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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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45.チーム


「機動力担当のラプトル様、遠距離担当の誠君、怪物担当の鷸水さん。そして……司令塔の私!」

 お前も入ってるのか。三人は一様の表情を見せる。

 まさかこんなことになるなんて。

「いいじゃない。モノクロームもそうだけど、あなた、元々ポリシーに反した人だからってわざわざ自分から喧嘩ふっかけるタイプじゃないんだし。あっちが手を出してこない以上は、戦力が増えるに越したことはないわ」と亜莉紗の通信。

 亜莉紗の言うことも尤もだ。“弥岳黎一のときだって、仮にも力を借りた事実がある”。そう分かってはいるが、腑に落ちない。

「あの、ラプトル様……?」

「ん? 何?」

「一つ聞いてもいいですか?」

「うん」

 光子は恐る恐る彈の耳元を指さす。

「それって通信機みたいなやつですよね……? 仲間の人が居たりするんですか?」

 当然の質問だろう。なにせこの四人でチームを組むのだから。亜莉紗は素顔もさらしたしいいんじゃない? と乗り気の様子だ。ただし、ビーターこと鷸水薊瞰がいる以上、二人の素性を全て明かす必要も無いだろう。

「……うん、仲間。俺のサポートをしてくれてる。あんまり詳しいことは言えないけどね」

「そうなんですか……」

 光子はまたしても名案を思いついた顔をみせる。

「それじゃ、今後連絡も必要でしょうし連絡先交換しません?」

 目をキラキラさせて押し迫る光子。彈は誠に助けを求めるが誠は首を振る。

「はあ……OK。交換しよう」

「ほらっ、鷸水さんも!」

 薊瞰は退屈そうにお菓子を食べていた手を止める。

「俺はアプリ以外あんまケータイ使わねえんだけどな」

 逆にアプリなんかするんだ……三人は心をシンクロさせた。


 四人はお互いの連絡先を登録し終える。

「震条、彈……」

 学生二人が声を揃える。

「変わらずラプトルって呼んで貰えると助かるかな……あはは」

 彈の頼みを快く承諾する。

「さて、腹ごしらえもすんだし」

 薊瞰が立ち上がる。

「帰るんですか?」

 光子が送ろうと腰を上げるが、薊瞰が制する。

「あ、そうそう……鷸水薊瞰だ。よろしく」

 そう言って彈の前に手を差し出した。


「随分急ですね!? まさか続きやろうとか言いませんよね?」

 彈は薊瞰と一緒に半ば強引に、誠の家から出された。こうして今も腕を引っ張られている。

「空気も読めねえのかよ、ヒーローさんは。……ありゃ一番“おアツイ”時期だぜ」

「え?」


 一方、誠と光子。

 嵐のように去っていった危険人物(ヴィラン)有名人(ヒーロー)。とんでもない知り合いが二人も出来てしまった。

 沈黙が流れる。二人は頭が冷静になっていくのを感じる。誠は浮かない表情をしていた。

「……俺、学校での時以外にも、一度、鷸水さんに会ってるんです。その時は『次会えば受けて立つ』なんて息巻いてたのに、今日は鷸水さんと戦うどころかラプトルに頼りきりで、御門悠乃の攻撃に対してもビビって何も出来ずに居ました……。俺には勇気なんてもの、無いのかもしれません」

 さっきまでとは打って変わって、その感情の内を吐露する誠。光子は黙って聞いていた。

「俺の力が原因で皆を巻き込んでるのに。先輩だってこれ以上危険な目に合わせられませんっ。警察に言えば俺みたいに警護してくれるかもしれません。こんなことに足突っ込むことないですよ!」

「警護? 今日みたいに御門悠乃さんに操られてたら、警察も意味ないかもよ?」

「うっ……」

「それに、私のことは私で決める。大丈夫」

 とても逞しい女性を好きになっていたことを改めて思い知らされた。

「俺……また学校にでも来られたらって思うと……」

 震える誠。その体を光子がそっと優しく抱き寄せる。

「!?」

「うんうん、一人で戦うのって辛いよね」

 誠は光子の胸に顔を(うず)める形になる。体の震えは止まっていた。

(……てか、めっちゃいい匂いすんなあ…)

