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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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48.畏怖


「完成したか……」

 マキビシの眼前には、長い時間をかけて作られた人型の機械が立っていた。マキビシのトレードマークである深緑の色をしたその外装は厳かな雰囲気を纏っており、大型のパワードスーツのようにも見える。

「他はどうでもいいけど、そいつでラプトルを殺すなよ?」

「分かっている。ラプトルはいくらでも好きにするといい。これは奴を“倒す”為の手段に過ぎん」

 マキビシの要望の元、設計図通りに作られた殺人マシーン。最高傑作というその力は底がしれない。

「でもよォ、そいつ……」

「ああ、抜かりない。”準備”も万全を期している」

 マキビシは一度もマシンから目を逸らさずにそう答えた。


「さて、行きますか」

 彈は再び誠、光子と一緒に居た。

「鷸水さんはよかったんですか?」誠が彈に訊ねる。

「あんなの目立って仕方がないでしょ」

「まあ」

 光子は話など聞いていないかのように目の前のビルに意識を奪われている。

「テレビ局なんて初めて! しかもラプトル様と一緒なんて最高ですね!」

「じゃ、手筈通り」

 三人はテレビ局本社に赴いていた。

 亜莉紗の手配で御門悠乃の元マネージャー、佐藤という男達とコンタクトを取ることに成功した。現在は多くのラジオの放送作家をやっているらしい。

 調べによれば、御門悠乃の良き理解者であり、人気になるまでを支えた最高のビジネスパートナー。そんな彼は、ある日突然マネージャーを変わっている。本人希望により職を変えたらしい。ワケありということだ。

 なんにせよ、御門悠乃の事をこれほど知っているであろう人物は居ない。もちろん血縁者は調べたが、家族や近しい人物は都外や海外に飛んでおり、簡単には接触出来ない状況にあった。

 アポイントメントを伝え、上へ案内される三人。一室のドアを叩く。

「はい」

 彈を筆頭に部屋に入室する。そこには体格の良い短髪の男性が腰掛けており、立ち上がるところだった。

「どうも、今日は取材のご快諾ありがとうございます。編集部兼広報担当の早瀬です」

 彈の饒舌さが際立った。そういう設定らしい。男は彈の握手に応じる。

「こんにちは、放送作家やってます、佐藤です。……後ろのお二人さんは?」

 誠と光子は緊張を隠せないでいた。記者らしい装いの彈に対して、学生服である二人。

「先日お話ししました、活伸高校さんとの共同の企画でして、こうやって学生さんに現場実習のような形で居てもらっているんです」

「ああ、なるほど。よろしく、佐藤です」

「準備をしても?」

「もちろん」

 彈は三脚を立て、ビデオカメラを設置し始めた。失礼、と佐藤の胸元にピンマイクを取り付ける。雰囲気を出す為に仕事場であるスタジオを借りている。

「じゃあ、さっそくインタビュー始めさせて頂きます」

「どうぞ。面白い話が言えるか不安ですが」

「ははっ、大丈夫ですよ。御門さんの掘り下げに特にお笑いは必要ありませんから」

 すでに彈は佐藤と和気藹々とした空気を作るに至っていた。ビデオカメラとは別に用意したボイスレコーダーにもスイッチを入れる。

「———今回は各局メディアに引っ張りだこの大人気モデル、御門悠乃さんについて、以前のマネージャーであり御門さんをよく知る人物、佐藤さんをゲストに迎え、インタビューをさせていただきます」

「はい」

 誠は手に汗が滲んでいるのを感じた。彈が、落ち着いて、作り上げた設定を守り続けているのには尊敬する。下調べも万全の筈だ。

「まずは、御門さんの出自から振り返らせて頂きます。都内で生まれ幼少期からとても活発な少女だったらしいですね。おしとやかなイメージもある御門さんですが外で遊ぶことも多かったとか」

「そうみたいですよ。幼稚園から小学校の間は体に傷をつけて帰ってくることも多かったと聞いています」

「なるほど。中学・高校では一転、勉学に励んだ学生時代を過ごしたと。ちょうど高校辺りから芸能活動も始めていますよね」

「ええ、彼女の整った顔立ちは中学ですでに完成されていましたからね。スタイルも申し分なく一躍、学校のマドンナになっていたらしいです」

 社交辞令的な表面上の質問が続く。時間をかけて口を割らせていく魂胆だ。他にも質問を続けていく彈。佐藤が自ら置いたお茶を飲み干す程に話は長引いた。

「いやはやこうやって話を掘られると改めて彼女が逸材だったのいうことを再認識させられますね」

 場が暖まったところで彈が目線で二人に合図する。

「それじゃこのあたりで、学生の二人にバトンタッチしますね」

「ええ、どうぞ」

 誠が口を開く。

「……少し深いところを質問させて頂くのですが、構わないでしょうか」

「もちろんです。彼氏などの男性関係には答えかねますけどね。ははっ」

 佐藤は依然動じていない様子だった。

「御門さんのご家族についてです」

「……ええ」

 少しだけ空気がピリつくのが分かった。それは彈だけではない。

「ご両親、悠乃さん、そして弟さんを含めた四人家族だと伺っております。……悠乃さんが高校生の頃、弟さんは自殺、という形で帰らぬ人となっています。答えにくいことだとは思いますが弟さんについて当時の悠乃さんはどういった状況でしたか? 芸能活動を続けるのはかなり大変なことなのに、一切その様子を世間には見せませんでした」

