、えっ……っと……」

 溜息を吐くモノクローム。

「深呼吸をしろ。……俺に合わせて。いいか? 吸って、吐いて。また大きく吸って」

 指示通りに大きな深呼吸を試みる青年。少しずつ、落ち着きを取り戻していく。

「あ、あの人達に捕まって……」

 インプレグネブル・ゴッズ日本支部の末端の連中。今日はそれを潰しに来た。

(こいつらは主に危険な武器や凶器類の違法輸入だったと思うが……)

 亜莉紗からの資料を取り出し確認すると、数回だが人身売買も過去に行っているとの項目があった。

(屑が……)

「お前以外には?」


 青年の手引きにより、少し離れた埠頭にあるコンテナに行き着く。

「確か“四”……だとか、言ってた気がする……」

 数字が割り振られている。だが、全てを調べる他ないだろう。一番端のコンテナから蹴りで扉をこじ開ける。

「開けるぞ」

「う、うん」

 開いた中には十数人の子供達が閉じ込められていた。皆、年齢は恐らく中学生前後。囚われて何時間経過したのか、考えもつかない。

「な……」

 また新しい子供が連れ去られてきた。それも、今までよりも遥かに恐ろしく、奇妙な格好をした男に。

「あ、安心しろ。俺はお前らを助けに来た。もう心配しなくていい。家に帰れるぞ」

「もう悪いヤツらは居ないんだ! 僕が保証するよっ」

 青年の声に戸惑いつつも若干の安堵を見せる子供達。

 なんて悲惨な光景だろうか。このコンテナはあと二十近くはある。

「全部確かめるぞ」


 十八のコンテナの内、四つの中に子供達は居た。

「おじさん、ありがと……」

 苛立ちを抑えきれない。インプレグネブル・ゴッズ。この日本に根付いている腫瘍をいち早く切除する必要がある。そうせねばならない。

「……」

「おじさん?」

「ん、ああ……」

「あのさ、おじさんがあの怖い人達に聞いてたこと、僕知ってるかも」

「何?」

 青年は話し始める。

「“クラゲ野郎にラプトルが喰われる様を見てみたいが、ロンに先を越されるだろうな”、って。そう言ってた」

 ラプトルに対しての情報。まさかこんなところで手に入るとは。

「ラプトルは学校でも有名だし、最近見ないから耳に残って」

「でかした! それだけでも大分助かる」

(クラゲ野郎とやらも中国に居るのか……? なんにせよ、標的(ターゲット)が絞れたのは大きい。……クラゲに、会いに行くとするか)

 電話をかけるモノクローム。

「……〇〇区△△×-×」

 現在地の住所のみを答え、電話を切る。スマートフォンからsimカードを取り出し、折る。本体を宙に投げ、脚の武装で切断する。

「?」

 青年に目線を合わせる。

「警察を呼んだ。来たら事情を伝えろ、出来るだけ正確に。あ、俺の名も忘れずにな」

 そう言って背を向け、歩き出す。

「おじさん行っちゃうの?」

 返事もしないまま、潮風にマントを揺らした。

「……頑張って!! おじさん!」


 ラプトル拠点の廃墟。

「クラゲ野郎……。他に情報は? 特徴とか」

「それだけだ」

「はあ? もっと細かいとこ聞いてきなさいよ」

「そ、そいつがそれだけ口走って死んだんだっ」

 亜莉紗は呆れている。

(やっぱり犯罪者の口を割らせるなんて、この男には大任だったかしら)

 目を伏せるモノクローム。

「それにしても、何故いつも夜なんだ? 夜九時以降だなんて、いつでも会えはしないのか?」

「ばっ……あたしだって暇じゃないのよっ。夜しか駄目っ。と、とにかく、クラゲ野郎のことは任せなさい。明日にでも必ず調べ尽くして連絡するわ」

 モノクロームは亜莉紗から貰った機械を見つめる。

「ケータイが壊されたからな、この通信機ってのは便利で気に入った。それじゃあ、そっちの進捗は?」

 亜莉紗は待ってましたと言わんばかりの表情を見せる。

「坊や……じゃなくて、ラプトルに関しての情報は全くって感じだけど、中国と雷に関してはヒットしたわ」

「おお」

 カタカタと再びキーボードを叩き、パソコンを操作する。そこに、一人の男が映し出された。

「こいつは?」

「彼は(ロン)。通称、壊し屋。中国拳法の達人、まあ、早い話が“悪者”よ」

 中華服を来たその風貌は、いかにもといった風だ。

「中国・雷・殺し屋、三つの要素を調べていたら、彼に辿りついた。最近、中国の裏の界隈では、焼死体が多く出ていて、その死因はどれも感電死。けれど雷雨の日はしばらく無いわ。そしてもっと深掘りしたら、『纏雷』というキーワードを見つけた。この龍のことだったわ。以前の壊し屋から燃やし屋なんて呼ばれ方にもなっていた。相次いでいた変死の犯人は彼だったのよ。……人が電気を操る。荒唐無稽だけど、その異常な改造手術を施したのは、あのインプレグネブル・ゴッズだったの」