 思わず顔が赤くなる。だが、この体勢ならバレてはいないだろう。耳は見えてるかもしれないが。

「前にも助けてくれたじゃん、渋谷で私が襲われそうなとこを。誠君は充分頑張ってるよ。ラプトル様が皆のヒーローなら、誠君は私だけのヒーローだよ」

 光子の微笑みは誠の不安を拭い去るようだった。

「あの…………何やってんの?」

 忘れていた。完全に。

 誠のベッドに寝かせていた智樹が起きる。暫し沈黙が流れる。気まずい。光子と誠は少しの間その体勢のまま顔だけを智樹の方に向け、動かずにいた。

 急いで離れる二人。

「俺は邪魔者ですか、へいへい……つっ!」

 ベッドから起きあがろうとする智樹。瞬間、頭の痛みに襲われる。

「まだじっとしとけって!」

 智樹の肩を持ち支える誠。

「とりあえず今日は泊まってけよ」

「お、おう」

 光子は二人を見てニヤニヤとしていた。

「いいねえ〜男の友情。眼福眼福」

「何言ってんすか」

 光子はカバンを肩にかける。

「じゃ、私はこれで!」

 誠は必要以上に止めはせず、光子を送った。


 彈と薊瞰は住宅街を歩き、やがてT字路に着く。

「手を組む、とは言ったからにはルールを設けたい」

 突然の彈の要求。薊瞰は想定内、と言わんばかりにへらへらしながら話を聞く。

「手を組んでいる間は、絶対に人を殺すな。御門悠乃は人を操る力を持っている。どんな人間だって攻撃に差し向けてくる。今日みたいに民間人だったりをね」彈は敢えて語気を強める。

 薊瞰は彈の左肩に手を置く。

「そんな楽に止められればいいかもしんねえけど、俺はお前みたいに器用じゃねえからなあ。努力はするが、いざとなったら殺すぜ?」

 この手の奴は、より良い好条件を出す他ない。

「……俺と戦いたいんでしょう? この一件が終わったら、全力で殺し合いの相手をしてあげますよ」

 口を広げ、満面の笑みを浮かべる薊瞰。

「軽い口約束のつもりだろうが、男に二言はねえぞ……?」

 だろうな。反故にでもしたら、それこそ身の回りにすら危険が及びそうだ。

「じょあな。また」

「頼みますよ。鷸水さん」


 はあ。まさか”敵”、そう認識している人間と手を組むことになるとは。亜莉紗もいるしなんとかなるとは思うけれども。

 彈はすっかり暗くなった道を歩く。

 空腹だ。鷸水薊瞰との戦いはかなりの体力を消耗した。菓子で満たされるわけなどない。

 静かな夜。頭を他のことでいっぱいにしないと。ここ最近はずっとそうしてきた。でないとやっていられない。

「はあ、いやに綺麗だな。月は」

 亜莉紗から通信が入る。

「坊や、着信よ。私は……一旦切るわね」

 やけに声色が落ち着いていた。着信? さっき交換したとはいえ、早いな。

「もしもし」

「見舞いにも来てくれねえとは、ひどいもんだな。ラプトル」

 つい先日の凄惨な光景が瞬時に思い浮かぶ。

「っ! 斉藤さん……!」

 揶揄うように、冗談だと言うように、斉藤は声のトーンを上げる。

「ふっ、俺や牽政は寂しがってんぞ〜?」

「……」

 彈が電話越しにも動揺しているのがわかった。斉藤には、その辛気臭い顔が見て取れるようだった。

「今何してる? 活動に勤しんでるってとこか?」

 返事は無い。

「義足ってのは難しいもんだな。リハビリに思った以上に時間がかかりそうだ。まあ、俺の場合両足だから余計ってのもあるが」

 返事は、無い。

「刑事は”足”が命だってのにな。ははっ」

「斉藤さん……本当に、すみませんでした」

 斉藤の言葉が止まる。まるで喉にものが詰まっているかのようだ。体の周りを重たい空気が包む。

「はあ。お前なあ、自分のせいだなんて思うなよ。俺が首を突っ込んだ結果だ。普段ならさっさと手錠をかけてるところなんだがな。相手が悪かった。超人の属する巨大な組織なんてな」

 結局これだけの犠牲を払っておきながら肝心のカイアス・エヴォルソンには逃げられてしまった。警察からすれば麻薬王をどうにか出来た故、手柄はあるのかもしれないが、彈にとっては大きな敗北に他ならない。

「いいか、お前は立ち止まっちゃあいけない。なにせ、この街のヒーローなんだからな。東京全域とまではいかなくても、お前は二十三区のほぼほぼの範囲まで足を向け活動している。実際に救った命の数も多い。……お前にとっちゃなんらかの復讐かなんかで始めた私刑人だろうが、もうその影響力は小さいものじゃない。それを自覚しろ」

 どこまで、この人は”いい人”で”いい大人”なんだ。

「少なくとも、俺はお前のファンの一人だ」

 そう言って一方的に通話は切られた。

 勝手だ。

 突然飛ばされた檄。だが、彈は自分にとって、これが大きな“薬”のようにも思えた。


「もうお眠かしら、この子は」

 亜莉紗と戯れていた愛夏は疲れて眠ってしまった。

 大きく伸びをする亜莉紗。インプレグネブル・ゴッズのごたごたが終わったかと思えば、今度は人を操る人気モデルと現代忍者もどきの登場。休む暇も無い。

 震条彈の活動上、次から次へと敵が現れるのは仕方の無いことだがまたしても超人が相手とは。超人という稀有な存在を引きつけるその運の悪さにも、超人が頻繁に姿を現し世界の根底を変えていっている事実にも驚きを隠せない。今回はダニエルの特製スモークガジェットが役に立ってよかった。

