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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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44.妙案


 薊瞰の攻撃を避ける。彈の攻撃が当たる。そして、時たま薊瞰の予期せぬ攻撃が彈に当たる。

「はぁっ、はぁっ」

「何だっ? はあ、んっ、息上がってるぜ?」

「そっちこそ」

 ダメージや手数が多いのは誠と光子の二人が見ても、明らかに彈の方だった。だが、“余裕がある”ように見えるのは鷸水薊瞰の方だ。

 ふと、人が集まってきているのに気づく。

「……!?」

 その場にいる彈を含めた四人は辺りを見回す。すでに十数人に囲まれていた。そしてその全員の瞳が紫色に染まっていた。

「なんだァ? こりゃ」

 公園の入り口の鉄製のポールに腰掛ける女性を見つける。誠は背筋が凍るのを感じた。

「御門、悠乃……!」

「やほ。拡張者クン」

 すでに声を聞いてしまった。未だ変化は無い。声の線はシロか……? いや、ただ力を使っていない可能性もある。今はとりあえず視線を合わせないことに努めよう。

 彈は目線を逸らしながら話しかける。

「これは、あなたの仕業ですか? 御門悠乃さん」

 彈の問いに嬉々とした表情で応える。

「ラプトル! ……お前、“レッドスプレーと知り合いなんだって”?」

「!」

 思いもよらない言葉が敵の口から飛び出た。また彼の知り合いか?

