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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第1章.孵化
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6.正面衝突


「やっと、やっと追い詰めたぞ……! 血の鎧の男よ……!」息を荒くする真宮寺。

 埠頭にて“赤い生命体”を取り囲むように真宮寺の兵隊が並ぶ。空気の張り詰める中、幾つもの銃口が向けられていた。

「……もう俺に関わるのはよしてくれ。目立ちたくないんだ」

「へへっ人外どもめ。貴様らのようなサンプルが手に入れば、わしらの技術はさらに先をいける……! 大人しく捕まってくれい」

「はあ。なら他の連中にしてくれ。……その気になれば一瞬で片付けられるんだぞ?」

 そう言って後ろに倒れるように暗い海の底に体を預ける。あまりの本能的な死の警告に、場の全員の体が硬直していた。

「なっ……! の、逃すな! 捕らえろ!」

 歯軋りをし、苛立ちを隠せない真宮寺。

「辺り一帯を全て二十四時間体制で監視、警備しておけ! この寒さの中いつまでも水中にはいられないだろう。必ず見つけ出せ!」


 あの日から事あるごとに近づいてくる女性、みづき。

「最近ジム行ってる? この服買おうと思ってるんだけど可愛くない? あ、そうそうお昼近くに新しくできたカフェで休憩しようよ!」

 怒涛の勢いで話しかけるみづきに彈は応える。

「別にいいけど」


 カフェで軽食をとる彈とみづき。

「は〜、ここのサンドイッチおいしいね」

「う、うん」

 鼻歌を歌いながらシロップを入れたコーヒーをストローで掻き混ぜる。

「あのさ、みづきちゃんて積極的? だよね」

「え? ち、ちょっと勘違いしないでよね! 別にそういうんじゃないから!」

「あはは、ごめんごめん。……なら、何か聞きたいことでもあるんじゃないかな」

 ふと、僅かにみづきの顔が翳ったように見えた。

「ううん、あたし気分屋だからさ。今は彈といるのが楽しいから一緒にいるだけっ」

「ならいいんだけど」

 沈黙が生まれ、カフェに設置されたテレビの音がやけに大きく聞こえる。丁度、“自分”のことが取り上げられていた。

「……ヒーロー」

 みづきが呟いた。

「やってることはすごいかもしれないけどさ、空を飛べるわけでもないし、あたし達と同じ人間なんでしょ? すぐに死んじゃうか、辞めちゃうんじゃない」

 少し、冷たい言い方に聞こえた。

「……確かに。それに、いつ捕まってもおかしくない。けど、犯罪が少しでも減るきっかけにはなるかも」

「へ〜……応援してるんだ」

「みづきちゃんはあんまり良く思ってないの?」

 彈が尋ねる。

「それはこっちのセリフ。あの人がどこの誰だか知らないけど、結局は法律を破って活動してる。暴力が好きなんだよ。じゃなきゃ優秀な警察になってるはず。あんなの犯罪者と一緒、“同類”だよ」

 嫌な沈黙が肌に纏わりついた。

 みづきが慌てて空気を明るくする。「やめよ! 辛気臭くなっちゃったね。ね、今度カラオケ行こうよ。どんな歌歌うか気になるな〜」

 彈は深くは考えず、会話を続けた。


 人を探している様子の刑事、流牽政。捜査第三課の同期、三崎を見かけた。

「おい、三崎! 斉藤さん知らないか?」

「あ〜あの人ならさっき喫煙室で見たけど」

 礼を言い、すぐに喫煙室へ向かう流。

「こんなところ居たんですか、ゴホッゴホッ」

 扉を開けるや否や、大量の煙が流を包む。

「おーう。どした? お前が来るようなとこじゃないだろう。急用か?」

「いや、まあ。……にしても、もうそろそろやめたらどうですか? 都内じゃ直にもう吸えなくなるんだし」

「いーや、俺はこいつがなけりゃやってられん。どんなに喫煙所の場所が移動しようが構わんさ」

「古い人だなあ。あ、そうそう。この間の鬼鷲会の件ですよ」

「白スーツ野郎の犯行だったって奴か」

 流は取り出したメモを見ながら続ける。

「ええ。あんな所業、奴しか考えられませんから。それに今回は単独での犯行だったようです。一課と四課で調べているところ、鬼鷲会に殺し屋まがいの奴らと揉めるようなことは無かったみたいで。今回も無差別、いや、テキトーに腕試し感覚で犯行に及んだって事ですかね」

 斉藤が煙草を口にする。

「きな臭いな……後手に回る以上、情報を集めつつ確実に奴らを倒す必要がある」

「例のヒーローさんは手を貸してくれたりしませんかね」

 ぎこちなく笑う流。

「馬鹿野郎! 警察官が何言ってんだ。感謝はしても頼りにしちゃあならねえ。第一、自警団まがいの行為を俺らが認めていいワケねえだろう」

「す、すいません」

 斉藤はそう言い煙草を捨て、部屋を出た。


 地下室奥、キッチン。

 具材を切り、ルーを溶かし、ことことと鍋を煮込んでいるレッド。ご機嫌な様子でカレーを作っている。

「うん。よく出来てるっ」

 味見をし、満足気なレッド。すると電話の音が鳴り響く。電話先の相手は亜莉紗だった。

「ハーイ。今坊やは?」

 やや急いでいる様子の亜莉紗。

「まだだが、どうかしたか?」

「一緒じゃないのね、よかった。あなたには伝えておくわ」

 パソコンを立ち上げ、亜莉紗の指示通りに特定の裏サイトを開く。ダークウェブ上に存在する犯罪者の巣窟。そこでは一件のビデオメッセージが賑わいを見せていた。

『やあやあ、皆さんご存知シングウジインダストリーの元、働かせて頂いてる実行部隊、辻斬でーす。警察さん達を掻き乱すのは十分楽しんだので、次は国会議事堂にて、遊ばせて頂きたいと思います。今回は全戦力を投入する。本日深夜、日を跨ぐ頃に作戦を開始致します。見てますか? ヒーローさん。止めたければそれまでに本社にてお待ちしております♪』