 ふと、パソコンを見上げる。多くのモニターには、ここラプトルの本拠地である廃墟各地に設置された監視カメラの映像が映っている。

 ———地上玄関のカメラに、“例の男”が立っていた。

「!?」

 亜莉紗がここに住むことになってから自室だけでなく様々な箇所に手を施した。ここは部外者の侵入は決して許さない、トラップだらけの要塞と化している。

「どうしてここが……武器商だか、情報屋だか、忍者だか知らないけどね、そんな簡単に入れると思われちゃ困るのよ!」

 敵は完全に武装をしている。手加減を許すような相手ではないだろう。先刻は仲間である御門悠乃を制していたように見えたが、自ら乗り込んでくるとは。

 彈が戻ってくるまで耐えられるか。カメラの向こうでこちらに対し紳士的に一礼をするマキビシ。

 まずい。

「先手ぇ!」

 玄関の端四方からテーザー銃が飛び出す。

 即座に宙に飛び上がりそれを回避する。空中のマキビシを追撃するようにネットランチャーから放出された捕獲網が襲いかかる。一度は全身を包まれたが、瞬時に腰の忍者刀で粉微塵に切り刻む。

「子供騙し、だな」

 玄関を蹴り開けるマキビシ。

「流石にそれで捕まっちゃくれないわよね……シングウジインダストリーからパクった殺人兵器を使うしかないかあ……!」

 一階への侵入を許してしまう。

 各所に隠して設置されたカメラからレーザーが射出される。流石に跳ね返せるような攻撃ではない。彈にも引けを取らない、軽い身のこなしで躱し、くぐり抜ける。

 奥に進むと同時にそのカメラの一つ一つを確実に壊していく。地下への階段へ慎重に向かう。

 その正面には地面から突き出たガトリング砲が砲身をマキビシに向けている。ゆっくりと周りだし、次第に速く、銃弾の雨を降らせた。壁を蹴り、方向転換をしながら忍者刀で捌いていく。被弾した体のアーマー部分はどんどん削れていった。

 決死の勢いで飛び込み左腰にある手榴弾を投げこむ。大きな爆発とともに、廃墟全体が揺れ、埃塗れになる。

「確かに殺意の高いセキュリティだ。だが、ダニエル・シェーンウッドとはこんなものではない筈だ! 一度は技術者の頂点、天才とも謳われた人間が! こんなところでラプトルなどと油を売っている場合か!」

 激昂。

 地下は閑散としていた。生活感のある部屋ばかり。だが人の気配はない。

「必要以上にここを荒らす気はない」

 人の気配。

 ある一室の部屋の扉を忍者刀で切り裂く。

「女が二人? ダニエル・シェーンウッドはどうした? 貴様らラプトルの協力者であろう」

 亜莉紗は震えながらも寝ている愛夏を強く抱きしめ、マキビシを睨みつける。

「ダニエル? 彼が目的なの? 彼なら居ないわ。別行動なの」

 何故こいつは拠点だけでなく、ダニエルのことまで知っているのか。それなのに自分のことは知らなかった。あくまでダニエルが目的。

「奴は何処に居る?」

「吐くとでも?」

「口を割らねば殺すだけだ。まずはその危機感の無い女からだ」

 愛夏は遊び疲れ寝てしまった。こうなると中々起きない。今はそれがプラスに働いた。

「そんなことしてもあたしは動じないわよ」

 女の眼に嘘はなかった。

 亜莉紗の頬に鋭い痛みが走る。一本の線が出来ていた。マキビシの投げたクナイが後ろの壁に突き刺さっている。

「強がるな。非力な女など恐るるに足らん。拷問が望みならいくらでもやってやる。いや、この際ダニエル・シェーンウッドに直接連絡を取るでもいいぞ。奴なら仲間が傷つくのは耐えられない筈だからな。そういう愚か者だ」

 じりじりとマキビシが距離を詰める。

「嫌と言ったわ。仲間を庇う、なんて柄じゃないんだけどね……私にメリットの無い事で、あんたを喜ばせてたまるもんですか! ……うっっ!?」

 亜莉紗の腹部を蹴るマキビシ。

「拒否権など無いというのに」

 続いて顔を蹴り上げる。口から血を流す亜莉紗。愛夏も起きてしまう。

「うぅ、ん……?」

「拙者とて甚振りたくはないんだが」

「あう……うぅっ!」

 亜莉紗を揺らす愛夏。ひどく心配しているようだ。

「ぐっ!」

 大の男の蹴り。それも全身を武装した殺し屋紛いの男の。

  痛みに悶える亜莉紗。マキビシがクナイをもう一本取り出し、構える。

「!?」

 その時、背後からただならぬ殺気を感じた。


「———何してんだ? お前」


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