「あれは悲しい事件でした……彼女の弟さんはいじめに遭っており、つらい毎日を過ごしていました。きっかけは大人気モデルを姉に持つ、という些細な子供の妬みのような感情です。弟さんは家族葬で送られました。流石に私も彼女が“まいってる”と思い休業を勧めました。しかし、彼女はファンを第一に考え、家族の死を公表しないことで変わらずメディアに出続けました。普通じゃとても出来ない」

 いじめられた弟の死。確かに常軌を逸してしまいそうな事件ではあるが、今彼女が暴走しているのにはレッドスプレーが深く関係している。そこが聞きたい。

「ありがとうございます」

「辛気臭くなってしまったね。けど、ドラマチックだろ? 作り話かと疑うほど、彼女は強くて完璧な女性なんだ」

 佐藤はそう微笑んだ。彼の表情に嘘は無い、そう思った。

 “彼女”以外は。

「深鈴です。私からも一つ」

 名前を名乗り忘れていた。誠は彈を見て申し訳なさそうに軽く頭を下げる。

「御門さんに何か人と違うところはありますか?」

 光子の質問に佐藤はおもわず吹き出す。

「はははっ、面白いね君。彼女に僕たちと同じところなんてあるわけがない。せいぜいが目があって鼻があるくらいだよ。彼女は特別なんだ、そのどれもが僕たちとは違う」

「じゃなくて。……言い方を変えます。———御門さんに何か“人智を超えた特殊な力はありますか”?」

 予定していた質問と違う。そこはマネージャーを辞めた時期について深掘りする筈だったろ。私に任せてください! と息巻いたと思ったら、無茶な真似を。

 だが、”揺さぶり”には成功したらしい。

「か、揶揄ってるのかい? 特殊な力? ドッキリか何かかな? ははっ」

 誤魔化しているから。動揺しているから。そんな理由を心理学的な観点を抜きにしても、明らかに目線が泳ぐ回数が多い。“癖”になっているかのようだ。

 まるで、“常日頃から誰かと目が合うのを避けているかのように見える”。

「はぐらかさないで! 知っているんじゃないですか!?」

 光子が前のめりになる。

「な、何なんだ! あんたら、テレビの人間じゃないだろ!? 何者なんだよ!」

 熱くなった光子を宥めるように彈が左手で制し、前に出る。

「佐藤さん。あなた、御門悠乃さんについて相当熟知してますね。彼女の人を操り手駒にする能力、そして彼女の過去について、知ってることを洗いざらい話してもらいます」

 彈の凄みに思わず椅子から転げ落ち、尻餅をつく佐藤。

「し、知らない! 何も知らない! 勘弁してくれ!」

 ひどく怯えている。光子もその様子を見てすっかり攻める気を無くしてしまった。

「彼女は恐ろしい力を持っています。それに恐ろしい人間とも関わっている。彼女を止める為にも協力して下さい……!」

 佐藤の肩を持ち説得を試みる彈。その肩は震えていた。

「わ、私は」

「身の安全は保証します! だから、どうかお願いします……!」

「く……はーっ」

 観念したように佐藤がため息を吐く。

「わ、分かりましたよ……」


「そうです。彼女は視線を合わせることで人を操ります。操られた人間はその身体能力やポテンシャルはそのままに、意識を奪った状態で傀儡にするのです。操れる人数に限りがあるかは分かりません、そもそもそんなに大勢を操っているところを見たことはないですから。能力はこんなものですが、過去については分かりません。彼女は話したがるような人でもない」

 彈の説得の甲斐もあり、すらすらと喋り始める佐藤。彈に変わり誠が質問する。

「何故あんなに怯えていたのですか?」

「何故ってそりゃあ、そんなバケモノみたいな力怖いでしょう!? 現にその能力で私も操られたことがあります。操られている間は記憶が飛ぶので、元に戻ったときには時間が経過し、想像だにしないことをした後になっている。そんな怖いことはないですよ」

 バケモノ、か。

 佐藤が言葉を続ける。

「そして何より、直近でその協力者とやらと二人で私を脅しに来ました。なんでも、今度やるファンクラブイベントで暴動を起こす、と」

「!! なるほど、それであんなに……。暴動なんてして、そこまでして俺とダニエルに固執するのか……!」

「協力者として私が欲しいと言われました」

「決行の日付は分かりますか?」

「来週、四月の七日。場所は、秋葉原」


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