「レッドはあたしの恩人。それを、お前は———死なせた」

 とてもだが女性、いや、ただの人が出せる殺気ではない。

 尋常ではない怒りを露わにし、彈を睨みつける。その視線で殺せるほどに。

「理由はどうだっていい。レッドのことだ、どうせ庇ったかなんかだろ? お前は殺す。ただでは殺さない。操って殺すなんて事もしない。徹底的に叩き潰す。……やれ」

 近隣に住む住人達を操り人形にし、彈達を襲わせる。

「深鈴先輩!」

 誠は瞬時に光子を抱き寄せる。

「なんだか分かんねーが、メインディッシュの邪魔は許さねえぞ? ……オラァ!」

 四方八方から押し寄せる民間人の群れ。一人一人が侮れないほど躊躇なくこちらを攻撃してくる。

 彈は無数の手の中を掻い潜る。薊瞰は攻撃を受けつつも反撃に出る。いや、出ようとした。しかし、彈に手首を掴まれ止められる。

「あ?」

「殺させませんよ。この人達は皆操られてる、被害者です」

「知らねえよ」

 悠乃の操る近隣住人の攻撃、それに反撃するビーターと、それを止めるラプトル。誠の目から見ても何が起こってるのやら。事実、彈の負担は相当なものだった。

「ちいっ! やっぱりお前は操らず、正面からあたしの力で倒す!!」

 悠乃が右手を前に突き出す。と同時に、周りの操られてた住人達が一斉に向かってくる。

「何をしておる———」

 十数人の動きが止まる。

 それに伴い彈達も動きを止め、様子を見る。悠乃が振り返ると、音を殺し近づいてくる姿。

「テンメェ……!」

 マキビシは淡々と続ける。

「こんな派手に騒ぎを起こして何のつもりだ? まだその(とき)ではないだろう。どうやらお前にリストを渡したのは間違っていたようだ……はあ」

「んだとォ!?」

 依然、住人達の瞳は紫色に染まったままだが、動く気配はない。何やら揉めているようだった。

 これ以上ない好機。

「坊や!」

 亜莉紗からの通信。

「わかってる!」

 彈は後ろ腰元から野球ボールよりも一回りほど小さい球状の物体を取り出す。その球の側面をダイヤルのように片手で捻る。クリック音が鳴るとともに赤いランプが点灯する。

「二人とも、逃げるよ!」

 彈はその球を地面に叩きつける。瞬間、大量の煙がたちまち広がり、その場にいる全員の視界を覆う。

 彈は誠と光子を誘導し、場を離れた。

『逃走手段というものは最も力を入れるべき点だ』

 皮肉にも、過去に敵対した男の言葉が頭の中でリフレインする。

「逃すかっ」

 追おうとする悠乃を止めるマキビシ。

「よせ。まだ復讐の刻では無い」

「ああ!? お前に指図される筋合いねえぞ! 何ならお前を操ってもいいんだぞ!?」

 マキビシはゆっくりと目を閉じる。

「よしてくれ。お楽しみは取っておけ、じき準備も整う。……最愛の人物を殺させた男。最高の舞台で殺したいであろう?」

 そう言って伺うように片目を開けた。


「なんであなたがいるんです?」

「あァ? 細けえこと気にすんなよ。“ご馳走”に逃げられても困るしな」

「それより、なんで俺の家にいるんですか」

 四人は近くの誠の家に逃げてきていた。

 彈は二人を逃す際、近くで身を隠せる場所を聞き、ここへやってきたのだ。鷸水薊瞰がついてきているのは予想外だったが。

「あんな横槍が入ると萎えちまうなあ」

 誠は頭を悩ませた。

(せっかく深鈴先輩を初めて部屋に入れたのに……!)

 光子は誠のベッドの端に座り、黙って部屋を物色している様子だ。

「ポルターガイスト君は俺に挑むどころか女を守るので精一杯だったなあ? ははっ。……いや、俺を迎え撃つ気だったか? なら俺が手を出さなかったからしゃあないか」

 薊瞰が何やらぶつぶつ言っている。

 誠は負い目を感じていた。自分のせいでまたしても光子を危険にさらしてしまった。それに、今回の敵は前回よりも歯が立たない気がする。なにせ、超能力者なのだから。

「……人殺し」

「あ?」

 彈は薊瞰に睨みを効かせる。

「あなたが人の命を軽んじる人殺しである以上、俺は力づくでも警察に突き出しますよ」

「ちっ、細けえな。細けえ細けえ。んなことイチイチ気にしてて疲れねえのかよ」

 価値観の違い。確かに目の前の男に悪気があるようには見えない。

 故に恐ろしい。明確な悪意・殺意無しに今まで人を殺してきたのか。相対した相手が死んだのはあくまで”結果”だと?

「殺した人のこと、遺族のこと。何も考えが及ばないわけじゃあないでしょう。あなたも大人だ」

 薊瞰は溜め息を吐きながら誠の勉強机の上にある教科書の一冊を手に取りパラパラと眺める。彈の視線などまるで気にしていない。

「他人のことなんかいちいち考えちゃあいねえよ。短い人生だ、俺が楽しめることが一番大事だろ」

 今にも手が出そうになる気持ちを抑える。こんなところで“事を構える”わけにはいかない。

 大人二人の、それも只者ではない二人の言い合いに、すっかり誠も萎縮してしまっていた。

 ピリついた空気が部屋に充満する。

「ち、ちょっと!」

 光子が大声をかける。

「誠君のお家で殴り合いなんてやめて下さいよ!? 二人とも大人なんだから!」

 まさに女は強し。光子の突然の剣幕に、彈と薊瞰は思わず黙り込む。

「ご、ごめんね、つい……」

「あっ! ラプトル様は悪く無いですよっ!」

 誠は驚いた。光子が強い女性とは知っていたが、人殺しの危険人物を前にしてもここまで恐れないものなのかと。

 この男、鷸水薊瞰は、本当に心の底から“悪気が無い”。悪意が無い。戦ってる最中だけではない、彼の考えすらも水を打っているかの様。

「確かに。今、一番気にすべきなのは御門悠乃だもんね。彼女の力はとてつもない脅威だし、何故だかは分からないけど俺を狙ってる……美波野君達と先に接触してしまったが故に、君達を巻き込む気満々って感じだ。すごく迷惑かけてるよね、ごめん」