 ここに来ても、名を轟かせる。社会にとって、最大の悪であることを再認識させられる。

「彼は以前ラプトルと交戦しているわ。その際に敗北を喫し、逃走している。大方、その復讐として拉致したんじゃないかしら。死体も無いことだし、生存の可能性は充分にあるわ」

 中国の殺し屋。

 雷を扱う超人とでも言うのか。理解を超えた話にモノクロームは辟易する。

「そいつを探してひっ捕えればいいんだな」

「ただ、こいつも今は雲隠れしているのか、所在の情報がほぼ無いわ。だから先ずは“クラゲさん”を探す。そして、あなたの情報から察するに、クラゲさんと龍は面識がある可能性がある。クラゲさんに居所を聞きましょ。順を追っていけば、自ずとラプトルへの道は見えてくるわ」

 クラゲから龍から猛禽と、俺は動物園か水族館でも探しているのか? いや、普通龍は居ないか。

 モノクロームは目下の敵、“クラゲ野郎”に意識を定めた。

「後で、ちょっとスーツ見てもいいかしら?」


 会社でも、家でも、恋人と居る時も、活動使命のことを考えた。


 百合渚の楽しそうな笑顔が眩しい。

 今夜は、彼女の家で晩酌に付き合っている。

「もう二十二。下旬だね。会社の新人君達は五月病やらで大変よ。まあ、万年クマだらけのテッちゃんにはあんまり分かんないか」

「失礼なこと言うな」

「ははっ」

 意味もなくお笑い番組を垂れ流している。こんな平穏を壊させない。インプレグネブル・ゴッズは滅んで然るべきだ。

 ポケットの振動に気づく。

「……ちょっと外す」

「あれ? ケータイ壊れたんじゃ?」

「新しくしたんだ」

 談笑を中断し、窓を開け、ベランダに出る。

「俺だ」

「亜莉紗よ、“テッちゃん”」

「!? 貴様……盗聴でもしているのかっ!」

「人聞き悪いこと言わないでよ。ただ、愛称“っぽく”呼んだだけじゃない」

「なんだと? 俺の素性を暴いたって云うのか」

「そんなこと、そんなに重要かしら。まあ、保険よ保険」

 身辺を尾けられたのだろうか。信用して欲しいのか疑われたいのか、どっちなんだこの女は。

「……俺の知り合いに手を出したら殺す。いいな」

 歪な空気が漂う。

「はいはい。じゃまあ、本題に。クラゲさんについて、現状の情報を共有するわ。刑事さんも知ってたみたい。通称ジェリーフィッシュ。聞いた話だと、あのマキビシとも繋がってたそうよ。問題なのは……“子供”だってこと。父親は相当の金持ちで、トップレベルの議員だとか大手企業の社長だとか色々囁かれてるわね。気に入らない人間を衝動的に・趣味の一環のように、殺している。大きな目的などは無く、愉快犯ってとこかしら。仕事依頼も引き受けていて、小遣い稼ぎをしてるとか」

「愚かな人間だ」

「幸い彼は日本に居たわ。場所は……」


 場所と日付は変わって、四月二十三日。

 九六部は歌舞伎町の外れにある、売れない風俗店、“深海”に来ていた。

 入り口は地下への階段になっており、丁度一階分を降りた先に本来の入り口扉があった。扉を開けると、ピンク色の照明が飛び込んでくる。粗末な店内。稚拙な音楽が多少のムードを作り出している。

「いらっしゃいませ。当店は初めてですか?」

 受付の男が口を開ける。どうやら入店時、辺りを見回したのが初心者丸出しに見えたらしい。

「……“ネイバーアクアリウムへ行きたい。ネイビーだったか”?」

 九六部の一言に、様相を変え、男は質問する。

「……お一人様で? 団体様で?」

「一人だ」

「こちらへどうぞ」男は奥の一室へ案内する。

 男の後を追い、いくつもの部屋を抜け、裏のスタッフルームを通る。嬢の控室を通った際に僅かに悲鳴を上げられたが、あまり取り乱していない様子を鑑みるに然程珍しい光景ではないらしい。

 詳しく知っているようにも見えなかったが。

 恐らく地下をもう一つ分は降りた。さらに“横”にも進んだ為、元の店の真下、というわけではないようだった。

 重く厳重な扉の前に立つ。警備もそれなりに配置されている。

「こちらの向こうに“いらっしゃいます”。では」

 男はそのまま頭を深々と下げる。九六部はドアノブを強く握り、ゆっくりと押し込む。

 荘厳。

 眼前にはまるで水族館のような、巨大な水槽に囲まれた、美麗な景色が広がっていた。

 その中で、客人用の黒いソファが二つ、テーブルを挟んで置いてある。向かいには、社長机のようなものに、こちらに背を向けた男が座っている。室内に警備はおらず、一人のようだった。

「……ジェリーフィッシュで間違いないか?」

 男は椅子を回し、全貌を露わにする。学生服に、機械仕掛けのフルフェイスマスクをつけた奇妙な外見だった。

「いかにも。僕に依頼かい? 額面に応じて引き受けよう」

 機械を通した声は、あたかも“宇宙人”のように聞こえた。


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