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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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46.怒り


「何してんだ? お前」


 振り返り様にクナイを横一線に振る。しかし、余計に懐への侵入を許す。彈のアッパーカットが決まる。マキビシがよろけた隙に後ろへ回り込み、亜莉紗と愛夏を背に立つ。

「ぐっ……予定より速い帰りだな」

「亜莉紗からの応答がなかった」

(それらしい声は聞こえなかったし、機械音もしなかった。何故だ?)

 マキビシが頭を巡らせる。パソコン横の機械のシグナルが緑色に点滅している。

「いつ、どんなことがあってもいいように、通信は光の点滅で判断。あたしが何もアクションを起こさなかったら非常事態、そう伝えてあるのよ……」

「亜莉紗、しゃべるな」

 彈はマキビシへと意識を向けている。

「今日は帰ってもらおうか」

 マキビシはクナイを左手に持ちかえ、右に忍者刀を携える。

「ダニエル・シェーンウッドの所在を言えばな」

 瞬時に間合いを詰め、神速の斬撃が彈を襲う。それを紙一重で躱し続ける。流石の切れ味、当たればこのスーツでも無事は保証出来ない。

 だが、当たらない。

「なっ、くそっ……!」

 彈の体術はマキビシの想定を“少しだけ超えていた”。

 いや、体術自体は想定内だった。予想を上回ったのは、何故今最大のパフォーマンスをすることが出来るのか。ビーター、そして御門悠乃操る大勢の傀儡を相手にしてヘトヘトの筈。時間が多少空いたとは言え、どこにこんな余力が。

「シッ!」

 彈の上段回し蹴りがマキビシの顔面に炸裂する。先のアッパーでまだ視界が少しぼやけたままのマキビシ。頭痛すら止んではいない。

(こやつ、必要以上に頭部を狙いおって……! 戦いを心得ている……)

「身のこなし自慢なら付き合うぞ?」

「ふざけるな小僧っ!」

 刀を振り回す。こんな屋内、ましてや地下で手榴弾をこれ以上使うわけにもいかない。

 退くべきか。

「退くなら追いはしない」

「……ふーっ……よかろう。拙者とてダニエル・シェーンウッドの居ないここになど用は無い。次は奴を出せ。さもなくば手段は問わぬぞ」

 マキビシは踵を返し徐に帰っていった。その背中を三人は黙って見つめた。

「大丈夫か?」

 亜莉紗に駆け寄る彈。愛夏も心配そうに見ている。

「大……丈夫よ。ダニエルに、報告しなくちゃね」

「……ああ」

「はあ〜あ、あんな子供騙しじゃプロは止められないか。……本気で調べてみるわ。あの男のこと」

 まさか拠点を調べ上げられているなんて夢にも思わなかった彈。もちろん素性もばれているだろう。

「頼む」

 御門悠乃のことは、警察を頼った方が早かったりするのだろうか。


 負傷しながらも自らの工場へと戻るマキビシ。

 百人を超える人員が悠乃に操られながらマキビシの命令の元、武器や機械の製造を行なっている。悠乃は奥の部屋で寛いでいた。

「ん? お前、何処いってたんだ?」

「……さい」

「あ?」

「五月蝿い!!」

「!」

 柄にもなく怒声を上げるマキビシ。そんな姿は見たことが無かった。

「オ、オイ……」

 マキビシは腰の武装を次々と解除していく。次に手を覆う手甲を外す。そして、近くの椅子に腰掛けた。

「おぬしの勝手な行動のおかげで予定が狂った! ……ふう。ラプトルを殺す機会を早めてやる。ただし、必ずダニエル・シェーンウッドの所在を聞いてからだ。奴の技術・知識の全てを継ぎ、奴を殺すことで“拙者は完成する”。単なる武器商から、後世に残る技術者へとな」