 誠も光子も悠乃と関わってしまったことを再認識する。

「俺がいち早くどうにかするよ」

 彈はそう言って立ち上がる。冗談で言っているわけでは無いことは明らかだった。

「あんな(ひと)、一人じゃ敵いっこないですって! ……そうだ! この際手を組むってのは、どうですか?」

 突拍子もない発言、発想。

「はあぁ!?」彈と誠が口を揃えて反対する。

「君達一般人、ましてや未成年を巻き込めないよ」と彈。

「そうそう! ってかこれ以上首突っ込んでどうすんですか!?」と誠。

「ラプトル様だって一応“一般人”ですよね」

「うっ……」

 痛いところを突かれノックアウトされる彈。

「けっ。俺はそろそろ帰るぞ。腹減ったし」

 そう言って薊瞰が誠の部屋の扉を開けようとした途端、その扉が先に開く。

「あら」

「お」

 誠の母親が、菓子と麦茶を人数分運んで来たのである。

「あら、もうお帰りになるの? せめてこれだけでも食べていって下さいな」

 母親は部屋中央の小テーブルにそれらを並べる。

「母さんっ。ほら、いいからいいから!」誠は母親を部屋の外に出そうとする。

 薊瞰の腹部から大きな音が鳴る。それを聞いた母親は嬉しそうに言った。

「うふふ、ごゆっくり〜」

 部屋から無理矢理出した誠。

「部屋には来なくていいって言ったろ!?」

「そうは言ってもねえ、誠が女の子連れてくるなんて初めてだし。いつもは智樹君達くらいのものだもの。それに、あんな物騒な人とお友達になるなんて誠も夜遊び? もう一人ってあのラプトルでしょ? まあ、だから特に心配はしてないけど……」

「いやそこは心配しよう!?」

「そうなの?」

「あ、いやそうじゃなくて……とにかく! もう余計に顔出さなくていいからね!」

「ふふっ、はいはい」

 母親は笑いながら階段を降りて行く。誠は疲れた様子で部屋に戻った。

 そこにはものの一、二分で躊躇なく菓子を貪る三人の姿があった。

「こういうの、久しぶりに食べた〜。おいし〜♪」

「ここ最近はタンパク質を中心に考えてばかりの生活だったからなあ。たまにはこういうのも格別だ」

「これじゃあ腹は満たされねえが、まあ無駄にすんのもワリィからな」

 なんなんだこの人達は……! 先程まで血だらけで戦っていたと言うのに。これが大人の心境というものなのか? 流石に和解したとは思っていないけれど。

「それで、案ってのは?」

 彈が光子に訊ねる。

「……さっきの忍者みたいな格好の人、知ってるんでしたっけ?」

「ああ、一度しか会ったことはなかったと思うけど。確か、モノクロームの協力者」

 ラプトルに次いでその名を有名にした男。聞き慣れた殺人者であり正義執行を謳う処刑人の名前に思わず三人も反応を見せる。

「じゃあモノクロームも敵の一人ってことですか!?」

 耐えきれず誠が叫ぶ。彈は顎に手を当て熟考する。

「いや、彼ほどの人間が君達みたいな一般人に手を出すことに加担するとは考えにくい。初めて会ったときも彼と忍装束の男は協力はしていたが、完全にお互いを信頼しているようには見えなかった。危害を加える気のなかった彼に対し、忍装束の男は、いの一番に攻撃をしてきた」

 それを聞いて少し安心した様子の誠。

「どっちにしろ、忍装束の男もかなり手強いよ」

 薊瞰は楽しみが増えたと言わんばかりにニヤニヤしている。

「あの人、まだその刻ではないとかなんとか言ってた……ってことは近々何かを企んでるってことですよね?」

「うん……そうなるね」

 光子が目を輝かせる。少し、不謹慎なくらいに。

「なら! やっぱり共闘しましょうよ! この三人が手を組めば最強ですって! ほら! アベンジャーズ的な!」

 んなアホな。


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