 拳を握りしめるレッド。

「くそっ。名指しでの指名だと……!? 馬鹿馬鹿しい、警察がすぐに見つけるだろう」

「このサイトはあたしらレベルの世界の人間が扱うツールよ。恐らく警察が見つけるのは相当時間を要するわ。……坊やに見られる前でよかった。でも今回はいくら被害が出ようとその場で警察側に対応してもらうしか無いわね」

「なら……俺が出る」

 驚き、声を上げる亜莉紗。

「! 冗談でしょ!?」

 話を続けながら身支度を始めるレッド。

「今回見逃したとして、彈が目をつけられたことに変わりはない。ならこれだけの組織、今潰しておくに限る」

「相手はかなりの数よ!? いくらレッド、あなたでも」

「亜莉紗! ……まだ半年もあるんだ、俺は大丈夫だ。このことは彈には言うなよ。なに、すぐに帰るさ」

 必死に止める亜莉紗を一方的に切る。使い古した大型の武器を見つめ、その手に握った。


「本当に来んのか……?」

 あくびをしながらシングウジインダストリー入口警備の男が言う。返答する間もなく、もう一人の男が声を上げた。

「? ……おい! 何者だ!?」

 正面には明らかに異様な雰囲気を纏う男。それもその筈、大きな丸鋸状の武器を隠そうともしない。

「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」

 忠告を聞かない男に発砲するも一瞬で弾丸を弾き返される。

「な……!」

「レッドスプレー。そう伝えろ」


 シングウジインダストリー最上階、三十二階。社長室。

「いやはや君が来るなんてね。驚いたよ。何用かな?」

 真宮寺が問いかける。

「しらばっくれるのか。貴様らの無駄な殺しを止めさせに来たんだよ」

 プッ、堪えきれない笑いを吹き出す真宮寺。

「殺し屋でありながら頭のおかしい偽善者だと言うのは本当のようだ」体に纏わりつくような声で挑発する。

 真後ろのドアが開き、ソード、王前が顔を出す。異質なオーラに少し目を向けるレッド。

「! 本物じゃねえか、本物のレッドスプレーじゃねえかよ! あはっ」

 レッドを見ながら通り過ぎ、真宮寺の元へ歩み寄るソード。興奮ぎみのようだ。

「後はお前の好きにしたまえ」

 後ろ手を組み、壁一面ガラス張りの窓側へ近寄る真宮寺。

「俺、唯一この世界での憧れがあんただったんだ。会えて嬉しいよ」握手を求めるソード。相手の反応は無い。

 レッドは変わらず続ける。

「そりゃどうも。なら国会議事堂に攻め入るってのはやめてくれないか。無差別な殺しも。あんなの殺し屋の仕事の範疇を超えてるだろ?」

「……暗殺や要人を殺すだけの時代じゃないんだよ。あんた、ここで暴れようってのか? 今は勘弁してくれ。別の客を呼んでるんだ」

 ソードはそう言って、丁重にお送りしろ、と部下に伝える。

「———そいつの代わりに来た」

 小さな声で呟くレッド。

「あ? 何だって?」

「そいつは来ない。俺が代わりにお前らを止めに来たんだからな」

 語気を強めるレッド。

「はあ? ……マジかよっ。あのヒーローちゃんとレッドスプレーが繋がってたのか! 道理で見込みがあるわけだ。弟子でも取ってるのか?」嫌な視線を向ける。

「あいつに手出しはさせない」

 レッドに背を向け、社長机のパネルを操作するソード。途端に足元の床が開き、凶器が飛び出す。インドの刀剣、ジャマダハルを両手に握る。

「……一度交わったんだ、事情は知らないけど、ここで逃したくはないなあ」

 笑顔でソードが振り返る。

「やっぱり殺すよ♡」

 剣戟音が響きわたる。互角に反応したかに見えたソードは後方に飛ばされていた。

 一斉に部下達が銃を放つ。その全てを撃ち落とすレッド。

「俺を、あまり怒らせるなよ……」


 廃墟につき、ひと息を吐く。

「今日は夜間の講義まで出たから遅くなったな。……レッド? 居ないのか? 珍しいな」

 室内にふと違和感を感じる。匂いだ。別室のキッチンに行くと、つい先程まで使用されていた形跡があった。大きな鍋もまだ温かかった。

 不審に思い地下内を見渡す。無い。身の丈を越すレッドの武器が無い。すぐさま亜莉紗に連絡する。

「……! ど、どうしたの?」

「レッドがどこにも、どこにもいないんだ……!」

 亜莉紗の声が震える。

「それくらいなんだってのよ」

「あいつの武器が無い。あのでっかい鋸が無いんだよ! 仕事を引退した奴が何に使う!?」

 渋ってる様子の亜莉紗。電話越しにも伝わってくる。

「何か知ってるなら教えてくれ!」

「実は……」


 臨戦態勢の男はコスチュームに身を包み、悪を穿ちに外へ出た。


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