 悠乃は、驚いていた表情から段々とその口角を上げていく。

「イカれてる。……けど、あたしのレッドを奪ったあいつは許さない。その為なら今まで以上に力を貸すぜ」

 マキビシはゆっくりと立ち上がる。

「奴は拙者を充分脅威として再認識・警戒したであろう。そこを逆手に取るぞ。……“アレ”の完成は?」

「ああ、たしかもう九割くれえは完成してた筈だ」


 明くる日、彈は斉藤と流のいる病院へと足を運んでいた。

 入り口にてまずは斉藤の病室を訊ねる。病室の扉をノックする彈。

「どうぞ」

 初めこそ同期やジンゴメンの面々が見舞いに来ていたが、最近は来客も減っていた。久しぶりの客人。斉藤に思い当たる節はない。

「誰だ誰だ……!」

 予想など出来るわけがない。目を丸くする斉藤。

「お、久しぶりです……」

「驚いたな。こんな有名人が来客とはな。この間のを間に受けたのか? ……まあ、座れよ」

 彈は見舞品の紙袋を横に置く。

「……すみませんでした」

 彈はそう言って深く、頭を下げた。

「おい、謝罪はいらねえって言っ」

「やっぱり言わせて下さい。カイアス・エヴォルソンの恨みを買い、タイミング悪く斉藤さんや流さんと近づいてしまったせいで巻き込んでしまった。その責任は俺にあります」

 頭の硬い男だ。斉藤はため息をつきながら頭を掻く。

「俺は、お前が迷わずいつも通り突き進んでくれればそれで良い。この間も言ったが、お前に助けられた人間は数えきれないくらい大勢いる。胸を張れ、ヒーロー」

 彈は自らの手を眺める。掌に甲。切り傷や擦り傷、打撲の後でいっぱいだった。それは日頃のアルバイトに加え、やはり“夜の活動”によるものが大きい。

「……この間は一方的に切りましたよね。だから言えなかった。本当に、ありがとうございます」

 照れ臭そうに斉藤は横に置いてある紙袋に目を向ける。

「ったく……それ、開けてくれよ。中身は?」

 彈はよくぞ聞いてくれたと、嬉しげに紙袋の中からそれを取り出す。

「池袋の外れにあるケーキ屋さんです。人気の品を四つほど持ってきました。味は保証しますよ」

 まずは一つ、人気ナンバーワンのガトーショコラを開けて見せる。

「ありがとな。一個でいいぞ」

「……警察病院とかじゃあないんですね」

 斉藤はケーキをフォークで分け、その一切れを口に運ぶ。粉砂糖、クリーム、スポンジケーキの順で口いっぱいに広がる甘み。そして舌の傍にほんのりと残る苦み。そのどれもが調和している。すぐに飲み込んでしまった。体が早く二口目を欲しているのが分かるように唾液が溢れてくる。

「こほんっ……警察だからって警察病院に入るわけじゃない。あれは警察やらが運営・出資してるだけだ」

「そういうもんなんですか」

 彈の相手をしながら食べ進める斉藤。

「ただ見舞いに来たわけじゃないんだろう? 用件は」

 彈は背筋を正し、斉藤に向かい直す。

「……情報を提供してもらいたい人が二人居ます」

 斉藤は言ってみろ、と首を軽く動かす。

「まずはマキビシという武器商人です」

 聞き覚えのある名だった。無論、真宮寺がいなければ知り得なかった情報だが。

 熟考した後、斉藤は知っている限りのことを話し、互いの知識を擦り合わせていった。


「大勢の人を働せて……それはきっと協力者というよりは“強制”かもしれません」

「? そりゃどういう……」

「それが情報を提供してもらいたいもう一人です。名前は御門悠乃。人を操るという特殊能力を持った人間です。この二人は手を組んでる。強制労働も彼女の仕業でしょう」

「……超人か」

 ラプトルから新しい超人の名前を聞くことになるとは。ふと、斉藤は聞き覚えのあるような名前に引っかかる。

「彼女は、今テレビで引っ張りだこの人気モデル、つまり表舞台の人間てことですよ」

「! それはまた、厄介なことだな……悪いがそんなのは初めて聞いたな。人を操るなんてそれこそ太刀打ち出来るもんなのか?」

 妥当な質問だ。人を操る力なんて反則、ただの人間が立ち向かうにはあまりに絶望的過ぎる。

「超人の力はあまりに強大なものばかりです。けれど万能じゃあありません。どこかに制限があったりします。今はまだ仮説の域を出ませんが、おそらく彼女は“目”を使って力を使います。視線が合えば終わりということです。一応、伝えておきます」

 随分と調べが進んでるようだな。

「……分かった。俺も情報が入ったらすぐに知らせる」

「お願いします」

 斉藤は食べ終えたガトーショコラの箱を横に戻す。そして、いつもの癖からか、手元に無い煙草を探そうとしていた。


「もしもし? 珍しいね、こんな時間に。テレビ電話じゃなくて声だけなのは初めてかな」

 彈は自宅のベランダに出て、スマートフォンを片手に夜風に当たっていた。

「ああ。……ダニエル、昨日のことは?」

「……聞いたよ。許せないけど、今聞きたいのはそれじゃないよね。マキビシ。僕は自分がそんなに恨みを買う方だとは思わないんだけどね……思い当たる節があるとすれば、インプレグネブル・ゴッズに居たとき、なのかな?」

 ダニエルを狙ってくる敵。彼の居場所は彈でさえ知らない。しかし、仲間や知人に危険が及ぶ以上、一刻も早く奴を倒す必要がある。

「刑事の斉藤さんには協力を頼んだ。後は、周りを地道に調べていくしかないか。他に、”準備”も必要だし」


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